すべてを優先するということは、優先順位を付けないことに等しい。経営層の多くは、パンデミック後のビジネス環境を見通すことができず、いまだ視界不良の中で陣頭指揮をとることを余儀なくされている。
2年前に、危機管理やエンタープライズ・アジリティー、コスト管理、従業員のレジリエンシー、イノベーション、キャッシュフロー管理といった能力が、自社のビジネスにとって極めて重要であるとの認識を持っていた経営層は、決して多くなかった。しかし今日では、その様相はすっかり様変わりしている。
IBM Institute for Business Value(IBV)の最近の調査によると、現代の企業経営陣は、これらすべての能力を優先していることがわかる。しかしこれからの2年間で、優先順位が再び大きく変化すると予想されることが、今回の調査結果で明らかになった。経営陣は労働力の安全性とセキュリティー、コスト管理、およびアジリティーを重視する計画を明確に示している。
新時代の幕開け
経営層の最優先課題は、不確実な将来を見越して、大きく変化している。
鍵となる変革
リーダーたちが変革に寄せる期待は、さらに熱を帯びつつある。現在進行中のデジタル・トランスフォーメーションがもたらすメリットとして、最も期待されているのが競争力と従業員のレジリエンシーである。また、特筆すべき例として、変革が加速している中で過半数の企業において、変革を優先するがあまりに顧客やパートナーとの関係性を犠牲にしているケースさえ散見されている。
現在進行中のデジタル・トランスフォーメーションがもたらすメリットとして、最も期待されているのが競争力と従業員のレジリエンシーである。
このIBVトレンド・インサイト・レポートは、2020年4月から8月までの期間に消費者や経営層を対象に実施した複数の調査データを分析し、特に売上合計が3兆7,000万米ドルを超える全業界の企業の経営層からの回答に焦点を当ててまとめたものである。本レポートによって、「新型コロナウイルス感染症発生後、ビジネス状況は根本的に変化した」という漠然とした感覚が、疑念の余地のない事実となって現れたといってもよいだろう。
現状、そして将来の計画のいずれにおいても、スピードと柔軟性に対するビジネス・リーダーのニーズは急激に高まっている。たゆまぬ創造的破壊、劇的に進化する顧客の期待、そしてかつてない変化のスピードがもたらすプレッシャーのもと、従来の障壁は崩壊しつつある。経営層の視界が開かれたことで、このようなニーズを満たすことが、できれば望ましいといった程度から、不可欠な要件へと変化した。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックの影響により、調査対象企業の59%がデジタル・トランスフォーメーションを加速させた。
今回の調査は、デジタル・トランスフォーメーションや未来の働き方、透明性、持続可能性について、新たな視点から観察し、パンデミック後のビジネス風景を提示することで、5つの重要な点を喚起している。従来の働き方が、すでに過去のものとなりつつあることを理解している先見の明があるリーダーたちにとって、これらの所見は1つの手引きとなるだろう。
所見1:そもそもデジタル・トランスフォーメーションとはテクノロジーに限った話ではない
コロナ禍に伴い、数多くの従業員のテレワークへの移行、サプライチェーンの見直しや再構築、需要に応じたマスクなどの個人用防護具製造への転換など、さまざまな急激な変化が目に付くが、これらはビジネス固有の短期的な問題にとどまらない。現在、適応力がビジネスにおいて不可欠な能力であることは、変化のペースの加速が常態化してきていることからも明らかである。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックの影響により、調査対象企業の59%がデジタル・トランスフォーメーションを加速し、66%は過去に断念したイニシアチブを遂行できたと回答している。このような文化的な変容は、防衛的な側面もある。こうした変革の取り組みによってもたらされる最大の効果は、コストの削減である。
しかし、危機管理よりも長期的かつ大規模な影響をもたらす変化が起きつつある。パンデミック前には、多くの企業が自社の技術的能力に確信が持てず、従業員のスキルも過小評価していたようにみえた。しかし、今回のパンデミックにより引き起こされた多くの出来事から、そうした不安のほとんどには根拠がなかったことが判明した。
経営層は、テクノロジーが持つ実現可能性に対する信頼をこれまで以上に深めており、さらにデジタル・トランスフォーメーションを推進しようとしている。
テック・プラットフォームへの依存はより顕著になり、プラットフォームとそれを利用する企業チームは結果を出すようになった。 突然、新しい技術が発見され、導入されるのではなく、既存のツールがより大きな可能性を持って展開されている。これまでの導入障壁は見事に脇に追いやられ、先駆的にテクノロジーを採用する組織は、いち早く果実を手に入れる傾向にある。
COVID-19によるパンデミックは、世界中の組織の運営方法を永遠に変えてしまった。パンデミックにより、「組織戦略を恒久的に変えた」と回答した者は約55%いた。さらに60%が、コロナ禍によって「変更管理へのアプローチが調整された」、あるいは「プロセスの自動化が加速した」と回答し、64%がクラウドベースのビジネス活動が進展したと述べている。
ニューノーマルの定義化
パンデミックに対応するために、組織は大きな変化を遂げた。この状況は後戻りすることはないだろう。
IBM Institute for Business Value
経営層は、テクノロジーが持つ実現可能性に対する信頼をこれまで以上に深めており、さらにデジタル・トランスフォーメーションを推進しようとしている。その上、新型コロナウイルス感染症からの回復を進める中で、AI、IoT、ブロックチェーン、クラウドなどのテクノロジーへの投資を増やしていく計画も示唆した。これは現在に至るまでの長い間、いわゆる「ハイテク好き」が強調してきたテクノロジーのメリットが、企業の経営陣にも広く受け入れられるようになってきたことを意味する。企業はさらなる成功を目指す上で、長期的視点から、テクノロジーと同等の高い能力があり、レジリエンシーや適応力を備えた人材を確保しなければならない。
所見2:成功の鍵は人的資源
経営層は、将来のデジタル・トランスフォーメーションに向けて、ほぼすべての技術的能力を拡張しようとしているが、成功の秘訣はむしろ人的資源にある。IBVが持つデータ・セットの分析によれば、今後、企業の成長に大きく寄与すると見込まれるビジネス能力は、従業員のトレーニングや顧客体験の管理など、主に人的資源にかかわるものであることが判明している。
しかし注目すべきは、経営層がこの点を十分認識していないことにある。経営層の4分の3以上は、新型コロナウイルス感染症後も顧客は、対面よりもオンラインでのショッピングや顧客サービスを利用し続けると予測している。そのため、84%のエグゼクティブが、今後2年間でカスタマー・エクスペリエンス・マネジメントの優先順位が高くなると答えている。わずか2年前は、この数字はたった35%だったのだ。にもかかわらず、経営層がデジタル・トランスフォーメーションに求めるメリットの順位では、「顧客サービスの向上」は上位半分にも入らないのである。
経営層の4人に3人以上が、コロナ後も変化した顧客行動が続くと予想している。
興味深いことに、目標達成のためAIベースの顧客エンゲージメント・ツールを活用しているエグゼクティブは60%にのぼる。またパンデミックの中、顧客支援トラフィックの80%以上をチャットボットで処理する組織もあった。こうしたことからも、部分的にでもデジタル・トランスフォーメーションを行わなければ、顧客体験の強化が難しいことがわかる。
経営層が、顧客との関係構築において何らかの問題を抱えているのであれば、従業員に対してはなおさらだろう。従業員の安全性、スキル、および柔軟性を重視しながらも、従業員の満足度は二の次にされる傾向があるからだ。ただ、経営層は、従業員が強いプレッシャーに晒されていることを認識しており、従業員のウェルビーイングに高いアテンションを払っていることを強調する。
企業は、従業員に対して提供しているサポートやトレーニングの効果を過大評価している。
しかし調査によれば、経営層の認識と従業員の受け止め方との間には、大きな隔たりがあることがわかった。企業は、従業員に対して提供しているサポートやトレーニングの効果を過大評価している傾向があった。一方で、自社が自分たちの福利を真摯に捉えていると考える従業員は、全体の約半数にとどまった。ほとんどのリーダーが従業員エンゲージメントに苦戦しているこのような状況下では、事態改善の余地が大いにあることは間違いない。
この信頼感のギャップは、単なる認識の差ではない。それどころか企業の対応に、従業員が懐疑的であることには、合理的な根拠があるのだ。われわれの調査によると、パンデミックが広まってから、一時的または永久的な解雇をされた従業員は22%にもなる。これは企業がコスト削減やテクノロジー・リソースを優先していることだけでなく、人材を代替可能であると考えていることの証拠でもある。自動化の拡大、AIの導入、その他の「非接触型」活動の出現により、業務に必要な人員の数は減少の一途だ。さらにコスト管理の意識の高まりは従業員への支援の妨げとなり、在宅勤務で利用するツールは使い勝手が悪く、リモートワークへの移行は多くの企業にとって文化でもあった個人的なつながりを弱体化させてしまった。
所見3:トラウマ級のストレスが企業戦略に色濃く影を落としている
経営層が果たすべき重要な役割の1つとして、自社のビジョン策定があるが、矢継ぎ早に発生する問題の沈静化に気を取られていると、本来の役割の遂行に集中することは難しい。最近では、従業員の安全やレジリエンシー、コスト管理、組織のアジリティーなどが、短期的・長期的な優先課題となっているが、パンデミックのために既存ビジネスのリスク拡大に加え、新たなリスクも出現し、結果として経営層は、「目下の」優先課題に忙殺されてしまっている。
2020年の年初以降、経営層の優先事項には流動的な傾向が見られてきたが、過去数カ月間には再び入れ替えが起きている。現状では社内における業務遂行能力が注目されており、その反動で特に重要なはずの顧客サービス体験に、本来注がれるべき能力が削がれている。
新型コロナウイルス感染症発生後、経営層は内向きになっているリーダーたちは、今後2年間で対外的な成長ではなく、業務遂行能力の向上に優先的に取り組もうとしている。
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20カ国、22業界に在籍する3,450人の経営層に行った調査によると、危機管理、職場の安全およびセキュリティーに対する企業の優先度は、2年前と比べてはるかに高まっている。しかし86%の経営層が、将来はキャッシュフローと流動性の管理が優先されると予想しており、この数字は2年前の2倍以上となっている。
同様に、回答者の87%が、コスト管理が重要だと答えている。また75%が今後2年間にITレジリエンシーを優先させると回答しており、レジリエンシー重視の傾向が強まっている。またサプライチェーンの信頼性も重要視されており、経営層の40%が将来訪れるかもしれない危機を乗り切るために、予備能力が必要であると述べている。これは、従来主流であったジャストインタイム・デリバリーの思想からの逸脱とも言える。
経営者の94%が、プラットフォームを基盤とするビジネスモデルへの参加を計画している。
サイバー・セキュリティーへの関心も急増しており、90%以上の企業が取り組みを始めている業界もある。全体の76%の経営層が、今後2年間でサイバー・セキュリティーを強化する予定だと答えており、同期間でAIを使用して強化する予定だと答えた回答者も46%いた。この数字は、現在の数字の2倍に当たる。
新型コロナウイルス感染症の拡大以前と比べて、ビジネス・アジリティー、AI、データとアナリティクス、その他の新興テクノロジーへのコミットメントも強化されている。危機が呼び起こすリスクを認識することは、競争上の優位性をもたらす。そうした中、経営層の87%が、これからの2年間でアジリティーを優先する計画があると答えている。また65%以上が、IoT、クラウド、モビリティーへの投資を優先すると答え、実に94%がプラットフォームを基盤とするビジネスモデルへ参入する計画だと回答している。
このように、顧客体験の向上を除いた、すべての取り組みが重要視されている。ところが、先行き不透明な競争環境に陥った時、パフォーマンスと成長を牽引できる唯一の要因は、まさにその顧客体験の向上なのである。
所見4:勝者がいれば敗者もいる,しかし単独で取り組む者は少ない
新型コロナウイルス感染症は、すべての企業や業界に等しく影響を与えてきたわけではない。この状況では、一部のエコノミストが言うところの「K型」の消費環境と同じく、うまくゆくものもあれば、うまくゆかないものもあるのである。某巨大消費財メーカーの株価は躍進していながら、他の企業群は下落している株式市場の二極化は、まさにこの分裂を示すものである。
Amazon社は、今年だけで78%も株価を上昇させた。消費財関連企業の半数が株価を下落させたが、Amazon株の急騰はそれすらも相殺してしまった。ではApple社はどうかというと、Apple株も60%上昇し、S&P 500の下位3分の1の企業の合計よりも、一社だけで資産額が上回る規模にまで成長した。世界的企業である両社は単独で成功した例かもしれないが、ほとんどの企業にはパートナーシップとエコシステムが必要なのである。
企業規模だけでは業界平均以上のパフォーマンスを実現できるかどうか予測ができない。規模と柔軟性を兼ね備えていることが、成功する企業の顕著な特徴である。
今回の調査結果によると、経営層は、コロナ危機後に勝者となる可能性が高いのは医療関連業界であると予測している。「ステイホーム」の需要や習慣に支えられ、通信、メディア、およびエンターテイメント分野もプラスの影響を受けるとみられている。他方、敗者となる業界の筆頭は、旅行と運輸、および自動車を含む製造業界である。
それぞれの業界内では、リーチの幅を広げることが勝者への可能性を高めると期待されている。調査データでは、プラットフォーム・ビジネスモデルやパートナー・ネットワークへの信頼が深まっていることが示されており、経営層の70%は業界内、57%は業界外でパートナー活動を強力に推進する計画を検討している。このような活動への参加は、今後2年間で、2年前よりも300%以上拡大するものとみられている。
企業間の提携が進んでいる経営層は、プラットフォーム、エコシステム、パートナー・ネットワークが重要な成功要因であると捉えるようになっている。
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ここで特に重要なポイントは、企業規模だけでは業界平均以上のパフォーマンスを実現できるかどうか予測ができないということである。伸び悩んでいる産業部門で、安定した、または平均以上のパフォーマンスを上げてきたのは、アジリティーを持って業務を遂行できる大企業である。規模と柔軟性を兼ね備えていることが、成功する企業の顕著な特徴である。
重要なポイントはもう1 つある。パンデミック下でロックダウンが実施された際、必要不可欠とされたサービスはロックダウンの対象外とされ、それを支える「エッセンシャル・ワーカー」は社会の中で最も感謝され、重宝される職業となった。他者の生活や仕事、活動を支える人々に対する認識が高まった結果、あらゆる企業が改めて自社の「必須要素」に注目し、予算措置を講じるようになった。
新規事業や事業拡大の評価と管理について、成長と競争力強化を目的とした新たな規範が求められている。
恐らくそのために、経営層はこの領域でのデジタル・トランスフォーメーションによるメリットの享受を期待しておらず、顧客サービスに次いで 2 番目に低い優先順位となっている。組織の観点から成長と競争力に焦点を当てた、新規事業や事業拡大の評価と管理に関する新たな規範が求められるようになっている。
必要不可欠なものが重視される、この破壊的変化の時代に、多くの、というよりもほとんどの企業が、コア業務の拡充に軸足を置いていることに驚きはない。業務の流れを改善し、従業員のスキルを強化しておけば、危機が再び起こった場合にも対処しやすくなる。それでも経営層は、真に競争力の向上を望むのであれば、達成するのが難しい上記のような目標も視野に入れておかなければならない。なぜなら、こういった取り組みからこそ、明日のイノベーションや成長が生まれるからだ。しかし、そのためにリソースを割り当て、承認しようとすれば、かつてない厳しい精査が必要となるだろう。
所見5:持続可能性の鍵は健康
新型コロナウイルス感染症以前には、持続可能性への取り組みに関する戦略は、主に環境問題が中心であった。すなわち、汚染や気候変動などによる地球環境の健全性に対するリスクである。これらの領域に本格的に取り組み、情熱と誠実さを示す製品やブランドが消費者から選ばれるようになってきた。規制当局も、このような懸念や優先事項を同様に重視していた。
しかし、人類の健康危機に直面する状況に至り、環境の持続可能性だけでなく、個人の安全性にも考慮する必要が生じている。消費者は使い捨てのマスクや手袋を着用し、これまでになく個別包装を希望するようになった。また、自分自身や大切な人をウイルスから守るために、商品を宅配してもらい、外出するのを避けるようになった。しかし、こうした行動は、ともすれば地球の環境保全と人間の健康保全を対立させる方向に向かっているようにもみえる。
ただし、消費者の環境問題に対する情熱が決して薄れていないことは、調査の結果からも明らかだ。実際、健康と安全の問題が加わることで、持続可能性の定義は拡大し、複雑化している。すでに企業は、新たな負担増の局面を迎えつつある。カーボン・フットプリントの削減、廃棄物管理の効率化といった既存の持続可能性の目標達成に加え、新たに健康や安全に関する要件も同時に満たす必要性が生じているからだ。
表裏一体な関係にある人と地球
この2年間、経営層はサステナビリティーに対し、急速に関心を高めている。
2018 - 2020: 職場の安全とセキュリティー
2018 - 2020: サステナビリティー
2018 - 2020: 環境負荷
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これはポスト・コロナ時代のビジネスにおいて、これまで以上に困難かつ重要な課題となるかもしれない。この課題を克服するためには、新たな業務慣行や材料だけでなく、新しい種類のデータや効率性も必要になる。例えば、食肉が傷んだり捨てられたりすることと、安全性を高めるためにプラスチックの使用量を増やすこととを比較した場合、どちらの環境コストが高くつくだろうか。また、企業や消費者が求めるサプライチェーンや、さらに配慮の行き届いた配送を実現するのと同時に、リソースの無駄を可能な限り無くすためにはどうすればよいだろうか。さらに高度な問題も発生しつつあり、リーダーたちには、今まで以上に微妙なニュアンスと豊富な知見に基づく解決策の提供が期待されている。
布石を打つのは今
パンデミックは、予想だにしなかった信じがたい事態が、ごく自然に起こりうるという現実を突きつけた。これは、多くの人にとって、それは苦い現実であり、痛みを伴う。さらにそれはコストがかかり、いまだ解決の糸口も見えない苦しい現実である。だが、一部の幸運な人や企業にとっては、千載一遇のチャンスともなっている。いずれにせよパンデミックは戦略、経営、業務、予算の優先順位に変化をもたらし、今もその変化は続いているという現実を、経営層は受け入れざるを得ない。デジタル技術やトランスフォーメーション、クラウドへの投資は加速度的に急増しているのだ。
今は将来に備えて自社の業務プロセスを強化している最中であり、その状況は今後も加速することが予想される。経営層が、この中で提示される魅力的な機会を活用して、デジタル・トランスフォーメーションに自社のビジネス優先事項を取り込むならば、複雑さを管理して競争力を高めることができるだろう。もし手をこまねいて過去の状態である「コロナ以前のノーマル」への回帰を待っている経営層がいれば、その企業は間違いなく衰退の一途を辿るだろう。
以前の状態に後戻りすることもできない。膨大なリスクと機会とが同居することで、潜在的な損失も見返りも大きい。
組織の複雑さは、今後も進化における最大のハードルとなるだろう。今日でもこれが障壁となっていると答えた経営層は、以前の調査の 2 倍以上にのぼった。もう1つの障壁は、従業員の燃え尽き症候群だ。データによれば、こうした複雑さのために、従業員が疲労や過大な負担を感じている可能性がある。
以上のすべてのことを、よりよいビジネスと世界を実現するための新たなチャンスと捉えて欲しい。最適なパフォーマンスを発揮する多様な労働力を編成することから着手し、従業員の信頼を醸成して、自信を取り戻すことが非常に重要である。現在従業員がどのように扱われているかによって、将来における認識や価値観も大きく変わってくるだろう。
今すぐアクションを
競争優位を賭けたレースの中にあって、企業各社はリアルタイムに即応することで、この新たな環境局面を切り抜ける必要がある。企業が生き残り、成功するためには、以下の3つの重要領域でアクションを取らなければならない。
- リーダーシップによりインスピレーションを触発し、従業員を新たな方法でリードし、巻き込み、サポートする。今まで以上に柔軟な仕事の選択肢を提供する(例えば、リモート・ワークとオフィス・ワークの混在モデルなど)。従業員のメンタルヘルスとウェルビーイング、およびスキル開発を重視する。これらすべてが、信頼関係を構築し、パンデミック後も長期にわたって適切な人材を社内に定着させるために役立つ。
- AI、自動化、およびその他の新興テクノロジーを活用することで、ワークフローをよりインテリジェントなものにする。サプライチェーンのレジリエンシー、サイバー・セキュリティー、および自動化やAI の導入に注力する。
- ハイブリッド・クラウドの優先的活用や、より多くのビジネス機能をクラウドに移行することによって、業務の拡張性と柔軟性を向上させる。
この新たな世界においては、自己満足やノスタルジアに浸る時間的余裕はない。以前の状態に後戻りすることもできない。膨大なリスクと機会とが同居することで、潜在的な損失も見返りも大きい。経営層は、恒常的な不確実性、不可避な創造的破壊、そして際限のない変化の時代に備え、ビジネスで成功を収めるための準備を整えなければならない。