生成AIはまるで「夢物語」のようです。生成AIによって、コードを書く時間が数日から数分に短縮され、製品の細部に至るまで個別対応ができるようになりました。セキュリティーに脆弱性が発生した場合もすぐに発見することができます。さらに、2022年以降、AIの投資リターンは13%から31%に急上昇しました。
こうした飛躍的な進化は、パイロット導入、サンドボックス実験、その他の小規模投資の成功がもたらしたものです。これらの初期の成功を受けて、ビジネス・リーダーは今後の取り組み方針を検討しています。世界24カ国・25業種の5,000人を対象とした最新調査によると、経営層は、生成AIがもたらす機会について、昨年よりも楽観的な見方をするようになりました。4人に3人以上(77%)は生成AIが実用段階にあると回答し、23年の36%を上回りました。また、3分の2近く(62%)は、生成AIは短期的なブームではなくリアルな現実だ、としています。
懐疑から確信へ: 経営層は生成AIの価値は本物だとの見方を強めています
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経営層の4分の3以上は、競合他社に後れを取らないためには、生成AIを迅速に導入する必要があると回答します。IBM Institute for Business Value(IBM IBV)の2024年のCEOスタディによれば、高業績企業のCEOの72%は、企業の競争優位性は最も先進的な生成AIを持てるかどうかにかかっていると考えます。
ビジネス・リーダーは生成AIの収益貢献を理解し始めています。AIが直接的に生み出す営業利益の割合は、22年から23年の間に倍増して5%近くになり、25年までには10%に達すると予測します。また、IBM IBV調査によると、既存のエンタープライズ・ソフトウェアのワークフローに生成AIを組み込めば、より持続可能なROIを実現しやすくなることが分かっています。
試験的に導入した後に、AIの運用を中断した組織が3社に1社の割合で存在します。ただ、裏を返せば、AIの利用を継続している組織は3社のうち2社に上ります。
しかし、こうした初期の明るいシグナルとは裏腹に、懐疑的なアナリストもいます。彼らは、生成AIは今の熱狂的な導入の後、中核的なビジネス機能への導入段階で、その複雑さを敬遠する企業が出てくる「幻滅期」に入ると考えます。そして、その懐疑論がデータに反映されています。試験的に導入した後に、AIの運用を中断した組織が3社に1社の割合で存在します。ただ、裏を返せば、AIの利用を継続している組織は3社のうち2社に上ります。このような状況下で、経営者はどのように、実験的取り組みの成功から、全社レベルの投資に移行し価値を大規模に生み出していけるのでしょうか。
生成AIは現在どの領域で最大の価値を実現しているか
生成AIはビジネス・トランスフォーメーションの強力な起爆剤にはなるものの、万能薬にはなりえません。生成AIは、コスト、データ・ガバナンス、倫理的な影響を慎重に考慮し、人材やスキルの状況も踏まえた上で導入しなければなりません。生成AIの最大の強みは、人間の作業を自動化することよりも、むしろ補強することであり、持続的な価値を提供するには組織文化の変革が不可欠です。実際、CEOの64%が、生成AIの成否は、テクノロジーそのものよりも、社員がスムーズに受け入れるかにかかっていると答えています。
リーダーは、生成AIをあらゆる問題の解決策として利用しようとするのではなく、従来型のAI技術、生成AIモデル、自動化を、それぞれに合った役割に活用し、連携方法を理解しなければなりません。ユースケース視点から、その先の、社員の日々の働き方をどう変革するかに注力しなければなりません。生成AIを活用できるようになるのは一足飛びではいきません。組織がAIについてどれほどの経験を蓄積しているかで、そのスタート地点も変わってきます。
生成AIを、ビジネスの基幹機能に組み込めば、大幅な売り上げ増を実現する施策につながるでしょう。
AIによる持続的なROI改善を実現する方向性として、主に以下の2つのアプローチがあります。
- 実験的アプローチ:リスクが低い、周辺業務の効率化を図ります。従来型AIがすでに明確なビジネス価値を実現している低リスクの領域での生成AI導入を優先します。これにより変革を早め、収益を段階的に改善できます。経営層の約3分の2が、カスタマーサービス(70%)、IT(65%)、製品開発(65%)の各機能で生成AIを導入していると回答しており、これは2023年半ばの調査結果とも一致しています。
- 重点的アプローチ:中核のビジネス機能を強化し、より広範なトランスフォーメーションを目指します。より中核に近いビジネス機能に生成AIを利用する場合、リスクは高くなるかもしれませんが、まさにそこからビジネス・トランスフォーメーションの明るい見通しが立ち始めます。これまであまり重点的に扱われていなかった営業や情報セキュリティー、サプライチェーン、物流、フルフィルメントといった領域に取り組んでいる企業は、ROIの向上に成功しています。
しかし、このような変革の機会に手が届かない企業もあります。そのため、生成AIの導入に向けてプラットフォーム・アプローチを検討しているビジネス・リーダーもいます。このアプローチでは、複数の部門やパートナー組織の間でリソースや利益をプールすることで、より低コストかつシンプルに生成AIを実装できるようにします。これによってリーダーは、分野ごとに生成AIをゼロから導入するのではなく、財務、サプライチェーン、製造、人事、営業とマーケティングなど特に大きな可能性のある機能で、横断的に生成AIを組み込むことができます。ただし、このアプローチを取るリーダーは、各機能の固有のニーズを考慮し、それに応じて生成AIの使い方を微調整する方法も工夫しなければなりません。
今日の生産性の高さは優位性をもたらしますが、明日には当たり前のものになっているでしょう。
従業員が安全に実験できるAIプラットフォームを提供すれば、集団としての知見を最大活用し、データに基づく意思決定を行える可能性があります。リーダーは、成長とイノベーションのマインドセットを育み、未来を見据えるように従業員を励ます必要があります。そうすれば、画期的なイノベーション産み出し、大規模な成長をもたらす原動力になるでしょう。
現在、生成AIが最も高いROIを実現している分野はどこなのでしょうか。経営層が生成AIの長期的な可能性を見いだし、主要な課題を克服するにはどうすればよいのでしょうか。生成AIを大規模に活用し、ビジネスを変革するためには(現時点でのAI導入段階を問わず)、何を実行すべきなのでしょうか。これらの疑問に対する回答は、レポートをダウンロードすることでご確認いただけます。
著者について
Brian Goehring, Global Research Lead, AI, IBM Institute for Business ValueManish Goyal, Senior Partner, Global AI and Analytics Leader, IBM Consulting
Ritika Gunnar, General Manager, Product Management for Data and AI, IBM Software
Anthony Marshall, Senior Research Director, Thought Leadership, IBM Institute for Business Value
Aya Soffer, Vice President, AI Technologies, IBM Research
鈴木のり子(日本語翻訳監修), IBM Institute for Business Value、グローバル・リサーチ・リーダー、自動車・エレクトロニクス・エネルギー・事業担当
発行日 2024年6月11日