情報、すなわちコンテンツは世界中の多種多様な分野において、飛躍的に増え続けています。
アドビ(Adobe)が最近行った調査によると、顧客体験やマーケティングに携わるプロフェッショナルの88%が、コンテンツ需要はこの2年間で少なくとも倍増したと答えています。また、約3分の2がこの需要は今後2年間で5~20倍に増加するとみています。
コンテンツ需要急増の背景に何が?アドビの調査で明らかになった3つの主な要因
- パーソナライゼーションへの渇望:ソーシャル・メディアやオンライン・ゲーム、メタバースといった「今この瞬間」の体験を、現実世界とデジタル世界の両方で、よりスピーディーにパーソナライズ化することを消費者は強く望んでいます。
- 進化するプラットフォームへの欲求:3Dプラットフォームのような進化するフォーマットを活用して、そうした体験をさらに向上させることに企業* は強い意欲を示しています。
- ターゲットの拡大:企業がターゲットとする地域が国際的に広がりつつあり、翻訳やローカリゼーションに対するニーズが高まっています。
企業はコンテンツの氾濫を止めることはできませんし、そうすべきでもありません。しかし、氾濫を制御する必要はあり、そのことがコンテンツ・サプライチェーン(CSC)という概念の誕生につながりました。CSCには、顧客体験を向上させるコンテンツを制作・提供・測定・管理するための人材、プロセス、ツールが含まれます。
コンテンツ制作の範囲と規模が劇的に広がる中、生成AIは新たな機会をもたらすようになりました。財務や人事といった他機能の変革にかつて取り組んできたように、企業は今、コンテンツの作成・提供・追跡の仕組みを抜本的に見直す必要に迫られています。
* 例えば、メタバースの領域において重要となる、高度な3Dの画像・動画を製品に活用する消費財企業など
主なポイント
コンテンツを作成・管理する新たな方法が求められている
コンテンツに対する需要が飛躍的に高まる中、タイムリーでパーソナライズされた体験(エクスペリエンス)を提供するためには、より多くのコンテンツを素早く作成する必要があります。経営層やコンテンツ担当者の10人に9人が、コンテンツ資産へのアクセスをもっと容易にする必要があると考えており、75%がチャネル間で一貫した体験の改善が必要だと答えています。しかし、具体的にどう改善すればよいかが分かっているわけではありません。
コンテンツ制作を新たなレベルに引き上げる生成AI
CMOは生成AIに大きな期待を寄せています。ほぼすべてのCMO(94%)が、生成AIにより、マーケティング・チームは日々の雑務から解放され、より重要でクリエイティブな活動に集中できるようになると考えています。また、3分の2(63%)近くが、生成AIはパーソナライズされたコンテンツの作成・提供を大幅に拡大させると強く確信しています。
ミッシング・リンク* となっている実践とガバナンス
生成AIを組織が責任を持ってコンテンツ・サプライチェーンに統合するためには、依然として多くの課題が残されています。生成AIの実践とガバナンスについて全社的なアプローチを確立できているとする回答は5%に過ぎません。全体の半数はこうした取り組みの途上にあり、正式なアプローチの導入に着手していない組織もほぼ5社に1社(18%)ありました。
* ミッシング・リンクとは、生物やテクノロジーの進化の途上において、存在が予想されているのにもかかわらず、未発見である間隙(かんげき)のこと
![]() コンテンツ・サプライチェーンの実態を評価し、AI時代のベスト・プラクティスを探ることを目的に、アドビ、アマゾン ウェブ サービス(AWS)、およびIBM Institute for Business Value(IBM IBV)は共同で、コンテンツの企画・作成・提供・測定のためのプロセスやテクノロジーを主導する世界9カ国11業種の企業に在籍する経営層と専門職1,930人を対象に調査を実施しました。 |
回答者の94%が、マーケティング・チームは生成AIにより、日々の雑務から解放され、より重要でクリエイティブな活動に集中できるようになると考えています。 本レポートでは、生成AIを最大限に活用して、CSCを改革・最適化する方法を明らかにします。第一部では、CSCのメリットと課題について解説します。第二部では、生成AIの導入はいかに成果を向上させるのか、さらにはガバナンス・ルールを策定してリスクを制御する方法について探ります。第三部では、生成AIの導入スピードが競争優位性を決める極めて重要な変革期において、企業の前進を妨げる組織内のサイロ化や、包括的なチェンジマネジメント・アプローチの欠如など、運用上および組織体制上の課題について取り上げます。 主な調査結果
企業を取り巻く状況は複雑です。しかも生成AIの出現により、状況はより複雑化し、企業はCSC戦略の見直しを迫られるようになりました。生成AIがもたらす影響がどこまで及ぶのかはいまだ明らかではありませんが、この技術がコンテンツ生成やワークフローを再構築する基盤は整いつつあります。回答者の実に95%が、生成AIにより自社のビジネスは今後、大きく変わるだろうと予想しています。 コンテンツ・サプライチェーンは孤立した環境ではなく、受容性に富んだエコシステムの中でこそ繁栄が期待できます。本レポートの最後では、経営層向けのアクション・ガイドとして、CSCを強化する方法に加え、その力を真に発揮させる組織づくりについて解説します。
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コンテンツ・サプライチェーンをモダナイズして効果を最大化する
調査参加者の回答:
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37%
CSCのモダナイゼーションを検討している企業の37%は、コンテンツ作成の高速化と制作規模の拡大に意欲的です。
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32%
32%が、コネクテッドでかつインテリジェントなコンテンツ・ワークフローの構築から始めたいと考えています。
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21%
21%が、コンテンツの作成・提供方法を変革するために、トップダウン戦略を策定しています。
コンテンツ・サプライチェーンは、コンテンツの企画、作成、制作、立ち上げ、測定、管理を効果的に行うために、人、プロセス、テクノロジーを結び付けたものです。それは、エンドツーエンドのコンテンツ・ジャーニーを網羅し、価値実現までの時間を短縮します。
CSCは「コンテンツ戦略の策定と実現」「反復的な協働レビューサイクルを通したコンテンツ資産の作成」「コンテンツ資産のタグ付けと保存」「コンテンツ資産のさまざまなチャネルへの展開とパフォーマンスの追跡」の4段階から構成されます。現在は生成AIの導入により、従来のCSCプロセスはより効率化され、無限に拡張できるようになりました。
実際の運用では、CSCのこの流れはしばしばループ化し、変異を伴います。商品解説を例に取れば、複数の言語に翻訳し、特定の顧客セグメントに合わせてカスタマイズし、個々の顧客に合わせてパーソナライズします。そのためには、異なるデータベースからの多様なデータや、新しい情報の頻繁な更新、さまざまなデバイスへの適応などが必要になります。
コンテンツ・サプライチェーンとは?
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企業は寄せ集めのプラットフォームやツールを使って、非公式で場当たり的な「継ぎはぎ型」システムを構築しがちです。
企業は寄せ集めのプラットフォームやツールを使って、非公式で場当たり的な「継ぎはぎ型」システムを構築しがちです。こうしたシステムを効率化・合理化するためには、統合システムへ進化させなくてはなりません。この統合ソリューションを、高まる一方のコンテンツ需要に対応させる上で、データ統合やコンテンツ生成、インテリジェント・オートメーション* が必須です。それによって人間の力以上のことが実現できます。また、生成AIをさまざまなCSCチームのワークフローに統合すれば、市場投入までの時間を短縮し、全体的な一貫性とガバナンスが可能になります。 CSCは高まり続けるコンテンツ需要を満たすという重要な役割を果たすにとどまらず、企業戦略における中核的な役割をも担います。CSCをモダナイズするメリットは、回答者が今後2年間の最優先課題として挙げている事項と重なります。それは、顧客体験の改善、組織の俊敏性の向上、マーケティングおよび販売の改良です。
モダナイゼーションへの熱意が高まる中、AIを活用したCSCの構築が最優先課題となることは明らかでしょう。しかし、回答者の多くが重要な障害について言及しており、半数近くがレガシー・システム、データ統合、不透明なコンテンツ・プロセス、組織のサイロ化に対する懸念を示しています。その中で最も厄介な課題は、組織内におけるチェンジマネジメント(変革管理)です。 ![]() * SoRとは、“Systems of Record”の略称で、正確にデータを記録することを目的とした基幹系システムを指す コンテンツ・サプライチェーンは孤立した環境ではなく、受容性に富んだエコシステムの中でこそ繁栄が期待できます。
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調査参加者の回答:
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95%
95%が、生成AIが「ゲーム・チェンジャー」になることに同意しています。
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89%
89%が、クリエイティブ・チームやマーケティング・チームは生成AIにより、日々の雑務から解放され、より重要で付加価値の高い活動に集中できるようになると考えています。
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63%
63%が、パーソナライズされたコンテンツの作成・提供の大幅な拡大に、生成AIが貢献すると回答しました。
クリエイティブ・チーム(社内または社外)、マーケティング、顧客サポート、製品開発、オペレーションなど、あらゆる部門のコンテンツ・クリエイターは調査、着想、生成、パーソナライズ、管理に生成AIを活用しています。
CSCにしても生成AIにしても、今はまだ黎明(れいめい)期にありますが、企業は導入に意欲的です。回答者の80%以上はすでに生成AIに取り組んでいます。しかし、テクノロジーを最適化する段階に至っている企業は2%に過ぎません。ほぼ4社に3社(74%)はまだパイロット段階にあり、パイロットを終えて実装を始めた企業は約4分の1にとどまっています。
それでも導入のペースは目を見張るものがあります。回答者の77%が2024年末までに、「Adobe Firefly」などのプラットフォームに組み込まれた生成AIを使用するつもりだと答えました。パブリック・モデル(ChatGPTなど)、Amazon Bedrock(基盤モデルで生成AIアプリケーションを構築・スケーリングするフルマネージド・サービス)、あるいはオープンソース・モデル(Stable Diffusionなど)の導入率は、さらに高まる可能性があります。
しかし、重要なのは独自のデータと洗練されたプロンプトを備えたプライベート・モデルやカスタム・モデルを構築することです。これらにより、企業は大規模なハイパー・パーソナライゼーション*と競争優位性を実現し、生成AIを使ってCSCを劇的に強化できるようになるからです。多くの企業は、ハイブリッドクラウドのプレイブックを手本として、AIに対してハイブリッド・アプローチを採用しており、AI、パブリック・モデル、オープンソース・モデルが組み込まれた優れたSaaSプラットフォームに自社独自のプライベート・モデルを融合させています。例えば、生成AIで作成したマーケティング・コピーや画像に対し、企業独自のブランド・ガイドライン、顧客プロファイル、過去のキャンペーンなどから得たインサイト(洞察)を参考情報として活かせれば、その効果はより大きなものになるでしょう。
* 顧客の行動データをリアルタイムで収集し、顧客の要望やニーズに応じて製品、サービス、顧客体験を提供すること
生成AIモデルを構築するとき、多くの企業はパブリック・モデルやオープンソース・モデルを活用しています。しかし、パーソナライゼーションを拡大するためには、プライベート・モデルの構築が必要です。
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回答者の77%が2024年末までに、「Adobe Firefly」などのプラットフォームに組み込まれた生成AIを使用するつもりだと答えました。
2024年以降、生成AIはさまざまな機能に深く組み込まれると予想されます。 ![]()
生成AIは活気と刺激に満ちており、革新的です。つい、「アクセル全開」で推進したくなりますが、生成AIからメリットを最大限に引き出すためには、「追い越し車線を走行しつつも、ガードレールに激突しないよう」注意を怠らないことが重要になります。 依然として多くの課題が残されています。生成AIの実践とガバナンスについて全社的なアプローチを確立できているとする回答は5%に過ぎません。全体の半数はこうした取り組みの途上にあり、正式なアプローチの導入に着手していない組織もほぼ5社に1社(18%)ありました。 生成AIの管理について全社的アプローチを確立できている企業はごく少数です。 ![]() 生成AIに関心がある企業は、潜在的なリスクを軽減するための策を講じる必要があります。迅速に取り組み、しかも重要なステップや手続きを省略することは避けなくてはなりません。現状では、調査回答者の43%が生成AI倫理審議会を設置していないことを認めています。 潜在的なリスクを軽減する措置の実施状況 ![]()
倫理面のリスクに加え、コスト面から見たリスクも存在します。生成AIが必要とする大規模なストレージのコストを企業は過小評価しがちです。生成AIによりCSCが拡張されることで、バックエンドが被る負荷を考慮に入れる必要があります。事業進出先の国や地域に点在するコンテンツ・チームの多くは、オンプレミス・サーバーやプライベートクラウドに依存しており、これらのシステムはコンテンツの大規模な制作、発見、配信を効果的にサポートできていません。ITチームは、さまざまな環境に散在するコンテンツの量すらも把握しておらず、その結果、より重要なデジタル体験にコンテンツのほとんどが組み込まれていません。 企業がより多くのコンテンツを制作し、そのコンテンツを社内外の関係者がリアルタイムで利用できるようにするためには、ハイパフォーマンス・コンピューティングの数を増やさなくてはなりません。こうしたレベルの高いパフォーマンスを実現するとなると、オンプレミス・コンピューティングのコストはいやが応にも増加します。 こうしたリスクを踏まえつつも、コストはメリットに照らして評価すべきでしょう。例えば、クラウド・コンピューティングはセキュリティーが強力でスケーラビリティーと柔軟性の高いストレージや処理機能を実現し、コンテンツ・サプライチェーンを最適化する上で重要な役割を果たします。クラウド・コンピューティングを利用すれば、コンテンツ・クリエイターやコンテンツ配信者はデジタル資産を効率的に管理・配信し、コラボレーションを強化することができます。また、クラウドベースのソリューションは、リアルタイムでの更新やバージョン管理を可能にし、利害関係者が最新のコンテンツにアクセスすることを容易にします。 視点: 調査では、10人に8人以上(81%)が、生成AIはコンテンツ・クリエイターに置き換わるのではなく、支援すると答えています。では、自分自身の職務への影響について回答者はどうみているのでしょうか。生成AIは自分の仕事を奪うことなく、多少あるいは大幅に、仕事のやり方を良い方向に変えるとする見方が70%に及びました。仕事が危機にさらされ、解雇される可能性があると感じている回答者はわずか1%でした。
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モダナイズされたエンドツーエンドのコンテンツ・サプライチェーンに対し、組織を適応させる
調査参加者の回答:
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46%
46%が、利害関係者や競合する議題が複雑に絡んだ組織のサイロ化に懸念を示しています。
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30%
30%が、CSCの主たる責任者はCMOであると述べています。
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24%
24%が、CSCの主たる責任者は最高体験責任者であると述べています。
エンタープライズCSCはエンドツーエンドの包括的なコンテンツ・ソリューションですが、その網羅性は最大の利点であると同時に最大の課題でもあります。
例えば、CSCの主たる責任者は誰なのかについて、回答はさまざまです。CSCの影響が組織全体に及ぶことを考えると、意外ではありません。この設問に対する回答では、CMO(30%)が最も多く、CXO、つまり最高体験責任者(24%)が僅差で続きました。他にオペレーション、顧客サポート、財務、営業、企業広報などを担当する経営層や管理職が挙がりました。
特に驚くことではありませんが、回答者の46%が利害関係者や競合する議題が複雑に絡んだ組織のサイロ化に懸念を示しています。コンテンツに関わるプロセス、基準、データ形式、システム、リポジトリーの違い、チーム間の連携不足などが厄介な問題であることは一目瞭然です。
このことは、全社的なCSC強化への投資が今後数年間はそれほど拡大しないと経営層が考える理由の一部を説明しています。多くの企業はその代わりに、特定の分野に的を絞ったソリューションへの漸進的な投資を選ぶ傾向にあります。このアプローチは生成AIの登場によってさらに魅力を増しています。特にスピードとスケーラビリティーにより、短期間で利益を上げたいと考える経営層には魅力的な選択です。 しかし、このような「局所的」手法は連携や統合を永続的に遅らせ、組織がCSCにより本来得られるはずの価値を台無しにしてしまう恐れがあります。その上、ターゲットを絞った戦術レベルの改善は、小規模なプログラム改革でさえ頓挫させます。言い換えるならば、新しいプロセスやツールに関する全社的なチェンジマネジメント戦略の欠如を招くのです。多くの組織が、CSCの広範な導入を促進する戦略そのものをおろそかにしています。
以前の項でも指摘したように、回答者たちはCSCを進める上で最も困難な課題として、チェンジマネジメントの欠如を挙げています。短期間で良い成果を上げるプレッシャーにさらされている組織は、長期的な取り組みが必要であっても、手短に済ませようとしがちです。その結果、新しいプロセス、テクノロジー、スキルの導入に手間取り、一貫性が欠け、コンテンツは劣化し、ROIは低下します。最悪の場合、社内の士気を冷え込ませ、対外的には顧客体験に悪影響を及ぼします。 CSCは単なるテクノロジーよりも、はるかに広範なものであり、新しいインターフェースの使い方を従業員に教えたとしても、それは大きな変革というパズルのピースを1つ埋めたに過ぎません。効果的なチェンジマネジメントを行うためには、より早い段階で、できれば事前の要件収集段階から始めるのが望ましいと言えます。初期段階から始めたならば、課題に対し戦略的・戦術的に直接対処することが可能です。 意見を述べ、それを聞いてもらえたと感じる従業員は、アーリー・アダプターとなり、チーム内や組織全体に変革を広めるエバンジェリストとなる傾向があります。創造的破壊という生成AIの性質を考えると、組織内で支援を確実にするために信頼を築くことは、CSCを成功させるための不可欠な要素と言えます。 サイロ化の解消は決して簡単なことではありません。しかし、CSCの変革に取り組めば、組織文化に必要な変革を起こすことができるでしょう。その潜在的なメリットとして、コンテンツ制作の改善をはるかに超えた恩恵が組織にもたらされるはずです。
業務の合理化と体験をパーソナライズすることでマーケティングを変革 IBMマーケティングは、自社のクロスチャネル・マーケティング体験を向上させたいと考えていました。そのとき目の前に立ちふさがったのが、途方もない数字です。2,000人のマーケティング担当者、100種類の製品、175の地域、70のプラットフォーム、1,000万件のデータセットを統合し、よりパーソナライズされたユーザーフレンドリーな体験を提供する必要があったのです。 理想的なパートナーとしてのアドビ 2021年に実施したフェーズ1では、複雑なデータ構造の合理化と、ばらばらだったマーケティングの技術スタック*の修正に重点を置きました。このとき、業務モデルを簡素化し、業界をリードするプラットフォームの実装を可能としたのが、アドビとの提携です。その結果、コストを3億ドル、人件費を50%削減し、市場投入にかかる時間を75%短縮することができました。 翌年のフェーズ2では、ナレッジ・ワーカーが作業のライフサイクル全体を1カ所で管理できるようにする作業管理アプリケーション「Adobe Workfront」を活用して、従業員、プロセス、テクノロジーを統合しました。この統合により、プロダクトレッド・グロース(PLG)* *が700%上昇し、翻訳カバー率は20%から100%に向上しました。一方、不要や無駄を省くことで、コンテンツ資産とWebページの数は大幅に減りました。 23年のフェーズ3では、AIと自動化の可能性を探り、AWSのクラウドサービスを活用した「Adobe Firefly」を使用したコンテンツ作成のパイロットに着手しました。「Adobe Firefly」は生成AIを使って、着想・コンテンツ作成・コミュニケーションの新たな方法を提供するツールです。これにより、生成資産のエンゲージメント率* * *は26倍も増加し、コンテンツ作成コストは80%削減され、メール作成時間は77%減りました。その他のAIや自動化の使用例としては、チャネル配信の自動化、ロボットによる機械翻訳、パフォーマンスベースのレコメンデーションなどが挙げられます。 このようなアドビによるパーソナライズされた体験の提供により、IBMマーケティングは継続的な変革を実現することに成功したのです。 * 技術スタックとは、開発者がより速く、効率的にソフトウェアを構築することを可能にするプログラミング言語、フレームワーク、ライブラリー、ツールの組み合わせのこと Tモバイル(T-Mobile)社:マーケティング・ワークフローを競争優位性に変える Tモバイル社は、1億900万人の顧客を有する米国第2位の携帯電話会社です。サービス名を「Un-carrier」にリブランドした同社は、年間契約を廃止し、高速データ・ローミングや無料機内Wi-Fiといった独自サービスを提供するなど、顧客ファーストの革新的な取り組みを通じて、競争の激しい米国の携帯電話市場で差別化を図りました。2018年には、重要な戦略の一部として「Adobe Workfront」を導入した。これによりマーケティング・ワークフローを一元化し、アジャイルで協働的な作業を促進するプラットフォームを構築しました。 「Adobe Workfront」の導入により、Tモバイル社は複雑なブランドポート・フォリオを管理し、ブランド全体のマーケティング業務を最適化させました。同プラットフォームの社内ユーザー数は、当初60人だったが、5,000人を超えるまでに増えました。これにより同社はキャンペーンの配信を改善したほか、チーム間の縦割りを解消し、種々のタスクを自動化しました。 Tモバイル社はスプリント(Sprint)社と合併した後、人員を増やすことなくマーケティング生産性を47%も増加させました。従業員はより合理的で協調的な方法で作業できるようになりました。さらに、Adobe Workfront上で各種のワークフロー管理ツールを統合することで、200万ドル以上のコストを削減しました。今後、Tモバイル社は「Adobe Experience Manager」での企画、コンテンツ作成、キュレーションなど、マーケティング・ワークフロー全体をAdobe Workfrontに統合する計画です。 その他の具体的な成果:
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CSCの変革は、多数の部門に影響を及ぼすため、主要なリーダー間でCSCのビジョン、戦略、目標に関するすり合わせができていなければ、アジェンダや目的が競合し、たちまち進展が妨げられることになるでしょう。
例えばIBVのデータによると、CTOと比べてCMOは、CSCを改善することで収益の向上を図りたいと考える傾向が強く、一方でCTOは、生産性や効率性の向上に目を向ける傾向がCMOよりも強いことが判明しています。以下では、包括的なアプローチでCSCを推進していくのに役立つ、実践的なアクションをCMO、CTO、CFOそれぞれのために紹介します。
最高マーケティング責任者(CMO)
CSCの変革の先にある「理想とすべき姿」を設定する立場にあるのがCMOです。また、エンタープライズ・カスタマー・エクスペリエンスの管理役であり、CSCによりタイムリーでパーソナライズされたコンテンツ基盤を構築し、顧客からの支持を獲得する責務もあります。マーケティングの仕事は、生成AIを活用した働き方変革のモデルとして位置付けられるべきです。CMOはこの分野のリーダーとして、チームのやる気をひき起こす、変革推進の旗振り役を任じなくてはなりません。従業員を日々の雑務から解放することで、よりクリエイティブで付加価値の高い活動に集中できるようにすべきです。
デザイン思考の手法を用いて、自社のCSCについての将来ビジョンを描きます。それは顧客、従業員、代理業者といった人々を念頭においた人間中心的なものにするべきです。有効性の改善と効率性の向上という二重のプレッシャーに対処することで、収益の増加が期待できるようになります。現状のプロセス、人材、プラットフォームを未来像と比較しながら、変革の青写真とロードマップを描きます。これにより、実行可能なステップを特定することができるようになります。
CMOは「分析による麻痺」に陥ることなく、CSCを設計し直し、その範囲と規模を拡大させることができます。顧客と自社に最大のメリットをもたらすことを重視し、改善の優先順位を決定します。無駄を最大限に省いたプロダクトを提供することで、継続的改善がもたらす価値の素晴らしさを顧客に知ってもらい、利害関係者からの賛同を得ます。
経営トップからコンテンツ作成の現場に至るまで、組織全体の利害関係者と共に、定期的にCSCの現状を評価し、問題点を修正し、次の展開を考えます。同時に顧客からの意見も参考にします。自社の事業にとって何が重要であるのかを探り、結果を共有することで、自社ファンの支持を維持します。
最高テクノロジー責任者(CTO)
CTOはCSCの設計者です。この重要な役割において、変革の技術的実現可能性をCMOとCSCチームに示すガイド役をCTOは務めなくてはなりません。プラットフォーム、データ、クラウド技術へ企業が投資する際には、その価値を最大化することを支援する役目もCTOは担っています。
CMOや他のコンテンツ・リーダーと協力して、予想される業績やKPI、オペレーション上の課題、社内クリエイティブや代理店に必要なサポート、顧客の要望といった要件を完全に把握します。一元化されていないローカル・リポジトリーや組織内の各部署に存在するコンテンツ資産やデータのチェックを励行します。
プラットフォーム・アプリケーション、SoR、クラウド・インフラストラクチャーの現状を詳しく調べ、短期的改善と長期的目標の実行可能性を評価します。その上で、パフォーマンス、スケーラビリティー、セキュリティーなど、ビジネスの機能要件と非機能要件* を実現する各種機能を組み合わせて、目標の状態を定義します。
* 機能要件とは、クライアントがシステムに求める具体的な機能を定義した要件。非機能要件とは、それ以外の(例えば可用性といった)要件のこと
CIOの協力を仰ぎ、すでに構築した資産ライブラリーの評価を委任します。自社独自のAI 基盤モデルと連携したハイブリッド・ソリューションや、適切な統合テクノロジー*、ストレージ・ソリューションへの投資に対する評価もCIOに依頼します。また、CIOと共に、「新機能により価値実現までの時間はどれぐらい短縮できるのか」「再利用を促進することでコストは削減できるのか」といったことを探ります。
* ここでは一般的に企業が投資すべき統合ソリューションのこと
最高財務責任者(CFO)
CFOは調達担当の役員と協力しながら、CSC変革の投資対効果の最大化を図らなくてはなりません。しかし、コンテンツ制作機能が分散している場合は、コンテンツ関連の支出を追跡することが難しくなります。特に複数の部署や多数の外部組織、その他の第三者が関わる場合はその傾向が顕著です。結果として、組織は往々にしてコスト削減が持つ変革を促進させる側面を見落としてしまいがちです。ところが、いったんCSCの変革が真剣に検討され、監査を終えると、しばしば非効率なシステムのコストが大きな失望を伴って明らかになります。逆にこれを解消できれば、マーケティングやその他の領域の成長に弾みをつけることができるでしょう。
成功指標を入念に追跡することで、経営トップが自信を持てるようにします。例えば、一定の指標が達成された分野に限り再投資を行うようにすれば、透明性を確保しながら現状コストの改善に取り組めます。そうした取り組みを徹底して継続することが重要です。経営層の間で、より少ないコストでより多くの成果を生み出さなければならないといった雰囲気をつくってはなりません。
社内のあらゆる部署と協力し合いながら、価値実現のフレームワークを構築します。顧客や従業員からのフィードバックなどの定量的な指標を尊重しつつ、収益や利益に関するタイムリーでアクセスしやすいレポートを作成し、組織を先導します。
価値実現のフレームワークに照らして、財務上の成果を公開し、成功を称揚します。これにより透明性、自律性、説明責任を重んじる企業文化が醸成されます。
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![](/thought-leadership/institute-business-value/uploads/jp/Ew_Pq_Eq_Wd_C_vrvak_L_Wci_D_Ji_dab217d51b.jpg)
著者について
Justin Ablett, Partner & Global Adobe Lead, IBM iXCarolyn Heller Baird, Global Research Leader—Customer Experience and Design, IBM Institute for Business Value
Jay Trestain, Partner—Global Lead for Intelligent Content Supply Chain & Adobe Workfront, iX Consulting
Dylan Titherley, Global Alliance Manager Adobe
Tammy Pienknagura, Head of Portfolio Strategy—Digital Media for Enterprise, Adobe
Chris Blandy, Strategy & Business Development for Media & Entertainment, AWS
Melissa Jane McPhail, AWS EMEA Partner Lead
Rachael Barnett, Principal Partner Development Manager Technologist, Global & Strategic Partnerships, AWS
石𣘺達司(監訳者), 日本アイ・ビー・エム株式会社, IBM コンサルティング事業本部, ストラテジック・パートナーズ, AWS Strategic Partnership, パートナー
若松幸太郎(監訳者), 日本アイ・ビー・エム株式会社, IBM コンサルティング事業本部, インタラクティブ・エクスペリエンス, Marketing platforms lead, パートナー
発行日 2024年7月8日