AI倫理の実践

信頼できるAIを構築するためには、AI倫理をルールに従って戦略的に確立することが必要であり、この取り組みを口先だけのスローガンに終わらせてはならない。

AIの活用があらゆる業界に広がっていることを受け、AI倫理を取り込んでいくことが急務となっている。顧客や従業員、株主は企業が責任感をもってテクノロジーを利用すべきだと強く求めるようになった。

IBM Institute for Business Value (IBV) は、企業のAI倫理の導入状況について2018年、はじめて調査を行った。本レポートはその続報である。IBVはAI倫理に対する企業の取り組み状況を調べるため、経済分析・予測を手掛けるオックスフォード・エコノミクス社(Oxford Economics)と共同で2021年に調査を行った。対象は22カ国の経営層1,200人で、事業および技術部門の16役職。さらに2021年には別途、14,000人超を対象にこのテーマについて調査を行い、「消費者」「市民」「従業員」としての立場から回答を求めた。

ほとんどの回答者が、信頼できるAIの重要性を認識している。企業がAIを活用して社会問題に取り組む際、倫理を考慮すべきだと答えた消費者は85%もいた。同様に、2021年の調査では、経営層の75%がAI倫理を重視しており、2018年の50%弱から相当の増加を見せている。

既存の社内ビジネス・ガイドラインにAI倫理を組み込む措置を講じている企業は多い。しかし、消費者や市民、従業員はまだ不十分だと考えている。企業がAIなど最新テクノロジーの利用にあたって、責任感と倫理感をもって行動していると回答した人の割合は、調査対象者のわずか40%にとどまり、2018年からほとんど変化していない。

こうした努力にもかかわらず、企業リーダーでさえも、一層の取り組みが必要だと考えている。AI倫理に関する自社の原則や価値観(バリュー)と、実際の行動が一致している(もしくは、より望ましい行動がとれている)と確信する企業は20%に満たない。この結果は、世界経済フォーラム (WEF) が「意欲と行動」のギャップと呼ぶ事象を数字的にも裏付けている。

AI倫理を重要だと考える経営層の割合は、2018年の50%弱から、2021年には75%近くに急増

企業は厳しい選択を迫られている。規制を遵守し、それを盾にしてAI倫理への世間の注目が薄れるまでやり過ごすこともできるだろうが、それは危険な選択だ。他社との差別化を図るために、パーパス(存在意義)に沿って戦略的に熟慮を重ねた上で、この問題に真剣に向き合うこともできるはずだ。

誰がAI倫理の責任者を務めるべきか

2018年以降、説明責任に対する考え方は大きく変化した。当時は技術系リーダーがAI倫理の責任者として捉えられていたが、2021年の調査では、あらゆる業界・地域の企業が非技術系リーダーを責任者に位置付けた上、全社を挙げて協力する体制を構築していることが明らかになった。AI倫理の実践が非常に難しい取り組みであり、全社的なインプットが必要になることを企業は理解しつつある。

「推進役」の交代:2018年から2021年にかけ、AI倫理の主要な責任者は技術部門のリーダーから非技術部門のリーダーへと変わった。

Changing of the guard

経営層は現在、AI倫理の課題に取り組む準備は整っていると考えている。
実際、AI倫理の問題へ行動する準備ができていると答えたCEOの割合をみると、2021年は2018年の4倍に増えた。最高人事責任者 (CHRO) も必要と思われる社員教育に対し、積極的に取り組む姿勢を見せている。AIの導入に伴い影響を受ける社員への再教育やスキルアップを計画するCHROの割合は、37%から55%にアップしている。

信頼できるAIを確立することによって他社との差別化が可能になる

信頼できるAIを確立することによって、さまざまなリスクを軽減できるほか、責任ある行動を求める利害関係者の期待に応えることができるが、利点はそこにとどまらない。実際に経営層の75%は、倫理を競合他社との差別化要因と見なしている。

IBV調査では、AIの導入が最も進んでいる企業は、AI倫理の実践も進んでいることが分かった。また、事業戦略においてAIを重視している企業は、そうでない企業に比べて、AIプロジェクトの投資利益率(ROI)がほぼ2倍だった。

経営層の4人に3人は、倫理を競合他社との差別化要因と見なしている。

AI倫理への注力は、責任あるテクノロジーの利用を促し、それによって企業の競争優位性を高め、サステナブルなイノベーションを後押しする。さらには、企業が掲げる社会正義の目標達成を助ける力にもなり得る。AIとAI倫理を重要視する企業の67%超が、サステナビリティーや社会的責任、ダイバーシティー&インクルージョンにおいても同業他社を上回る成果を上げている。

信頼できるAIを進化させるために、これからなすべきこと

AI倫理を実践しようとする組織が利用できるリソースが整ってきた。当初、学際的な研究から始まったAI倫理の取り組みは、今ではさまざまな枠組みで活発に行われるようになり、研究成果・実践例・関連団体が蓄積され、活動のネットワークも広がっている。組織がAIの導入をどの程度進めているのか、誰が当事者かによって活用すべきツールも異なってくる。

 

 

こちらからレポート全文がダウンロードできます。AI倫理の取り組みに関する詳細な情報や、役職に応じたAI倫理の推進策をご覧いただけます。


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著者について

Brian Goehring

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, Global Research Lead, AI, IBM Institute for Business Value


Beth Rudden

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, IBM Distinguished Engineer, Cognitive Science and Trusted AI, Data & Technology Transformation, IBM Consulting


Francesca Rossi

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, IBM Fellow, AI Ethics Global Leader

発行日 2022年6月6日

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