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Smarter Business

「課題を創造する力」がRPAやAIでビジネスプロセスを高速化する

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ビジネスのデジタル化。この言葉を聞いて真っ先に連想するのは、営業やマーケティングといったフロント業務のデジタル化だろう。事実、スマホの普及に伴い、ECサイトはますます多機能化し、顧客一人ひとりのニーズに即した広告提案などに用いられるデジタル技術の進化には目を見張るものがある。しかし、真のデジタル化を完遂するには、フロントからバックオフィスまで一本軸の通った改革が求められる。

「業務のデジタル化は、顧客接点・部門間・企業間の3つがある」と力説するのが、今回取材したトランスコスモスの小野敦史氏だ。テクノロジーを活用した企業変革を支援する同社で、主にバックオフィスのデジタル化を指揮する小野氏に、ビジネスプロセスのデジタル化の現状や課題、また機械化・自動化の時代に人間が果たす役割について伺った。

小野敦史
トランスコスモス株式会社上席常務執行役員

戦略系コンサルティングファーム、事業会社のマネジメントなどを経て、2014年6月にトランスコスモス入社。常務執行役員、サービス推進本部コンサルティング第二統括責任者に就任。2016年4月に常務執行役員、サービス推進本部コンサルティング統括責任者を経て、2016年6月より現職。現在は主にBPO事業のサービス企画を担当。

 

テクノロジードリブンで新しいサービスを生み出していくことが不可欠

──まず、ご自身のこれまでのキャリアについて教えてください。

新卒で入社したコンサルティング会社をはじめとして、戦略系コンサル2社で約12年間勤めました。
その間、ベンチャー企業やアパレル系の事業会社での業務も経験しました。企業のニーズをくみ取り、解決策を提示するコンサルティング業務のほか、消費財系ビジネスのノウハウやマネジメントについてもある程度熟知しているつもりです。

──トランスコスモス入社の経緯はどのようなものでしたか?

お客様に戦略の提案をする中で、顧客が重視する企業の差別化ポイントが、「オペレーションの緻密さ」にあると思い至りました。
また、少しマインド寄りの話ですが、業務オペレーションに根付く働く人の思いや根幹にある文化も大切ではないかと考えるようになったのです。

それらを有し、さらに徹底した業務改善プロセスが定着している「オペレーショナル・エクセレンス」を標榜するトランスコスモスの存在を知り、入社した次第です。

入社の経緯を語る小野氏とトランスコスモス社内からの景色

──具体的な職務内容と、普段お持ちの問題意識についてお聞かせください。

現在、私が責任者を務めるコンサルティグ第一統括という部署は、バックオフィス側のBPO(Business Process Outsourcing)に関するコンサルティングサービスの提供とサービス企画が主な役割です。

顧客に「どんなサービスを」「どのように」提供したらよいか、これまで人に蓄積されてきたトランスコスモスの実績やノウハウを、最近のテクノロジーを使って次の提案やサービスに発展させるとともに、顧客の課題を解決していきたいと考えています。

 

バックオフィスのデジタル化を阻んできた「紙の文化」

最近は、コスト削減や業務効率化をめざし、AIやRPA(Robotic Process Automation。ソフトウェアロボットの特徴を生かし、人間が行ってきた定型的な作業を自動化するテクノロジー)の導入を検討する企業が増えています。ただ、「RPAを導入したが、なかなかうまくいかない」という企業の声も多いのが現状です。

──具体的にどういうことが課題になっているのでしょうか。

RPAは単純なルーチン作業の自動化に適していますし、比較的導入も簡単でユーザー個人でも設定することが可能です。よくある問題は、個人の業務範囲内で細切れに導入してしまうこと。これはふたつの好ましくない結果を生み出します。

1つは様々なRPAツールが様々なプロセスに適用されてしまい、スケールが取れない、あるいは横展開しにくいという状況になってしまうこと。

2つ目はタスクを一旦溜めてRPAを使って集中自動処理するというステップが幾つも生まれてしまうと業務スピードに影響がでるということです。RPAを適用したタスクそのものに係る時間は短縮できたとしても、タスクを溜める堰が多く設けられたために全体のスピードはむしろ遅くなってしまうことになりかねません。

もう1つの問題は、メンテナンスです。RPAの運用開始後に、そのロジックやプロセス、データのフォーマットが変わることも想定されますが、いずれも少し変わるだけでRPAの設定を更新しなければなりません。いくつものプロセスにRPAを適用している場合、データフォーマットの変更ひとつがメンテナンス工数に及ぼす影響は無視できません。

それを解決するためには、業務の種類や目的、そして業務範囲と処理量に応じて、効果を見込める最適なツールを選ぶ必要があります。

ビジネスプロセスのデジタル化についての課題を語る小野氏

──RPAありきでなく、まず導入対象となる業務の内容を深く理解することが大事なのですね。

私どもトランスコスモスが最も得意とする、一連の業務プロセスをアウトソーシングするBPO業務では、「人がやるべき業務」、「RPAで自動化できる業務」を的確に見極め、両者の相乗効果を出す工夫をしています。
というのも、フロントに近い領域ではお客様のご要望に合わせて、バックオフィス領域ではユーザー部門の要望に合わせて、カスタマイズしたプロセスが乱立していることが多いのですが、従来の業務フローが複雑なままで自動化ツールを導入しても十分な効果が得られないことがあるからです。
RPAの導入にあたっては、「業務プロセスを一から見直す」観点が必要で、そこに弊社の価値が生かされるのではと考えています。

もう1つ重要なことは、ツールの乱立を避けるため、また設定やメンテナンス機能を担保するために、全体の統制を取るチームを設けることです。そのチームが全社のRPAのモニタリング、ライブラリの構築・管理を担うことによって、先ほどの問題は避けることができると思います。

トランスコスモスでは提供するアウトソーシングサービスにRPAを適用する場合には、必ずその担当者(あるいはチーム)を設けて混乱なく、そしてスムーズにメンテナンスができるようにしています。

多くの企業では、テクノロジーの進化によって、顧客とダイレクトに接する顧客接点の改善、すなわちマーケティングをはじめとする「フロントオフィス」のデジタル化に取り組んできましたが、最近は、フロントオフィスだけでなく、バックオフィスのデジタル化も進めようという動きが始まりつつあります。

──日本は欧米に比べて、バックオフィスのデジタル化が遅れているといわれています。

システム導入における歴史的な背景が大きく影響していると思います。

1990年代に企業では基幹システムにERP(Enterprise Resources Planning)パッケージの導入が進みました。これはパッケージ化された「グローバルスタンダード」に、自分たちの業務プロセスを合わせようという設計思想です。

パッケージ導入に際しては、自分たちの業務に合わせたカスタマイズやアドオンが必要です。その分、システム投資はかさみ、時間もかかります。そこでシステム化できない業務を手作業で補ってきたのです。その手作業には「紙」が切り離せないものでした。

かつてシステム化しきれなかった領域を、投資を抑制しながら自動化、デジタル化するためのツールとして、RPAや次世代型BPM(Business Process Management)ツールが登場してきました。
バックオフィスのデジタル化を進めるための環境が整いつつあると言えるのではないでしょうか。しかし、上述したような紙の文化や新しいやり方への心理的抵抗感が障壁となり、デジタル化がなかなか進まないのが現状です。

業務のデジタル化の現状について語る小野氏

コストとスピード、バックオフィス改革で重視すべき方向性

フロントからバックオフィスまで「一本軸の通ったデジタル化」とは、以下の3つを指すと私は考えます。

・顧客接点のデジタル化
・部門間でデータとプロセスをつなぐ
・企業間でデータとプロセスをつなぐ

たとえば、消費者はデジタルデバイスで申込ができる状態であるにも関わらず、申込書類に必要事項を記入してもらい、紙で受け取る。そうすると、書類の仕分け、不備チェック、そしてシステムへの入力という作業が必要になります。

部門間で業務を引き継ぐときにも、紙をプリントアウトし、場合によっては印を押し、紙を次の部門に運びます。次の部門ではその書類がある程度溜まってから処理をしますので待機時間が発生するわけです。
企業間でもサプライヤーからの請求書をFaxで受け取ると、同じく仕分け作業を行い、システムに入力、という手間が掛かります。顧客やサプライヤーからデジタルで情報が入ってくる、企業内ではデジタルで情報を流すというプロセスにすれば、これらの手作業は不要なはずです。

こうした業務を一律でデジタル化し、担当者間・部門間・企業間で、手間をかけずにデータが流れるように連携させるのが目指すべきゴールです。最近は企業間のデータ連携のためのデジタルプラットフォームも出てきており、以前に比べて技術的なハードルは下がってきているでしょう。

ビジネスプロセス改革についてを笑顔で語る小野氏

さらに、バックオフィスのビジネスプロセス改善は、2つのケースに分けて考えるのがよいと思います。

総務・人事・経理といった「コーポレート系」と、顧客と距離が近い営業事務、サプライヤーとのやり取りを行う「ミドルオフィス系」です。前者は従来のように「コスト」を重視し、後者は業務処理の遂行速度や、問い合わせに対するリアルタイムな対応というように「スピード」を重視すべきだと考えています。

──具体的にバックオフィスのビジネスプロセス改革で成果が出た事例はありますか?

コーポレート系では、キャプチャー機能(紙書類の帳票仕分けと複数OCRエンジンによる文字認識の自動化)とRPAを組み合わせて、経費精算や人事業務を効率化した事例は多数あります。

この取り組みは一昨年ころから本格化し、書類によっては帳票仕分けは100%の精度を達成したものもありますが、手書きの文字に関してはまだ100%には届きません。最終的には人によるチェックが必要ですが、トータルで30%〜40%程度のコスト削減に成功しています。

ミドルオフィス系では、リース会社の申込~審査~回答の一連のプロセスに対して、Web申込とbotによるSNSでの自動回答の仕組みを導入し顧客接点をデジタル化、そして次世代型BPMツールを用いて営業部門と審査部門などのプロセスを繋ぎ、部門間プロセスのデジタル化を行いました。その結果、回答までの時間短縮と、時間短縮によって成約率を高めることもできました。

──御社の業務プロセス変革、最適化について、自社の成功事例を顧客提案に生かすことはありますか?

次世代型BPMについては、自社内でも検証を行いました。例えば顧客からのリクエストを受けて、引合書を社内で作成し、人をアサインするプロセスでは、それまでExcelで入力・管理していた業務プロセスをBPMに統合することで、大幅な工数削減、そして時間短縮を実現しました。そのような検証を実践しながら、お客様企業への提案とサービス提供に生かしています。

自社内のバックオフィス領域では、各部門の月次報告をRPAで自動化した事例もあります。
月に1回、数時間をかけて手作業で行っていたものが、ボタン1つですぐに済む。月に1回ではありますが、従来かかっていた作業時間を他の業務に振り分けることができました。小さな工夫ではありますが様々な業務で実験し、社内検証での実績をベースにした顧客提案は、今後も継続したいと考えています。

AIやRPAで、業務プロセスの「ピラミッド」が逆三角形に

「改革にトップのコミットは必須」と語る小野氏

──バックオフィスのデジタル化に取りかかる際、経営層や管理職に求められることはありますか。

大きく3つのポイントがあると思います。

1つ目は臨機応変さ。従来のやり方や考え方に固執しない適用力や柔軟性です。

2つ目は創造力。テクノロジーを自社のビジネスに適用させ、そこから何かを生み出すクリエイティビティです。

3つ目はビジネスとITの双方の知見。どちらかではなく双方に通じているのが、これからの時代には望ましいでしょう。

今までのビジネス改革は、すでにある課題を解決するためにITを活用するアプローチでしたが、今後はまだ顕在化していない課題を見越して、上述した3つのポイントをベースにしたシーズ(課題創出)型にシフトしていく必要があります。

また、マインド面も重要です。業務プロセスのデジタル化は、複数の部門にまたがる全社をあげた動きとなります。経営層や管理職層は専門チームを率いて、小さな成果でも大きく褒めるなどしてメンバーのモチベーションアップを図り、改革の重要性を何度も繰り返し発信することが肝要です。

トップの本気度が、最終的に組織全体の意識を変えるということを、ぜひ心に留めていただければと思います。

機械化・自動化で変化する業務のピラミッド図

これまでの業務はいわば「ピラミッド型」になっていました。一番下の層に単純作業が多くあり、レイヤーが上がるにつれて意思決定などを行う高付加価値な業務が存在する構造です。

しかしAIやRPAの普及により、これまでのピラミッドの下のレイヤーを構成していた単純作業では機械化・自動化が進んで人が携わる部分が小さくなり、逆三角形になっていくはずです。そうすると人間に求められるのは、ビジネスの企画や設計などを行いながら、それらをどうテクノロジーに組み込むかを考える高度で創造的な能力です。

──企業もそういった変化を支えるような人材育成が必要ですね。

新しいシステムや仕組みをつくるには、若い人の力が欠かせません。特に、「デジタルネイティブ」と呼ばれる若い層を登用するような仕組みや制度は、今後ますます重要になってくるでしょう。

柔軟に人材の配置を行い、ますます激しさを増す世の中の変化に対応するスキルやマインド習得を社員にうながす。日本の成長を支えてきた終身雇用や年功序列といった従来の経営モデルが立ち行かなくなりつつある今、適所適材をオンデマンドで実現するアウトソーシングなどのニーズが、今後バックオフィスのデジタル化の一環として出てくるかもしれません。