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コミュニケーション変革から業務・組織変革へ。SlackとIBMが考えるDXの進め方

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水嶋 ディノ氏

水嶋 ディノ氏
株式会社セールスフォース・ジャパン
Slack事業統括 アライアンス本部
シニアディレクター

Slackの日本・アジア太平洋地域における事業開発および企業間提携の責任者として事業の拡大とパートナー戦略を牽引する。Slack入社以前は、多様な米系テクノロジー企業の日本事業において営業、マーケティングおよび事業開発の要職を歴任。国内第一号社員兼日本法人代表としてデータ分析スタートアップのDomo、およびThoughtSpotにて日本市場進出と成長を指揮した。また、ベンチャーキャピタル企業のGeodesic Capitalの国内事業の主要メンバーとして数々のシリコンバレースタートアップの日本進出戦略を支援した経験も有する。米バブソン大学にて経営学の学士号を取得。

 

倉島 菜つ美

倉島 菜つ美
日本アイ・ビー・エム株式会社
IBM iX Japan CTO 技術理事

金融、自動車、航空など幅広い業界で業務改革やモバイル活用、デジタル化推進の大規模プロジェクトをアーキテクトとしてリードするかたわら、エンジニアリングの適用とコラボレーション促進によるプロジェクト品質向上に尽力してきた。現在はIBM iX Japan(=インタラクティブ・エクスペリエンス事業部)のCTOとして技術チームを統括している。

 

富高 恵津子

富高 恵津子
日本アイ・ビー・エム株式会社
Salesforce事業部長

国内大手ICT企業において20数年にわたりアウトソーシング・ビジネス、クラウドサービス、セキュリティー、グローバルアライアンスなど多様な領域でのエンジニア、マネジメントとして従事。現在、IBMカスタマートランスフォーメーション事業においてCRM、SalesforceビジネスのリーダーとしてCRM領域の広がりと共に多様化するニーズにあわせお客様のデジタル変革を支援。

DXの推進やコロナ禍で加速したリモートワークの影響などもあり、組織活動に不可欠なコミュニケーションを再検討する企業が多い。Slackは、そのような企業から圧倒的な支持を受けているという。

日本アイ・ビー・エム株式会社(以下、IBM)は、コロナ禍以前からSlackを導入し、チームのコミュニケーションやマネージメントに役立ててきた。さらに、2021年6月にSlackと提携。Slackユーザーとして培ったノウハウとソリューション・ベンダーとしての知見を掛け合わせ、お客様企業のSlack導入と活用を支援している。

本記事では、株式会社セールスフォース・ジャパンで Slack事業統括 アライアンス本部 シニアディレクターとしてSlackの日本、およびアジア太平洋地域のアライアンス活動を統括する水嶋ディノ氏を招き、IBMのIBM iX Japan CTO 技術理事である倉島菜つ美と、同じくIBMのSalesforce事業部長である富高恵津子が、IBMでのSlack活用や、SlackとSalesforceとの連携によるDX支援などについて語った。

コロナ禍がもたらした変化の中、「Digital HQ」で働き方を支えるSlack

倉島 さっそくですが、リモートワークを導入する企業が増えたことによる、ここ数年におけるSlackの利用社状況について教えていただけますか。

水嶋 Slackが日本で正式にサービス提供を始めたのは2017年ですが、それ以前の段階ですでに多数のユーザーがいました。2017年後半に日本語版の提供が始まってからもユーザー数は増加の一途をたどっており、コロナ禍でさらに加速した状況と言えます。また、現在「日経225」を構成する企業のうち、95社(42%)がSlackの有料プラン導入企業となっています。

その背景には、時間や場所を問わずにコミュニケーションできるというSlackの利点があるでしょう。企業が進める働き方改革の一端を担うことができるのです。そこに、コロナ禍で出社できないという物理的な制約が加わり、コミュニケーション・ツールにとどまらず、仕事を行う仮想空間としてもSlackの重要性が高まりました。

倉島 その環境を「Digital HQ」とおっしゃっていますね。いい表現だなと思っていました。

水嶋 ありがとうございます。Digital HQは直訳すると「デジタル本社」という意味になりますが、実体はより広い概念でして、公式にはその意味を「会社を動かすデジタル中枢」と定義しており、「ナレッジワークをする仮想空間」とイメージしていただけると理解しやすいと思います。

Slackが発起人となって立ち上げたコンソーシアム「Future Forum」が、日本・米国・オーストラリア・フランス・ドイツ・イタリアのナレッジワーカー10,000人以上を対象に2022年1月〜2月に行った調査によると、2020年6月と比べてオフィス回帰が進んでいることがわかりました。一方で、回答者の79%が働く場所の、94%が働く時間の柔軟性を求めています。

そのため、コロナ禍が落ち着いたとしても全てが元の労働環境(オフィス勤務)に戻ることはなく、ハイブリッド・ワークが求められているのです。その変化の中で、Slackによって実現できるDigital HQは、さらに重要な意味を持つのではないでしょうか。

IBMはSlackの大規模ユーザーとして、企業の導入支援をスタート

倉島 水嶋さんが日本語版の提供は2017年とおっしゃっていましたが、私が使い始めたのもちょうどその頃でした。3時間程度の時差があるインドのチームと仕事をしていて、例えば、朝メッセージを送れば昼に返信がくるので便利だと思いましたね。また、ソフトウェア開発においてもSlackを活用しており、ビルド(プログラムの解析から集約まで行うこと)に失敗するとSlackに通知がくるような使い方もしていました。

当時、IBMには自社のグループウェアがありましたが、モバイル対応などのニーズを満たせなくなりつつありました。Slackのインターフェイスが使いやすかったことに加え、グループウェアで培ってきた、業務に必要な仕組みをユーザーが作り込むというスキルも加わり、各社員がSlackを自分なりに活用して効率性・利便性の向上に努めるようになったのです。

その後、2020年4月になって、コロナ禍によりオフィスが閉鎖されました。全社員がリモートワークになったことで、IBMにおけるSlackの活用は加速しています。

富高 弊社代表取締役社長の山口(明夫)が、Slackで「山口チャンネル」をスタートしたのもコロナ禍の前後でした。

水嶋 「山口チャンネル」ですか。おもしろいですね。

倉島 山口自らが日々感じたことなどを堅苦しくなく、シンプルなメッセージとして社員に発信するこのチャンネルは、ほぼ全社員が参加しています。山口の投稿に対して、社員がコメントしたり、絵文字でリアクションをしたり。山口だけでなく、各事業部のリーダーもそれぞれ自分のチャンネルを持っており、チームメンバーとの関係強化に役立てています。

Slackにおけるコミュニケーションは、双方向でのディスカッションが起こることもあるし、絵文字でリアクションするだけでも一体感のような意識が生まれます。例えば、ブログだったらわざわざ書かないような些細なことも気軽に発信しやすい。社長と社員、上司と部下、社員同志の距離が縮まり、会社に良い影響が及んでいると感じています。

また、「Ask Me Anything」と題して、一定の時間になんでも答えるというチャンネル上でのセッションも頻繁に開かれています。回答が付いた質問はピン留めされるので、その時間に参加できなかった人も後で見ることができ、業務におけるFAQとしても活用できていますね。

富高 私は、IBMにキャリア入社が決まるとすぐに、人事部からSlackのIDとともに「いつでも連絡をください」とメッセージをもらいました。転職の際には人事に関することで心配が多いのですが、知りたいことをメッセージすると直ぐに返事がくるんですよね。これが最初のIBMとの接点で、Slackがあったから安心して業務を始められました。

さらにIBMでは、IBM Cloud上にあるWatson翻訳ツールをSlackから呼び出せるようにしたり、会議室予約システムと連携して予約確認をSlackに送るようにしたり、報告業務をSlack上で完結できる活動記録リマインダーなどを活用したりしています。グローバルでも使っているので、ワークスペースがたくさんありますが、きちんとガバナンスを効かせています。

倉島 こういった私たち自身の経験を踏まえて、2021年6月にIBMは、Slackとサービス・パートナー契約を締結し、お客様企業へのSlack導入をご支援しています。

水嶋 Slackにとっては、IBMのようなグローバル・コンサルティング・ファームとのパートナー契約は日本が初でした。その後、IBMのグローバルとも契約をさせていただいたのですが、順番としては日本が先行。これは今でもSlack日本事業チームの自慢ですね(笑)。

Slackを企業DXの変革レイヤーとして捉え、業務の効率化をご提案

富高 私たちIBMでは、Slack導入はDXの一歩と捉えています。Slack単体でも導入すれば一定の効果を得られますが、SlackをDXの変革レイヤーとして捉え、働き方を変えていく、業務を効率化していくという考え方です。

Slackは業種横断で最適化されたデジタルの「プラットフォーム」と捉えており、このプラットフォームに対してSlackをフロントに据えて、マーケティング、営業、サポートなどのビジネス・プロセスをつなぐことでコラボレーションを促進できます。また、営業支援(SFA)、顧客管理(CRM)、人事給与のシステム、基幹システムなどのITインフラとつなぐことで高い生産性も実現できます。これは、私たち自身がその効果を実感していることでもあります。

出典:IBM

水嶋 Slackがさまざまなお客様企業の利用状況を知っているからこそ蓄積することができた導入と活用のノウハウやベストプラクティスを、今回の提携によりIBMへ共有しています。例えば、Slackでは導入時にお客様企業内でアンバサダーを任命していただくため、そのアンバサダーの支援ノウハウや導入時のベストプラクティスなどが該当します。また、ワークスペースの設定、チャンネルの切り方、さらにはユーザーや管理者教育といったものもあります。

私たちはIBMとともに、Slackを使ってコミュニケーションやコラボレーションを変えるところから始めませんかと提案をしています。両社の豊富な知見を持ってお客様企業の支援を行うことがでるだけでなく、より説得力のある提案ができるようになりました。

倉島 企業は、コロナ禍においても業務をこれまでどおり、もしくはこれまで以上に効率的にやっていくことが求められています。そこでビジネス・バリューを出しながら競争に打ち勝っていかなければなりません。そのために必要なDXにおいて、まず必要になるのがプラットフォームではないでしょうか。

そのプラットフォームとしてSlackは最適だと考えます。Slackと連携するアプリケーションとしてSalesforceがあげられますが、IBMはSalesforceとも2017年に戦略的提携を結んでいます。

Salesforceのような業務アプリケーションは、ユーザーが使ってデータが溜まっていくことで効果が最大化されます。特に、AIはデータが溜まらなければ能力を発揮できません。コミュニケーションツールとしても使われるSlackがフロントになると、自然とデータが溜まっていくのです。

富高 例えば、Salesforceの営業支援システム「Sales Cloud」とSlackを連携して、SlackからSales Cloudに商談記録を作成することができます。その商談記録に対する各種アクションもSlack上で行われます。IBMのアセットを使って、商談の規模によって連携先のチャネルを振り分けることなどもできます。そのようなコラボレーションが、Sales Cloudを開くことなくSales Cloudに書き込まれるのです。

このSlack上で全てできることはとても大きな利点です。ここにもデータを入れなければならない、別のアプリケーションからデータを持ってこなければならないといった、アプリケーションを切り替える時間やストレスは無視できませんから。

水嶋 営業の商談記録をどう残していけばいいのか、その点は多くの企業が苦労していると伺っています。

倉島 私たちIBMでは、エンドツーエンドでAIが業務の自動化・最適化を行う「インテリジェント・ワークフロー」を提唱しています。その視点からも、Slackがプラットフォーム、あるいはフロントとなり、Salesforceなどのアプリケーションとつながる仕組みは理想だと言えますね。

水嶋 SalesforceとSlackの製品連携は強化されていますが、実際にお客様企業の業務においてそのまま活用できるかとなると、そうはいかないケースも出てくるでしょう。先ほど、冨高さんがおっしゃったように、IBMのアセットを活用する形もあるでしょうし、あるいはお客様の個々の事情に合わせてワークフローをカスタムで構築することで業務プロセスの変革、働き方や企業文化の変革を支援していく必要性なども多々あるはずです。

富高 そうですね。私たちのアセットをご提供することもできますが、お客様企業それぞれのアセットがあり、自社が最も困っているところや効率化したいところも違います。一緒に作り上げて効果を出していくことができるのがIBMの強みだと考えています。

Slackの活用により、新しい企業文化をデザインして組織変革を促す

富高 例えば、トップダウン型が多い日本企業には、なかなか自由に発言できない文化があるように思います。その壁を取っ払ってまずは話してみると、同じように考えている仲間がいることがわかるでしょう。ブログともメールとも違うSlackのコミュニケーション・スタイルでは、それが可能です。

Slack導入における大きなポイントの一つに「新しい企業文化をデザインする」ことがあり、私たちは、このステージにいかに早くたどり着けるかが重要だと考えています。その点を踏まえると、Slack単体で使いたいというニーズも多くいただきますが、やはり全従業員、またはパートナーなどより多くの人を巻き込むことで、今の時代に即した新しい企業文化やエクスペリエンスをデザインすることが可能になります。これは、Slackを検討されているお客様に対して私たちがご支援できるポイントでもあります。

水嶋 そうですね。その視点では、Slackのベスト・プラクティスとして、なるべくプライベート・チャンネルの活用は避けましょうとお伝えしています。企業文化のデザインにおいて「透明性」は重要なキーワードで、やり取りが誰でも見られる、見られていいという文化を醸成していかなければ発言が活発にならない。人前で言うようなことじゃないといったマインドを変えていく必要があります。

同時に重要になってくるのは、自由に発言しても批判されないという心理的な安全性です。批判されたらどうしようという不安があると、いくら透明性があっても発信できなくなります。

倉島 Slackはメールよりも距離が近いと感じますよね。私の場合は、社内メールが激減しました。マネージメントの観点から見ても、ちょっと声をかける、ちょっとしたコミュニケーションが取りやすくなりました。

水嶋 そのように、ちょっとしたコミュニケーションから変えていけるのがSlackです。例えば、部門単位で自分たちの業務を回すためにSlackを使ってみようというところから始めると、それを見た隣の部門が「自分たちも」となる。そういう波及効果を、お客様と接していてよく見かけます。

小さくスタートしながら、業務変革そして組織変革につながるように広げていけるのです。そこではやはり知見が必要で、私たちが伴走します。IBMと一緒に、DXをはじめとする企業変革を推進していきたいですね。

倉島・富高 ありがとうございます。これからもよろしくお願いします。