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サステナビリティー経営におけるCEOの役割|経営層スタディ2022からの洞察

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岡部 貴子

岡部 貴子
日本アイ・ビー・エム株式会社
IBMコンサルティング事業本部
戦略コンサルティンググループ 事業戦略 M&A/PMI
パートナー

全社戦略、事業ポートフォリオ戦略など、トランスフォーメーションのベースとなる戦略立案や、M&A、JV設立、アライアンス、事業再編などのコーポレートトランザクション、その後のPMIにおける事業統合マネジメントなど、幅広い業界の企業のトップマネジメントと協働し、企業がとるべき戦略的アクションを支援。多国籍コングロマリット、外資系コンサルティングファーム等を経て現職。日本IBMにおけるM&Aイニシアチブ推進リーダー。

はじめに 
〜なぜ今、日本に「サステナビリティー経営」が必要なのか〜

社会は大きく変化を続けており、従来のサステナビリティー推進をしているだけでは成果や価値を生み出しにくくなりました。日本企業は社会の変化以上に、変革を起こすことはできるのでしょうか。

SDGsの達成がCSRにつながる

まず、CSRとSDGsとの違いから見ていきましょう。明らかな違いは、CSRに取り組む企業が、社会やステークホルダーの期待を察知して、信頼獲得につながる自らの行動を自由に選択できるのに対して、SDGsでは解決に向けて取り組むべき課題が17の目標と169のターゲットによって詳細に明示されている点です。SDGsが掲げる17の目標は、国際社会が抱える地球規模の課題であり、SDGsの達成に向けた企業の取り組みは、社会やステークホルダーからの信頼を育み、CSRへとつながるものと考えられます。

SXのフレームワークでSDGsを経営に実装する

企業が各方面のステークホルダーから信頼を得るためにも、CSRと同じように「自発的に社会的責任を果たす姿勢」で、世界的な課題であるSDGsに取り組んでいくことが求められます。社会課題を中心としたSDGsは企業用の実務フレームワークではないため、経営に実装するためには戦略が必要となります。その一つがSX(Sustainability Transformation)です。SXとは「企業のサステナビリティー(企業の稼ぐ力の持続性や成長性)」と「社会のサステナビリティー(将来的な社会の姿や持続可能性)」を同期化させ、経営の在り方や投資家との対話の在り方を変革するための戦略指針です。SX自体はゴールではありません。その先にある経営ゴールに辿り着くための、事業構造強化の手法の一つです。社会が大きく変化している現在、企業も変革を起こす必要があります。日本企業がサステナビリティー経営を実現させるためには、社会動向を考慮したビジネスモデルおよび組織の構造改革を行い、企業価値を最大化させる必要性が高まっているのではないでしょうか。

本ブログでは、最新のIBM経営層スタディを紹介しながら、SDGsの視点をどのように自社事業の発展に活かすのか、日本企業がサステナビリティー経営への変革に取り組むためのアクションについて取り上げます。

IBMグローバル経営層スタディ CEO Study 2022

2022年8月に「グローバル経営層スタディ CEOレポート」をリリースしました。

「CEO Study」とは、米国IBMのシンクタンクであるIBM Institute for Business Valueが、世界の経営層を対象に2003年より実施してきた調査であり、これまでに55,000名以上のCxOにインタビューし、データを解析・蓄積してきました。

今回の調査である「2022年CEO Study」では、約40カ国・28業界のCEO約3,000名にインタビューが行われました。そのうち日本のCEOは135名です。

2022年CEOレポートの要点変革を起こす覚悟 3つのポイント

出典:日本IBM

近年、明確なのは、サステナビリティーは、もはや「nice to have」ではなく重要な経営戦略のテーマの一つであるということです。単にCSRの一環や、見せかけのゴール設定だけではなく、サステナビリティーの取り組みを企業価値の向上に繋げることが求められています。

本レポートによると、CEOは、サステナビリティーに関して、ステークホルダー、従業員、コンシューマーなど社内外からのプレッシャーを感じていることが明らかになりました。一方で、取り組みの実効性を高めるには、リーダーシップ、オープンイノベーション、テクノロジー・データ基盤、が重要であるということも浮き彫りになっています。これら3つに共通するのは、もはや単独の組織だけで、一朝一夕に完遂することはできず、経営戦略や、着手中のデジタル・トランスフォーメーションとも整合をとりつつ、全社を巻き込んで取り組むことが不可欠だということです。

このような改革を起こし、サステナビリティーの推進を実現するため、本レポートではトップ主導の「変革を起こす覚悟」が必要であるというメッセージを紹介しています。

サステナビリティーの取り組みからみるCEOの類型

出典:日本IBM

サステナビリティー推進は容易ではありませんが、成果を出している企業も存在します。本調査では、自社のサステナビリティー投資に関する質問の回答傾向について、優先課題や実践状況、活用しているテクノロジー、具体的な成果などの点でCEOごとに明確な違いが見られました。レポートでは、その差異を踏まえてCEOのサステナビリティーの取り組みスタンスを4つのタイプに分類しています。

まず、サステナビリティーへの投資を実施していない「現状維持型」、次に、サステナビリティー関連規制や義務遵守のための投資にとどまっている「コンプライアンス重視型」、そして業務など効率改善を主目的としてサステナビリティーに取り組む「オペレーション重視型」、最後にサステナビリティーにおいて戦略的変革を行っている「変革型」の4つのタイプです。

この中で、変革型はサステナビリティー戦略の策定・実行・成果の観点で他のタイプより先行しており、かつ営業利益など財務的にも好業績をあげています。では、変革型CEOは他のタイプのアクションと何が違うのでしょうか。鍵となるのは、「リーダーシップ」、「エコシステムとオープンイノベーション」、「テクノロジー基盤」の3つです。

以降、順に紹介していきます。

  1. 「チーム」を育てるリーダーシップ
  2. まずは「リーダーシップ」の特徴です。
    変革型CEOは全社を挙げてサステナビリティーに取り組み、幅広い分野の役員がそれぞれ深く関与しています。これは、変革型CEOが、サステナビリティー推進を特定の部門に任せきりにせず、部門の垣根を越えて役員を関与させて取り組んでいるということを示しています。さらに、サステナビリティーの取り組みを局所的な単発のプロジェクトではなく全社的な変革として捉えているというCEOの戦略の方向性が伺えます。

    人的資本への投資はサステナビリティー経営の中核要素
    日本語版では、日本独自の視点として「人的資本」への投資の重要性について、監修者コラムで言及しています。従業員のやる気が先進国の中でもとりわけ低いとされる日本社会において、持続的な企業価値向上を実現するためには、経営戦略と人財戦略を連動させることが重要です。

    日本企業にとって、特に重要なのは、人材のスキルを組み替える取り組み(リスキル)への投資です。日本では新しい経営戦略に合わないからといって、簡単に人材を解雇できません。長期雇用を前提にするのであれば、日本企業にとってリスキルは極めて重要です。組織として、人材の潜在能力を見抜き、活かし、高め、活躍できるステージを用意することが大切なのです。

  3. パートナーシップでイノベーションを推進
  4. 次に「エコシステムとオープンイノベーション」です。
    変革型CEO は、オープンイノベーションでも違いが見られました。「ビジネスパートナーとのオープンイノベーションは、サステナビリティー活動を推進する」と回答した割合は他タイプより高く、また、変革型CEOの70%がパートナーと協力しサステナビリティーの活動報告を共同で行っているというデータも得られています。業界の壁を超えた事業価値創出の観点では、「オープンイノベーション」がSXとDXの統合におけるキーワードとなります。サステナブルな視点を加えて刷新された製品とサービスを継続的により進化させるためには、業界横断や社会プラットフォームと連動した取り組みが鍵となります。レポートでは、複数の企業が参画したCO2流通プラットフォームの事例も紹介していますので是非ご覧ください。

  5. 進化を続ける技術と サステナビリティーの融合
  6. 最後に「テクノロジー基盤」です。
    変革型CEOの70%は、デジタル・インフラを効率的に拡張し、それによって新たな価値提供のための投資が可能になっていると回答しています。さらに、変革型CEOは自社の業績改善のために、クラウド・サービスをさまざまに組み合わせたハイブリッドクラウド・プラットフォームなどの基盤技術を取り入れていることも明らかになりました。前述の「オープンイノベーション」で述べた企業横断的なデータ・プラットフォームや、サステナビリティーの効果を可視化するための分析アプリケーションなどは、安全で安定したデジタル・インフラがなければ導入さえ困難になります。これは、サステナビリティーの取り組みに限らず、デジタル・トランスフォーメーション文脈では不可欠となるものです。SXやDXなど今後どのような機能やデータが必要になってくるのか、先が見えないからこそ盤石なインフラの「構え」は不可欠なのではないでしょうか。

    レポートでは、サステナビリティーの取り組みの先駆者となっている企業の特徴やCEOの生の声を紹介しています。

類型別CEOのとるべきアクション類型別CEOのとるべきアクション

出典:日本IBM

サステナビリティーが持つビジネスの可能性を実現するには、各社の経営戦略や状況によって、今取るべきアクションは異なります。レポート本編では、「リーダーシップ」「エコシステムとオープンイノベーション」「テクノロジー基盤」の3つの観点から、各企業の現状および将来の方向性を踏まえたアクションを紹介しています。

まずは、アクションガイドを参考に、サステナビリティー経営への一歩を踏み出しましょう。
是非、本レポートを自社のサステナビリティーの取り組みにお役立てください。