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Smarter Business

自動化は新しいフェーズに——IBMのエンタープライズ・オートメーションで全社目線の変革を

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田端 真由美

田端 真由美
日本アイ・ビー・エム株式会社
グローバル・ビジネス・サービス事業本部
クラウド・アプリケーション・イノベーション
技術理事

1994年日本IBM入社。金融機関向けのシステム開発プロジェクトでITアーキテクトとして活動後、IBM Watsonを活用したシステムの設計・開発をリード。現在はAIの活用とオートメーションの推進を担当する。

鬼頭 巧

鬼頭 巧
日本アイ・ビー・エム株式会社
クラウド&コグニティブ・ソフトウェア事業本部
クラウド・インテグレーション事業部
事業部長

IBMプラットフォーム・ソフトウェア、Automationソフトウェア関連事業の責任者を務める。ハイブリッド&マルチクラウドに対応したアプリ連携・構築・運用管理基盤、そして、業務プロセス自動化ソフトウェアであるIBM Cloud Paksの日本市場での立ち上げをリード。メインフレームからクラウドやソフトウェアに至る幅広い知識と経験を元に、お客様のDX推進を支援。

企業活動における自動化への取り組みは、労働人口の減少や働き方改革などの社会の変化を受け、以前から企業が推進すべき課題の一つとされてきた。さらに、新型コロナウイルス感染症(COVID-19/以下、新型コロナウイルス)の影響によるリモートワークの拡大などにより、その推進・実現化への流れは加速している。

日本アイ・ビー・エム株式会社(以下、IBM)はこの分野において、会社全体で効率的に自動化を進めるアプローチとして「エンタープライズ・オートメーション」を提唱している。また、エンタープライズ・オートメーションの実現を支えるソフトウェアを「IBM Cloud Pak for Automation」としてパッケージ化するとともに、RPAベンダーを買収して自社製品に組み入れたり、プロセス・マイニング・ツールのOEM提供を開始することで、そのサービス・プラットフォームを拡充している。

IBMが目指す自動化とはどのようなものか、IBMだからこそ提供できる自動化のメリットとは何か、グローバル・ビジネス・サービス事業本部 クラウド・アプリケーション・イノベーション 技術理事の田端真由美氏と日本アイ・ビー・エム株式会社 クラウド&コグニティブ・ソフトウェア事業本部 クラウド・インテグレーション事業部 事業部長の鬼頭巧氏に聞いた。

新型コロナウイルスの影響は、自動化における自社の現状を可視化した

——新型コロナウイルスの影響により人との接触が制限されるなど、ニューノーマルと言われる時代になります。当然、企業活動もそこに対応していかなくてはなりませんが、これは、自動化の流れにどのような影響を与えているのでしょうか。

田端 少子高齢化や働き方改革への注目を背景にして、人が付加価値と生産性の高い業務に取り組める環境をいかに整備するべきか、という課題はもともとありました。今回の新型コロナウイルスの影響は、優先順位が高くなかったものや後回しになっていたものも含め、業務環境を見直し、その課題を解決しようという流れを加速させたと思います。

特に、RPAなどの自動化テクノロジー、電子契約や電子印鑑などに関するお問合せをいただくことが増えました。これは、多くの企業で出社が制限されリモートワークへの移行が進んだことに起因していると考えられます。業務プロセスの自動化だけではなく、ITシステムの運用見直しや自動化も喫緊の課題になっていますね。

鬼頭 私が担当する、ソフトウェア製品の提供を行う事業部でも、お客様に同様の動きを感じています。既存システムの見直しやシステム化の範囲拡大、さらには、業務のプロセス自体を見直し、人が手作業でやってきたことをこのタイミングでデジタル化・自動化しようという企業が増えたと思います。

田端 話題になったところで言うと、官公庁もその見直しに着手した、押印のために出社しなければならない「ハンコ出社」があります。実際に、捺印のために契約業務が中断してしまったということもあるようで、“まずはそこだけでも”とデジタル化に着手したお客様もいらっしゃいます。

——その一方で、新型コロナウイルスの影響が生じる以前から自動化やデジタル化への取り組みを進めていた企業は、その有益性をダイレクトに感じているようですね。

鬼頭 捺印を伴うことが多い契約業務で言うと、IBMではeSignatureを利用しています。eSignatureは、安全を担保した上でお客様との契約締結をデジタル上で終始できるため、契約書の押印のために出社する、といったことが不要になります。お客様側での負担はほぼないため、多くのお客様に同意いいただき、その利用は拡大しつつありますね。

田端 お客様からは、(新型コロナウイルスの影響以前から)自動化に取り組んでいてよかったといった声をお聞きしました。

とはいえ、一部の企業では、自動化の不足部分も露呈しています。たとえば、デスクトップ型と言われるRPAの場合は、そもそも人がスタートさせなければRPAが稼働しません。そのため、RPAを稼働させるために出社してシステムをキックしている、ということもあるようです。つまり、自社の自動化現状を鑑みて、全体の見直しが求められていると言えるでしょう。

RPAベンダー買収で、IBMは全社規模の自動化をより推進

——IBMが自動化のアプローチとして提唱する「エンタープライズ・オートメーション」について教えてください。

田端 全社規模という点が重要です。IBMは自動化のジャーニーを伴走するパートナーとして「IBM Automation」を提供し、エンタープライズ・オートメーションの企画段階から設計、開発、運用まで全てのフェーズを通じてご支援、特定の部門や業務ではなくその会社の事業全体を見渡して効率化することを目指しています。

出典:IBM

たとえば、RPAはこれまで、経理などのバックオフィス業務での繰り返しが多い作業への導入が進んできましたが、IBM Watson(AI)やブロックチェーン、IoTなどと組み合わせることで、フロントからバックエンドに至る全ての業務を見直すことができます。部門横断の自動化・効率化により、迅速な意思決定を実現する環境を「インテリジェント・ワークフロー」と呼び、目指す姿と考えています。

出典:IBM

鬼頭 IBMはこれまで、自動化テクノロジーの一つであるRPAについて自前で持っていませんでした。2020年7月に、ブラジルのRPAベンダーである「WDG Automation(以下、WDG)」を買収し、11月にはCognitive Technology社のプロセス・マイニング・ツール「myInvenio」のOEM提供を発表しました。これにより自動化に必要な全てのテクノロジーが揃ったと言えます。これらをエンタープライズ・オートメーションの実現を支える統合プラットフォーム「IBM Cloud Pak for Automation」としてパッケージ化し、提供を開始しています。

出典:IBM

これにより、個別の製品を都度検討して課題に対応するのではなく、パッケージの中から必要な時に必要なテクノロジーを導入できるようになります。たとえば、最初にワークフロー管理を実施して、その後にビジネス・ルール管理の見直しを進めるなど、段階を踏んで全社規模の効率化を目指すことができるのです。

——自前のRPAを備えたことで、どのようなことが可能になるのでしょうか。また、これまでの自動化とはどこが違うのでしょうか。

鬼頭 自動化に必要なテクノロジーが全て揃ったことで、人が介在していたプロセスとプロセスのつなぎ目といった部分の自動化も期待できます。これまでのRPAは、単純業務に該当するプロセスを自動化の対象としていることが多く、顧客のクレーム対応や契約情報を参照しての処理、Excelによるシステムとの連携といった複雑な業務プロセスについては、人が介在していました。このようなところも、今後、RPAで自動化していくことができるでしょう。

また、WDGは、従来のRPAのようにロボット1台に対して1端末という制約がなく、1台の端末で複数のロボットを動かすことができるためコスト削減につながります。もちろんIBM Cloud Pakのパッケージ提供だけでなく、単体としてもWDGをご提供しています。

田端 このようなIBMのテクノロジーを利用しながら、全社規模でのプロセス自動化を推進することは、DX化の推進にもつながると考えています。また、ロボットを使うことで、人はもっと高度で複雑な業務に時間を割くことができるようになるでしょう。

——その一方で、RPAの活用が進むと運用に手間がかかるという新しい問題も生じるようです。

田端 ロボットが50台、100台と増え、デジタルレイバーとして人と一緒に協業する世界では、人がやっている業務とデジタルレイバーがやっている業務を全社レベルで管理しなければ、何か問題が起こった時に整理できなくなります。ところが、この管理を人が担当するのでは、本末転倒でもったいないですよね。

そこで、IBMでは「Automation Operation Command Center(AOCC)」として、デジタルレイバーの遠隔監視・運用を支援するサービスをご用意しています。このサービスにより、作成したロボットのデプロイ、運用、監視と一連のサイクルを支援し、簡単なものであれば万が一支障があった際の対応も可能です。グローバルではすでに提供が進んでおり実績もありまして、日本でもスタートしました。

現状分析から導入後の最適化まで支援する、エンタープライズ・オートメーション

——エンタープライズ・オートメーションでは、まずどのように自動化を進めるのでしょうか。

田端 自動化をジャーニーであると捉え、戦略を立て、構築/実行/最適化と進めますが、まずはお客様の業務現状を把握するところからスタートします。どのような業務がどうあるべきかをディスカッションするこの段階を「プロセス・ディスカバリー」と呼び、自動化の対象を見つけるのです。

プロセス・ディスカバリーを可能にしているのは、IBMのオートメーション・オファリングに組み込まれているコンサルティングです。当然、自動化の対象は繰り返し作業だけではありませんが、業務に携わっている方々は普段のやり方が当たり前であり、それをわざわざ変えるという発想が出てきにくい。私たちは複数のツールを使ってプロセスを分析し、ここをこのように自動化できますよ、というご提案ができます。

また、自動化を部門毎に進めるとプロセスがつながりづらくなるため、統合的でオープンなシステムにしましょうというご提案なども行います。その上で、どの部門、どの業務から自動化を進めると効果的であるかを俯瞰しながら進めています。

鬼頭 IBM Cloud Pak for Automationの中には、データを基に自動的にプロセス・マイニングを行うmyInvenioやプロセスをマッピングして業務プロセスを可視化し管理することができる「IBM Blueworks Live」も入っており、全てのプロセスを自動化の対象として検討することが可能です。さらに今後、AIの導入も進めていきます。自動化したプロセスは一度作成したら終わりではなく常に見直しが必要ですが、そこにAIを活用することで、人が気付かない差異や課題などをきちんと拾うことが期待されます。

たとえば、前の工程である部分を変更すると、後の工程でどんな影響が出るのかなどについて正確な指摘とともに、傾向や対策などといった提案も得ることができるでしょう。おそらく最終判断は人に委ねる方が良いと思いますが、従来なんとなくやってきたことであっても、データとAIの認知をベースとし、より効果がでる形で進めることができると考えています。

——全社規模の自動化ということであれば、ITシステムもその範疇に入ってくると推察されますが、その点についてお聞かせください。

田端 フロントからバックエンドまでの自動化を進めていくと、業務プロセスは当然変わります。それに伴い、それを支えるインフラ=ITシステムも変わる必要があります。また、ITシステムも自動化の範囲に加えることは、会社の業務全体の効率化に大きく貢献できると考えています。

これはエンタープライズ・オートメーションの大きな特徴でもあり、お客様のシステム開発・運用を長くお手伝いしてきた実績が、そのような自動化を提供可能にしています。また、ITシステムにおける設計、開発、デプロイの自動化も進めており、可能な範囲でノーコード・ローコードを導入しています。

鬼頭 ITシステム向けでもWDGを活用した自動化を進めていきます。従来、IT部門では運用に人手が掛かっていたのですが、これに輪をかけたのがシステム環境の広がり——パブリッククラウドを使うユーザーがいれば、オンプレミスを使うユーザーもいて、SaaSを使うユーザーもいるという状況なのです。

一方で、人員は増やせないという会社がほとんどです。むしろ、運用コストの削減を求められていることが多い。そこでRPAを導入することにより、ITシステムに係るさらなるコスト削減が期待できます。この活用はこれからのトレンドになるでしょうから、私たちも力を入れていく領域です。

田端 IBMが携わるお客様のシステム開発・運用サービスにおいても、今後は9割以上をリモートでできる環境を整えようという方向にあります。開発環境プラットフォーム上で作業を行うことで、リモートでもオンサイトと同じ生産性を出せるようにしていくことを目指しています。現在、「Dynamic Delivery」として体制を整えているところです。

オープンなテクノロジーも活用し自動化の可能性を模索

——自動化の事例としてはどのようなものが多いのでしょうか。

田端 新型コロナウイルスの影響から、電子契約などは大きなトレンドになっています。とはいえどうしても紙が必要になるところはあるので、そこは「AI-OCR」を使います。入り口をデジタル化することで、その後も電子的・自動的に流れるようにしていきましょう、というユースケースが多いですね。

また、ある流通業大手では、「デジタル BPO」で経理業務のコストと作業負担の削減に成功しました。このお客様は、中期経営計画の下で自動化テクノロジーを導入、業務の効率化を進めていましたが、中でも支払い・請求業務は手作業が多く非効率でした。

一般的に従来のBPOは外部に委託することでコストを抑えるものですが、委託先を人ではなくロボットとすることでさらなる効率を図りました。紙ベースの請求書をデジタル化するプラットフォームを導入したり、手作業での承認プロセスをデジタル化したり、請求書の入力とチェック処理をRPAにより自動化したりするといった変革を複合的に進めた結果、生産性が60~70%向上したとの効果が見られました。並行して、人(社員)は、AI技術者などの方向にリスキルを進めることで、より付加価値の高い業務に携われる環境を整備しています。

鬼頭 業界的には、金融業や保険業のお客様が多い印象です。これらの業界はデータの管理と長期保管がとても重要です。法規制が変わると対応しなければなりませんし、顧客規模が数万人に及ぶことは珍しくありません。さらに、金融業においては、新型コロナウイルスの影響が生じるまでは、店舗改革の文脈でプロセスのデジタル化・自動化を検討する動きが盛んであったことも影響していると思われます。

また、先でも触れた脱ハンコやデジタル庁の検討など、国や地方自治体も動き出しており、官公庁のお客様の動きに注目しています。

面白い事例では、「Mayflower Autonomous Ship(メイフラワー)」があります。AI、サーバーの分散配置による大容量データの高速処理など、IBMのテクノロジーを駆使し、感知・思考・意思決定を自動で行えるように設計されており、船長も乗務員もいない完全自律型の航行を実現します。2021年春に海上実験の一環として大西洋を横断する予定です。

——最後に、自動化に取り込みたいという企業にメッセージをお願いします。

鬼頭 IBM自身も業務プロセスやITシステムを世界規模でトランスフォーメーションしているので、身をもって得た知見や経験があります。もちろん、お客様のプロジェクトにおける実績もある。その上で、製品サービスを包含的に備えているのはIBMしかないと自負しています。また、AIの分野においては、IBM Watsonを他社に先駆けて提供しており、すでに数年分の実績を蓄積しています。

IBMならではグローバルの知見や幅広いテクノロジーなどの強みを維持しつつ、オープンなテクノロジーでリードしていく——世界的なオープンソース企業であるRed Hatの買収により、今後さらにIBM Automationのソリューションに反映されてくると思います。ぜひ期待して欲しいです。

田端 お客様のシステムの構築や運用を長年やってきたという、私たちの実績は揺るぎのないものです。その実績を背景に、全社規模の視点とサポート力を持ってお客様と協業していくことができる、これが私たちの強みだと考えています。変革を支えるパートナーとして、自動化のジャーニーを一緒に考えていきたいですね。