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Smarter Business

これからの組織力強化に欠かせない、G-Z世代のホンネ

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生まれたときからデジタルに接しているGeneration-Z (以下、G-Z)世代が、いよいよ社会に出て活躍しようとしている。彼らが組織や大企業に求めているものは何か。

折しもIBMが発表した今年のC-suite Study(グローバル経営層スタディ)では、世界の12,500名を超えるCxO(最高責任者)レベルの経営層にインタビューを実施。その結果、既存の企業において自らを変革していく「改革者」的先進企業が「守成からの反攻」に舵を切っていることが判明した。この流れのなかで経営層が重視しているのが、「新たな事業環境に適応できる人材」や「最新テクノロジーを使いこなす人材」だ。

本記事では、コンサルタントとして20年以上にわたって企業の戦略策定と組織改革に携わってきた日本IBM執行役員の池田和明氏と、東大起業サークルTNKで副代表を務める平石英太郎氏に、G-Z世代が大切にしている価値観や仕事観について語ってもらった。

池田 和明

池田 和明
日本アイ・ビー・エム株式会社 戦略コンサルティング&デザイン統括 執行役員ビジネス・コンサルティング リーダー


事業戦略策定、組織改革を専門領域とし、同分野で20年以上のコンサルティング経験を持つ。大手企業に対し責任者として同コンサルティングを多数実施してきた。近年は、成長戦略策定、先端テクノロジーを梃子にした新事業創出、ソリューション事業戦略をテーマにしたプロジェクトを手がけている。大手監査法人を経て、1996年にPwCコンサルティングに参画、2001年に同社のパートナーに登用。2002年のIBMによるPwCコンサルティング買収によりIBMコンサルティング事業部門に参画。早稲田大学大学院創造理工学研究科の非常勤講師として、『企業戦略論』を担当。

 

平石英太郎

平石英太郎
東京大学文科三類2年 東大起業サークルTNK副代表


1998年、京都府生まれ。父の仕事の関係で1歳から6歳までをモスクワで、また11歳のときにオーストリアで1年間生活。2017年、東京大学に入学。同年8月より株式会社POL、株式会社COMPASSにてインターンを開始。株式会社POLでは東京拠点リーダーとしてマーケティング、営業、カスタマーサクセスを行う。株式会社COMPASSではワークショップの企画、フランチャイズの拡大に従事する。現在は東大起業サークルTNKにて副代表を務めながら、Life is Tech!にて中高生にUnityを教えるメンターを務める。2018年8月に新会社「株式会社Sally」を登記予定。

 

Generation-Zが気になる、大企業ならではの良さ

Generation-Zが気になる、大企業ならではの良さ

――今日は1965年生まれの池田さんと、1998年生まれの平石さん、世代の違うお二人に対談をしていただきます。

池田 東大起業サークルTNKの活動に興味があります。どういう人たちの集まりで、どういった活動をされているのですか。

平石 TNKは2期制で、1期につき約30人、常時60人の大学生が在籍しています。将来起業をしたい、社会で何かをやりたいという、例えて言うと幹細胞のようなエネルギ―を持った学生が、東京大学や他のさまざまな大学から集まってきています。
主な活動内容としては、有名な起業家や投資家、ベンチャーキャピタル(VC)の方などをお招きした勉強会を毎週開いている他、2泊3日の合宿中に行うビジネスコンテストや、実際にプロダクトをつくって収益を上げようというアクセラレータープログラムなどを実施しています。

Generation-Zが気になる、大企業ならではの良さ

――平石さんはこの8月に会社を登記予定ですが(プロフィール参照)、どのようなキャリアビジョンをお持ちですか?

平石 実は僕は、東京大学には推薦入試で入っているんです。入試に際しては、興味のあった教育問題や「笑い」についての論文を提出しました。こういう、少しヘンな入り方をしたせいか、そこから東大という学歴を守って就職するのは、何か違うように感じるんです。

池田 ちなみに、平石さんは大企業に対してどのようなイメージをお持ちですか?

平石 学生の目から見ると「よくわからない存在」というのが率直な印象です。ただ、戦後の高度経済成長期は、働く人にとっては「やりがい」と「収入」が両立していたと思いますが、いまはデジタルの進歩で大企業でなければできない仕事というのが相対的に減ってきているように感じます

昔はオフィスを構えて電話を設置して、従業員を雇ってはじめて会社ができあがるようなイメージですが、いまはパソコン1台でだいたいのことができます。それに、大企業に総合職で就職しても、どこに配属されるかわかりません。やりたいことがあるならば大所帯の一部になるより、起業した方が早いのではないでしょうか。

でも、今日はこうした機会をいただけたので、池田さんに僕に見えていない「大企業ならではの良さ」を教えてほしいと思っています。

池田 大企業の良さは、世界中のさまざまな職種の優秀な人とコラボレーションできるところです。例えば、私はIBMで、世界最先端のAIや量子コンピューターの研究者と一緒に仕事をしています。私自身はサイエンティストではないから、これらのテクノロジーに関心はあっても深くは理解できないけれど、お客様に価値を提供できるというのが、私がIBMにいる理由です。いまは企業という枠組みがなくても、そうしたことが可能と言われるかもしれませんが、現実にはハードルは高いでしょう。仮に私がフリーランサーになったときに、このような仕事をするのはかなり難しくなると思います。

Generation-Zが気になる、大企業ならではの良さ

 

エンパワーメントで自分たち=若い世代を信頼してほしい

池田 平石さんは起業するとしたら、どんな事業に取り組みたいですか。

平石 いま関心があるのは、既存の組織のアップデートです。意志決定に必要な情報を組織の上層部だけでなく、社員全体でオープンに共有し、誰でも意志決定者になれる「スピード感ある組織づくり」を事業化できるようなツールを開発したいと思っています。

僕たちG-Z世代は物心ついた頃からITツールになじんでいたこともあり、諸先輩方が思いもよらない方法でアウトプットを出せるのでないかと、少し自信があります(笑)。そのためには、きっといろいろ不安もあるかと思うのですが、僕たちを信頼して仕事を任せてほしいんです。

池田 私が1996年に転職して入ったコンサルティング会社は、「エンパワード(権限委譲された)・スモールチーム」という組織コンセプトをとっていました。7人程度で構成されたチームとそのリーダーにほとんどの権限が委譲され、社内の情報も全部共有されていたのです。メンバーの報酬は所属チームの業績によって大きく変動しますし、エキサイティングでとてもやりがいがあり、会社も急成長しました。大企業のなかに、このような環境を作り上げるべきですね。

特にデジタルテクノロジーの活用に関しては、平石さんたちの世代の方が優れています。また、我々の世代が若かったころに比べて、優秀で意識も高いように思います。ちょっと問題発言かもしれませんが(笑)。大企業における、デジタルネイティブへのエンパワーメントが一層大切になっていると思います。

エンパワーメントで自分たち=若い世代を信頼してほしい

平石 いまの池田さんのお話を聞くと、スモールチームで仕事ができるのであれば、起業をするのと同じようなモチベーションを持って大企業でも働けるのではないかと思いました。

――最近はベンチャー企業が上場するよりも大企業に買収されるケースが目立ってきています。お二人はこの動きをどう見られていますか。

池田 企業の経営者は、顧客、社員、債権者、株主など、さまざまなステークホルダーに気を配らなければなりません。特に上場企業には、事業を成長させるだけでなく、利益を確保して株主に還元することが強く求められます。こうした枠組みのなかでは、ベンチャーのように思い切った経営がなかなかできないのは事実でしょう。

ただ、大企業もそこには気づいているからこそ、スタートアップに積極的に出資したり、時には買収を行ったりします。そのためのコーポレート・ベンチャー・キャピタル(CVC)機能を持つ企業が増えています。

平石 買収される側からすると、立ち上げた事業を大企業の力を使ってドライブするのはきっと合理的ですよね。ただ、最初からM&A狙いの起業が多くなるのは、とても大がかりな受託のようにも見えてしまい、起業家を目指す者としてはちょっと悲しいです……。

池田 大企業によるM&Aにもいろいろあります。もともとスタートアップだった企業が、事業を拡大していく過程で、次々と他社を買収し成長を加速する。そして、成功して大企業になっても、スタートアップを支援しつづけて、そういうダイナミズムを持つ企業もありますよね。

平石 日本でもグローバルIT企業が、若手の起業家のサース(ソフトウェア)の開発を応援している例があります。ノウハウを共有し、プロジェクトが立ち上がったらコラボする。そうしたグローバル企業のダイナミズムが日本にもやってきているなと感じています。

エンパワーメントで自分たち=若い世代を信頼してほしい

池田 少し話がそれるかも知れませんが、企業が成長するためには、社会への貢献を目指した経営ビジョンが求められます。10年以上前に、自己実現欲求的な理由での起業が多いという統計がありましたが、いつまでも自己実現ばかりを追求する姿勢ではどこかで頭打ちになるか、社会から受容されなくなる。賢い経営者はそれに気づき、どこかのタイミングで社会への貢献を自社のミッションに掲げ、そのビジョンを描きます。

平石 僕も起業をするにあたって、そうしたミッションや思いを標榜することがいかに大切か感じるようになりました。小さな会社であってもビジョンを掲げる方がそこで働く人たちも共感してくれるし、合理的ですよね。

 

デジタルネイティブなG-Z世代が求めるワークスタイル

――平石さんのようなG-Z世代は、やはり日常からデジタルツールを使いこなしているのですか。

平石 高校まではただのスマホユーザーでしたが、大学に入ってからはプログラミングに興味が湧いて「Unity」(ゲーム開発に必要な機能を内蔵したゲームエンジン)を使ってゲームを作るようになりました。TNKの仲間たちを見ても、何かやりたいのであれば語るだけでなく、デザイナー系のツールを使ってアプリのモックアップくらいは作ろうよ、といったムードになっています。

あと、僕たちの世代は動画にとても親しんでいるので、「Tik Tok」や「Instagram」などのアプリを使ってプロのようなかっこいい動画を撮っては相互コミュニケーションに使っています。これを僕は事業に取り込み、組織をドライブさせるためのツールに活用できないかと考えています。動画を使って、社員全員が自分の思いをアウトプットするような文化ができれば、その人がどれだけ本気で言っているのかすぐにわかりますし、フラットに情報発信できる組織が作れるのではないでしょうか。

デジタルネイティブなG-Z世代が求めるワークスタイル

池田 平石さんたちの世代はデジタルネイティブであると同時に、シェアリングエコノミーが当たり前で、物欲が少ないと言われていますね。

平石 確かに、欲しい物は何かと聞かれてもぱっとは思い浮かびません。モノを手に入れるより、TwitterやYouTubeでバズったりする方が嬉しいですね。

池田 コミュニティーを大切にし、そのなかでモノや情報を共有する、そしてメンバーからの評価を喜びとする。それは興味深い一方で、資本主義、自由主義的な価値観から離れつつあるような気もします。

平石 金銭的なインセンティブはあった方が健全だと思います。個人的には漫画『ONE PIECE(ワンピース)』みたいに、自分のやりたいことに共感した仲間が集まり、がむしゃらに働いた結果として、世の中に価値を提供できるような仕事をしたいと願っています。

――32歳差というお二人ですが、話していてどう感じられましたか。

池田 最近はメンタリングの逆で、企業の経営者やリーダーがミレニアル世代やG-Z世代の若者から「もっとこうした方がいい」といったアドバイスを得る「リバースメンタリング」というものが広がってきていると聞いています。今日はまさにそんな感じで自分の考えがアップデートされた感じがしました。とくに「若い世代に任せてほしい」というメッセージは自分自身の過去を振り返ることもできて、とても参考になりました。

平石 池田さんとお話しして、「大企業だからこそできること」に関して考えが深まりました。デジタルツールとの親和性など僕たちの世代ならでは特徴を大切にして、大企業を含めた働き方を、僕たちが変えていけたらおもしろいですね。