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[共創のエキスパートたち vol.4] 石井 香帆「短期間のスピーディな検証で“現場が使えるデータ分析”を届ける」

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「デジタルを活用した新規事業の開拓といっても、まず何から始め、どのように進めたらよいのかわからない」「デザイン思考の考え方も取り入れながらビジネスを再構築したい」「当社もIoTとクラウドを使ってビジネスを大きく変えたい!」「先進ITで何か新しいことやりたいんだけど、ちょっと付き合ってくれない?」──こんな悩みや課題をお持ちのご担当者に向け、イノベーションを推進するためのヒントとなる情報を連載企画にてお届けします。

IBMでは、皆様の“デジタルの壁”を打破し、イノベーションを共創しています。ビジネス変革に向けたアイデア創出から、先進ITソリューションの最適な活用法を探るPoC(Proof of Concept、概念実証)、現場での実証実験までを素早く実施。その際に、すでに多くのお客様が活用されているのがIBM Garageサービスです。

特別企画「IBM Garage:共創のエキスパートたち」では、デジタルストラテジストやデザイナー、サイエンティスト、エンジニアとしてお客様をご支援している各領域のエキスパートにフォーカスし、担当してきた事例なども交えてご紹介していきます。ぜひ、イノベーション創出への第一歩として、お気軽にご指名いただければ幸いです。

 

第4回「データサイエンティスト 石井 香帆 ── 短期間のスピーディな検証で“現場が使えるデータ分析”を届ける」

石井 香帆石井 香帆 Kaho Ishii データサイエンティスト

▶IBM Garageでの主な担当案件
都市銀行様 店舗窓口業務の高度化
自動車メーカー様 ディーラー販売車種調査
外食業様 レストラン需要予測

 

今住んでいる賃貸マンションは、業務で使っているデータ分析のスキルを生かして見つけた“穴場物件”なんです。物件情報サイトに載っているロケーションや家賃などの情報から各エリアの“理論家賃”を弾き出し、それよりも大幅に安い物件を内見して決めました。相場よりもかなり安い理由は、ベランダの中央に太い柱があるからでした──というわけで、私はプライベートでもデータサイエンティストとしてのスキルをフルに活用しています(笑)

レストランチェーンの食材・備品の需要をAIで予測

IBM Garageでの私のミッションは、お客様のビジネスのさまざまな領域において、データを活用して新たな価値を生み出したり、効率化やコスト削減を行ったりするお手伝いをすることです。

例えば、ある外食業のお客様のガレージでは、レストランチェーンの各店舗が毎日発注する食材や備品の需要予測に機械学習による予測モデル(AI)を使えないかを検証しました。それまでは各店舗の店長さんが毎日、翌日以降の食材や備品の必要数を予測して本部に発注していましたが、その予測誤差を減らして店舗の在庫数を適正化し、発注作業にかかる店長さんの負担を軽減することが主な目的です。

検証は4店舗で実施しました。それらの店舗の過去の仕入実績を機械学習させて予測モデルを作り、それを使って予測したところ、店長さんが経験と勘を頼りに行っていた予測よりも3、4%精度を高められることがわかりました。店長さんの中には毎日、手書きの表で発注量を計算していた方もいらっしゃいましたが、AIに任せることでそれらの手間と負担が減り、別の仕事に時間を割けるといったメリットも生まれます。

なお、データ活用ソリューションは入念な検証を行ってシステムを導入しても、なかなか現場に浸透させられないケースが少なくありません。そのため、このお客様のガレージでは、店舗に試験的に導入し、店長さんに使っていただけるかを見ることも重要な目的でした。これについてはある程度の反発を予想していたのですが、意外とすんなり使っていただけたことに驚きました。手書きの表で計算していた方も、「予測結果がパッと出てくるならこっちのほうがいいね。しかも、それぞれが発注数に変換して表示されるから便利だ」と喜んでいただけました。

このお客様では、4店舗での検証成果を踏まえ、現在は全店舗への予測ソリューションの導入を進めています。

現場が使いやすい形で分析結果を届ける

私が心掛けているのは、現場の方に使っていただけるものをお届けすることです。単に分析結果のデータをそのままお渡しするのではなく、グラフ化したり、見やすい表形式にしたり、担当者が把握しやすい単位に変換したりといった具合に、現場の皆さんが嬉しい形式で届けることが大切だと思っています。先ほどのレストランの店長さんなら「発注」の単位が一番わかりやすいんですね。「お客様がこのくらい来店されるので、人参は○ケース、肉は○ケース必要です」といった具合に、現場の方にとってできるだけわかりやすいかたちで分析結果をお届けするよう努めています。

データサイエンティストとしての活動で今も心に強く残っているのは、“お客様目線”で考えられていなかったことを気づかせていただいたお客様からのご指摘です。ある会社の営業支援に関するプロジェクトの中で、営業の方がサポートやアドバイスをもらうと嬉しい人を業務のロールモデルとしてアサインするというテーマで分析を行いました。分析結果に基づいて営業の方とロールモデルの組み合わせを作り、それが適切かどうかをベテランの営業の方に見ていただいたところ、「この分析結果はピンと来ない」とご指摘をいただきました。「歳が大きく離れた人をアサインしても、経験年数も立場も感覚も違うだろうから、あまり嬉しくないと思う」とおっしゃるのです。ハッとしました。

営業の方に限らず、年齢や経験が大きく異なる人を日々の業務のロールモデルとするのは一般的ではありません。これは常識的なことだと思いますが、当時の私は数字ばかりを追いかけて、そんな当たり前のことを忘れていたのです。それ以来、分析結果を利用する方々のことも考えて分析条件を設定するよう心掛けています。

IBM Garageとは、お客様にとって価値あるものかを短期間でクイックに検証する場

私にとってのIBM Garageとは、非常に短い期間で集中して現場検証を行う場です。お客様が使えるものか、お客様のビジネスに役立つものかを、短期間でお客様と密接にコミュニケーションしながら試す場がIBM Garageなのです。

実際、IBM Garageでは、とにかくクイックに検証を進めます。例えば、初めに10項目の検証リストがあったとしたら、それらに優先順位を付けて順に検証するのですが、こうした進め方は特にデータ分析との親和性が高いと感じています。最初にいくつかのパターンを検証してAが最も有望だと判断したら、次にそれを細分化してA1、A2、A3を検証する。途中で予想が破綻したらリストを更新して検証対象を増やす──このようにして、とにかくより高い価値を得ることに集中します。

AI・機械学習の領域は技術や手法の進化が著しく、毎月のように新たな技術やツールが登場しています。数年前に試したが無理だったというテーマも、今なら有効な手段が見つかるかもしれません。「現場が使えるデータ分析が欲しい」というお客様は、どんなジャンルのことでも私たちにご相談ください。

 


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