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テクノロジーがもたらす、女性の働き方未来図

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取材・文:岩崎史絵、写真:銭田豊裕

 

厚生労働省が発表した『平成27年版働く女性の実情』によると、現在女性の労働力人口は2842万人となり、労働力人口総数に占める女性の割合は43.1%、女性の労働力率(15歳以上人口に占める労働力人口の割合)は49.6%と増え続けている。 その一方、結婚や出産というステージで働き方に悩む女性も多くなり、改めて「誰もが活躍できる働き方や環境づくり」が課題となっている。こうした課題に対し、テクノロジーがいかに応えるのか。実際に結婚・出産を経て、女性エンジニアとして活躍する日本アイ・ビー・エム コグニティブ・ソリューション事業 コラボレーション&タレント ソリューション事業部 技術理事 行木 陽子氏に聞いた。

 

変化を楽しむことで築いたキャリア

──これまでの経歴を教えてください。

行木:学生時代は社会学を専攻していました。今もそうですが、私が日本アイ・ビー・エム(以下IBM)に就職した当時も文系・理系関係なくシステムエンジニア(SE)を育てるということで、文系の学生もエンジニアとして採用していたんです。

よく「大変だったのでは」といわれますが、1年半以上かけて研修とOJTで指導してくれましたし、特に私の場合、入社して最初に担当した鉄鋼業メーカーのお客様や先輩がとても優秀な方々で、仕事を通して育てていただき、7年ほどそのメーカーを担当し経験を積みました。今でもありがたく思っています。

 

変化を楽しむことで築いたキャリア

 

──その後、結婚・出産を経験されたんですよね。

そうです。育児休暇を経て営業部に戻ったのですが、育児中は時間制約があるため、ほどなくして技術部に移り、その後にサービス開発部に異動しました。当時、サービス開発部では音声認識技術を使ったコールセンターの構築を進めていたのですが、この分野についてさらに詳しく学びたいと考え、社内留学支援制度を受け、働きながら国内の大学院に籍を置いて勉強することにしたんです。その頃、子どもはまだ就学前だったのですが、家族のサポートもあり、非常に有意義な大学院生活になりました。

──育児と仕事、そして大学院で勉強と、「3足のわらじ」を履く上で不安はありませんでしたか?

もちろん、大学院に行く前は悩みました。年齢的なこともありますし、家庭もありましたし。でも行ってみたらとても楽しかったんです。10歳以上年齢の離れた学生たちと共に、テクノロジーに対する自分の意見をプレゼンテーションして、議論して、新しいアイディアを生み出していく。今の働き方に通じる経験を、この時期に得られたんです。大変だったのは事実ですが、周りに助けられて大学院に行ったことはその後のキャリアにおいても良い経験になりました。

大学院で学んだ音声認識技術の事業が、その後他社に売却されてしまい落ち込んだこともありましたが、その後、登場したばかりのポータルビジネスを立上げました。その経験が「仕事のスタイルや環境づくり」という今の業務につながったのだと思います。何が縁になるかわかりませんね。

 

変化を楽しむことで築いたキャリア

 

──バリエーションに富むご経験を経た今、働く上で大事にしている理念を教えてください。

一言で表現するのは難しいのですが、何でも前向きに取り組もうという気持ちがあります。あと、変わることを恐れない姿勢ですね。

特に最近はテクノロジーの進化が速いので、新しいことへのチャレンジは必須です。積極的にチャレンジし、変化を恐れない。そのためにはビジョンを持つことも必要です、全てを楽しむ潔さがあるといい、と常々思っています。

 

ライフステージにおける、変化の受け止め方

──働く女性にとって、結婚や出産はやはり大きな変化かと思います。どのように受け止めたのでしょうか?

結婚自体はそれほどハードルにはなりません。むしろパートナーがいることで生活も充実します。
ただし、出産は違います。子どもは面倒を見て、育てなければなりません。そうすると日々の優先順位付けが必要になってきます。こうした時、真面目な方ほど自分ひとりで何もかもやらないといけないと思いがちですが、最近はいろいろな制度や環境が整っているので、そういう情報にアンテナを立てておいて、積極的に活用するといいと思います。私自身も、義理の母や夫がサポートしてくれました。とても感謝しています。

 

ライフステージにおける、変化の受け止め方

 

──仕事と育児の両立で、悩まれた経験はありますか?

出産前はバリバリ働いていたんですよ。育児休暇を取って、1年のブランクができた。その間の知識のアップデートができないので、復職した時「私がここにいて、どんな貢献や仕事ができるのか」と思い、やはりマイナスの感情が生まれたんです。

育児中は時間的制約もあるので、任せてもらえない仕事も出てきます。それで負のスパイラルに陥った時もありました。私の場合、上司に相談して信頼関係を築けたのもよかったと思います。そして限られた時間の中で成果を出すことで、周りからも認められるようになりました。

復職したばかりの女性は、不安だらけでしょう。しかし、仕事はチームで進めるものですから、その不安を自分1人だけで抱えずに、周りの人とコミュニケーションを取りながら解決していくことが必要でしょうね。あと、今の時代であればテクノロジーを上手に活用するのも有効です。

 

ライフステージにおける、変化の受け止め方

 

テクノロジーが後押しする、女性の職場復帰

──具体的に、どのようなテクノロジーが女性の復職に役立つのでしょうか。

現在は在宅勤務など、以前と比べて就業環境が広がっています。自宅に居ながら海外の会議に参加したり、コミュニケーションも取りやすくなっていますよね。チャットやWeb会議で先輩や同僚に相談するなど、ITを活用すれば育児中でも効率的に仕事を進めることができます。自分でタイムマネジメントができれば、働き方には様々な選択肢があると思います。ただ、在宅勤務はともすれば孤独になりがちなので、リアルなコミュニケーションを併用できるとさらに良いでしょう。

──知識不足や、その他のギャップもテクノロジーで解決できるのでしょうか。

IBMにはeラーニング制度があるので、会社の方向性や自分の部門のテクノロジーについては、産休・育休中もeラーニングで常に確認ができます。こうした仕組みを、社員が積極的に活用できるように会社側が促すことも必要でしょうね。

 

イノベーションは働きやすい環境から

──企業側がITをうまく活用しきれていないケースもあるのではないでしょうか。

テクノロジーの進化はとても速い。たとえば今の若い人にとっては、時候の挨拶から始まるメールでのやり取りは非常に古く見えるかもしれません。それよりはLINEで要件をスパッと伝えた方がいいという意見も、確かに一理あります。

こうした世代を超えた意見を積極的に取り入れて働く環境を作ることが、アイディアの活性化につながり、次のイノベーションを生み出す原動力になると考えています。これからは結婚・出産した女性に限らず、介護に携わるオフィスワーカーや高齢者・身障者など、個々の事情を抱えながら働く人が増えるでしょう。

先述したイノベーションは、様々なバックボーンを持った社員の活躍には欠かせません。未来の芽を育てるためにも、企業はテクノロジーをうまく活用することが必要ですし、そうした企業こそ、さらなるイノベーションを起こしていくのかもしれません。

 

イノベーションは働きやすい環境から

 

──テクノロジーがもたらす「働きやすい環境づくり」について、具体例をお願いします。

2つの分野があると考えています。1つ目は、気の利く秘書のごとく個々人の働き方に応じて業務をサポートする「パーソナルアシスタント」です。現在、業務時間削減への取り組みが活発化していますが、時間を短縮すると同時に仕事量も減らさなければなりません。膨大な業務に優先順位を付けて仕事の進め方を提案してくれたり、受信したEメールの内容を読み取って、求められているアクションを教えてくれたりします。例えば「相談しましょう」と書かれているEメールを受信したら、メール・システムが会議に参加すべき人、皆が参加できる時間を提案し、ワン・クリックするだけで会議召集通知が送信されるような仕組みも開発されています。こういったテクノロジーにより、オフィスワークのさらなる省力化が可能になります。

2つ目が、「エキスパートアドバイザー」という分野です。業務に必要な情報を社内の担当者やインターネットで調べるのに、かなりの時間がかかってはいないでしょうか? 必要な情報がどこにあるか、あるいはどこに専門家がいるのかを瞬時に知らせてくれたり、学習した専門知識や学習から得られた鋭い視点を教えてくれます。まさに、クイズ番組「Jeopardy!」で優勝したIBMのコグニティブ・プラットフォーム「IBM Watson」のようなものですね。

人間の仕事を奪うといわれているAIですが、ビジネス上の意思決定を行い、イノベーションを生み出すのはあくまでも人間です。それをサポートするのが、AIの役割だと考えています。

 

Watsonがもたらす、働き方の未来図

──働く環境がまるでSFの世界のようになりますね。

私たちが目指すのは、働きやすい環境づくりです。IBM Watsonをはじめとする最新のテクノロジーを活用して、工場やフィールドサービスなど現場の方からオフィスワーカーまで、あらゆる人にとって「働きやすい」環境を実現すること。

働き方改革というとテレワークによりがちですが、働く時間と場所の柔軟性だけにとどまらず、効率性を高めたり、ストレスを排除できるような「より良い職場環境を作る」と考えることで、さらなる改善の余地がたくさんあるのではないでしょうか。

たとえば設備機械に不備があればIoTを通じてアラートが出て、そのエラーメッセージから「どうすれば直るか」をシステムが教えてくれます。それでも不具合があれば専門家に見てもらうなど、今あるナレッジをデジタル化して働きやすい環境をつくることを提案しています。これは今やSFの世界のことなどではなく実現可能です。

一方で、社内のナレッジがすべてデジタル化されて、人が持つ知見や経験を総合的に判断できるようになれば、最適な人材配置が可能になります。やりたい仕事で、かつ、持っているスキルにも合致するポジションに配属されれば、皆が高いモチベーションで働くことができ、会社全体の業績も上がるはずです

IBMではそんな未来を見越して、日常業務を見直し働く環境の効率化を目指す「Watson Work」、そして人材活用の観点から企業のパフォーマンスを高める「Watson Talent」という2つのイニシアティブを推進しています。最新テクノロジーを活用して柔軟で効率的な働き方を追求し、あらゆる人が持てる能力を十分に発揮できるような社会の実現を目指したいと思います。

そして、働く人すべてが自分の望むキャリアを築けるようになれば、とても喜ばしいですね。

 

 
2017年11月1日、BluemixはIBM Cloudにブランドを変更しました。詳細はこちら