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自動運転の未来とは? お節介をしないロボットか、交通事故のない社会か

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現在、「生活の質を高める」ものとしてテクノロジーが注目を集めている。人工知能が学習するデータが劇的に増加したことによって、家庭や実社会で役に立ち人間の生活をサポートするロボット技術の開発が進んでいるのである。その一つに「自動運転」がある。現在、Googleや大手自動車メーカーが注力し試験走行を重ねているこの技術に着目し、その可能性をさぐってみよう。

 

将来は自動運転車のみになる?毎日のようにニュースで流れる交通事故。

現在、日本では高齢者ドライバーによる交通事故が社会問題化している。この問題を解決しようと約30年前の1980年代に、いち早く自動運転技術の研究に着手した人がいる。ロボティクス分野の 第一人者、米カーネギーメロン大学の金出武雄氏である。金出氏は、次のように話す。

“自動運転によって交通事故を減らすには、社会構造を変える必要があると考えています。人間による運転と自動運転が混在する場合、人間は必ずしも正しく運転することができないし、次にどう動くかを、自動運転をしているロボットは理解できま せん。その意味では、混在状態で交通事故をなくすのは難しいでしょう。”

自動運転によって交通事故が減るのかと思いきや、今年に入ってからも、試験走行中とはいえ、Google自動運転車の事故やテスラの自動運転機能を使った初の死亡事故がおきている。しかし金出氏は、将来、自動運転車のみが道路を走るようになれば現状は変わるという。けれども自動運転車だけになれば話は変わります。なぜならネットワーク を介して他の車の動きをお互い事前に察知するこ とができるからです。将来的には、自動運転車のみの走行が理想だと思います。 ただし、「運転をしたい」という人間の欲望を除いてはね。交通事故のない社会を目指してIBMの浅川智恵子フェローはこう話す。自動運転の研究は、一般のドライバーや高齢者だけではなく障害者にも有効である、と。彼女自身も視覚に障害を持っている。

視覚障害者にとって大きな問題になるのが、移動です。自分が好きなところに移動できないという不自由があります。その問題を解消する第一段階として、正確な位置情報に基づくナビゲー ションを研究していますが、そうした仕組みと自動運転車が結び付けば、視覚障害者でも自分で 運転して行きたいところに自由に行けるようになる可能性があります。この技術が実現すれば、交通事故のない社会も実現できると思っています。

自動運転技術はロボティクスにおける成果の一つであるが、交通事故のない社会の実現のためには、テクノロジーの進化だけでなく、インフラや制度、法律の整備も必要だ。そのためにロボティクス技術と行政が協力しあうことが求められている。

 

クリーンな社会か欲望の社会か?

金出氏は、将来的に「自動運転車のみの走行が理想」とした上で、それでも「運転をしたいという人間の欲望」が残ることを指摘した。たしかに社会には、現に運転を趣味にしている人が一定数いる。自分でハンドルを握って目的地に着きたいという気持ちは多くの人が共感するだろう。

筆者も、今後そのような気持ちや趣味が大きなモラルのために規制されることになったら、それはいささかお節介だと感じる。この感じは、禁煙ブームがクリーンな社会を目指すあまり喫煙者が嫌悪される時代を息苦しく思う現状に似ている。もちろん交通事故の問題を解決しなくともよいと主張したいわけではない。金出氏もつぎのように言っている。

“最も理想的なのは、お節介なことはせず、本当に助けてほしいときにだけ助けてくれる機械です。 そもそも人間は、自分のことは自分でしたい生き物ですから、ロボットが何でもかんでもやる必要はありません。”

交通事故のないクリーンな社会の実現と、人間の欲望を守る「お節介」ではないロボットの実現が、果たして両立可能なのだろうか――。技術の挑戦は続く。

photo:Getty Images

 

■参考記事
ロボティクスとコグニティブ技術の融合が人間の生活の質を向上させる
Google自動運転車がもらい事故、信号無視の相手が横から衝突。Google曰く「事故はヒューマンエラーで起こる」| Engadget日本版
Google自動運転車が「だろう運転」でバスに接触。幸いけが人なし、AIプログラムはすでに修正
テスラの自動運転車で初の死亡事故。何が問題だった? | The Huffington Post