吉富 晃也氏
株式会社ふくおかフィナンシャルグループ
DX推進本部
阿部 桜和子氏
株式会社ふくおかフィナンシャルグループ
DX推進本部
ジュニアエキスパート
今井 博一
日本アイ・ビー・エム株式会社
コンサルティング事業本部 金融サービス事業部
アドバイザリーアーキテクト
2023年10月にリリースされた事業者向けポータル「BIZSHIP(IBM外のWebサイトへ)」は、株式会社ふくおかフィナンシャルグループ(以下、FFG)が提供する新たなデジタル・チャネル。銀行取引のデジタル化、経営課題解決をサポートできる幅広い機能を有し、リリース以降1万先以上のお客様にご利用いただいている。
DX推進によって金融機関の新しいあり方を確立しつつ、九州の活性化に貢献するFFG。その共創パートナーとしてともに走るのは、日本アイ・ビー・エム(以下、日本IBM)だ。今回、BIZSHIPのアプリ開発を手掛ける、FFG DX推進本部の若手エンジニア、吉富晃也氏と阿部桜和子氏に、日本IBMコンサルティング事業本部の今井博一がBIZSHIPの開発とIBMとの共創について聞いた。
内製開発とアジャイル開発でユーザーの反応にいち早く対応
今井:リリース後もサービス拡充が進むBIZSHIPの特徴を教えてください。
吉富:さまざまな機能を備えています。例えば経営診断機能は、提出いただいた決算書類をもとに、自社の経営状況をスコアリングするとともに、チャート図で補強すべきポイントが直感的にわかるようになっています。具体的なアプローチ策や事例も示しています。
阿部:金融機関が手がける事業者様向けポータルサイト自体は珍しいものではありませんが、BIZSHIPには完成形がありません。常にお客様の反応を見ながら、機能をブラッシュアップしたり追加したりしています。
吉富:お客様にとって、より使いやすいサービスとするため、「こうした方がいい」となったら、仮に当初と異なる方向性であってもスパッと舵を切れます。そうした機動力は、BIZSHIPという事業の強みです。さらに、九州を地盤とする金融機関として、地場の企業や団体をどう支援していけるのか、徹底的に考え抜いてつくり上げている自負もあります。
今井:なぜそのような機動力があるのでしょうか?
吉富:FFGは、DX推進本部を中心にデジタル開発を内製かつアジャイルで進められる体制が整っているからだと思います。DX推進本部の前身が発足したのは2017年、現在は100人規模のエンジニアが在籍しています。顧客ニーズにクイックに対応するため、体制はもちろん、事業の進め方もこれまでの枠にはまらない思考で動いています。
チームの意思疎通と「Why」がカギとなる大規模開発
今井:これまでの枠にはまらないということは、見本となる正解がないということにもなります。難しさを感じることはないですか。
吉富:その点は、現場理解(お客様理解)と開発のバランスが長けているので、うまくやれていると思います。BIZSHIPに携わるメンバーには営業経験者が何人もいますし、私も、今はエンジニアですが、その前は店舗でさまざまなお客様と接してきました。さらに、開発チームは、実態を踏まえたUXをつくるため、現場に出て反応を確かめています。ユーザー・インタビューを繰り返しながら、お客様が使いたいと思えるコンテンツにするまで何度も改善を重ねました。
阿部:さらに、IBMさんのような外部のDXのプロフェッショナルの力も必要不可欠です。
今井:ありがとうございます。経営層や部門責任者、百戦錬磨のエンジニアだとしても、答えを持ち合わせているわけではありません。だから、現場に出向くことは遠回りに感じるかもしれないけれど、実はいちばん近道なのかもしれませんね。ほかにも工夫していることなどはありますか。
阿部:開発チームが大所帯なので、舵取り役が「これでいこう」と示しても腹落ちできない人も出てきます。皆で「ああじゃない、こうじゃない」と喧々諤々しながらここまで来ることができました。
吉富:だから、特定の“誰か”の意思だけで突破する、というのはほぼないですね。個々の思いはありつつも、「なぜやるのか?」というWhyの認識を揃える重要性を感じています。
今井:大所帯は大変かもしれないけれど、多様なバックグラウンドで多面的に検討できる強みもありますよね。「それは本当にユーザーに寄り添ったものなのか?」と、皆が自問自答しながら開発に臨んでいるのが伝わってきます。FFGさんが個性を発揮しやすい環境だからこそではないでしょうか。
吉富:FFGは比較的風通しのいい組織ですが、開発チームは特に、オープンでフラットな風土を感じています。例えば、誰でもアイデアを言いやすかったり、枠組みだけ決めて詳細は任せてもらえたりと。若手は成長のチャンスにも恵まれています。
機動力という持ち味を大切にして協業を進めてきた
今井:若手に成長のチャンスが多いということは、いい意味で個々の自律が問われていますよね。
阿部:そうですね。そうした風土なのでFFGの描く未来を理解して、私たちと変わらない熱量で協業いただいていると感じます。
今井:今はそう言っていただけますが、初期は綿密なすり合わせが必要でした。
阿部:はい。丁寧なコミュニケーションで、わずかな齟齬を埋め合わせていきましたね。
今井:結果として、IBMが考える金融機関におけるアジャイル開発と、FFGさんのアジャイル開発を擦り合わせて良いとこ取りできたと思っています。特にFFGさんの持ち味でもあった機動力ーーアジャイルとスクラムがしっかりと機能していますよね。ローンチまでのスピードが格段に早く、ユーザーの反応を見て価値検証を繰り返すことで、マーケットに素早く対応できています。
阿部:私たちは、大規模なプロダクト開発は初めてでしたし、ほかの会社と一緒に開発を進めていく経験がありませんでしたから、独自のやり方を確立していて、それがスタンダードだという認識でいました。IBMさんから意外なところにご指摘・ご質問を受けて戸惑ったところもありましたよ。
今井:今は以前にも増して意思疎通がスムーズになっていると感じます。コミュニケーションの質も高まって、当初の目線合わせから建設的な議論へと発展できています。
さらなるスケールアップに向けてIBMの知見を生かす
今井:BIZSHIPは、迅速な改善とサービスの拡充を重ねたことで、ユーザー数も着実に増えています。ただ、機能の充実や使い勝手のよさを追い求めるとバックエンドが複雑化してトラブルのリスクも高まりがちです。安定さを担保しながら将来の拡充にも耐えうるシステムを築くには、モジュール間のつながりを意識し、万が一不具合が生じたときはすぐに復旧できるように、シンプルな構造で普遍的なつくりが求められますね。
吉富:早かろう悪かろうではお客様の信頼を失ってしまいますから。
今井:そうならないためにも、今後はさらに、IBMがこれまで培ってきた、安定感・安全性を重視した大規模な金融システム開発のノウハウをご提供できるはずです。とはいえ、私たちのやり方をそのまま当てはめてもダメだと思います。FFGの強みである機動力を損なわず、IBMの知見を生かすやり方を、これからも共に編み出していけたら嬉しいです。
阿部:DXのプレゼンスを高めていくには、先見性の高い価値あるプロダクトを出し続ける必要があります。ただ、私たちだけでは、ナレッジや経験値が足りません。これからもIBMさんに伴走してもらいながら、FFGの成長を図りたいですね。
吉富:私自身の故郷でもある九州は、海と山に囲まれた豊かな自然がある一方で、都市機能も充実した個性ある地域です。FFGのDXで九州地域の事業者様をサポートすることは、故郷の発展に直結します。BIZSHIPに留まらず、DXを通じて地域に寄与できれば嬉しいです。
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