S
Smarter Business

SMBCグループのクラウド戦略により誕生した専任組織CCoEの成果とは

post_thumb

※新型コロナウイルスの拡大防止に最大限配慮し、写真撮影時のみマスクを外しています。

秋吉 郁郎氏

秋吉 郁郎氏
株式会社日本総合研究所
ネットワーク・クラウド基盤システム本部
CCoEグループ
次長 

日本総合研究所入社後、主に金融システムの基盤系プロジェクトを担当。2018年よりSMBCグループのCCoEバーチャル組織メンバーとして活動。21年4月に数十名規模のCCoE専任組織を立ち上げ。現在、その専任組織が中心となり、100名規模のメンバーとともにCCoE活動を運営している。SMBCグループのCCoEとしてグループ会社のマルチクラウド利用やハイブリット利用など、さまざまなクラウド活用を支援。

 

古屋 麻美氏

古屋 麻美氏
株式会社日本総合研究所
ネットワーク・クラウド基盤システム本部
CCoEグループ
チーム長

日本総合研究所入社後、金融システムのプロジェクトにて基盤領域全般を担当。2019年からクラウド導入プロジェクトを担当後、2021年4月のCCoE専任組織立上げ時より、クラウド活用企画のリーダーとして運営を開始。利用相談、標準ガイド整備、各種情報発信を通して、SMBCグループ各社のクラウド利活用を支援。

 

濱田 大介

濱田 大介
日本アイ・ビー・エム株式会社
IBMコンサルティング事業本部
金融第三ソリューションデリバリー 第四ソリューション
部長

1999年にIBMへ入社。入社以来SMBCグループの分散系インフラ構築を担当。2011年から5年間日本総研に出向し、お客様と一体となって国内初のIBM製品を活用したプライベートクラウド構築、基盤標準化をリード。IBM帰任後は、メインフレーム担当を経て、2019年よりSMBCグループ担当の基盤統括マネージャーとして着任。オンプレミスで培った幅広いテクニカルスキル、経験、社内外の人脈を活かし、クラウド分野でも日本総研と共創し、最適なインフラ選択を支援。

 

北村 友和

北村 友和
日本アイ・ビー・エム株式会社
IBMコンサルティング事業本部
Hybrid Cloud Services, Modernization CoE(2022年6月時点)

2007年にSMBCグループの分散系インフラ構築へ参画後、多数のシステム構築・保守、共通基盤構築、基盤標準化などを担当。所属を活かし、2018年末からはSMBCグループ/日本総研でのIBM案件のマルチ/ハイブリッドクラウド構築ほぼすべてに横断的に参画し、技術面でリード。並行して2019年中頃にオブザーバーとして参加以降、バーチャル組織時から現在に至るまで広くCCoEを支援。

ビジネス環境が大きく変化して積極的なクラウド活用が求められている中、SMBCグループが、クラウド活用を支援するCloud Center of Excellence (以下、CCoE)を立ち上げた。SMBCグループでは、クラウド・サービスと既存データセンター環境のそれぞれのメリットを活用する「ベストミックスなハイブリッドクラウド活用」を戦略に、組織全体でのクラウド利用を推進している。日本アイ・ビー・エム(以下、IBM)も、CCoEに参加し同グループのクラウド活用を支援している。

クラウド活用の推進にあたって重要な役割を担っているCCoEが設置された日本総合研究所(以下、日本総研)から秋吉郁郎氏と古屋麻美氏、IBMから濱田大介と北村友和が一堂に会し、SMBCグループにおけるCCoEの活動内容、これまでの成果や課題について語った。

SMBCグループにおける「ベストミックスなハイブリッドクラウド活用」を支援するCCoE

ーー金融機関がクラウドを推進するのは、以前は考えにくかったことです。SMBCグループがクラウドを推進する背景について教えてください。

秋吉 SMBCグループは、クラウド・サービスと既存データセンター環境のそれぞれのメリットを活用する「ベストミックスなハイブリッドクラウド活用」を戦略に、組織全体でのクラウド利用を推進しています。クラウドのメリットを享受しやすい領域では積極的な活用を進めます。ビジネス環境の変化や新たな価値の創出に素早く対応するとともに、システム環境のコスト最適化を実現するものです。

一方で、自組織が運営するデータセンターとは異なり、外部データセンターへの通信やデータ保管が必要ですから、以前にはなかったさまざまな懸念が生じます。セキュリティーをはじめとして金融機関が利用するシステムとしての安全性を確保し、クラウド利用ができるものです。

クラウドへの期待とその技術や人材といった観点では、ここ数年で大きく変化していますね。コスト削減や生産性の向上だけでなく、個々の職場での新たな価値実現は、クラウド技術の利用がなくては実現困難なものになってきていると思います。過去には金融機関でのクラウド利用について、そのキーワードだけで否定されることも多くありましたが、現在このようなことはほとんどありません。クラウド活用のメリットや成功事例がグループ各社内でよく知られるようになり、日々ニーズが拡大しています。

ーークラウド活用を支援するCCoEは、それまでバーチャル組織だったのが、2021年4月に実組織になったと伺いました。CCoEの役割や、なぜ実組織になったのかについて教えてください。

秋吉 SMBCグループのCCoEは、クラウド活用戦略のもとで必要な人材や知識、リソースなどを集約して、組織横断的にクラウド活用を支援する役割を担います。

SMBCグループは、銀行、リース、証券、クレジットカード、コンシューマーファイナンス等、幅広い事業を展開する複合金融グループです。グループ各社は、規模や担当分野も異なりますので、クラウドに求める内容にも違いがある場合があります。SMBCグループとして攻めと守りのクラウド活用を実現していくためには、それぞれのクラウド利用をゴールとするのではなく、新たな価値実現のための活用方法や経験をノウハウとして蓄積し、グループ全体に共有していくことが必要です。そこで、グループ全体のクラウド活用を横断的に支援し共通化する機能を担うべく、2021年4月にグループの中核システム会社である日本総合研究所内に専任組織のCCoEが誕生しました。

CCoEの活動は、三井住友フィナンシャルグループのIT企画部と密に連携し戦略とクラウド活用に関わる施策検討と、その実現を目指します。この組織は、私や古屋を含めた十数名の専任担当者と主要なグループ各社の担当者、そして日本総合研究所内の各開発部署から参加があり、全体では100名以上の運営体制にて活動しています。また、IBMをはじめ複数のパートナー各社、各クラウド事業者のみなさまにも協力をいただいています。

クラウド導入支援から共通機能の整備まで、CCoEが担う5つの活動内容

ーーCCoEとして、具体的にどのような活動を展開されているのですか。

古屋 SMBCグループ各社のクラウド活用を支援するため、利用者・開発者への情報発信、QA対応・提案を実施するとともに、セキュリティー・コストをはじめとしたクラウドを利用するにあたって留意すべき事項の統制を、企画・ガイド・実装の3つの観点から実施しています。

活動は大きく5つに分類されます。

1つ目が、各社からクラウドを使いたいという相談を受けた際、手続、セキュリティー、運用、契約などでSMBCグループが求める基準に則り利用するためのガイドを行います。セキュリティーや制約の網羅だけでなく、活用のためのノウハウ共有やシステム・アーキテクチャーの提案を行います。

たとえば、あるSMBCグループの企業が何らかのSaaSを使いたい、何らかのクラウド・サービスを使って業務システムを作りたいとなった時、その企業が満たさなければならない法規制や制約などの基準を検討しながら、どうするのが最善なのかを提案します。

2つ目として、既存案件から得られた知見やSMBCグループが求める基準を遵守した形でクラウド活用するための共通事項を、システム設計や実装観点からガイドとして作成しグループ各社へ還元しています。

3つ目は、共通基盤の実装です。SaaSやPaaSなどを導入するにあたって、金融機関ならではの制約を満たし、既存運用機能をうまく利用するための仕組みの開発と展開を行っています。

4つ目は人材育成です。SMBCグループにてさらなるクラウドの活用を行うために、クラウド技術、開発、管理手法といった知見を共有し育成につなげています。また、各クラウド事業者の資格取得も支援しています。

5つ目はSMBCグループ内外への情報発信です。クラウドに関する仕様変更・障害・セキュリティー情報や利用実績について、日本総研社内やSMBCグループ内に情報発信を行っています。SMBCグループ外向けにも、本ブログをはじめとしまして、クラウド活用の取り組みを発信していきます。

秋吉 クラウド導入効果の一つにコストの最適化があります。単にコストを下げるということだけでなく、ビジネス環境の変化に対して、新たな価値の実現とコストの最適化も合わせて検討する必要がありますね。たとえば、オンプレミス環境の更改検討では、クラウドへのリフト&シフト※1といった検討にて、IaaSへのリフトだけがゴールではなく、新たな価値実現のための更改検討が必要です。戦略的なクラウド活用において重要なポイントです。

※1 企業などの情報システムをクラウドへ移行する際、既存システムをそのままクラウドに持ち込み(リフト)、漸進的にクラウド環境に最適化(シフト)していく方式

クラウド・サービスを大きく分けるとSaaS(Software as a Service)、PaaS(Platform as a Service)、IaaS(Infrastructure as a Service)と区別されますが、オンプレミスにあるサーバーをIaaSにそのまま移しただけではコスト効果は限定的です。業務要件や各種制約の整理を実施し、各クラウド・サービスの利点を活かしたSaaSやPaaSの採用ができたとすると、オンプレミス対比で大幅なコスト効果が見込める場合もあります。このような支援を行う事例も増えてきました。加えて、オンプレミス環境だけでは、実現困難なイノベーションを成功させた事例もあります。

SMBCグループでは、Microsoft、AWS、Google、Salesforce、Oracle、その他事業者が提供するクラウド・サービスのマルチな活用を行っています。幅広い領域とその業務要件の中で、要件を満たすクラウド・サービスの選定や場合によってはオンプレミスとのハイブリット利用など、クラウド活用の効果を見極めた実効性のある支援がCCoEに求められています。

クラウドとデリバリー、マルチな視点を兼ね備えた強みを持つIBMの支援

ーーCCoEにはIBMもパートナーとして参加しています。IBMはどのような役割を果たしているのでしょうか。

秋吉 SMBCグループのCCoEは、複数のパートナー企業に参画いただいています。その中でもIBMは、オンプレミスを含め我々のシステムを数十年にわたりご支援いただいています。我々のクラウド活用にあたって各種基準や既存システムの十分な理解とIBM社内のリソースを活用いただき、特定のクラウド・サービスによらないニュートラルな立ち位置にてマルチクラウド利用の検討や活用の支援をいただいています。

濱田 IBMは、クラウド・サービス(IBM Cloud)、ハードウェア、ソフトウェアといった自社製品を提供していますが、SMBCグループ担当チームとしては、数年前から営業、SEが一体となってマルチクラウド化の推進にいっそう力を入れるようになりました。IBM Cloudは数あるクラウドの選択肢の一つであり、他のクラウド・プラットフォームも幅広く検討し、最適なものを組み合わせてお客様に展開しています。

北村 私の所属する部門は、6年以上前からハイブリッドクラウドやマルチクラウドの活用についてメッセージを発信しており、ハイパースケーラーであるAWS、Microsoft Azure、GCPなどと協業を積極的に進めています。IBMの強みは、お客様の立場になり、エンタープライズ向けの業務システムにおいてクラウドをどのように使うのか、クラウドでどう実装すればユーザーに求められていることを満たせるのかという視点を備えていることです。クラウド・ベンダーとしての視点と、デリバリーを行うパートナーとしての視点の、両方を持って接することができる点も特長となっています。

秋吉 IBMに協力いただいていることの一つに、システム・アーキテクチャーの検討を支援いただくことがあります。SMBCグループのCCoEは、システム開発プロジェクトを担当することはありませんが、システム・アーキテクチャーの検討や設計レビュー、標準化検討など多方面からIBMに協力をいただいています。過去の事例ですが、クラウド・サービスの中でもフルマネージド・サービス※2を活用するほうが「コスト効率を向上できるのではないか」「信頼性が向上するのではないか」といったノウハウ提案をいただき、システム・アーキテクチャーをデザイン、具体化して開発案件を成功に導きました。このようにCCoEの実効力を高め、我々自身の知見も向上するきっかけとなっています。

※2 クラウド業者がクラウド利用者にクラウド・サービスを提供する際のサービス提供形態。利用者がサービスを利用する際に、バックアップ、ソフトウェアのバージョンアップなど、運用に関わる作業をクラウド事業者が行う

古屋 SaaSを最初に検討したうえで、PaaS、IaaSを検討するという指針がクラウド・バイ・デフォルト原則として内閣官房(IT総合戦略室)から公開されています。SaaSの活用ならびに、PaaSにて提供されるサービスを活用することで非機能面での開発・運用コスト(パッチ適用・ウィルス対策などのセキュリティー基準への対応負荷)を削減し、業務開発に集中できるというクラウドのメリットを活かすことができた実案件の知見を、IBMと協業のうえ設計ガイドとしてグループ各社へ展開することができました。

一方で、オンプレミスとは異なり、クラウドでは責任共有モデルと呼ばれるクラウド事業者の責任で担保する範囲とユーザーの責任で担保する範囲がどこまでになるかを、利用者が正しく理解することも重要です。SaaSでは、クラウド事業者側が提供するサービス内容が機能面・非機能面で厳密に定義されており、利用するクラウドによっては、SMBCグループが求める基準と合致しない、もしくはカスタマイズが必要なケースもあります。そのような制約を踏まえて、どういった設定・オプション機能を特定のSaaSで利用すべきかを、日本総研とともにIBMと整理できたことも重要な成果であったと思います。

濱田 SMBCグループのCCoEのコンセプトを受け、IBMがオンプレミス側に共通する連携方式・機能を具現化し、そこからさまざまなクラウドと連携して運用する仕組みの構築をご支援させていただきました。既存のオンプレミスの運用基盤を有効活用することで、監査などの法規制に準拠できるだけでなく、今後オンプレミスからクラウドへの移行のハードルを下げる効果が期待できます。

北村 ハイブリッド構成を含む複数のクラウド・サービスを適材適所に利用するにあたり、どのプラットフォームやサービスの場合でも、ある程度の必要な基準や非機能要件を満たせるようにする横断的で共通性・普遍性のあるアーキテクチャーを作る部分が、SMBCグループのCCoEとの活動での難しいところであり、内容として先進的なところでもあります。

クラウド活用までの期間を短縮する成果が出た一方、「組織横断的な活動」の難しさも実感

ーーCCoEが実組織となって1年が経過しました。見えてきた成果や苦労されていることがあればお聞かせください。

秋吉 SMBCグループのCCoEですが、専任組織となる前の数年間は、バーチャル組織として活動を行っていました。その当時のメンバーは兼務で活動し、ぞれぞれの目的のために集まっていたものです。そのため、クラウド利用を希望する部署の相談に対しては、兼務によるマンパワー不足も影響し、回答までに数週間を要する場合や共通的な知見を提供できずに個別最適な返答に留まることもありました。

現在の組織では蓄積した共通的な事項を展開するとともに、その利用相談完了までの期間は大幅に短縮し数日程度になっています。ビジネス環境の変化に対する迅速な適応へのチャレンジに、CCoEは寄与できているものと思います。また、機能やルールの標準化に加えて、共通機能の開発や利用拡大のための展開を進めています、この点ではガバナンス面での効果が出始めています。

そして、SMBCグループのCCoEをさらに効果的に推進するためにプレゼンスの向上にも取り組んでします。社外活動では対外的なアピールの側面もありますが、自組織を客観的に振り替える機会にもなり多面的な成果を感じています。グループ内では勉強会の開催をはじめとして、各担当者からの事例紹介の場を設け、SMBCグループ全体でのクラウド活用を盛り上げています。効果的なクラウド・サービスの活用方法をはじめとして、大規模障害への備えやセキュリティー面での考慮など関係者の知見を広げる活動を行っています。

一方で、CCoE担当者として各事業領域からの学びも多いですね。クラウド活用を支援するためグループ各社を横断的に活動しますが、各社の知見や経験はとても参考になります。そのまま別な領域に当てはめることができないことも多くありますが、標準化や共通機能を検討する上で大切なノウハウになります。グループ各社の領域やさまざまな制約がある中で、システム化とクラウド利用の在り方を個別に考える必要もあります。そして、できる限りの包括的な利用と共通化を進め、利用効果を高める支援はCCoEとして大きな役割であると考えています。

一致できないところは個別に対応していくことも必要です。そのニーズや制約、予算規模の違いが起因し、包括的なクラウド利用や共通機能の適用ができない場合も想定されます。そのような場合であってもできる限りの共通化と個別最適化について検討することで、さらなる支援につなげています。この点での明確な線引きや効果的な対応については、組織横断的なクラウド活用を考えるうえで整理が必要な事項です。

濱田 根本のキーワードは、企業、システム、セキュリティーなどあらゆる点での横断です。たとえば、セキュリティーに注目すると、金融業界全体としてのFISC安全基準はもちろん、銀行事業では銀行特有の監査基準や、カード事業ではカード業界におけるグローバルのセキュリティー基準であるPCI DSS(Payment Card Industry Data Security Standard)など複数の基準があります。

一方で、それぞれの事業により基準が多少異なっても、遵守しなければならない点は、クラウドでもオンプレミスでも同じであり、特にセキュリティーにおいては、現状ゼロトラスモデルがスタンダードになっています。

古屋 SMBCグループ各社が守る必要のある規制・基準、システムの利用者・提供機能・データの中身によって、求められる非機能要件は変わります。各社それぞれに利用可能なコスト前提があり、セキュリティーはもちろんのこと、可用性、拡張性、運用保守性等の非機能要件を検討することは、オンプレミスでもクラウドにおいても大きく変わりません。基準の理解や利用者へのヒアリングを通して、各案件個別最適で何をすべきか、共通的にどういった観点をSMBCグループに展開すべきかを探ることは非常に難しいですが、やりがいもあります。

濱田 SMBCグループのCCoEは、「この場合はこうするといい」というベストプラクティスを全クラウド共通の部分と、個別プラットフォームごとの部分に分けて定義されており、さらに、グループ内各社の要件に合わせて細かく調整しようとされています。古屋さんがおっしゃるように非常に困難なタスクではありますが、そのチャレンジをIBMがご支援させていただけることに我々も誇りを感じていますし、実現できれば業界のトップランナー事例になるとと思います。

サステナビリティーも含め、多面的な視点の検討がクラウド活用の鍵に

ーーSMBCグループのクラウド活用は、適材適所でクラウドを使うマルチクラウド、およびオンプレミスも含むハイブリッドクラウドを組み合わせていらっしゃいます。CCoEは、クラウド活用をどのように支援しているのでしょうか。

秋吉 特定のクラウド・サービスを押し付けることはありません。クラウド利用に関わるSMBCグループの基準を満たしたサービス選定と、組織全体に関わるガバナンス強化を支援しています。

グループ各社の意向に沿った形で検討が進められるよう、利用部署目線を持つことが大切ですね。

クラウド・サービスの選定にあたっては、品質、コスト、実現までの期間などの観点から、過去事例や関係パートナー、クラウド・サービス事業者からの情報を含め共有し、選定に役立てていただきます。また、クラウド活用の利点を活かしたアーキテクチャー提案を行う場合もあります。

クラウド・サービスの採用や利用フェーズでは、セキュリティー専門部隊と連携した確認やクラウド利用に必要な基準を満たしているかどうかといった審査や点検に関して、利用者側、審査者側それぞれの観点から支援を行います。

新規のシステム化検討の場合では、基本的にクラウドファーストでSaaSやPaaSから検討するようにアドバイスをします。システムの重要性や保持データに関する制約により、クラウド利用が難しい場合もあります。そのような場合は、クラウドを選択することでメリットを享受できる部分の有無を検討し、クラウド利用が見込める場合は、データセンター内のオンプレミスとクラウドとのハイブリッド利用について実現性を確認します。オンプレミスだけでの構築とハイブリッド利用とでのメリット、デメリットの比較検討をコスト面だけでなく明らかにする支援も行っています。

濱田 たとえばSaaSを選択すると、従来型のオンプレミスやIaaSに比べて開発投資コストは劇的に下がりますが、これはSaaSから標準で提供される機能や画面のみを使う場合に最大化されるものです。個別に画面をカスタマイズする、既存システムの機能をすべてSaaSで実現したい/移行したいなど、SaaSの標準機能の利用ありきではなく、お客様の業務要件ありきでスタートすると、そのFit&Gapに多大な時間と労力を取られることとなり、スピーディーかつ簡単に開発できるというSaaSの最大の長所が消えてしまいます。

カスタムの作り込みが必要になる場合は、そのための開発コストとSaaSの利用料金に加えて、そのSaaS独自の言語やお作法に合わせたコストと、IaaSやオンプレミスでオープンかつ使い慣れた言語で開発するコストとで、どちらが安いのか、適切なスキルを持ったエンジニアの人数の確保が可能か、というトータルな比較が今後重要になってきます。

SaaSを使えばコストが下がると決めつけず、社内外の事例情報を収集し、メリット・デメリットをきちんと整理、比較して進める部分は、SMBCグループのCCoEの特徴的な文化であり、先進的なところです。我々としても、しっかりお手伝いしていきたいですね。

北村 投資コストは比較のしやすい観点ですが、維持コストについても考慮しなければなりません。初期に必要なコストが低く済むからとオンプレミス上にシステムを作った場合に、極端な言い方をすれば、環境変化によりそのシステムが最後のオンプレミス・システムになる可能性もあります。短期の視点だけでは選べない部分があるわけです。

短期ではコスト高に見えるが中長期でのコストを考えるとこちらのほうがいい、といった議論がこの先は増えると予想できます。

また、コストの観点だけでなく、サステナビリティーの観点から見ても、本当にその選択がいいことなのかを検討する必要があります。

これからはサステナビリティーの側面も重要になると予想されます。クラウド・ベンダーによるCO2排出量の追跡機能提供も進んできています。CO2排出量の監視などを視野に入れるにあたって、そのような仕組みを自社のデータセンターで全部用意するより、クラウド・ベンダーを活用するほうが、メリットとして大きいといったお話も増えてくるでしょう。

クラウド普及に伴って見えてくるCCoEのこれから

ーーCCoEの活動において、IBMにこれから期待したいことはありますか。

秋吉 IBMだけでなく、参加しているほかのパートナー企業を含めて、クラウドならでは、オンプレミスならではの良いところを把握いただいたうえで、さまざまな観点での提案をこれまで以上にいただきたいと思っています。この1年で、クラウドとオンプレミスの“いいとこ取り”をした共通機能を、我々はグループ各社に提案し構築、展開することができました。このように実効性のある活動を継続的にご支援いただきたいですね。

古屋 IBMからは、クラウドならではの開発や効率化といった目線で助言をいただいており、非常に役立っています。今後として、DevOpsで実現できる開発・運用の効率化や高度化などに期待しています。こういった先進的な知見を、日本総研を通じてSMBCグループ全体に共有することにご支援をいただきたいと思っています。

コストの面でも、グループ全体で削減が求められていることもあり、クラウドで利用可能な先端技術を使うことで得られる効率化により、システムインテグレーションにかかる費用や維持管理のコスト削減についても、ご貢献いただけると大変ありがたいですね。

ーーCCoEにおける今後のビジョンや中長期的な計画について教えてください。

古屋 1点目として、現状の取り組みを継続することがあります。オンプレミスと異なり、クラウドの場合はシステム開発担当が入らずにユーザー部が直接契約・利用しているケースも多いです。初めてクラウドを使うユーザーは多く、個別案件の支援と情報発信のニーズは強い印象を持っています。

2点目は、リフト&シフトなどのベストプラクティスやシステム・アーキテクチャー、先進的なクラウド活用で実現できることの知見が1年間の活動を通して蓄積できたものと考えていますので、今後は、これらをSMBCグループ各社の皆様に実装に踏み込んで還元できるような施策に取り組んでいきたいと考えています。

秋吉 誰もがパソコンを使いこなす時代ですが、クラウドの活用でも単純なワークフローシステムのようなものであれば、SaaSを活用しSIerに頼まなくとも業務担当者だけで業務システムの構築ができるようになってきました。そのコストやスピードに関する効果、新たな価値創出の機会は、計り知れない可能性がありますね。

現在は一部の用途や条件にとどまるものも多いですが、身近なシステムは内製化する時代になっています。グループ各社の担当者が、セキュリティーをはじめとしてクラウド利用に関する共通的な事項を把握し、自身の手でクラウド活用ができる環境とすることもCCoEは目指しています。他方で、過去の資産にも目を向け、それを活かしたクラウド活用が必要です。過去の資産をどのようにリフト&シフトするのかについても、今後さらに重要な要素となりCCoEの存在意義につながる事項と考えています。

北村 CCoEは、クラウドに関するありとあらゆることについて全部アドバイスしますという壮大な取り組みとしてスタートしています。ユーザー企業側が成熟していった際には、クラウド活用を本来統括すべきところに戻し、そこで運用ができるようになるのが理想ですよね。当初は、一旦すべてを集約しなければならないためCCoEが必要でした。今後は、CCoEがより重要なタスクへシフト・注力する形で変化していくと考えるといいかもしれません。