女性のキャリア・アップを会社の最優先事項の1つとしている
ジェンダー・エクイティーの推進は、成功に不可欠です。しかし、コロナ禍以前の取り組みを踏襲しても、企業が目指す姿は実現できないでしょう。
調査から分かったことは、起こった変化の多くが、望ましいものではなかったということだ。ジェンダー格差自体は広く認識されるようになった一方で、上級管理職に就く女性の数は、この2年間ほとんど変わっていない。また、企業が掲げる目標の上位10項目の中に、「女性の登用」を含める企業は4社に1社のみであった。さらに最も懸念されるのが、女性の経営層候補者の人数が2019年よりも減少していることだ。
ジェンダーギャップの解消を妨げる要因は多々あるだろう。しかし、今すぐに行動を起こせば、企業は大胆な躍進を遂げることができるはずだ。ジェンダー・エクイティーやダイバーシティーの推進は、企業の存続にかかわる重大な問題であることを認識しなければならない。女性の活躍の場を広げることは、正しいだけでなく、ビジネスにとっても間違いなく良いことなのである。
女性の登用を積極的に行うジェンダー・インクルーシブな企業は様々なメリットを享受している
収益成長率が、その他の企業を61%も上回っている
60%の企業が、自社は競合他社よりも革新的だと回答した
73%の企業が、業界で最高の顧客満足度を誇ると回答した
こうした事例は、たとえ短期間でも、企業がその気になれば大きな変革を起こすことができることを示している。企業は、ジェンダー・エクイティーの向上や、自社の業績向上のために、このような献身的な取り組みを行っていかなければならない。ただ、成功するためには戦略が必要になるだろう。
- 調査によると、ジェンダー・エクイティーとインクルージョンを推進するための制度・プログラムを実践した企業の数は、 2019 年よりも増加していた。男女を区別しない採用基準や、女性の育児休業制度は、最も多くの企業が導入した施策だった。より多くの企業がジェンダーに関するダイバーシティー研修を必須としている28%in 201952%in 2021しかし、2019年と2021年の両方の調査に参加した企業429社を見てみると、多くの制度・プログラムを実施したからといって、 必ずしも良い結果には結びついていないようだ。つまり、企業の取り組みの多くが、インクルーシブな企業文化の醸成や、ビジネスでの優位性構築に向けたマインドセット変革や行動に繋がっていないのである。例えば、ダイバーシティー研修が増えているにも関わらず、「経営層が率先して性差別的な言動に配慮を見せている」と回答した企業は、 2019年と比較して減少していた。また、「人事評価の高い女性社員と男性社員とが同等に昇進している」と回答した企業の数も減少している。さらに、これらの質問に対し「どちらでもない」と回答した企業の割合が増加した。 これは、最も重要な分野において、男性だけでなく女性の従業員も変化を明確には感じていないことを示す。
“私はすばらしいチームで仕事をしていますが、先日、小さなグループで性差別への対処を提案しました。すると、同僚のある女性が困惑した表情で、『差別ですって?そんなもの、うちのチームにあるの?』と言ったのです。私はその後、自分の 経験を彼女に話したところ、実は彼女も同じ経験をしていたことがわかりました。しかし、彼女はその経験を問題とは捉えられず『そういうもの』と割り切って片付けていたのです”
—Women’s Leadership Jam 参加者
マインドセットはもちろん重要であるが、その変革のためにプログラムを導入しても、十分な効果は得られないようである。調査からは、男性と女性で大きな認識の差異があることがわかった。特にそれは、有望な社員を見つけ、キャリアアップをサポートすべき中間管理職に顕著に見られた。
- 「自社はジェンダー・エクイティーの目標を設定している」と回答した人は半数以下(48%)で、2019 年の調査での66%から低下した。また、調査回答者の過半数(57%)は、「上級管理職がジェンダー・エクイティーに責任を負っている」 と答え、約3分の1(32%)が「わからない」、残り(11%) は「自社ではそのような問題は起きていない」と回答した。「企業は、女性のキャリア・アップをビジネスの優先課題の上位10項目に含めている」と答えた人は4人に1 人しかおらず、これがジェンダー・エクイティーが注目されない主な理由だと言える。一方で、「企業は、『できるときにやればよい』というスタンスをとっている」と回答した人は半数を超えていた(58%)。ジェンダー・エクイティーの目標を設定している企業の数は減っている66%in 201948%in 2021正式なコミットメントとビジョン抜きに、成功への道筋は見えてこない。企業文化を根本から改善するための一貫した戦略がなければ、多くの施策にやみくもに資金を投じる結果になりかねない。責任を曖昧なままにしておくと、ジェンダー・エクイティーとダイバーシティーを向上させる取り組みは、善意だけに支えられた持続力を欠いたものとなり、最終的には膠着状態に陥ってしまうだろう。さらに調査データは、女性も男性も共に、疲労と幻滅を感じ始めていることを示唆している。 2019年の調査では、今後5年間で自社の男女機会平等は大幅に改善されると予想した女性は71%もいた。男性の多く(67%)も同様の予想をしていた。ところがその2年後、各々の比率は女性が62%、男性は60%へと低下してしまった。男女ともに過半数以上は改善の可能性に依然として楽観的ではあるものの、その傾向は減少しつつある。
- 最高レベルのデータを収集し、それを分析し、人材を投入する。こうした取り組み抜きに、主要製品を市場に出そうとする企業はほとんどいないだろう。ところがジェンダーやインクルージョンへの取り組みとなると、従来の常識だけに頼ろうとする企業が少なくない。こうした企業は、「過去に実施したことがある」という実績だけで、無批判にそれが最善であると信じ、別のアプローチを検証することもなく、進む道を決めてしまっている。
“私の知る限り、差別的な行動に対して実際に声をあげた男性は 1 人もいません。私はこれが出来るかが重要だと思うのです。なぜなら、男性の管理職が模範として、積極的に立場の弱い人たちを支援し、周りにも促していかなければ、若い社員はいつまで経っても学べないからです”
—Women’s Leadership Jam 参加者
例えば、多くの企業は、ダイバーシティーに対する社内教育を研修だけで済ませている。しかしハーバード大学の調査によると、こうした研修では、チュートリアルを強制し、 その後はテストで確認するというタイプが主流で、研修の効果はせいぜい1日か2日しか持続しない。なぜなら、社員はテストの正解を容易に推測することができ、表面的な学習で終わってしまうからだ。それよりも効果的なのは、体験型の自主的な制度・プログラムであることが調査から明らかになっている。いずれにしても企業は、試行錯誤と改善を繰り返すことで、 初めて何が効果的であるかを把握することができる。例えば、大学卒業を採用の条件とする慣例に固執する企業は多い。ところがこの採用基準が、求める職域において本当に必要なものなのか、その条件が本来採用すべき候補者を排除する要因となっていないかを確認している企業はほとんどない。
- ジェンダー・エクイティーの実現には、高度な計画性や難しい判断が要求される。もし社内の管理職の構成比を国の人口構成に合わせるなら、今後全ての管理職は、女性や有色人種を採用しないといけないだろうと、ある経営者は語る。これほど大規模な変化を望む企業はほとんどない。また、これほど劇的な変革ではなくても、現職の社員にとっては脅威に感じられるだろう。調査データからは、男性はジェンダー・エクイティー の重要性を理解し、女性の地位向上を概ね支持していることがわかる。例えば、「ジェンダー・インクルージョンは、自社のミッション・ステートメントの 1 つである」と答えた人は半数を超えていた。また男性の40%が、 ジェンダー・インクルーシブな企業は、経営的に成功する確率が高いという見方に同意していた。彼らは、ジェンダー・エクイティーは、社員と企業の双方にとってメリットがあると考えているからである。 しかし一方で、女性の活躍は自分の可能性を阻み、新たな働き方を強制されるものだと考える男性もおり、そうした人は自身の態度や行動をわざわざ変えようとは思わないだろう。女性の管理職が増えない理由を調査したところ、上位の回答には、ポリシーの硬直性に関するものは挙がらず、 その代わり、変化に伴う苦痛や説明責任の欠如を示す回答が多かった。
一歩先を行く先駆的企業
我々が調査において「先駆的企業(First Movers)」と名付けた企業には、いくつかの際立った特徴が見られた。
ジェンダー・インクルージョンが業績向上の原動力であると認識している
ジェンダー・エクイティーの実現を目指して継続的に行動を起こそうとしている
先駆的企業はリーダーシップのジェンダー・バランス均衡がもたらすメリットを十分に享受している
先駆的企業は、他の企業よりも収益成長率が61%も高かった。さらに、この業績はそれを支える社員のマインドも物語っており、先駆的企業の社員は、自分の働く企業の将来性により強い自信を抱いていた。
国際労働機関の調査によると、ジェンダー・インクルーシブな企業は、創造性やイノベーション能力、開放性が、その他の企業を54%上回っている。先駆的企業も同様の効果を報告しており、60%が自社は競合他社よりも革新的だと述べ、その他の企業と比較しても22%高かった。
インクルーシブな企業は、多様な視点を持つことによって、外部の考え方をより取り入れやすくなり、顧客のニーズにも応えやすくなる。こうした外部からの視点の活用は実際に効果を上げており、先駆的企業の約4分の3(73%)が、業界で最高の顧客満足度を実現していると回答した。一方で、その他の企業で同様の回答をした割合は、半数以下(46%)であった。
女性社員の増加や、効果が目に見える制度・プログラムの導入、よりインクルーシブな環境は、社員の幸福度を高めている。先駆的企業の68%が自社の従業員満足度は競合他社を上回ると回答し、64%が社員の定着率が競合他社を上回ると回答した。
今後2、3年で卓越した成果を上げるためには、革新的なマインドセットをもって女性の地位向上に取り組まなくてはならない。
目指す姿を明確かつ具体的な言葉で定義する。「男女格差を解消する」という、聞こえは良いが抽象的な概念から脱却すべきだ。自社にとって、ジェンダーと人種の平等とは何を意味するのか、目指す姿とはどのようなものなのかを明確化した方がよい。
説明責任を果たし、認められても満足せず、歩みを止めてはならない。経営層から現場の責任者まで、すべての管理職に測定可能な目標を設定し、成果を測るため頻繁にトラッキングや報告を行うべきだ。
エンゲージメントのルールを定める。企業はビジネスが懸かっていると、素早く変革が起こる。重要なパートナー企業を再評価し、多様性の欠けるチームとは協働できないことを明確にしておくべきだ。
実践する者には報い、それ以外には一線を画す。多様性がありインクルーシブな職場を作れるようリーダーをエンパワーメントし、それを実行した人を評価する。反対に、ダイバーシティーの欠けたチームは、サポートを得ることが出来ないということも明確にしておく。
飛躍的な効果の得られる解決策を追求する。迅速な行動の必要性や、リソースには限りがあることを認識し、複合的なメリットを生む取り組みを優先的に行うべきだ。
目に見えるかたちでコミットメントを示す。ダイバーシティー・タスクフォースや女性のリーダーシップ・グループの創設は、企業が協調的な変革を真剣に行っていることをを示すのに効果的である。
「市場へのルート」を拡張する。コロナ禍が収束した後も、女性・男性社員が共に、物理的な距離を意識することなくリモートで仕事ができるよう、コラボレーション・ツールや人的支援に資金を投じるべきだ。
採用選考の公正さを徹底する。高度なAIは、ジェンダー、年齢、人種に関する差別的な言葉を検知することができる。これによって求人告知の文面を見直すことで、より広範囲に求人の輪を広げ、有能な人材にアピールすることができる。
小さな行動を積み重ねる。IBM Womenʼs Leadership Jamのある参加者はこう述べている。「効果があると思ったのは、男性が率先して場の雰囲気を作り上げることです。ミーティングでは女性の発言を促し、発言できていない人がいれば、その人に手を差し伸べるのです」
不快感を受け入れる勇気を持つ。パフォーマンスを真に活性化させるには、複雑な問題に対処し、新しいやり方で仕事に取り組むよう従業員に促さなければならない。これは煩雑かつ困難であるため、多くの企業が避けたがる。
- ダイバーシティー・イニシアチブを設ける。通常は人事部門が管理し、インクルージョンや昇進に関して目標を設定する
- ジェンダー・パリティーを最優先課題に格上げし、四半期ごとに取締役会へ報告、公開する。経営幹部が説明責任を負う
- 目に見えるコミットメントとして思い切った全社的取り組みを行う
- デジタル・ダッシュボードを導入し、マネージメントの可視化や、早期介入を可能にする
- 基本
- ダイバーシティー・イニシアチブを設ける。通常は人事部門が管理し、インクルージョンや昇進に関して目標を設定する
飛躍的な変革- ジェンダー・パリティーを最優先課題に格上げし、四半期ごとに取締役会へ報告、公開する。経営幹部が説明責任を負う
- 目に見えるコミットメントとして思い切った全社的取り組みを行う
成功への鍵- デジタル・ダッシュボードを導入し、マネージメントの可視化や、早期介入を可能にする
- 基本
- メンターシップ、アフィニティー・グループ、無意識のバイアスについての研修など、必要不可欠なイニシアチブの実施
- 国際女性デーやジューンティーンス(奴隷解放を祝う日)など、重要な記念日を祝う全社的なイベントの実施
- 制度・プログラムの効果を測定し、将来をデザインする、定期的な従業員へのパルスサーベイの実施
飛躍的な変革- 最優先のニーズに重点を置いた成果志向のイニシアチブの実施。例えば、SOARは、有色人種を含む女性にメンタリングやリーダーシップ・スキルのトレーニングを提供している
- アウトリーチの実施。従来の常識を覆し、新しい視点と文化的適応を育てるリバース・メンタリングなど
成功への鍵- データやテスト、アジャイル開発を利用したデザイン思考の原則
- 迅速なプロトタイプの作成
- 試行と学習の継続的なサイクル
- 機械学習による、自動フィードバック・ループ
- 基本
- 特定の社会的弱者に合わせた採用・雇用維持計画
飛躍的な変革- 個人に合わせた「全人的」アプローチ
- 柔軟な就労形態や、育児・介護のリソース支援などを組み入れた複層的なサポート
- パーソナライズされた能力開発計画
成功への鍵- 採用や業績考課におけるバイアスを減らすAIイネーブラー
- バイアスを取り除くためにユーザーの意見を組み入れた、AIによるパーソナライゼーション技術
- 人間の身体や心理の状態に反応して動作する、いわゆる「共感テクノロジー」やデジタルナッジなどの採用。例えば、リマインダー機能や、プッシュ通知、SMS、Eメールなど
- 基本
- Zoom、Slack、Trelloをはじめとするバーチャル・コラボレーション・ツールへの簡単なアクセス
飛躍的な変革- Zoomや、バーチャル・ウォー・ルーム、バーチャル・アジャイル・チームなどで構成されるバーチャル・ エコシステム
- 研修やプロジェクトへの参加をオープンにする。例えば、拡張現実ソリューションを使って、専門家が行うリモート・セッションへのアクセスを可能にする