データをビジネス・プロセスや意思決定に取り入れることで、環境面での成果の向上も期待できる。
サステナブルな環境を目指す取り組みは、すでに企業の社会的責任(CSR)の範疇を越えており、もはやビジネスを行う上での必須条件になっている。環境問題はあらゆる産業に属する企業にとって、戦略やオペレーションのリスクにもなり、機会にもなる。実際、環境に関する組織の戦略は、より広範なサステナビリティーに関する課題の一部として、今日の競争市場において企業の将来性を左右する重要な課題となりつつある。
世界経済フォーラムが発表した「グローバルリスク報告書2020年度版」によると、ビジネス上のリスクのトップ5は、異常気象や気候変動の対策の失敗など、環境問題に関連するものだった。 したがって、投資家や財務部門のマネージャーたちが、投資判断にサステナビリテイー基準を取り入れるようになったのは当然のことだ。2020年初頭、世界最大の資産運用会社であるBlackrock社は、「サステナビリティーを新たな投資基準とする」と発表した。顧客や従業員の間でも、環境への意識は格段に高まっている。IBMが最近実施した調査において、80%近くの消費者がサステナビリティーは重要だと答えている。また、60%は環境への悪影響を減らすためなら購買習慣を積極的に変えたいと回答している。
こうした諸所の要因が、企業に新たなアジェンダの作成を促している。すでに現在、経営層の62%がサステナビリティー戦略を「必須要素」と捉えるようになっている。さらに22%が、この戦略が将来、必要になると考えている。このように、環境問題は喫緊の課題として、取締役会や実務管理者レベルの会議で中心の議題となっている。
環境アジェンダ:あらゆる課題が、ここに集約される
口で言うのと、実際の成果として成すのは別の話である。しかしデジタル・トランスフォーメーションを使えば、現実にできるかもしれない。今の我々には、人工知能(AI)、5G、モノのインターネット(IoT)、クラウド、ブロックチェーンなど、前世代には手に入らなかった強力なテクノロジーを手にしているからだ。これらのテクノロジーを駆使すれば、以下の3つの方法でプロセスを加速させることが可能だ。それは、 データを収集、活用し、課題を見つけ、斬新なソリューションを見いだすこと。2つ目は、 商習慣を抜本的に変え、「サステナブル企業」に生まれ変わること。そして最後は、 公共、民間、および非営利セクターが共同で、新しいタイプのガバナンス・モデルを構築し、環境問題に取り組むことだ。
インサイトをもたらし、変革を加速するデータ
組織が運営を改善し、商習慣を刷新しようとするとき、裏付けとなるのがデータや情報だ。データや情報は消費者や企業、投資家、政府の透明性を高め、購買、販売、輸送、消費、統治のあり方にインサイトを与える。ひいては経済のあり方そのものに、変革をもたらす。データをビジネス・プロセスや意思決定に取り入れることで、さらには環境成果の向上も期待できる。
エクスポネンシャル・テクノロジーは、喫緊の課題である環境問題に、データや洞察をもたらすが、同時に企業経営やビジネスモデルそのものを作り変えようとしている。企業はただ単にデジタル化しているわけではない。積極的にエクスポネンシャル・テクノロジーを、その中でも特にAIをビジネス・プラットフォームに導入し、競争力の強化や外部との連携に活かそうと努めているのだ。経営力の改善のためには、インテリジェント・ワークフローの構築が必須であり、従業員の教育・育成、組織の顧客体験の向上にも、また有効であると期待されている。
さらに、デジタル技術は、変化とイノベーションを促す市場ベースのメカニズムを生み出した。デジタル技術は、従来の政府による規制や介入では不可能だったスピード感とスケール感をもって、参加者を行動に駆り立てる原動力となる。それはモニタリング、認証、レポーティングなどに利用される、なくてはならない技術であり、その用途はさらに広がりを見せている。例えば新興技術であるブロックチェーンは、気候市場(Climate Market)といった新たなマーケットにおいて、データの共有や、トランザクションの管理で大いに利用されるようになった。世界銀行は「2020年以降の気候市場(Climate Market)ビジネスにとって、ブロックチェーン、ビッグ・データ、IoT、スマート・コントラクトなどの革新テクノロジーは必須となるだろう」と最新レポートで、デジタル技術の可能性を訴えている。
エクスポネンシャル・テクノロジーと環境のサステナビリティー
環境のサステナビリティーを実現するには、ビジネスモデルの変革と新しい環境ガバナンスの合体が必要になる。その橋渡しをするのがデジタル技術であり、これによりイノベーションは前進し、エコシステム内の関係性は進化する。
著者について
Jacob Dencik, Ph.D, Chief Economist and Global Sustainability Research Leader, IBM Institute for Business ValueScott Fulton, J.D., President, Environmental Law Institute
Wayne S. Balta, Vice President, Corporate Environmental Affairs, Product Safety and Chief Sustainability Officer
Daniel C. Esty, J.D., Hillhouse Professor Environmental Law and Policy, Yale University
発行日 2021年4月2日