ホーム量子コンピューティング

量子コンピューティングの活用に向けた布石:製造業におけるユース・ケース探索

重要ポイント
計り知れない可能性
量子コンピューティングは、製造業に破壊的変化を引き起こし、そのあり方を根本から変えてしまうような、画期的な製品やサービスの開発に貢献することが期待されている。
有望なビジネス領域
製造業では、主に材料開発、製品設計、製造プロセス、サプライチェーンなどの領域において、量子コンピューティングによる破壊的イノベーションが起こる可能性がある。
価値を享受し得るプレイヤー
量子コンピューティングのアーリー・アダプターこそが他社の追随を許さない強固で優位な立場を確立する機会を得る。

量子コンピューティングは、製造業を再定義する可能性を秘めている

レポートをダウンロードする

計り知れない可能性

量子コンピューティングは、製造業に破壊的変化を引き起こし、そのあり方を根本から変えてしまうような、画期的な製品やサービスの開発に貢献することが期待されている。

有望なビジネス領域

製造業では、主に材料開発、製品設計、製造プロセス、サプライチェーンなどの領域において、量子コンピューティングによる破壊的イノベーションが起こる可能性がある。

価値を享受し得るプレイヤー

量子コンピューティングのアーリー・アダプターこそが他社の追随を許さない強固で優位な立場を確立する機会を得る。


このレポートをブックマークする


重要ポイント
計り知れない可能性
量子コンピューティングは、製造業に破壊的変化を引き起こし、そのあり方を根本から変えてしまうような、画期的な製品やサービスの開発に貢献することが期待されている。
有望なビジネス領域
製造業では、主に材料開発、製品設計、製造プロセス、サプライチェーンなどの領域において、量子コンピューティングによる破壊的イノベーションが起こる可能性がある。
価値を享受し得るプレイヤー
量子コンピューティングのアーリー・アダプターこそが他社の追随を許さない強固で優位な立場を確立する機会を得る。
製造業における量子コンピューティングの潜在的ユース・ケースの分類
ここでは、材料開発、設計、製造プロセス、サプライチェーンの4つのカテゴリーごとに、製造業で想定されるユース・ケースを検討する。
材料開発
現在の古典コンピューターでは、中規模の分子モデリングでさえ、化学的に完全な精度で行うのは至難の業だと言われている。量子コンピューティングは、その膨大な状態空間を活用した、非常に複雑な分子の包括的なモデリングが可能であり、材料開発に劇的なメリットをもたらす可能性がある。
275個の量子ビットで構築された量子コンピューターが表現できる計算状態は、宇宙に存在する原子の数よりも多い。
現在、世の中には約 1,500万の既知の化学構造データ 30万の原料 が存在する。また、今後発見が見込まれる有益な物質も数多い。自然界は、工業製造プロセスでは完全に再現することのできていない、驚くべき特性を持った素材を日々生み出し続けている。例えば、クモの糸の重量比強度は鉄鋼よりも高いが、高熱な加熱炉ではなく、クモ自身の体温の下で生成されている。また、その生産過程で生成される副産物は水のみである。 クモの糸はDNAによって合成されるタンパク質であるが 、量子コンピューティングの卓越した素粒子レベルでのモデリング能力を活用すれば、人はいつの日か、類似したもしくはさらに優れた素材を、環境に優しい方法で製造できるようになるかもしれない。
製造業の領域において、期待される量子コンピューティングの機能が実現した場合、自動車、航空宇宙、エレクトロニクスの各業界は、次のようなメリットを享受できる可能性がある。
— 高い重量比強度を持った素材の開発
— エネルギー密度の高いバッテリーの開発
— エネルギー生成と二酸化炭素回収に役立つ高効率な合成・触媒プロセスの実現
設計
現在、多くの製品で、コンピューターによるシミュレーションを利用した設計と検査が行われている。自動車および航空宇宙業界で使われる各部品は、それぞれが設計時に安全マージンをもって3Dモデル化される。この各部品の安全マージンが累積することにより、製品が過剰設計や過剰荷重に陥ったり、必要以上に高コストに陥ったりすることで、競争力を失ったり、商用利用に至らなかったりすることがある。
しかし、将来の量子コンピューターでは、複雑なハードウェア・システム内の各部品の相互作用をシミュレーションできるようになると期待されている。そのため、システム負荷、荷重経路、ノイズ、振動などをより正確かつ包括的に計算できるようになることで、システム全体の性能を踏まえた個々の部品の 最適設計、安全マージンの低減、システム全体のパフォーマンスを犠牲にしない形でのコスト改善などが可能になると考えられる。
ビットと量子ビット
古典コンピューターでは、ビットが情報の基本単位であり、取り得る状態は「0」または「1」の2つのみである。これに対し、量子情報の基本単位は量子ビットであり、量子ビットは「0」と「1」を「重ね合わせた」状態にできるため、古典ビットよりも多くの情報を表すことができる。さらに量子コンピューティングでは、対になる量子ビット同士が強い相関関係を示す「もつれ」の性質を利用することで、膨大な状態空間を作り出すことができる。
製造プロセス
製造業における最新の製造プロセス、とりわけ機械学習を利用した多変量解析を行うケースにおいては、アナリティクスの限界が露呈しつつある。
一方、量子コンピューティングでは、古典コンピューターの性能では実現できなかった、データ内の新たな相関関係の特定やパターン認識の強化、分類の高度化を実現できる可能性がある。量子コンピューティングを機械学習と組み合わせたり、最適化に適用したりすることは、製造業の各分野に以下のような好影響をもたらすものと予想されている。
– 半導体チップの製造においては、すでに機械学習と単純な多変量解析が行われている。しかし、古典コンピューターでは計算処理上超えられない限界が存在し、より複雑な解析に必要な要因の数をそれ以上増やすことができない。量子コンピューティングなら、より多くの相互作用的な要因やプロセスを解析し、歩留まりの向上につなげられる可能性がある。
– 自動車などの構成が複雑な製品の場合、生産フローやロボットのスケジューリングは非常に複雑であり、かつシミュレーションや最適化には膨大な計算量を要する。量子コンピューティングでは、最適化処理を加速させることで、生産プロセスの最適化を“動的に”実現できる可能性がある。
– 製品機能をソフトウェアにより定義するSoftware-Definedの傾向が一層強まるにつれ、ソフトウェア開発における品質管理は、精緻なソフトウェア検査・検証、欠陥・障害分析にますます依存するようになる。最新のハイエンド車で使用されるコードの量は1億行にも及び、これは最新の民間旅客機よりも多い。将来の量子コンピューターは、現在の古典コンピューターでは評価しきれない、極めて複雑なソフトウェア・システムを分析することが可能になるだろう。
サプライチェーン
サプライチェーンは、「イベント(事象)に基づき離散的・連続的にプロセスが決定される線形モデル」から、「リアルタイムに変化する市場需要や主要部品の供給情報に基づく応答型モデル」へと移行しつつある。量子コンピューティングをインダストリー4.0のデジタル・サプライチェーンのツール・ボックスに追加すれば、意思決定のスピードの加速やリスク管理の強化により、運用コストを削減できる上に、在庫切れや生産中止による販売機会の損失をも削減できる可能性がある。量子コンピューティングは、ベンダーの注文に合わせてサプライチェーンを動的に再設計したり、変化する市場需要に基づく遅滞のない意思決定により物流網を動的に構築することで、競争優位につながる俊敏性を強化しつつ、長期的にはサプライチェーンを全面的に変革する可能性がある。
1,125兆通りを瞬時に計算
現在の最大規模の量子コンピューターは約50量子ビットで構成され、約2^50の計算状態を表現することができる。「2の50乗」とは、1,125,899,906,842,624の状態空間に相当する。この量子コンピューターは、最大規模の古典スーパー・コンピューターと比べても、大きな解空間を利用できる可能性がある。
より良いものを、より早く、より安全に
今や量子コンピューティングは、製造業の企業にとって重要な変革の手段の1つとなった。量子コンピューティングは、設計・開発、製造プロセス、サプライチェーンなど、製品に関わるすべての活動に影響を及ぼすと想定される。そのため、今他社に先駆けて採用しているアーリー・アダプターは、圧倒的な優位性を手に入れる可能性がある。
製造業の企業には、まず以下の手順から始めることを推奨したい。
1. 自社において卓越したスキルを持つプロフェッショナルの中から数名を量子推進担当者に選定し、自社の属する業界における量子コンピューティング導入の可能性を検討するよう促す。量子推進担当者は、この優先度の高い問題に専念できるよう、経営企画部門や事業部門の経営層がメンバーとなる量子ステアリング・コミッティーの直属とし、定期的に報告させる。
2. 量子推進担当者は、量子コンピューティングがどのように 機能し、自社が属する業界におけるビジネス上の課題や機会にどのように対処できるかを理解する。その上で、量子コンピューティングによって競合他社を大きくリードできる領域を見極め、具体的なユース・ケースを特定する。
3. 実際の量子コンピューター(実機)を用いて、量子コンピューティングによってどのようにビジネス課題を解決できるか、また既存のツールとどのように連携可能かを検証する。量子ソリューションがすべてのビジネス課題に適するとは限らない。量子推進担当者はビジネス戦略、関連する顧客価値提案、将来の成長計画を考慮の上、ビジネス上の優位性が見込まれる確度に応じて、量子コンピューティングのユース・ケースに優先順位をつける。そして、量子アプリケーション開発の進捗状況を注視しながら、ユース・ケースの商用利用を早期化できる先駆者としての地位を築く。
4. 量子コンピューティングの導入に向けたロードマップを作成する。その際、自社と志を同じくする研究所や学術機関、量子技術プロバイダー、量子アプリケーション開発者やプログラマー、サポートする技術を持つ新興企業によって形成されつつある新たな量子エコシステムとの協業を検討する。特に、自社と同様の課題を抱えている企業も含めるとよい。なぜなら、自社のビジネス・ニーズに合った量子アルゴリズムの開発・実行が可能な量子コンピューティングのシステム・スタック(量子コンピューティングの活用に必要な構成要素)に、即時にアクセスできる可能性があるからだ。
5. 量子コンピューティングの未来について豊かな発想を持ち、変化に柔軟に適応していく。その際、量子技術の飛躍的進歩や自社の量子コンピューティングに対するニーズの変化に留意して、状況によってはエコシステム・パートナーを変更することも想定しておく。