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物流業界での量子コンピューティングの可能性

物流はかつてないほど複雑化しています。量子コンピューティングは複雑な問題を解決するために開発されました

この数年の間、サプライチェーンや物流の専門家は、ぎりぎりの対応を迫られる状況が続いています。労働力不足、異常気象、パンデミックによる需給の変化などにより不確実性が増大し、物流の世界は急激に複雑化しています。

こうした複雑性を解消するには、より広い視野をもつことが必要になります。部門や企業単位で局所的に対応しているだけでは、サプライチェーンや物流の問題を解決することは困難です。今、業界に求められているのは、エコシステム全体の複雑性を考慮したサプライチェーンの最適化です。言うなれば、量子物流が求められているのです。

量子コンピューティングを利用すれば、サプライチェーンや物流が長年抱えてきた問題を解決できるかもしれません。

しかし、これほどの広範なエコシステムの複雑性を考慮すると、古典コンピューティングに頼った現在の最適化ソリューションでは不十分であり、パートナーや政府、事業者までをも巻き込んだリアルタイムの調整が不可欠になります。

しかし、量子コンピューティング技術がさらなる発展を遂げることで、現在の状況を一変させることができる可能性を秘めています。輸送事業者、規制当局、顧客企業がそれぞれの知見をより効果的に共有し、運用上の意思決定を最適に行うために協力できるようになれば、量子コンピューティング技術は、シームレスなサービスを提供することで、物流業界のサプライチェーンにとどまらず、社会全体により良い成果をもたらす可能性を秘めています。

ここでは、以下の3つのユースケースを取り上げます。

1. 量子アルゴリズムをラスト・マイル配送に適用することで、現状を劇的に変革できる可能性がある。

世界規模での輸送経路の最適化や、頻繁にルート調整を繰り返すことで、量子コンピューターは顧客満足度を向上させ、依頼主から配送先までの全輸送コストを大幅に削減することができます。IBM は商用車メーカー数社と協力し、古典コンピューティングに量子コンピューティングを組み合わせることで、ニューヨーク市内にある1,200 カ所への配送をいかに最適化できるかを世間に示しました。配達経路を最適化することで、30 分以内の配達時間制限を考慮しながら、トラックの積載量を厳守し、配達にかかる総コストの削減を実現したのです。

2. 量子技術を物流の混乱管理に活用することで、不確実性を予測可能にする。

古典的なシステムは主に、あらかじめ決められたルール・ベースで動き、手作業とアドホックなプロセスから構成されます。サイロ型で順次処理的であるため限られたインサイト(洞察)しか得られず、復旧に必要な意思決定に活用すると不備をもたらす懸念があります。

量子コンピューティングを活用すれば、混乱のシナリオに関するシミュレーションをより多く実施したり、物流網に与えるさまざまな影響を定量評価したりすることができ、意思決定の質を高めることが可能となります。量子コンピューターを用いてリスクや影響を分析すれば、仮説を立てて検証する「What If」シミュレーションのシナリオ数を減らせることができるでしょう。 これにより、復旧時間の短縮やコスト削減を実現し、オペレーションや顧客サービスへの悪影響を軽減することが可能になります。さらに、量子機械学習を使って混乱事象をより正確に分類・予測することができるかもしれません。

3. 量子コンピューティングは、持続可能な海上輸送を飛躍的に前進させる。

海運業務に関連する最適化問題は、現在の古典コンピューターでは正確な解を得られないことが多々あります。船団が大規模であったり、天候不順や需要変動など不測の事態が絡んだりするためです。

ExxonMobil社は、古典コンピューティングと量子コンピューティングの技術を融合させて用いることで、液化天然ガス(LNG)の輸送といった巨大で複雑、さらには喫緊性が求められるグローバルな課題にいかに対処できるかを模索しています。IBM Research とExxonMobil Corporate Strategy Research は協力し合いながら、量子デバイスを用いて海上の在庫配送経路をモデル化し、輸送手段と在庫配送経路に関する各種戦略の優位性とトレードオフを分析し、輸送オペレーションに実用的ソリューションを組み込むための基盤を構築しました。

明日の物流を、今日計画する

量子コンピューティングの革新的な能力から最大の恩恵を受ける分野の1 つと考えられるのが、輸送と物流です。企業が量子コンピューティングについて調査を始めてから、実際の導入に取り掛かるまでには数年かかることが普通です。

周囲の取り組みの様子を見ている間に、混乱により淘汰(とうた)されるか、創造的破壊者となって君臨するかの分水嶺(れい)を通り過ぎてしまうでしょう。だからこそ、できるだけ早く量子コンピューティングへの準備に取り掛からなくてはならないのです。

具体的な取り組みについては、レポートをダウンロードしてお読みください。

 

監訳者

櫻井亮
IBM コンサルティング事業本部
戦略コンサルティング
シニア・コンサルタント

 


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著者について

Dr. Imed Othmani

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, Industry Partner, Quantum Industry & Technical Services Systems, IBM Quantum


Dr. Mariana LaDue

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, Industry Quantum Consultant, Travel and Transportation, IBM Quantum


Dr. Martin Mevissen

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, Senior Research Manager, AI & Quantum, IBM Quantum

発行日 2022年8月21日