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ライフサイエンス分野での量子コンピューティングのユースケースの探求

ライフサイエンス分野では、量子コンピューティングが持つ、未来の革新的な演算能力の活用が期待できる

周知の事実ではあるが、量子コンピューターは、古典コンピューターよりも効率的な処理ができる。量子コンピューターは、それほど重要な事業インパクトをもたらすのか? また、そもそもなぜ量子コンピューターのような先進的なコンピューターが必要なのか?

ライフサイエンスにおける主要な課題には、遺伝子配列、遺伝子構造、遺伝子機能間の関係性と、生体高分子間および生体高分子もしくは低分子(元来体内に存在するタンパク質や医薬品に含まれる成分など)間の相互作用メカニズムの解明がある。これらの問題は複雑な計算を必要とし、ゲノム解析、医薬品設計、タンパク質立体構造予測の中核を為すテーマである。

医薬品設計を例に挙げる。例えば、たった10種類の原子を50個組み合わせて構成される分子は、およそ10⁵⁰通りとなる。さらに室温で採取可能な膨大な数の分子の立体配置と立体配座を加えると、医薬品の有効な構成要素となりうる分子の総数は、観測可能な宇宙に存在する原子の数である約10⁸⁰個を上回る。これほど複雑な世界に対応するには、古典コンピューターの演算能力ではとても及ばないが、量子コンピューターであれば可能になるかもしれない。

有名な物理学者Richard Feynmanは1980年代に「自然界のシミュレーションを行おうとするなら、量子力学的に行った方がよいだろう」と提案した。つまり、注目すべきは量子コンピューティングのスピードだけではなく、量子コンピューティングがそれぞれの問題に古典コンピューターとは異なる方法で取り組み、すべてではないにしろ、不可能と思われることを可能にすることだ。

こうした状況・背景に基づき、業界の垣根を越えた、量子コンピューティングの活用レースが今始まっている。5年以内には、かつては解決不可能と考えられていた問題を解決するために、新しい分野の専門家や開発者によって量子コンピューティングが広く利用されるようになる可能性がある。ライフサイエンス業界では、既存の常識を打ち破るようなさまざまなユースケースが、量子コンピューティングにより可能になると期待されている。そうしたユースケースには、次のようなものがある。

1. ゲノムとアウトカム(治療/予防などの医学的介入から得られる成果)の結び付けによる個別化医療の実現

2. 低分子創薬の効率を高めることによる患者の転帰(アウトカム)の改善

3. タンパク質立体構造予測に基づく新たな生物学的製剤


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著者について

Veena Pureswaran

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, Research Director, Quantum Computing and Emerging Technologies, IBM Institute for Business Value


Heather Fraser

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, Global Lead for Healthcare and Life Sciences, IBM Institute for Business Value


Dr. Frederik Flöther

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, Global Life Sciences Leader, IBM Q Consulting


Dr. Ivano Tavernelli

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, Global Leader, Advanced Algorithms for Quantum Simulations, IBM Research


Christopher Moose

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, Partner, Life Sciences and Healthcare, IBM Consulting

発行日 2020年11月2日

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