プラットフォーム経済における銀行業

多くの銀行業務は、過去1,000 年間にわたってほとんど変化していない。そろばんや羊皮紙がコンピューターへと姿を変えたとはいえ、銀行業の根底にある原則は、驚くほど一貫している。しかし、1,000年の間変わらなかったものが、今や、急速に変化している。そして従来型の産業は、つい10年ほど前でさえも考えられなかったような方法で、相互に作用し合っている。

金融サービスは、他の分野や業界のサービスや商品に入り込み、時としてほとんど目に見えない形で、銀行以外のビジネス・プロセスに組み込まれる。多くの場合、プラットフォームとネットワーク経済に基づくダイナミックな新しいビジネスモデルによって支えられ、新しいタイプのエコシステムを生み出す。

変化を続けるビジネスの姿

プラットフォーム・ビジネスモデルが普及し、プラットフォーム経済が拡大し続ける中、新しいビジネス上の常識が生まれつつある。消費者は革新的な方法で、多くの事業社からアプローチを受け、関係を築くようになった。電話は、顧客が医療相談を行うチャネルになりつつある。小売業者は決済システムを取り仕切り、ソーシャルメディア・ビジネスは、新しい形の通貨をいち早く構築している。

ほぼすべてのセクターの企業が顧客との関係を巡って競っている。自社商品を提供するだけではなく、自社の主要顧客との接触を図る他の企業にとっての入り口にもなりたいと考えているのである。先進的な企業は、特定の商品やサービスのキュレーターになると同時に、顧客体験のキュレーターにもなることを目指している。

しかし、多くの企業にとって顧客と深い関わりを持つことは簡単ではない。ただ、予想に反するかもしれないが、他業界とは異なり、銀行は顧客との関係を確立して維持する上で、極めて優位な立場にある。

 

信頼というアドバンテージ

銀行には、大半の企業にはない重要な利点がある。IBVの調査からは、人々が、自分の個人情報を銀行と共有しても構わないと考え、銀行はデータを安全に保ち倫理的に利用すると信じていることが明らかになった。

最近のIBM Institute for Business Value 調査によれば、調査回答者の 68% 以上が、銀行や他金融機関と個人情報やデータを共有しても構わないと回答している。この割合は、消費者が取引を行う他業界の企業と比較しても、はるかに高い。

また、銀行との個人情報共有だけでなく、データの保護についても、銀行や他の金融サービス提供企業を信用している人が非常に多いことがわかった。銀行と個人情報を共有している人のほぼ91%が、自分の銀行は個人情報やデータを少なくともある程度は保護していると信じていた。この割合が銀行を上回るのは、自分の雇用主のみである。

 

混乱の中に生まれる機会

銀行業界は今どこに向かっているのか、業界の収斂と競争にさらされる新たな環境下で今後どのように成長していくのか、について理解を深めるため、すべての主要地域における銀行・金融機関の幹部850人を対象に調査を行った。その結果、銀行・金融機関の経営幹部は、プラットフォーム・ビジネスとそれを支えるエコシステムが、金融業界に大きな変革をもたらしていると認識していた。

銀行関係者は、混乱がリスクとチャンスの双方を生み出すと認識している。そして、プラットフォーム・ビジネスが、顧客にも銀行自体にも、大きなメリットをもたらすと考えている。さらに、業界の垣根を越えたプラットフォームは、金融業界や自社にとって、ますます重要なインフラになると予測している。

 

未来の銀行業務

銀行業以外の業界においても、プラットフォーム・ビジネスの活用の機会が増えていることは間違いない。そのため銀行は、自分自身を知り、自らが持つ利点を認識し、中核となるビジネス領域を大幅に拡大する必要がある。

将来における銀行と顧客との関係は、より深く、よりインタラクティブになると見込まれる。しかし、そこに到達するためには、リソース、ビジネス・プロセス、テクノロジーを組み合わせた新たな価値創出だけでなく、ビジネスモデルおよび運営モデルの根本的な変革が必要とされている。

新しい業界横断プラットフォーム・ビジネスモデルの時代で成功を勝ち取るには、銀行はどのようにビジネス手法を再構築すればよいのだろうか。