AI：石油・ガス産業のバリュー・チェーンで求められる技術

石油・ガス業界は、新型コロナウイルス感染症の世界的流行の中、想像を絶する困難に直面している。需要は低迷しているにもかかわらず、生産量の調整は難航し、結果として原油の価格は急落した。この業界は、今まで何度も厳しい境遇を乗り越えてきたが、現状は生易しいものではない。新たな市場の現状に立ち向かうには、より迅速で柔軟な対応が、今まで以上に求められている。

現在は供給が過剰であり、世界全体でおよそ70 億バレルの貯蔵能力をほぼ使い切ってしまっている。タンカーは輸送手段ではなく、貯蔵施設として使われている始末だ。資源業界の弱者である下請けは、もろに影響を受けている。契約の打ち切り、プロジェクトの延期、操業の縮小化、単価切り下げなどに迫られているのだ。この事態はあまりに深刻であり、必要な生産量の削減幅はあまりに過大だ。そのため、従前には不可能と思われていた国家間のアライアンスや、協定締結が進み、政治的判断の契機とさえなっている。

事業者は成長よりもリターンを重視し、その結果、固定費など相対的費用の少ない案件にはプレミアムが付いている。

コロナ禍と長期的なエネルギー需要の減衰が重なり、長期的な供給過剰のトレンドが生まれつつある。事業者は成長よりもリターンを重視し、その結果、固定費など相対的費用の少ない案件にはプレミアムが付いている。

前例のない規模の投資、および経費の削減を実現するためには、積極的なスケジュールで構造改革を行うことが必要であると、約半数の事業者が考えている。例えば、エクソンモービル社は2020年、設備投資を100億ドル（30%）、営業費用を15%削減した。

新たな現実におけるAIの重要性

石油・ガス業界は、この異常とも言える新たな環境下の中で、新しい発想をもって迅速にデジタル化を遂行しなくてはならない。そのデジタル化のカギを握るのは、AI（人工知能）だ。

石油・ガス業界のAI導入の取り組みに関して、IBM Institute for Business Value（IBV）はオックスフォード・エコノミクス社と共同で、世界18カ国の企業経営層400名に対し、調査を行った。

調査によると、回答者の56%が、AIは今日の企業の成功にとって重要であると考えていた。そしてこの割合は、３年後に84%にも高まると予想される。

過去1年間に行ったAIへの投資のROIは平均32%になる。

すでにAIへの投資は成功を収めている。過去1年間のAIへの投資において、ROIは平均32%にもなるのだ。これにより、支出は3%減り、売上も3%増加した。これを売上高100億ドル、利益率10%の企業で概算すれば、年間で5億7千万ドルも利益が増加したことになる。またAIにより、新たな製品やサービスの開発にかかる期間を31日間短縮した。

AI導入に成功した企業は何をしたか

企業がAI活用に向けた具体的な戦略を特定できるよう、IBVでは調査回答を分析し、調査サンプルの24%からなる石油・ガス業界の「AI導入に成功した企業」を特定した。これらの企業の経営層は、自社について、明確なAI戦略を有し、AIの機能を十分に理解していると自認していた。

AI導入に成功した企業は、AIを積極的に活用することで、その他の企業群よりも多くの価値を創造することに成功している。これら成功企業の4分の3近くが、過去3年間でAIの活用により、期待を上回る価値を創出したと回答している。一方、その他の企業群では、その割合は37%だった。AI投資のROIは、成功企業では43%だったが、その他では29%だった。ところが収益10億ドルあたりのAIに対する投資額では、その他の企業が420万ドルであるのに対し、成功企業でも450万ドルと大差はなかった。

AI導入に成功した企業の75%近くが、過去3年間のAI投資で予想を上回る価値を創出している。

AIが売上高成長率に貢献していると答えた成功企業は77%（その他の企業群は52%）で、収益性に貢献したとする成功企業は77%（同50%）だった。AIを企業戦略の策定に活用している成功企業は85%で、その他の企業では58%、実際にAIを企業戦略に活用している成功企業は92%で、その他は71%だった。また以下の経営目標の項目のすべてにおいて、AI導入に成功した企業は、その他の企業群よりも効果を上げていた。

AI導入に成功した企業は、すべての項目で経営目標達成に効果を上げている

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