敵か味方か? インシュアテックとグローバル保険業界

保険業界のリーダーは、脅威となり得るテクノロジーのイノベーターと提携するべく、最善のアプローチを見つけ出そうと躍起になっている。保険会社はぎりぎりのところで対策に乗り出したのである。本レポートでは、保険会社の経営層、インシュアテックおよびベンチャー・キャピタリストを対象に実施した調査に基づき、インシュアテックが現れた背景や原因、その影響力と、インシュアテックが当たり前になる未来に対して、今後保険会社がどのように対応すべきか、その道筋に関して概説する。

エコシステムの進化は、伝統的な業界に加え、厳格に規制されてきた業界の概念をも打ち砕こうとしている。具体例として、ライド・シェアリング・サービスを考えてみたい。今日、このようなサービスは当たり前となったものの、つい5年前までは、タクシー会社がほぼすべての主要都市で独占的地位を占めていた。T-Mining社やConvoy社といったスタートアップ企業は、これまで既得権に守られ、組織的非効率性が蔓延していた海運・長距離輸送業界を作り変えている。 また、ヘルスケアや生命科学の分野は、急速なデジタル化の影響やプロセス統合による効率化のニーズ、モノのインターネット（IoT）の普及などを通して一新されつつある。

銀行業界は保険業界と同じく規制が厳しい業界ではあるが、デジタルによる創造的破壊が及ぼす影響は、保険業界のそれとは異なっている。フィンテック・スタートアップ企業が、銀行のバリュー・チェーンに広範囲にわたって影響を及ぼす、とその可能性を誇大に取り上げている報道機関もあるが、実際のところフィンテックの影響はそれほど銀行業界には及んでいない。

また、新興のフィンテック企業が銀行のビジネスモデルを崩壊させつつある、と言われているが、実際には伝統的な銀行が提携や買収、初期投資などを通じて、フィンテック企業を取り込もうとしているのである。銀行はこのようなイニシアチブを推進することで、効率性を向上させ、顧客サービスの品質と提供力の改善を図ろうとしている。この極めて動きの速いスタートアップ企業の取り込みを躊躇する従来型企業があれば、それはすなわち、素早く対応策をとった競合他社にマーケットシェアを奪われるリスクを負っていることを意味する。

長きにわたり変化が緩やかであった保険業界にも、ついに変革の波が訪れようとしている。有力な保険会社は、新興スタートアップ企業（インシュアテック）と提携することによって、または提携しないまでも、それらの企業に触発される形で、顧客のリスク管理向上を図り始めている。

最新のデータから、保険業界におけるインシュアテックの重要性が世界的に高まっていることが明らかとなった。2014年から2016年までのインシュアテックに対する投資額は50億米ドルを上回り、2016年までに世界の顧客の30%以上が、自らの保険ニーズを満たすために何らかのインシュアテックを単体、あるいは既存のサービスと組み合わせて利用していたことがわかった。

保険業界においてインシュアテックの重要性が高まっている現状をより深く理解するために、IBMは世界中の伝統的な保険会社、インシュアテック企業、ベンチャー・キャピタル企業の1,200名を超える経営層を対象に調査を実施した（詳細については、17ページの「調査方法」を参照）。ダイナミックな動きで成功している保険会社は、インシュアテック企業からの追い上げを逆手にとってこれをリードしている会社であることが本レポートで明らかになった。調査対象の保険会社のうち、（経営効率および総収入保険料を尺度に評価した場合の）業績上位企業の経営層の81%が、インシュアテック企業に既に投資を行っているか、またはインシュアテック企業と協業していると回答したが、残りの保険会社の中でそのような取り組みを行っているとの回答はわずか45%にとどまっている。