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エコシステムとの共生、適切なデータ活用、顧客との信頼関係の醸成

保険会社は、進化する顧客ニーズに応えるために、データとの関わり方を見直す必要がある。

新型コロナウイルス感染症のパンデミックの影響で、保険に関する商品やサービスはこれまでにない逆境にさらされている。2020 年10 月、Lloyd’s of London(ロイズ保険組合)は、このパンデミックによる保険会社が支払わなくてはならない保険金は、1,000 億ドルにものぼると予想した。しかも、これは過小評価かもしれない。なぜならその後、裁判所は多くの契約の免責事項を無効と裁定し、特に小規模企業による保険金請求権を復活させているからだ。

コロナ禍により、多くの顧客は、健康から資産、財産、事業にいたるまで、何が脆弱で、何が自身にとって貴重であるのかを再認識させられた。このような経験を経た顧客が、本当に必要な保険は何かと考えた結果、オンデマンド型や利用ベースの保険、あるいはパラメトリック保険などの次世代型保険商品の需要が高まりつつある。顧客は、必要に応じて保障機能のオンとオフを「切り替える」ことで、利用した分だけ、あるいは保険の対象を利用したときだけ、料金を支払いたいと考えている。

保険会社の71%は、データを活用した商品・サービスをポートフォリオに取り入れている。しかし多くの保険会社のデータ戦略は一貫していない。

一方、保険会社はポートフォリオの慎重な見直しを進めており、利益を上げられなくなった商品・サービスの見直しや打ち切りを実施している。一部の保険会社は、このような状況をチャンスと捉え、在宅勤務、自家用車による配達、廃業など、ニッチな補償/保障範囲を対象とした商品を急きょ立ち上げている。また、多くの保険会社が、保険料の割り戻し、医療従事者への補償の無料化や充実、感染症治療薬の開発に向けた資金の提供など、顧客や地域社会へのサポートを開始している。このように保険会社は、困難な時期にある顧客を支援するため、迅速に行動し、クリエイティブな方法を模索しているのだ。

突然のコロナ危機により、保険会社にとって、商品開発の優先順位は下がり、経営資源の割り当ても低くなっている。しかし、将来の顧客エンゲージメントを向上させるために、今から準備を進めておくべきだ。

データで現状を打破

保険商品をシンプルにし、補償/保障範囲を明確化すれば、顧客から商品に対する信頼と理解を獲得することができる。パーソナライズされた保険を求める顧客は、顧客とのつながりを重視し、損害を最小限に抑えられる新世代型の保険商品を望んでいる。センサー機能や分析から得られる洞察、データへのアクセス性など、進化したテクノロジーにより、データに基づく商品・サービスの開発が可能になりつつある。

オンデマンド保険、利用ベース保険、パラメトリック保険など、データに依存する保険は新しくはないものの、新しい種類のデータやテクノロジーが出現したことで、これらの保険商品は従来型の商品よりもはるかに実用的で適切なものになっている。例えばオンデマンド保険は、パーソナライゼーションと利便性に優れており、顧客は特定の補償対象にいつでもどこでもオンライン上で自由に保険をかけることができる。また利用ベース保険は、旅行保険としてはおなじみだったが、テレマティクスの進化により、自動車保険においても魅力的な選択肢となっている。さらにAI によるデータ・マイニング、機械診断、モニタリング・システムの進化は、あらかじめ設定されたトリガーと補償条件に基づくパラメトリック保険の実現を可能にした。

 

保険会社の95%は第三者のリスク・データや顧客データを利用しているが、リアルタイム・データを活用できている保険会社は45%にすぎない。

さらに、データを活用した商品・サービスは、保険プラットフォームや拡張したエコシステムに基づく、新しいビジネスモデルへのゲートウェイとなり得る。保険会社は、プラットフォームに参加すれば、新たな機能を手に入れることができるだけでなく、これまで容易にはリーチできなかった市場に手が届くようになる。顧客は、このプラットフォームを通じ、「as-a-service」として販売される商品にアクセスできるようになる。これらの商品は従来型の保険商品よりもパーソナライズされており、デジタル・チャネルを介して手軽に入手が可能だ。

プラットフォームの強み:プラットフォーム・サービスを開発している保険会社は、新商品の収益性に優れている。

Platform perks: Insurers developing platform offerings excel in new product profitability.

プラットフォームへの移行が進むと、保険業界自体や商品・サービスの開発に、どのような影響が及ぶのだろうか。IBM Institute for Business Value(IBV)が実施した過去の調査によると、保険会社の経営層は「一度作ったものは、できるだけ使いまわしたい」と強く考えているようだ。しかし我々としては、この課題をさらに深く掘り下げ、データやプラットフォームが目に見える形でポートフォリオを変化させ、商品・サービスの開発を促し、新たな可能性を引き出しているのか否かを明らかにしたいと考えている。その答えを得るため、約600人の保険商品開発担当者を対象に、プラットフォームへの参加の有無や、開発コスト、そのスピード、および効果について調査を実施した。

保険会社が、どのようにデータを活用して商品やサービスをパーソナライズしているのか、またどのようにプラットフォームが新たな収益と迅速な収益性を実現するのか、詳細はレポート本文をご覧ください。


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著者について

Christian Bieck

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, Europe Leader & Global Research Leader, Insurance, IBM Institute for Business Value


Wendy Newlove

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, Senior Managing Consultant, IBM Institute for Business Value


Andrew Ellis

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, Global Solutions Leader, IBM Global Insurance Industry

発行日 2021年8月1日

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