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混沌を脱し収益力の強化へ:ハイブリッド・バイ・デザインがビジネス価値を生み出す仕組み

本レポートは、「ハイブリッド・バイ・デザイン」と呼ばれる手法を用いて、組織の「テクノロジーのグレート・リセット」を設計し、実装する方法に関するレポートシリーズの第1弾です。第1弾では、ハイブリッド・バイ・デザインの概要、仕組み、踏み出すべき一歩を含め、全体像を明らかにします。以降のレポートでは、業績改善に向けた設計から、ビジネス価値につながるオペレーティング・モデルやアーキテクチャー上の決定までのトピックを取り上げます。

 

混沌を脱し収益力の強化へ

 

生成AI環境は、もはやアーリーアダプターの実験場ではありません。本格的なビジネス変革競争が繰り広げられており、生成AIをより適切に大規模展開する機会が単に提供されているだけではなく、テクノロジーがビジネスをどうサポートできるのかを見直すけん引役として、いかに生成AIを利用するかが問われているのです。つまり、経営層は中核業務にAIを導入・拡張する準備が整っているかどうかにビジネスを賭けているのも同然です。認識しているか、いないかに関わらず。

IBVの調査によると、ほとんどの組織はITプロジェクトの投資利益率(ROI)に対する期待が低いようです。ビジネス・ケースで10%のROIしか約束されていない場合でも、資金が投入されています。投資のハードルはもっと高く設定されなければなりません。特に生成AIのような革新的テクノロジーに関わるプロジェクトでは、なおさらそうあるべきです。

何十年もの間、企業は新しいテクノロジーを業績改善につなげようとしてきました。しかし、ほとんどの場合はその場限りの価値しか生み出していません。テクノロジーの“ネクスト・ビッグ・シング”(次の大ブーム)を追い求めた結果、実装の遅れや山のような技術的負債が放置されてきました(技術的負債は、手持ちのテクノロジーが修正・更新が必要な「負債」となり、「資産」としての価値が損なわれる状態を指します。これは通常、サンク・コストにもかかわらず、自組織のテクノロジーがあまりにも柔軟性と統合性に欠けるため新しいビジネス目標に対応できないと組織が判断した場合に発生します)。

しかし、今や生成AIは大きな存在として現れ、テクノロジーのリセット、つまり「テクノロジーのグレート・リセット」を推進しています。テクノロジー資産を見直し、モダナイズすることで、AIからクラウド、プラットフォーム、ソフトウェアに至るまでのテクノロジーの“シンフォニー”を最大限に活用するチャンスがもたらされています。

経営層は、AIをより適切に大規模展開する機会を得るだけでなく、その潜在的な変革能力を触媒として活用してIT資産を全面的に見直すとともに、チームが創出し得るビジネス成果を総点検することもできます。

ハイブリッド・バイ・デザインと呼ばれるアプローチを用いると、生成AIだけでなくビジネスの前進にも最高のサポートができるように、テクノロジー資産を見直すことが可能です。

 

ハイブリッド・バイ・デザインとは何か?ビジネスにどう役立つのか?


ハイブリッド・バイ・デザインは、ハイブリッドクラウド上で実行される検証済みで体系化されたアーキテクチャー・フレームワークであり、組織がテクノロジーを通じてビジネス価値を最適化するのに役立ちます。ビジネスの前進をサポートする構造であり、将来のビジネス成果の達成に必要な俊敏性、スピード、統合を提供します。

ハイブリッド・バイ・デザインはクラウド・アーキテクチャーから始まりました。それは、一部の組織が意識的にビジネス上の優先順位の観点から、ハイブリッドクラウド環境を設計した方法を示したものでした。これらの企業は、オンプレミスのデータセンターに加えて、パブリッククラウドとプライベートクラウドも組み合わせて活用することで、俊敏性とスピードの向上、ビジネスイニシアチブの拡大を促進しました。

生成AIがビジネスに広がる中、ハイブリッド・バイ・デザインの背後にある原則は、今やクラウドコンピューティングにとどまらず、企業全体、つまりプラットフォームや、セキュリティー、AI、クラウド、データなどのテクノロジー資産全体に適用されます。ハイブリッド・バイ・デザインは、賢いデザインと統合を通じて、さまざまなテクノロジーの“カコフォニー*”を“シンフォニー”にまとめ上げ、ビジネス成果を増幅させることができます。

* カコフォニー(cacophony)は不快で騒がしい雑音のこと。

 

標準:ハイブリッド・バイ・デフォルト


しかし、多くの組織にとって、「ハイブリッド・バイ・デフォルト」の方が、「テクノロジーのシンフォニー」よりも一般的な状態です。これは、クラウドとオンプレミス・データセンターの有機的な混在と考えると最も分かりやすいでしょう。ハイブリッド・バイ・デフォルトの資産は、意図がなく異種混合的で複雑化し、それぞれがサイロ化された環境であり、コストの上昇や投資利益の低下に加えて、実装の失敗、そして購入者の後悔を招きます。最適に統合されたビジネス成果に向けた包括的な計画が欠けており、技術的負債が散在しています。

生成AIやその他の進化するテクノロジーの速やかな導入や拡張の準備は、ハイブリッド・バイ・デザインの原則が照らす道筋を、意識的かつ適切に設計されたリセットを行いつつ前進していくかどうかにかかっています。

 

実際のハイブリッド・バイ・デザイン


ハイブリッド・バイ・デザインにはさまざまなメリットがあり、最終的にはスピードのほか、俊敏性、優れた顧客体験、生産性などのあらゆる向上効果が得られます。ほとんどの組織は、技術資産のリセットを進めていくうちに、ハイブリッド・バイ・デザインのメリットを突然ではなく徐々に実感することになるでしょう。ここでは、ハイブリッド・バイ・デザインを採用し、一連の段階的な変化を通じて現実世界における利益をもたらしながら、顧客やクライアントへのより良いサービスを提供している2つの組織をご紹介します。

 

デルタ航空:ハイブリッド・バイ・デザインで変革

背景
デルタ航空は、コロナ禍が始まった頃は当時の経済の実態に対応する必要がありました。いったん、コロナ禍が終息すると、新しいプレミアムな顧客体験の提供を速やかに開始することを迫られました。どちらの場合も、テクノロジー・ソリューションをより迅速に、かつ安全性、信頼性、拡張性の高い方法で生み出せるようにするには変革が必要でした。
 

ソリューション
デルタ航空は、自社の分散ワークロードのすべてをハイブリッドクラウドに移行するマイグレーションを計画しました。オープンなハイブリッドクラウド・アーキテクチャーでオペレーションをモダナイズすることで、事実上どこにでもデプロイし、クラウド全体の開発、セキュリティー、オペレーションに対して標準化された一貫したアプローチを取ることができるようになりました。
 

成果
何百ものアプリケーションをクラウドに移行しました。デルタ航空とその顧客は、すでに680機以上での無料機内Wi-Fiといったメリットの一部を享受しています。同社のクラウド変革の取り組みは、従業員エンゲージメントや、生産性、市場投入までの時間、コスト効率の25~30%の向上を目標とします。
 

アルゼンチン保健省(AMoH):ハイブリッド・バイ・デザインを採用して、より安定したITインフラストラクチャーを構築

背景
アルゼンチン国民は病気の時、医療ニーズの大部分を一次医療機関に頼ることが多いのですが、他の医療機関を利用することもあります。あるいは、個人診療所を受診したり、公立病院で検査を受けたりしています。こうした状況を踏まえて、アルゼンチン保健省は公衆衛生統計のフローと基盤システムの管理を自動化することを目指していました。
 

ソリューション
AMoHは、低速なレガシー・ソリューションやモノリシックなアプリケーションから脱却して、全国規模のデジタル医療ネットワークを構築しました。また、Red Hat®を技術基盤とする柔軟で安定したITインフラストラクチャーを構築し、医療機関同士の標準化された統合を通じて、センターが患者データに安全にアクセスできるようにしました。
 

成果
AMoHは、新しいデジタル医療ネットワークにより、コロナ禍期間の取扱患者数の1,500%増加に対応できました。また、共通の電子記録を管理できるようになり、取扱患者数の増加への迅速な対応と同時に、新しいサービスや機能の追加も可能になりました。
 

 

IBVの調査で特定された、ハイブリッド・バイ・デザインを始めるにあたってすべてのリーダーが知っておくべき3つのこと:


要するに、テクノロジーのリセットは持続的な競争優位性を構築し得ますが、まずは生成AIの観点から技術資産を点検する必要があるということです。例えば、技術資産は、ハイブリッドクラウドによって支えられる生成AIワークフローに対応する準備ができているのでしょうか?技術的負債が障害となっており、それが解決されない限り価値実現の妨げとなることに気付くでしょう。簡単に言えば、企業全体にわたってデータとAIのインパクトの加速と拡大を図り、最終的にビジネス成果を向上させるには、ハイブリッド・バイ・デザインが不可欠ということです。
 

そして、すべてのリーダーが今すぐ実行すべき3つのこと:

 

1. 見直す


知っておくべきこと:

今、テクノロジーをリセットすれば、将来に持続的な優位性が得られる

 

最先端テクノロジーによって最終利益が鈍化してはなりません。72%の経営層は、IT投資ポートフォリオのROIを25%以上向上させることが、経営層にとっての2024年の最優先事項だと考えています。

しかし、そのためには、価値実現を前倒しするようにハイブリッド・モデルを設計する必要があります。よく見られる“中途半端な”導入によってROI低下を招かないようにするためです。

例えば、クラウド化への取り組みを表す「クラウド・ジャーニー」について約3分の1の組織は途中で頓挫したと回答しています。また、37%の組織は最小限のワークロードの移行のみで「完了」したとしています。クラウドは、投資が効果を上げ始める前に勢いを失うことがあまりにも多いのです。そこかしこに見受けられる中途半端なクラウドの導入プロジェクトは、業績改善に伴いROIが実装コストを上回る転換点に達する前に頓挫します。その結果、クラウド・プログラムは改革の機会ではなく、リソースを浪費する必要悪と受け止められる可能性があるのです。


しかし、"中途半端"はクラウドだけに限ったことではありません。経営層の55%が、重要なビジネス課題を解決するためのITソリューションの設計は、大きな障壁または実際の障害になると回答しています。生成AIへのアプローチが過去に失敗したアプローチの二の舞にならないようにするには、テクノロジーのリセットが必要です。現在、クラウドIT資産とサービスのうち、要求通りに機能しているのは29%に過ぎません。残りの71%は実際のところ、技術的な負債なのです。
 

生成AIの拡張:ROIの基準を上げる

IBVの最新の調査によると、ビジネス成果の改善を明確な目的とするITプロジェクトでさえ、経営層が寄せる期待は低いようです。一方で、一部の組織はデジタル化の取り組みをビジネス価値に変換する能力を全体的に改善させていることを示すデータもあります。回答者の24%は2022年に、35%は24年に、少なくとも一部の投資のROIが2倍になると見込んでいます。

基準を引き上げることは可能です。これについては、ハイブリッド・バイ・デザインの経済性に関する今後のレポートで詳しく取り上げる予定です。
 

支出を増やせばよいということではなく、支出の質が問題だ

事業部門とIT部門のリーダーは、次の3つの数字について合意する必要があります。
 

  1. 業績改善を目的とする投資に充当できるIT予算の割合
     
  2. ITポートフォリオ全体のROIの現状
     
  3. アイデアのキャッシュ化に必要な時間(設計および実装速度)
     


この3つの数字は、ITがビジネスをいかに推進するのか現状の結果を示しています。これらは、組織が生成AIによって得られる成果の強力な予測子です。経済学者で統計学者のW. Edwards Deming氏が述べているように、「すべてのシステムは所期の結果が得られるように完全に設計される」ものであり、異なる結果を得るには設計変更が必要です。新しいテクノロジーを従来のオペレーティング・モデルに導入しても、革新的な結果は得られないでしょう。

実例として、IBM自身のハイブリッド・バイ・デザイン・アプローチによるビジネス・トランスフォーメーション事例をご覧ください。IBMは2024年末までに30億ドルの生産性向上を目指しています。
 

 

行うべきこと:

リセットによって基準を引き上げる

 

ROIを見直します。

永続的な競争優位性は微調整では構築できません。ハイブリッド・バイ・デザインは継続的改善を促進しますが、目指すのはムーンショット(実現すれば飛躍的な効果が期待できる試み)です。この慎重なアプローチではほんのわずかな進化ではなく、大幅な変化を追求し、AIの真の力を引き出すために必要な行動変化を明らかにします。
 

  • 新たなテクノロジーへの取り組みに高い目標を設定することでROIを高めます。 
    すでに2025年の投資に対するROIについて20%以上の実現を見込んでいる企業は、目標は30%超あるいはそれ以上に設定すべきです。このギャップは、プログラム設計の初期段階の改善や、デジタル製品のエンジニアリング能力向上、IT投資のモダナイズによって埋めることができます。
     
  • IT予算の焦点を業務継続性の確保から画期的なソリューションの強化へとシフトします。
    生産性の低迷や収益の急減など、ビジネス上の重要な問題を解決できる投資に充当するIT予算を増やします。一般的なIT投資ポートフォリオの形では、業績改善に利用できるのはピラミッドの先端だけです。IT予算の大幅な増加が見込めない中、予算の20%以上を充当できるようにするには、新しいプラットフォームの構築のほか、パートナーとの連携によるメンテナンス・コストの削減、レガシー資産のモダナイズ、技術的負債の排除が必要です。 
     
  • 体系化して簡素化します。
    簡素化によってスピードを上げ、ITのアイデアをビジネス成果に変えるために必要なリードタイムを短縮します。ハイブリッド・バイ・デザインは、デジタル製品の提供にかかる時間を短縮することで速度を改善させます。生成AIによるコード作成アシスタントが多くのレガシー・プロセスを迅速化させるように、アーキテクチャーの技術的決定を体系化することで、開発者がより迅速に、かつ一貫性、安全性、生産性の高い方法で構築するのに役立ちます。スピードの向上は、投資回収期間を短縮することで直接の財務的メリットをもたらすと同時にスポンサーの支援を強化し、よりROIの高い投資に時間と資金を充当することを可能にします。

 

 

2. 明らかにする


知っておくべきこと:

生成AIは、不安定な砂上に構築された技術資産と、しっかりとした土台の上に構築された技術資産を明らかにする

 

新しいハイブリッド・バイ・デザイン技術資産への意図的な投資は、生成AIへの取り組みを成功に導く基盤となります。しかし、2024年にはクラウドおよびデータ機能が生成AIへの投資に完全に対応できると確信していると答えた経営層はわずか16%にとどまり、27%の経営層は準備状況について確信が持てないと答えています。

 

生成AIの拡張を阻むハードル

生成AIのパイロットから実際の導入までの過程には、次のような障害が散在していることがよくあります。
 

  • 自由なデータフローを妨げる障害。
    システムが異なると摩擦が生じ、一貫性のないITスタック間でワークフローがスムーズに機能しにくくなります。こちらのCRMシステムとあちらのマーケティング自動化プラットフォームとが、うまく相互運用できない、というようなことがよくあります。データが自由に流れることができなければ、コラボレーションとイノベーションは損なわれるでしょう。
     
  • 断片化したガバナンス構造。
    ワークフローの分散や分断は、シャドーIT*、作業の重複、潜在的なコンプライアンス問題につながる可能性があります。
     
  • セキュリティーの懸念。
    サイバーセキュリティーがますます重要になる中、IT資産全体のセキュリティー対策とコンプライアンスを管理することが不可欠です。
     

* シャドーITは管理部門の許可なく社内で使われているIT機器やシステムのこと。
 

生成AIに対応した技術基盤の構築

生成AIはデータが糧です。企業が迅速なイノベーションを推進するのに必要となる効果的なアウトプットを学習し生成するには、大量のクリーンで正確な情報が必要です。AIエンジンにデータを供給するには、データレイク、ウェアハウス、高速パイプラインなどの堅固なデータ・インフラストラクチャーが必要不可欠になります。最新の技術スタックに投資することで、生成AIを成功に導く基礎を築くだけでなく、部門横断的なチーム間での自由な情報交換を通じて、一貫したイノベーションの基盤を構築することになるでしょう。

生成AIモデルは計算集約的です。生成AIモデルの学習と実行にはかなりの処理能力が要求されます。レガシー・システムは、生成AIの要求に応えられる能力をまったく備えていません。

ハイブリッド・バイ・デザイン化するには、現在のコンピューティング能力や、データ分散(クラウド、オンプレミス、エッジ)、データ・アクセス・プロトコル、セキュリティー管理、および既存の技術投資を活用できる可能性を包括的に評価する必要があります。このアプローチは、テクノロジーの信頼性(ダウンタイムの削減、運用の円滑化)を高めるだけでなく、組織の適応性(変更への対応の容易化、意思決定の迅速化)も強化します。オンサイトとオンラインのあらゆるものをシームレスに接続して、生成AIに最適な環境を構築することを想像してみてください。これは、利益を促進するスマートな働き方の実現という真の成果につながります。
 

 

 

行うべきこと:

特に価値の高い領域に焦点を絞って、基盤を再構築する

 

ハイブリッド・バイ・デザインのアーキテクチャー原則を用いて技術的負債を返済し、制約を資産に変えましょう。

企業は、“ITにおけるネクスト・ビッグ・シング”というハイプ・サイクル*を経験するたびに、技術的負債を増やしてきました。例えば、カスタムビルドされたエンタープライズ・ソフトウェア・ソリューションについて何か思い出せるものはありますか?カスタムビルド、つまり各々に合わせた最適化されたソリューションであることには違いありませんが、開発と維持には膨大なコストと時間がかかります。これらのカスタム・システムは、テクノロジーが進化するにつれて時代遅れになり、最新ツールとの統合が困難になりましたが、多くの組織は維持し続けました。こうしたツールは大企業内の複雑な技術遺産の一因であるため、現状のIT資産は生成AI時代に必要とされるAI対応のエンタープライズ規模の基盤とは言えません。

生成AIは、“ITにおけるネクスト・ビッグ・シング”にとどまらず、大企業の基本的な働き方の転換を要求するテクノロジーです。ハイブリッド・バイ・デザイン・アプローチを構築することで、改善のロードマップの下準備が整います。
 

  • ビジネスの重要問題の解決にはスピードが命です。
    最もインパクトの大きいAI製品を構築して、強力な基盤を構築します。ただし、技術的ユースケースから始めてはなりません。むしろ、AIが最大の投資利益率をもたらし得るビジネス上の重要な問題から始めるべきです。パイロットと概念実証は、段階的な改善であってもいずれ大きな利益を生み出せるビジネスの分野に限って実施します。AIは革新的なテクノロジーであり、革新的なソリューションと投資案件が必要です。
     
  • 資産の“覚醒”によってROIの高いAI活用をサポートします。
    遊休IT資産を有効活用します。容量が過剰なハイブリッド・バイ・デフォルトのクラウドや、サイロから解放できるデータ、オンプレミス・インフラストラクチャー、AIアプリケーションを実行できるメインフレーム、クラウド対応かつAI対応の資産としてモダナイズ可能なレガシー・アプリケーションを検討してみましょう。これらの遊休資産の有効活用には費用がかかるかもしれませんが、生成AIはこうした投資の一部についてビジネス・ケースをサポートし、ハイブリッド・バイ・デザインのリソースに変えることができます。将来のAI活用において、ビジネス・ケースではサポートされないアーキテクチャーの変更が必要な場合には、短期的に同じコストを複数の投資に分散可能な、近しいエリアの活用方法を探します。有効な活用を見出せない遊休IT資産はすべて、一種の技術的負債となる。
     
  • がむしゃらにではなく、スマートにモダナイズします。
    生成AIを使用してハイブリッド・バイ・デザイン・モデルを構築することで、アプリケーションのモダナイゼーションにかかるコストを削減します。レガシー・アプリケーションを有効活用しようとすると、IT予算の割合が高くなりますが、そのコストはこれまで法外なものになりがちでした。毎年、同じモダナイゼーション候補が現れ、毎年膨大なコストがかかります。アプリケーションのモダナイゼーション・コストの大部分を占めるコードの変換と開発を、開発者が生成AIで行えるように支援することで状況は一変し、価値実現までの時間の短縮に貢献できます。
     

* ハイプ・サイクルは、テクノロジーの成熟度やビジネス寄与度などを分析して図示したもの。企業がテクノロジーを採用する際の投資判断などに活用してもらう目的で米ガートナー社が考案した。それによると、新技術は「黎明(れいめい)期」「『過度な期待』のピーク期」「幻滅期」「啓発期」「生産性の安定期」という5つのフェーズをたどる。 

 

 

3. 一歩立ち止まる


知っておくべきこと:

急がば回れ ー じっくりと現状を検討すれば、最終的なリセットは迅速に進めることができる

 

あまりにも数多くの取り組みにリソースを焦って割り当てている限り、成功は望めません。必要なのは、幾つかの重要な領域、つまり最大のビジネス価値を生み出す可能性がある領域を見定めるための時間を割くことです。そうすることで、なるべく早くこれら領域を絞り込み、拡張することができます。言い換えれば、実際には減速した方が、結局は速く動きやすくなるということです。

むしろ、企業が機敏に動くとリソースが希薄化することがあまりにも多いのです。ビジネス技術における“ネクスト・ビッグ・シング”の導入から30年がたち、ビジネス成果を得るためのコストと不確実性が増しています。AIの導入も同じパターンを繰り返しそうです。今、意図的に時間をとってよく検討すれば、次に挙げられるような事態に陥ることを避けることができるでしょう。
 

  • 歴史的に見て、何と84%ものデジタル・トランスフォーメーション(DX)プログラムが失敗しています。
     
  • 55%の企業が技術的負債をビジネス目標の達成の障害と回答しています。
     

 

まずは、過去のことを振り返りながら包み隠さず評価を実施するための時間を取る。その上で、全速力で前進するべきである

AI競争を勝ち抜くには、進行中のAI革命に対する組織の準備状況について、ビジネス部門とIT部門が包み隠さず評価する必要があります。現在の技術資産に至った経緯について責任を追及することが目的ではなく、組織のハイブリッド・バイ・デフォルト状態を明確に評価し、ハイブリッド・バイ・デザインのメリットを明確に対応付けることが重要です。

ビジネス・リーダーはハイブリッド・バイ・デザイン・アプローチの利点として、モダナイゼーションの他に、俊敏性、セキュリティー、ビジネス・アクセラレーション、コスト最適化、そして生成AIの活用などを挙げています。言い換えれば、生成AIは適切に設計されたハイブリッド環境に統合された場合にのみ、革新的な価値を発揮できるということです。

現在の技術資産に至った経緯を探ることで、より慎重で価値を重視したアプローチへの道を開けます。意図しない技術的負債の負担を取り除き、AIの可能性を最大限に引き出すように設計された意図的なハイブリッド・バイ・デザイン・アーキテクチャーを採用することが、前進するための方法です。

幸い、この先の道は技術に明るい者しか知らないような秘密の道ではありません。組織がやらなければいけないと認識している基本的な変革のセットであり、これは毎年の健康診断のようなものですが、別の日に先延ばしにされ続けています。思い立ったが吉日です。少し立ち止まって、進むべき道を切り拓くことができるようにするべきでしょう。

 

行うべきこと:

エンタープライズ規模のソリューションの道筋を明確にする

 

レガシー技術に対処して、新しい働き方や業務の在り方を妨げる障害を取り除きます。 事業/業務部門、IT部門のリーダーは、3つの重要な業績指標を評価し、一致した見解を持つべきです。ハイブリッド・バイ・デザインによるテクノロジーのリセットを行わない場合、これらの数値は、生成AIの成果を図る上で重要な指標となります。それらの指標は十分でしょうか?
 

  • 業績改善のために充当できるIT予算の割合を増やします。 
    IT予算と“シャドー”支出だけの問題ではありません。これは、既存のリソースをAI主導の業績改善へ投資するために利用できるようにすることです。平均的な企業は、IT予算の約20%を業績改善への取り組みに投資しています。その支出は、より良いビジネス成果の改善に直接役立っているため「良いコスト」と言えるでしょう。組織が想像し得る最高の投資となるよう意図されている取り組みに資金を振り向ける場合には、「さらに良いコスト」となります。ハイブリッド・バイ・デザインにより、より多くのIT資産が機能し、お客様にとって支払う価値があるモノを提供します。「悪いコスト」、つまりビジネスには必要かも知れないが、お客様が価値を見出せず、支払いをためらうようなコストを、「良いコスト」に変換します。
     
  • ITポートフォリオ全体にわたるすべてのIT支出から得られる利益を拡大します。 
    企業のIT部門は通常コストセンターとして管理されるため、このIT支出から得られる利益の数字に到達することは困難であり、計算結果が受け入れられないかもしれません。この数字は、IT予算の大部分が投資として機能していないことを示す可能性が大いにあります。単純にIT支出を削減することは利益改善の方法の1つですが、最善とは言えません。既存資産を有効化することで、ITポートフォリオの利活用される部分が増え、利益が拡大します。例えば、以下のような手段が挙げられるでしょう。

    - 既存資産を有効活用させるために、レガシー・システム、アプリケーション、インフラストラクチャーをモダナイズする。

    - 生成AIの恩恵をもたらすために、アウトソーシング・サービスを利用する。

    - ITタスクを自動化する。

    - 開発者が生成AIから支援を受ける。

    - プラットフォームにより、アプリケーションの支出を統合する。 

    重要なのは、ハイブリッド・バイ・デザイン・フレームワークの実装がROIに与えるインパクトを追跡するためのベースラインについて、IT部門と事業部門全体で合意することにあります。
     
  • ITアイデアをビジネス成果に変えるために必要なリードタイムを短縮します。 
    製品主導の開発とデジタル開発では、事業部門とIT部門が連携して、成長と生産性につながる優れた顧客体験と従業員体験を提供します。それは順調な進歩ですが、それだけでは十分とは言えません。スピードを上げることで投資が早期に成果に変わり、早期に成果が出ることでROIが高まり、投資を強化する余裕が生まれます。ハイブリッド・バイ・デザインの原則は、構想から収益化までのバリュー・ストリームのエンドツーエンドを再設計するガイドとなります。
     

 

IBM自身のハイブリッド・バイ・デザイン・ストーリー:30億ドルの生産性向上

 

生産性向上は、IBM CEOのArvind Krishnaにとって最優先事項です。IBMは、全社のあらゆるプロセスへのAIの組み込みを進めており、170カ国以上、数十万人に及ぶIBM社員の生産性向上の実現に向けて規模を拡大しています。

これは30億ドルの生産性向上のチャンスです。

IBMのCFOであるJim Kavanaughは、2023年度の収益について次のように述べています。

「昨年4月に述べた2024年末までの年間ランレート*の経費節減目標である20億ドルに対し、すでに15億ドル以上を達成しています。生産性向上への取り組みにより、イノベーション、技術スキルおよび業界スキル、市場開拓能力といった分野への投資を増やすことができました。こうした投資増加は自社のみならず、エコシステム・パートナーにも及びます。これを達成すると同時に利益率とフリー・キャッシュ・フローが向上し、財務の柔軟性が高まりました。これが今後も当社の戦略です。これまでの成功を踏まえると、24年末までに少なくとも30億ドルの年間ランレートの経費削減を達成できるものと確信しています」

IBMは、生産性向上を目指して、自社のテクノロジーや、コンサルティング・ビジネス・プロセスの専門性、戦略的パートナーシップ技術を活用して、よりシンプルなIBMでの新しい働き方を再創造しています。

モットーとするのは、複雑さを排除し、作業を簡素化するとともに、手動タスクを自動化し、あらゆる場所にwatsonx™を埋め込むことです。最初に「何をやめることができるのか」を問い、次に「どうすればワークフローを簡素化できるのか」を問います。その上で初めて、組み込みAIを活用して手動タスクを自動化します(そうしないと不良プロセスを自動化する恐れがあります)。

ワークフロー変革戦略の鍵となるのは、企業全体にわたってデータの統合を強化することです。そのためには、ビジネス価値を考慮して慎重に策定されたハイブリッドクラウド戦略が必要です。

IBMは、ハイブリッドクラウド上のwatsonxを活用して生成AIをビジネス・プロセスに導入し、節約したコストをIBMに還元して成長と投資を促進しています。
 

主な成果:
 

  • アプリケーション実行コストが平均90%削減されました。 
  • アプリケーション実行環境全体が50%削減されました。 
  • 2万5,000人のセラーと4万4,000社のパートナー向けに単一のCRMプラットフォームを提供することで、サイクル・タイムが50%短縮するとともに、顧客に費やす時間が15%増加しました。 
  • 全社の人事リクエストの94%をデジタルアシスタント「AskHR」が処理しています。 
  • 「生産性向上に寄与するカタリスト* *」として動員された革新的なIBM社員が1,000のワークショップで5,000以上に及ぶ現場レベルの機会を見いだしました。
     

* ランレート(Run Rate)は足元の実績値を基にした将来の予測値。
* * カタリスト(Catalyst)は、自らは変化せずに化学反応を引き起こす「触媒」のこと。比喩として周囲に影響を及ぼし変化を起こす存在を意味する。

 

ハイブリッド・バイ・デザインで混沌を脱し収益力の強化へ

 

生成AIは組織に技術基盤の評価を余儀なくさせるため、ハイブリッド・バイ・デザインでリセットすることで、持続的な競争優位性を得ることができます。その結果、AIの優位性を最大限に引き出すだけでなく、今後のテクノロジーの導入に向けた準備を整えることもできます。ただし、それには俊敏性、スピード、無限の容量なども必要でしょう。

今後のレポートでは、資金調達からアーキテクチャー、エコシステム、オペレーティング・モデルまで、ハイブリッド・バイ・デザイン・アプローチを始める方法を詳しく解説します。

ぜひ本レポートをダウンロードしてお読みいただき、ハイブリッド・バイ・デザインのメリットを余すところなく理解するのにお役立てください!

 


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著者について

久波健二(監訳者), 日本アイ・ビー・エム株式会社 IBMコンサルティング事業本部 技術理事、ハイブリッドクラウド・サービス 担当CTO

発行日 2024年5月7日

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