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生成AIで企業が変わる:現状と課題

企業が生成AIの力をうまく活用するための鍵とは?

生成AIに関する議論は、両極端に陥りがちです。推進論者と懐疑論者が互いに主張を譲らないために、妥協点が見いだせないことが多いです。これはビジネス・リーダーにとって大きな問題です。AIに対するアプローチを決める際には、厳然たる事実と戦略的な妥当性に基づくことが必要だからです。自信過剰や誇張した考えに陥ることは許されません。

より冷静な評価を提供するため、「IBM Institute for Business Value(IBV)」は、経済分析・予測を手掛けるオックスフォード・エコノミクス(Oxford Economics)社の協力を得て、米国やオーストラリア、ドイツ、インド、シンガポール、および英国の経営層約400人を対象とした調査を2023年5月に実施しました。同時に、米国では200人のCEOを対象とした調査も行いました。この中で、生成AIの導入計画や期待しているメリット、導入を進める上での障害などについて尋ねました。

CEOの64%は「投資家や債権者、金融機関から生成AIの導入を急ぐべきだという大きなプレッシャーを受けている」と回答しています。

Chat GPTの登場によって生成AIを巡る熱狂が広がっているものの、経営層はその導入に当たって慎重に検討を進めていることが分かりました。現在の生成AIに対するビジネス・リーダーの理解度は、AIが大々的な注目を集め始めた2016年当時をはるかに上回っています。その結果、経営層は生成AIをどこに導入すべきかについて、はるかに的確な見方ができるようになっています。今日のビジネス・リーダーは、どのようなユース・ケースやAIアプリケーションが最大の価値をもたらすかという点について、はるかに明確に捉えています。当社データによると、少なくとも初期段階では、リーダーが重視しているのは3つの観点です。

経営層は生成AIの導入に当たって3つの観点を重視

three priorities for genrative AI adoption

当然、企業はそれぞれの戦略的な能力とビジネス上の優先課題に合うように、引き続き特定の生成AIのユースケースの見直しを行っているところです。例えば、IBMの「チーフ・アナリティクス・オフィス(Chief Analytics Office)」*は、より広範な社内の「トランスフォーメーション&オペレーション」分野の中核部門として、生成AIの導入に注力しています。その対象はIT(情報技術)や、アプリケーションのモダナイゼーション(最新化)、顧客サービス、および従業員エンゲージメント(組織と社員の相互信頼・貢献)です。こうした分野はいずれも自動化が支えとなっています。

*IBMで、ソリューションを開発するデータ・アナリストを擁し、トランスフォーメーション&オペレーションのより広範な領域の重要な部分を担当する組織。

生成AIの拡張

生成AIに対する認識は経営層の間で急速に高まっているものの、大きな価値を創出できるまでには至っていません。経営層が特定した優先領域は、AI能力の成熟化が最も進んだところです。つまり、戦略上の価値を全社的に提供する水準までAIを活用できていない企業が多い、ということです。

CEOは迅速な行動が必要だと考えるため、短期間で成果を出そうとする場合があります。CEOの64%は「投資家や債権者、金融機関から生成AIの導入を急ぐべきだという大きなプレッシャーを受けている」と回答しています。また、従業員も迅速な導入を求めているとの回答は過半数に及びました。こうした結果、生成AIへの投資は今後2~3年で4倍に拡大すると見込まれるものの、AI支出全体からみると、少なくとも現時点ではほんのわずかにとどまります。

5人中4人の経営層は、生成AIの導入の妨げになっている要因として、信頼に関連する問題が少なくとも1つあると考えています。


生成AIへの投資をためらわせている要因は何でしょうか。一言で言えば、「信頼」です。5人中4人の経営層は、生成AIの導入の妨げになっている要因として、信頼に関連する問題が少なくとも1つあると考えています。上位にはサイバーセキュリティーやデータ・プライバシー、正確性が挙がり、またデータソースと、モデルが提供するレスポンスの両方における説明可能性や倫理、バイアス(偏見や思い込み)についても懸念が広がっています。

こうした懸念は、今日世界で起きている状況に基づいています。生成AIが急速に一般へ広まった結果、きちんとした指導を受けないままAIの使い方を身に付けようとする個人も現れています。彼らはガードレール(安全対策)なしに実験を重ね、その振る舞いに誰も気付かないまま、予測不能な結果をもたらそうとしています。
 

「生成AI」「基盤モデル」とは何か

生成AIとは、大量の学習データに基づいて、高品質のテキストや画像などのコンテンツを生成できるディープ・ラーニング(深層学習)・モデルです。このように新たなデータを生成する能力によって、新しい技術が次々に発展しました。

現在の大規模言語モデル(LLM=大量のテキスト・データを学習した汎用的な基盤モデル)は、大規模なデータセットで訓練され、特定のタスクをあらかじめ定義せずに、最初から事前学習を行います。企業は、企業モデルとして知られるこれらのAIモデルを、後からわずかな企業データで微調整することにより、特定のタスクを実行できるようになります。

基盤モデルは理論的には多くの領域に適用することができるため、生成AIの導入を加速し、その規模を拡大する機会をもたらしています。例えば、膨大なパラメーターを持つLLMは、組織やより広範なエコシステム全体で情報をどのように生成し、共有するかを変革することができます。

基盤モデルには、将来性や可能性がある一方で、新たな課題も伴っています。1つには、膨大な計算やストレージ、およびネットワーク・リソースが必要で、エネルギーも大量に消費することです。大規模な自然言語処理モデルを1つトレーニングすることは、自動車5台を寿命まで走らせるほどの二酸化炭素排出量と同じになります。

破壊的変化を生み出す他のテクノロジーと同様に、基盤モデルなどの生成モデルの導入にはトレードオフが伴います。特に企業にとっては生成AIが生み出せる価値と、そのために必要な投資とのバランスを取ることが求められます。

 

生成AIの未来に備える

組織が最新技術の導入に伴うリスクを正しく見極め、定量評価し、管理するためには、適切な監視が必要です。安全に、かつ責任を持って生成AIの力を活用するための第一歩は、自社が何を達成したいのか、そのビジョンを実現するために何を変える必要があるのかについて理解することです。

こうした現状を脱し、生成AIの導入を加速させるために、ビジネス・リーダーは次の3分野に注力する必要があります。
 

  • 組織とスキル

  • データとプラットフォーム

  • リスクとガバナンス
     

経営層は生成AIへの投資でどのような成果を優先しているのでしょうか。全社的な導入を加速するためにどのような変革が必要となるのでしょうか。詳細はレポートをダウンロードしてご覧いただけます。

 


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発行日 2023年7月11日

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