ホーム戦略と管理、CEO

エコシステムとオープン・イノベーション:共創なくして進展なし

パートナーシップを基盤とするエコシステム経済において、ビジネス成長の手段はオープン・イノベーションです。

不確実性が増し、変化が絶え間なく続く時代には「イノベーション疲れ」に陥るリスクがあります。誰もがイノベーションを起こしていると主張するならば、結局、誰もイノベーション(革新的なこと)を起こしてなどいないことになるのではないでしょうか。このままでは、イノベーションはコモディティー化する可能性があります。新しいアイデアや製品が日々、市場に溢れる中、もはやイノベーションの数で競うのでは不十分です。より優れたイノベーションを起こすためには、イノベーションの差別化が必要です。

生成AIが登場したことにより、変革を推進することへの緊急性が増しています。企業の経営層は、生成AIがアイデア考案、新しい価値の発見、評価から実行、商用化、さらにはパートナーとのコラボレーションや成果の測定に至るまで、イノベーション・ライフサイクル全体に重大な影響を与えると予想しています(図1参照)。ビジネス・リーダーは生成AIを単なるイノベーション・ツールの1つとは見ていません。現代企業のイノベーションの性質を、根底から変える存在だと捉えています。

経営層は、生成AIがイノベーション・ライフサイクルの各段階でパフォーマンスを向上させると予想している(生成AIがパフォーマンスを向上させると予想する経営層の割合)

生成AIはすでにイノベーション環境に変化をもたらしつつあり、今こそイノベーションのアプローチを見直す絶好の機会です。

また、従来型のイノベーションは閉ざされた空間で行われてきました。それは社内リソースを使って秘密裏に進められ、発見や競争優位性を維持する社内業務でした。ところが、従来の「閉ざされた」イノベーションはもはや通用しない時代になりました。パートナーシップを基盤とする現在のエコシステム経済において、ビジネスを成長させるために選択すべき手段はオープン・イノベーションです。

鍵となるのはコラボレーション

コラボレーションと共創(co-creation)を基盤としてオープン・イノベーションを目指す動きが広まっており、オープン・イノベーションはビジネスの成長にとって重要であると答えた経営層は84%でした。その直観に間違いはありません。IBM Institute for Business Value(IBM IBV)の調査によると、オープン・イノベーションを先駆的に活用している企業は収益成長率が他の企業を59%上回っています。

オープン・イノベーションを先駆的に活用している企業は収益成長率が他の企業を59%上回っている。

IBMの最新の調査は、この結果をさらに補強しています。代表的な大企業では、オープン・イノベーションによって生み出した収益は、収益全体の10%に達しています。仮に米国のFortune 500社企業に当てはめてみれば、オープン・イノベーションが生み出す収益は年間1.8兆ドルにもなります。

しかしこうした潜在的価値は、大部分は手つかずのままです。多くの企業はまだ、この機会を活かしきれていません。

オープン・イノベーションが成熟している企業は、成熟度の低い企業と比較して、同業他社を収益成長率で上回っている割合は3.3倍、収益性で上回っている割合は2.7倍高くなっている。

イノベーションをチーム・スポーツとして捉えなければ、ライバル企業に負けてしまいます 

テクノロジーが指数関数的に進化していく現在では、組織はエコシステム・パートナーとの協力で、どのようなビジネス価値をイノベーションから引き出すことができるのかを見極め、それを促進するために何が必要かを判断しなければなりません。

そこでIBM IBVはAPQC(米国生産性品質センター)と共同で成熟度モデルを開発しました。主要なオープン・イノベーション能力の成熟度が、どの程度イノベーション・プロセスの効率化を進め、ビジネス成果を向上させるのかを分析しました。このモデルを「Ecosystem Enabled Innovation Maturity Model(EEIMM:エコシステム活用型イノベーション成熟度モデル)」と名付け、1,000社以上の企業を対象に試験を行いました。

その結果は目を見張るものでした。オープン・イノベーションの成熟度が高い企業は、そのビジネス成果が成熟度の低い企業を大幅に上回っていました。例えば、成熟度が高い企業は低い企業と比べ、同業他社を収益成長率で上回っている割合は3.3倍、収益性で上回っている割合は2.7倍高くなっていました。

オープン・イノベーションの成熟度とは何なのか、それは業績にどのように影響するのか、そのために何が必要であるのかについて、レポートに詳細を記載しています。レポートはダウンロードすることで、お読みいただけます。

オープン・イノベーションを生み出す能力の評価をご希望の場合は、ここをクリックしてください。表示されたAPQCのウェブサイトでアンケートにお答えいただくと、評価結果と他社との比較の解説が記載されたベンチマーク・レポートをご覧いただけます。 
 

 

監訳者

鳥井卓

日本アイ・ビー・エム株式会社
IBMコンサルティング事業本部
iX Consulting
パートナー

 

下川菜名

日本アイ・ビー・エム株式会社
IBMコンサルティング事業本部
シニア・マネージング・コンサルタント
iX Consulting
DX・アジリティ戦略リーダー

 

 


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著者について

Anthony Marshall

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, Senior Research Director, Thought Leadership, IBM Institute for Business Value


Jacob Dencik, Ph.D

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, Chief Economist and Global Sustainability Research Leader, IBM Institute for Business Value


Kirsten Crysel

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, Global Performance Data and Benchmarking Director, IBM Institute for Business Value


Lisa Fisher

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, Global Benchmark Research Leader, IT, security, and cloud, and Global Research Leader, Middle East and Africa, IBM Institute for Business Value


Lisa Higgins

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, President and CEO, American Productivity & Quality Center (APQC)

発行日 2024年2月22日