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電力事業におけるデジタル化の現在と未来

有能なスマートグリッドの活用により、電力会社は再生可能エネルギーの供給源を効率的に統合し、より安価で信頼性の高い電力を供給できるようになる。

エネルギーを取り巻く状況は刻々と変化している。消費者や企業は、より持続可能なエネルギーを選択する傾向にあり、変化を実現するリーダーシップに期待している。同時に電力会社は、送電網のパフォーマンスを向上させ、さらにクリーンで分散型エネルギーによる未来を実現するべく、新たな方法を模索している。

しかし、世界を見渡すと、各電力会社の成熟度にはばらつきがあると言わざるを得ない。太陽光や風力などの天然資源利用の可能性や、使える資本に差があるため、不公平な状況が生まれている。また、ポストコロナの世界では、「ニューノーマル」という名のもとに、エネルギー企業の経営に、今までにない圧力がかかる可能性もある。

IBM Institute for Business Value(IBV)では、電力事業者の短期戦略や長期戦略の指針となるよう、「信頼性」、「レジリエンス」、「収益性」の指標が同業他社よりも優れており、持続可能なエネルギーの未来に向けて着実に前進している電力会社を特定した。

我々はこれらのリーダー企業を、「コア・パフォーマー」と呼ぶことにした。コア・パフォーマーは、絶え間ない破壊的変化に直面していても、これまで同様にエネルギー管理の基本が重要であることを示している。このコア・パフォーマーの分析は、今日の論理的で拡張可能な投資によって、今後の持続可能な電力会社を構築するためのロードマップを提示するものである。

コア・パフォーマーは、コア・パフォーマー以外の電力会社の2倍以上の利益を上げている。

これらの企業の特徴は、優れた業績を上げているだけでなく、既存のインフラやオペレーションに新たなテクノロジーを統合することを優先している点にある。これらの企業にとって、信頼性、レジリエンス、および効率性の追求が現在の最優先事項であるため、既存の設備を最適化することで、グリッド資産への新たな設備投資を延期している。さらに、コア・パフォーマーは、グリッドとインフラのスキルが、将来の成功に不可欠であると認識している。このことから、既存の従業員に、新しいテクノロジーに関するスキルを習得させることに注力している。

デジタル化のメリット

コア・パフォーマー(Core Performer)は、未来に向けた持続可能な電力供給体制を構築するためのモデルとなり得る。その目標は、再生可能エネルギーの供給源を、インテリジェントに統合、管理することである。そのためには、電力供給の状況をリアルタイムで把握し、対応することが求められる。送電体制の信頼性を高めれば、3つの要素である送電混雑の緩和、需要増への対応、より優れたセキュリティーの提供ができるようになる。

そのためコア・パフォーマーは、資産のデジタル化に着手している。モノのインターネット(IoT)に接続したセンサーと、通信技術やアナリティック・テクノロジーを組み合わせることで、より早く正確な情報を得ることが可能になり、資産を長持ちさせる戦略に役立てられるようになる。コア・パフォーマーの3分の1近くが、予知保全や品質管理のために、センサーやアクチュエーターで生成されたデータに加え、SCADAやEMSからのリアルタイムのイベントや、資産の健全性に関する指標を分析できるツールを導入している。

コア・パフォーマーの3分の1近くが、予知保全や品質管理のために、センサーやアクチュエーターで生成されたデータを分析できるツールを導入している。

平均すると、コア・パフォーマーの3分の1以上は、プラントやグリッド内で計測機器を設置・接続している。電力会社は、機器に搭載されたセンサーを使って、収集された運用データを分析する。これにより、パフォーマンスの監視、保守スケジュールの最適化、収益が不足している部分について、リアルタイムで検討できるようになる。また、コア・パフォーマーの3分の1は、ロケーション管理ソリューションを利用している。このソリューションは、高度な分析やAIと組み合わせることで、保守およびサポートのプロセスを自動化したり、訪問者や労働者の安全性を高めたりすることができる。

よりスマートで新しい電力グリッドは、消費者の電力コストを下げ、より効率的な経済に貢献する。また、再生可能エネルギー源の急速な成長を推進し、全体的なエネルギーの信頼性を向上できる。そしてこれらのメリットは、もうすぐ実現できそうなのだ。未来志向の電力事業社は、ワークロード適応型のクラウドや、分析に対応したデータ統合、サイバー・レジリエンス、従業員の再教育という4つの分野に焦点を当てることで、将来に向けた強固な基盤づくりに着手するだろう。


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著者について

Cristene Gonzalez-Wertz

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, Global Electronics, Environment, Energy, and Utilities Research Leader, IBM Institute for Business Value


Casey Werth

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, Global Cloud Solution Leader, Energy, Environment, and Utilities (EE&U) industry, IBM


Ricardo Klatovsky

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, Global Sales and Engagement Vice President, Environment, Energy, and Utilities (EE&U) industry, IBM

発行日 2021年8月1日