レポートの概要:
- 米国の対中関税は今後さらに上昇する可能性があります(注:2019年時点の予想。2022年には高インフレを背景に見直す方向や地政学的緊張を背景に継続する方向があり先行きは不透明です)。
- 関税政策は、単に経済保護主義というよりも地政学的なパワーバランスと結びついています。企業はこれまで以上に、地政学的状況を注視し、幅広い視野でさまざまなシナリオを想定して準備する必要があります。
- 企業は自社の価値提案の核となる領域において、「スマート・プライシング戦略」をもって、シェアを守りつつ拡大していく必要があります。また、こうした不確実性の高い時代において、サプライチェーンの強靭化が鍵となります。詳しくはレポートをご覧ください(また、「強靭なデジタル・サプライチェーン」などサプライチェーン関連レポートも併せてご覧ください)。
関税をめぐる新たな現実に対応する
アメリカの中国製品に対する関税は、2018年初めから話題となっていましたが、小売業者や消費財企業は、現実離れした”ブラフ”であろうと考えていました。ほどなくして、そうではないことが判明します。最初の関税はすでに劇的に増加しており、今年(2019年)中に追加で発効される見込みです。
2019年9月12日現在、米国政府は2500億米ドルの中国製品に25%の関税を課し、10月15日以降は30%に引き上げることを表明しています。残りの中国製輸入品3,000億ドルについては、9月1日に部分的に15%の関税が適用され、残りは12月15日に適用されると発表されています。その後の動きに関する憶測も飛び交っています。
そのような中、賢明な米国の小売業者や消費財企業は、関税の影響を軽減する方法を模索しています。サプライヤーとの交渉の結果、中国に拠点を置くメーカーは関税コストの多くを負担する意思があることが判明しました。米国企業は、自社の価値提案の中心から離れた商品の価格を上げるという「賢い価格変更」を採用することで、顧客価格を低く抑えることに投資しています。また、米国企業とそのサプライヤーは、万が一米中貿易が持続不能となった場合に備え、危機管理計画を加速させています。
消費者が負担する関税コストはいくら?
2019年現在、米国経済は、安定した成長や低失業率、通常より低い消費者物価上昇率を伴って良好です。また低インフレ対策で米連邦準備制度理事会(FRB)が金利を引き下げました。国内総生産(GDP)成長率も健全です。米国の消費者物価指数(CPI)は過去20年間の中でも最低水準で、さらに下がることも考えられます。米国の消費者信頼感は、貿易摩擦当初は低下がみられたものの、2019年7月には回復しました。
このように米国経済全体は関税の影響をほとんど受けていないように見えますが、いくつかの経済指標は問題の兆候を示しています。
例えば、サプライヤーはおしなべて、関税がコストに及ぼす影響を2倍近くも過大に見積もっています。極端なケースでは、小売業者が関税と同じ割合で価格を上げると予想するサプライヤーもいます。しかし、25%の関税が、必ずしも25%の消費者物価の上昇となるわけではありません。なぜなら小売業者が、中国から輸入している米国のサプライヤーから商品を仕入れる場合、25%の関税は小売販売価格ではなく、サプライヤーの仕入原価にかかるからです。さらに関税に伴う中国の通貨安は、補助金やリベート制度とともに関税の影響を相殺し、消費者価格への影響をさらに低めます。
詳しくはレポートをお読みください。
著者について
Steve Laughlin, Vice President & General Manager - Global Consumer IndustryNathan Cheng, Associate Partner, Digital Business Strategy, IBM Consulting
Brian Love, Partner, Digital Strategy, Global
Jane Cheung, Global Consumer Industry Research Leader, IBM Institute for Business Value
発行日 2019年9月12日