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すべての顧客が望むものを、望む方法で

CEOのための生成AI活用ガイド第14弾 ー デジタル・プロダクト・エンジニアリング

生成AIは過去のどのテクノロジーとも異なっています。瞬く間にビジネスと社会を揺るがす存在になりつつあり、リーダーはこれまでの想定や計画、戦略の見直しを迫られています。

こうした変化にCEOが対処するための一助として、IBM Institute for Business Valueは生成AIの調査に基づくガイドをシリーズ化し、テーマごとに公表しています。内容はデータ・セキュリティーからテクノロジー投資戦略、顧客体験にまで及びます。

今回は第十四弾として「デジタル・プロダクト・エンジニアリング」をお届けします。

 

製品開発では推測で意思決定を行わない

 

顧客が本当に望むものは何なのでしょうか。日々、変化を続ける顧客からの要求に応えるため、デジタル・プロダクト・チームは、複雑なコードベースやエンタープライズ・アーキテクチャーに対処しながら、市場調査やユーザー調査、あるいはデバイス・メトリクスから得た膨大な量のデータを扱わなくてはなりません。それは永遠的に続く苦痛を伴うプロセスであり、仮にやり遂げたとしても、それが正しかったと言える保証はどこにもありません。市場からの反応や調査結果が良好でも、なぜか売れない製品もあります。その逆に、注目されていなかった製品が予想外の売れ行きを示すこともあります。

生成AIを活用すれば、アイデア創出の合理化からテストの迅速化、機能検証に至るまで、製品開発プロセスを最適化する助けとなり、コストを削減し、市場投入までの期間が劇的に短縮されます。同時に、従業員に余力が生まれ、複雑なエンジニアリングの課題解決や、デザインとUX(ユーザー・エクスペリエンス)、UI(ユーザー・インターフェース)を通じた製品の差別化に注力できるようになります。これらのクリエイティブな仕事こそが、顧客のロイヤルティーと満足度に最も大きな影響を与える源泉です。

生成AIは膨大なデータを人よりも迅速かつ効果的に分析できるので、デジタル・プロダクト・チームはより的確に業務を行えるようになります。機械学習アルゴリズムを使って顧客行動のパターンや傾向を特定することで、生成AIは顧客ニーズをいち早く発見し、対応した機能や新製品を幾つも提案できます。そうした提案がビジネス上、妥当かどうかを具体的に検証することも可能です。

生成AIを活用することで、状況に合わせた柔軟な物づくりや顧客体験のハイパー・パーソナライゼーション(高度な個別化)を図ることができます。それによって、顧客需要の変化に迅速に対応し、その検証を速やかに行うことが可能になります。このような画期的な機能を考えると、86%の経営層が、デジタル技術を用いた製品の設計・開発で、生成AIは今やなくてはならない存在だと回答していることは、驚くに当たりません。

 

IBVが考える、すべてのリーダーが知っておくべき3つのこと:

 

そして、すべてのリーダーが今すぐ実行すべき3つのこと:

 

 

リーダーが知るべきこと1ー 「ハイパー・パーソナライゼーション + 生成AI」

生成AIにより、製品の大規模なハイパー・パーソナライゼーションが容易になる

 

すべての製品が、一人一人の顧客にカスタマイズされた世界を想像してください。そこではモバイル・デバイス、サブスクリプション・サービス、モノのインターネット(IoT)が相互に連携し、個人に向けて体験がキュレートされます。これがハイパー・パーソナライゼーションの世界であり、決して夢の世界ではありません。

生成AIが十分に発達すれば、これまでにない規模で体験をパーソナライズ化する道が拓けると、経営層は期待しています。クリック、スワイプ、インタラクションといった顧客行動を分析することで、生成AIはすべての顧客に対しオーダーメイドの製品体験を提供できます。ところが、生成AIを活用して顧客から得たフィードバックを迅速に分析・要約できている企業はわずか30%に過ぎません。しかも、これら先行企業は早くから優位なポジションに立っています。ハイパー・パーソナライズされた体験を提供している割合が、他企業より86%も高いのです。

 

 

現在、生成AIを使って、ハイパー・パーソナライズされたデジタル・プロダクト体験を提供できている企業は4社に1社に過ぎません。しかし、2024年末までには倍以上の64%になると予想されています。生成AIと共にIoTを活用すれば、真のハイパー・パーソナライゼーションを、企業が大規模に実現する上で、大きな力となるはずです。IoTデバイスを経由して、大量のデータをAIや生成AIのモデルに送り込めるからです。これが今後5年間で、IoTがAIや生成AIの次に、デジタル・プロダクトの代表的ディスラプター(破壊的イノベーター)になると経営者が謳う所以でしょう。

経営層の70%は、生成AIが先々、デジタル・プロダクトのポートフォリオをパーソナライズ化する上で貢献すると予想します。生成AIをどこまで、どれだけの速度で進化させられるかが、企業の競争優位を決することになるでしょう。生成AIが切り拓く未来では、製品は機能性を高めるとともに、パーソナライズ化される必要があり、顧客それぞれの好みやニーズ、期待がどれほど急速に変わろうとも、的確に対応することが求められます。

 

 

リーダーが実行すべきこと1ー 「ハイパー・パーソナライゼーション + 生成AI」

顧客とのやりとりから価値の高いインサイトを引き出せるよう製品開発を再設計する

 

市場トレンドにいちいち驚かされていてはいけません。独自データを集め、生成AIを有効に活用し、競合相手を凌駕します。常に学び続け、顧客が求める体験、製品、コンテンツを適切なタイミングで生成します。

 

  • 顧客のニーズをより深く学びます。ユーザーの行動や嗜好、コンテキストに基づいた動的なインターフェースを作成するために、生成AIを活用してUXやUIの領域でハイパー・パーソナライゼーションの可能性を最大限引き出します。検索結果、製品デザイン、価格設定など、あらゆる要素をカスタマイズして、顧客エンゲージメントを高め、収益を増やします。
     
  • 顧客自身が好きなように自らのデータを入力し、製品体験に反映できるようにします。データ共有についての同意を顧客から得て、データの使用方法および保護方法を明確に開示します。生成AIを活用し、隠れた顧客の嗜好を発見し、顧客が将来求めるニーズを見通すために予測分析を行います。
     
  • 顧客データを活用し、ハイパー・パーソナライズされた体験を創造します。IoTデバイスなどから得たさまざまなデータを組み合わせて、顧客体験を向上させます。生成AIを使ってデータを基に顧客が直面する課題を特定し、製品開発に反映させます。製品のバックログ(開発待ちリスト)がビジネス・バリューを最大限もたらすように生成AIで継続的に調整し、製品ロードマップ(開発計画)を適切で的を絞ったものに改善します。

 

 

リーダーが知るべきこと2ー 「アイデア創出 + 生成AI」

生成AIを使えば、新製品の構想・評価に必要な時間を数日から数分に短縮できる

 

生成AIの登場は、従来の製品設計プロセスを根底から変えてしまいました。繰り返しブレインストーミングをしたり、疲れ果てるまでピッチセッション(事業案の簡潔な説明)を行ったりする時代は過去のものとなりました。今では生成AIにより、大規模なデータ・セットを使用して、マーケット・ポテンシャルに優れた数十ものアイデアを瞬時に生み出すことができます。それによって従業員に余力が生まれ、顧客の反応を検証することや、好機を捉えることに専念できます。

生成AIの技術が成熟するにつれて、経営層の意識は変わりつつあります。例えば、経営層の3分の2は2026年までに生成AIが自社の製品ロードマップを変える、あるいは作成まで行うようになると予想しています。すでに3分の1近くの組織が生成AIを使って、デジタルによる製品アイデアの創出を行っており、競合他社に対し優位性を確立しています。実際に、いち早くこうした取り組みを進めた企業は、その他の企業と比較して、2023年には新製品で17%、既存製品の改良では5%収益力をアップさせています。

 

 

しかし、収益力のアップは単なる始まりに過ぎません。すでに生成AIを製品アイデアの創出に活用している組織の経営層では、10人中9人が、生成AIを活用することで顧客ニーズや新たなビジネスチャンスへの対応が迅速化し、競合他社との差別化ができるようになったと回答しています。さらに、生成AIは今後、「製品の差別化」(88%)、「製品の信頼性向上」(83%)、「製品の品質改善」(80%)にプラスに働くとみています。こうした組織は、生成AIのアイデア創出への活用を2024年末までに目指す組織と比べ、一貫して楽観的です。これまでの経験が自信を深めさせたのでしょう。

すでに製品アイデア創出に生成AIを活用している組織は、AIで人の作業を補完する基盤づくりに率先して取り組んでいます。「アイデアの優先順位の決定」「複数分野にまたがるチームの設置」「ガバナンスの充実」に取り組む組織が、他の組織より、それぞれ22%、29%、39%多いです。こうした中で、経営層はデジタル・プロダクト事業で直面する最大の課題がスキル不足だと指摘しています。

生成AIにより、製品関連のアイデアは瞬時に生み出せるようになりましたが、内容をレビューして、検証・改良したり、完成させたりするのは人間です。人の関与がこれまで以上に重要であり、人と機械のパートナーシップをサポートするシステムやプロセスも同様に重要であり続けるでしょう。

 

 

リーダーが実行すべきこと2ー 「アイデア創出 + 生成AI」

生成AIを活用したワークフローの急増に備え、強力なチームを構築する

 

生成AIを活用し、顧客と一緒に大量のアイデアを生み出し、迅速に検証します。製品チームの人材には、市場で成功が見込めるアイデアの検討、強化、展開に集中的に取り組ませます。

 

  • 生成AIをチーム・メンバーとして扱います。生成AIを組み込んだ、拡張チームのワークフローを作成します。それぞれの責任を明確化し、チームのメンバーと生成AIアシスタントがどのインプットやアウトプット業務を担当するのかを特定します。生成AIは、フィードバックの分析や設計オプションの生成、開発時間の短縮、無駄な労力の削減に使います。
     
  • レビュー・プロセスを見直し、コストの削減と効率化を図ります。AIが生み出す大量のアイデア、パターン、傾向を追跡し、成功の予測支援に用いるKPIと共にアイデア管理システムを導入し、KPIなどを用いて成功を予測します。アイデアの創出、評価、実施のプロセスを効率化します。
     
  • 技術革新のスピードが増す中、生成AIを活用して、反復的な作業を補い、実験コストを削減します。コードと製品要件に基づいてテスト・ケースを生成・実行し、急速に進化することで増えつつあるデジタル・プロダクトのバグや不具合を減少させます。

 


リーダーが知るべきこと3ー 「デザイン + 生成AI」

コード生成が迅速化され、デザインに専念できるようになる

 

消費者の期待は日々、急速に変化しており、プロダクト・チームは追いつくことに必死です。生成AIを活用して、コードを迅速に生成すれば、顧客が求める品質やデザインを犠牲にすることなく、プロトタイプを速やかに展開できるようになります。

では、どうすれば実現できるのでしょうか。生成AIを開発チームが責任を持って使用することが重要であり、それによりコーディング・プロセスやテスト、反復作業がより速く行えるようになり、市場投入までの時間を短縮できます。また、生成AIに関する適切なトレーニングやガバナンスを行い、インセンティブを提供すれば、開発チームはリスクを管理しながら迅速に動き、クリエイティブなリソースをUXやUIのデザインに集中させ、顧客体験を総合的に向上させられます。

 

 

調査によると現時点で、経営層の87%は自社がコードのテストに少なくともかなりの労力を費やしていると回答し、83%は短いリリースサイクルでの新機能開発についても同様に考えています。経営層はこれらの負担を軽減したいと切望しています。

先進企業のうち、2025年までにデジタル・プロダクトのコード生成に生成AIの使用を計画しているのは10社中6社以上で、翌26年までだと10社中9社以上に及びます。早期に着手すれば、実際にメリットがあります。これまでデジタル・プロダクトのコード生成に生成AIを利用している組織は4社に1社に過ぎませんが、すでに成果を上げています。

こうした企業は収益成長率で他社を上回る割合が35%高く、競合他社との差別化に重要な注力分野であるUXとUIのデザインに開発チームが集中できていると回答した割合は48%高いです。さらに、生成AIをコード生成に導入済みの企業では、UXとUIのデザインが課題だと回答した企業は30%にとどまりますが、2026年までの導入を目指す企業では45%に増えます。

 

 

リーダーが実行すべきこと3ー 「デザイン + 生成AI」

顧客体験とイノベーションについて、プロダクト・チームのスキルを向上させる

 

生成AIを活用して、ビルド(開発)とテスト(検証)のサイクルにおける時間とコストの無駄を明らかにします。そうして得られた時間的・経済的リソースを、UXやUIの向上に、さらには革新的な製品開発に再配分します。

 

  • 製品の開発者やデザイナーを、従来のやり方や技術から解放する。チームに新たな学びの機会を与え、生成AIを創造的に活用できるように支援します。研究開発に専念できる期間を設けたり、ハッカソン(開発者が集まって、短期間で新しいソフトウェアやアプリを開発するイベント)を後援したりして、開発者がスキルを高める機会を与えます。 
     
  • クリエイティビティー(創造性)や顧客コンテキスト(市場や顧客背景)に関し、チームのメンバーが学ぶ機会を増やします。チームの全員が、エクスペリエンス・デザインの領域で専門知識を習得できるよう支援します。イノベーションを起こすことを戦略とし、部門を超えたコラボレーションを奨励します。失敗を恐れずに実験するための機会を設けます。
     
  • 従来、製品やシステムのテストが主務であった品質保証テスターの業務を、ユーザーリサーチにまで拡張します。品質保証テスターにリスキリングを促し、コンセプト検証やユーザビリティー・テストなど、より価値の高いテスト活動に従事させます。

 

本ページに記載されているインサイトは、IBM Institute for Business Valueの独自データに基づいています。このうち、世界でデジタル・プロダクトを扱う企業幹部450人を対象としたパフォーマンス管理およびベンチマークの調査は、2023年12月から24年2月にかけて行われ、デジタル・プロダクトでのAI導入状況や、導入に伴う指標への影響について調べました。 


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発行日 2024年4月29日