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効率性向上は出発点

CEOのための生成AI活用ガイド第15弾 ー ビジネス・プロセス・オートメーション :生成AIを活用するためにCEOが知っておくべきこと、今すぐ実行すべきことを解説します。

生成AIは過去のどのテクノロジーとも異なっています。瞬く間にビジネスと社会を揺るがす存在になりつつあり、リーダーはこれまでの想定や計画、戦略の見直しを迫られています。

こうした変化にCEOが対処するための一助として、IBM Institute for Business Valueは生成AIの調査に基づくガイドをシリーズ化し、テーマごとに公表しています。内容はデータ・セキュリティーからテクノロジー投資戦略、顧客体験にまで及びます。

今回は第十五弾として「ビジネス・プロセス・オートメーション」をお届けします。

 

新時代の「ワークフローの匠」を呼び起こせ

 

誰もが生成AIを使いこなして、生産性を向上させたいと熱望しています。しかし、イノベーションには人の関与が必要です。テクノロジーにより飛躍的に成長を実現するためには、オペレーション・リーダーがまずワークフローに精通し、生成AIを活用した仕事のやり方を再構築しなければなりません。

これら先見の明があるリーダーは、バック・オフィスを戦略策定の中心へと変革すべきです。日常業務ばかりに目を奪われずに、エンドツーエンドのオペレーションに気を配り、より早く価値生み出すための画期的な方法を模索すべきです。既存のタスクを自動化するということではなく、非効率なプロセスを見つけ出し、全く新しいワークフローを導入するということです。

生成AIを活用して人間の創意工夫を強化できれば、リーダーは、時間やエネルギーだけでなく、共感や創造性を必要とする高付加価値な仕事に人材を集中させることができるようになります。そのためにはまず、生成AIがもたらす価値を知るべきです。懐疑的な人は「生産性向上」を「人員削減」と捉えがちです。最高経営責任者(CEO)は生成AIの導入によって何が実現し、オペレーション・チームをどう支援できるかを明確に示す必要があります。

生成AIによる自動化と拡張の境界線が曖昧になるほど、従業員は自分たちの役割をどのように高めていくか考えなければなりません。変化するビジネス・ニーズにすばやく対応するためには、AIアシスタントを活用し、どのようにプロセスを組み合わせればよいのかを従業員も理解すべきです。オペレーション・チームのメンバーに自分たちは重要な役割を担っているという自負があれば、彼らは生成AIが急速に進化し続ける時代におけるビジネスの成長エンジンとなり得ます。

 

IBVが考える、すべてのリーダーが知っておくべき3つのこと:

 

そして、すべてのリーダーが今すぐ実行すべき3つのこと:

 

 

リーダーが知るべきこと1ー 「実験 + 生成AI」

近い将来、バック・オフィスは生成AIのハブになる

 

リアルタイムの報告から、脆弱(ぜいじゃく)なグローバル・サプライチェーン、フィンテックの出現まで、かつてない複雑性が業務を一変させようとしています。一見、生成AIはこのような複雑性を助長するようにも見えますが、ひとたびチームに受け入れられれば、煩雑さを解消する強い味方になります。

経営層は生成AIの可能性を楽観視しており、業務全般に幅広く適用することを期待しています。2025年までに、ビジネス・プロセスを現在よりも61%増強する計画で、人事と、調達から支払いまで(Source to Pay)、潜在顧客発掘から回収まで(Lead to Cash)、記録から分析まで(Record to Analyze)といった財務プロセスにほぼ均等に配分されます。経営層は、生成AIによる生産性向上は41%に達すると予測しており、この効果が最終利益に大きな影響を与えることは、間違いなさそうです。

 

 

しかし、CEOが目指すべきは完璧さではなく、前進です。生成AIから最大の価値を引き出すためには、明確なガイドラインの下でに実験、失敗に対する耐性、発生する課題を克服するための意欲が必要です。例えば、経営層の10人に4人が、AI導入時に直面する障害として、データのプライバシーに関する懸念と従業員の抵抗を挙げています。

バック・オフィスを生成AIのハブに進化させるために、CEOとオペレーション・リーダーは、イノベーション、ガバナンス、継続的学習の文を醸成しなくてはなりません。また、従業員が踵を返すことがないよう、抜本的なリスキリングの機会を提供すべきです。そうすることで、将来がいかに混沌としようとも、戦略的に混乱に対応する機会を見つけ出すことができるでしょう。

 

 

リーダーが実行すべきこと1ー 「実験 + 生成AI」

オペレーション・チームに実験の機会を与え、事後に検証させる

 

創造的にプロセス自動化を実現し、その有効性を明文化したチームに報酬を与えます。報告文書には、測定可能なビジネス価値をもたらした点と、力が及ばなかった点を明示するよう求めます。

 

  • 学びをリアルタイムで共有し、価値創出を加速させます。共有のコミュニケーション・チャネルや文書ポータルを通じて、自分の経験を連携するよう従業員に求めます。
     
  • 大きな成功に対してだけでなく、チームのイノベーティブな精神を評価することで、ROI(投資対効果)を高める新たな方法を発見します。組織全体にわたるプロセス革新、細部にわたる効率性向上、貴重な教訓とも言える早期の失敗を奨励します。
     
  • 予測分析を行い、生産性を高めます。生成AIを使ってパターンや傾向を検出して、ワークフローを合理化する機会を見つけ出します。そうして導き出したインサイト(洞察)にすばやく対応できるよう、柔軟なオペレーティング・モデルを導入します。

 

 

リーダーが知るべきこと2ー 「業務の強化 + 生成AI」

生成AIにより、テクノロジーがチームメートに変わる

 

ツールは信頼できるチームメートになり得るでしょうか。従業員は確信を持てないかもしれませんが、ほとんどの経営層はなり得ると回答しています。

生成AI搭載のアシスタントはまもなく従業員に代わって、情報の照会、検証、集約を確実に行えるようになり、従業員が戦略的な業務に集中できる時間は増えるだろうと予想する経営層は87%に上ります。また、従業員はこの新しいチームメートを大いに歓迎だろうと期待しています。2025年までに、シームレスなプロセスを実現するべく、従業員がデジタル・チームメートと共同で業務を遂行しなければならなくなると考える経営層は全体の約3分の2(64%)存在しています。

一方で、経営層は人的面において懸念を抱いていることが、2024年のIBM「CEOスタディ」で判明しています。具体的には、経営層の64%が、AIの導入の成功は、テクノロジーそのものよりも、従業員が受け入れるかどうかにかかっていると回答しました。また、61%が一部の従業員に懸念を抱かせるほど急速なペースで、自社は生成AIの導入を進めていると答えています。

 

 

この先起こる変化の大きさに身構えるのは当然ですが、生成AIを活用する従業員にとっての潜在的なメリットは絶大です。例えば、経営層の60%が2025年までにAIアシスタントが従来型プロセスの大半を実行するようになると考えています。また、ほぼ3分の2(64%)の経営層は、2025年までに、取引処理において従業員が主なインテリジェンス・ポイントとして相手するのはAIアシスタントになると予想しています。こうした変化が実現すれば、従業員は日常業務から解放され、より高価値で、楽しく、創造的な仕事に多くの時間を割けるようになるでしょう。

AIアシスタントはすぐに全部門で必要不可欠なチームメートになるかもしれませんが、そのためには、組織が適切なガードレール(安全対策やガイドライン)を築くことが条件となります。従業員から信頼を勝ち取るためには、AIは自身の回答を説明できなくてはなりませんし、ハルシネーションやバイアスのかかった回答が示された場合は、それらを識別できなくてはなりません。

生成AIを実際のワークフローに統合するためには、考慮すべき点が多く、大がかりな作業が必要となります。また、他よりも変革が進んでいる分野もあれば、そうでない分野もあります。例えば経営層の63%は、記録から分析まで(Record to Analyze)のプロセスを自動化するためには、最高財務責任者(CFO)向けのセルフサービス・アシスタントが必要だと答えています。そして、61%は人事部門の従業員向けにも、セルフサービス・アシスタントが同様に必要だと答えています。このように大量のデジタル・チームメートが労働力として加わりつつある中、オペレーション・リーダーは従業員が生成AIを有効活用する方法を理解できるよう、サポートしなくてはなりません。こうした課題に意欲的に取り組む従業員は、ビジネスを成長させる新たな道筋を切り拓き、全く新しいキャリア・パスを開拓することができるでしょう。

 

 

リーダーが実行すべきこと2ー 「業務の強化 + 生成AI」

AIアシスタントをレーシングカーとして、従業員をプロのカーレーサーとして扱う

 

AIアシスタントを使ってプロセス自動化または強化すべき分野と時期を示すロードマップを従業員に提供します。この強力なマシンを、効果的、かつ責任をもって利用する方法を説明する担当者用マニュアルを併せて共有します。

 

  • 合理的な設計で、煩雑さを軽減します。オペレーション・チームが最もストレスを感じるプロセスを特定し、それらを自動化する方法を見つけます。
     
  • ガードレール(安全対策やガイドライン)を強化します。従業員がちゅうちょなく取り組めるよう、生成AIの責任ある使用法を指導します。
     
  • 必要な場合に自動対応できるよう、生成AIに学習させます。生成AIの自己学習トレーニング・プログラムを導入し、コンプライアンス・リスク評価、不正行為の検知、収益性分析などのタスクにおけるパフォーマンスと精度を向上させます。

 


リーダーが知るべきこと3ー 「スキルと能力 + 生成AI」

スキルの向上とアウトソーシングで、前進を加速させる

 

ビジネス・リーダーは生成AIの導入に関して、人材が不足していることを認識しています。社内人材の教育や、外部人材の採用することで対処することも可能ですが、それには何年もかかり、それほどの猶予はありません。

生成AIの導入競争が激化する中、組織は数カ月、場合によっては数週間で高水準のROIを達成するよう求められるようになりました。これに対し経営層は、外部の専門性を活用することで取り組みを強化しようとしています。大半の経営層は、人事と財務部門の多くのプロセスにおいて、AIを活用したデジタル・トランスフォーメーション(DX)を加速させるために、ビジネス・プロセス・アウトソーシング(BPO)プロバイダーと連携しようとしています。アウトソースに最も適していると考えられるのが、人事部門の社内教育、財務部門における調達、営業支援サービス、一般会計処理です。

 

 

しかし、アウトソーシングだけでは限界があります。長期にわたって成功を収めるためには、企業は社内の人材のスキルを向上させる必要もあります。2025年までに人事部門向けに生成AIのスキルおよび役割に投資する可能性が高いと答えた経営層の割合は84%でした。また、財務部門の調達から支払いまで(Source to Pay)には71%、潜在顧客発掘から回収まで(Lead to Cash)には73%、記録から分析まで(Record to Analyze)には76%の経営層が人事部門同様の投資を希望しています。こうした投資は重要であり、生成AIに特化したスキルに配分されるスキル関連予算は、2023年から2025年で18%増加すると経営層は予想しています。

競争優位を高める社内の人材開発と、自社の成長につながるスキルと専門性を獲得するためのパートナーシップとの間で、CEOは適切なバランスを取らなくてはなりません。生成AIの専門性を伸ばし、変革の原動力となるエコシステムとのパートナーシップを構築できた企業に対してのみ、未来は拓かれているのです。

 

 

リーダーが実行すべきこと3ー 「スキルと能力 + 生成AI」

管理体制を見直し、能力を強化する

 

生成AIの専門性を持つパートナーを活用して、自社の競争優位性に影響しない非中核的なプロセスを自動化します。プロセス・オーケストレーター、デジタル・ライブラリアン、エクスペリエンス・デザイナーなどの新しい職務を社内に創設し、管理業務を改善します。

 

  • 外部の力を利用して、専門性を拡大します。BPO(Business Process Outsourcing)プロバイダーと連携して社内の能力を補強します。自動化とワークフロー最適化の可能性を広げ、最先端のAIと自動化技術を迅速に導入します。 
     
  • これまでになかった新たなキャリア・パスを構築します。自社で新設すべき職種を検討します。例えば、プロセス・オーケストレーターを採用して、業務全体にわたるAIアシスタントを管理させます。また、デジタル・ライブラリアンに、プロンプト・ライブラリー、生成AIモデル、ガバナンスおよび倫理のガイドラインを管理させます。
     
  • エクスペリエンス・デザイナーを活用して、プロセスを最適化します。プロセス自動化に対して説得力のある価値提案を定義します。目指す価値を実現し、ユーザーの期待を上回る体験を設計します。

 

このページに記載されたインサイトは、IBM Institute for Business Valueによる幾つもの独自データ・ソースに基づいています。具体的には、人工知能がビジネス・プロセスに与える影響について米国の経営層400人を対象に実施した調査(2023年10月)、生成AIと人材・スキルに関して同経営層300人を対象に実施した調査(23年5月)、インテリジェント・オートメーションについて世界の経営層2,000人を対象に実施した調査(23年4月~6月)などです。「IBM IBV 2024 CEOスタディ」に掲載したインサイトも参照しています。 


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著者について

Anthony Marshall

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, Senior Research Director, Thought Leadership, IBM Institute for Business Value


Cindy Anderson

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, Global Executive for Engagement and Eminence, IBM Institute for Business Value


Christian Bieck

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, Europe Leader & Global Research Leader, Insurance, IBM Institute for Business Value


Karen Butner

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, Global Research Leader, AI Automation, Supply Chain, Virtual Enterprise, IBM Institute for Business Value

発行日 2024年5月27日

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