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財務部門の生成AI革命が始まる

CEOのための生成AI活用ガイド第13弾 ー 財務

生成AIは過去のどのテクノロジーとも異なっています。瞬く間にビジネスと社会を揺るがす存在になりつつあり、リーダーはこれまでの想定や計画、戦略の見直しを迫られています。

こうした変化にCEOが対処するための一助として、IBM Institute for Business Valueは生成AIの調査に基づくガイドをシリーズ化し、テーマごとに公表しています。内容はデータ・セキュリティーからテクノロジー投資戦略、顧客体験にまで及びます。

今回は第十三弾として「財務」をお届けします。

 

財務チームの分析力を解き放ちます。

 

今日のダイナミックなビジネス環境では、インフレや地政学的な不確実性、規制の激変、規制・報告基準の変遷、関税・貿易取引の不確実性および不安定な資本コストなど、企業は数々の困難に直面しています。しかし、このような経済的逆風にもかかわらず、成長と利益拡大は以前にも増して欠かせないものになっています。

こうした課題に対処するため、最高財務責任者(CFO)や彼らが率いる財務部門は新たなアプローチを取り入れ、生成AIの力を活用した財務管理を実現しなければなりません。生成AIにより、CFOと彼らのチームは自社をより素早く前進させるために取るべき方策を理解し、適切なインサイト(洞察)を適切なタイミングで提供できるようになります。

テクノロジーがビジネス環境の再構築をもたらす中、最高経営責任者(CEO)は、限られた予算の使い道について助言してくれる財務の責任者を必要としていますが、そこで極めて重要な役割を果たすのがCFOです。CFOは、テクノロジー投資による成果の状況や、最も費用対効果を上げている領域が分かっているに違いありません。テクノロジー支出とビジネス価値の対応関係を明らかにすることで、財務部門はCEOが求めるインサイトを提供し、変革と成長を劇的に加速させることができます。

その成功は、財務部門がデータを実践的なインサイトにどれだけ迅速に変換できるかにかかっています。生成AIが最も価値を発揮できるのは、まさにこの領域です。生成AIは、これまで手付かずだった非構造化データに秘められた可能性を解き放ち、財務部門の分析報告をより優れた、より戦略的なものにするのに貢献します。

従来のAIでは財務データ内のパターンを認識することしかできませんでしたが、生成AIは主要なテーマや傾向を特定するとともに、組織の強みと弱みを浮かび上がらせ、隠れた市場機会を発見することもできます。生成AIを活用することで、CFOは複雑なリスク環境を乗り切り、今まで以上に自信を持って投資判断を下すことや、生産性の改善やコストの削減、予測精度の向上および新たなビジネス価値の創造につなげられます。

しかし少なくとも現時点では、財務部門でのAIの導入率は依然低いです。IBM IBVが最近、CFOを対象に実施した調査によると、従来型のAIテクノロジーの最適化を済ませた財務部門の割合は1割に過ぎず、生成AIを最適化している財務部門の割合に至ってはわずか2%にとどまっています。

CFOがCEOの求めに応じて戦略的トランスフォーメーションのパートナー役となるには、こうした現状の変更を急ぐ必要があります。

 

IBVが考える、すべてのリーダーが知っておくべき3つのこと:

 

そして、すべてのリーダーが今すぐ実行すべき3つのこと:

 

 

リーダーが知るべきこと1ー 「FinOps + 生成AI」

FinOpsには生成AIが必要であり、生成AIにはFinOpsが必要です

 

企業が重要なインフラを更新し、ビジネス部門が生成AIによるイノベーションの新たな機会を見いだす中で、財務部門は、一つ一つのテクノロジー投資の価値を効果的に評価できなければなりません。しかしそれにとどまらず、財務部門はテクノロジーがもたらすビジネス上の利益、すなわち真のテクノロジーROIの全体像を理解し、説明できることも必要です。

生成AIが企業に競争力を与えるという点では、業界を問わず経営層の意見は一致します。CFOたちも、生成AIを社全体に導入することについて、向こう3年間で競争優位を実現する上で最も重要な要素になると答えます。

しかし、生成AIのユースケースはどれも同じというわけではありません。生成AIがどの領域に最も大きなビジネス価値をもたらすのかを特定するには実験が不可欠です。その中で、財務部門はCEOをはじめビジネス・リーダーたちの後ろ盾となって、生成AIが最も可能性を発揮できる領域を見極め、創出された新たな収益源の管理と説明責任に取り組めるよう支援できます。

 

 

FinOps、つまりクラウドベースの投資に対する財務管理は、生成AI関連の投資判断において大きな役割を果たすはずです。FinOpsはクラウドが関わる財務データの可視性を高めるとともに、運用効率を明らかにし、リターンを測定します。ほとんどが成り行き任せになりかねないプロセスをしっかりと系統立てたものに変えることで、クラウドのコストが説明不能になる可能性を減らすことができます。

ほとんどの企業がハイブリッドクラウド環境に移行するにしたがって、クラウド・インフラのコストは爆発的に増加する可能性もありますが、企業全体を扱う規模の生成AIになると、こうしたコストが倍々的に急増する恐れがあります。だからこそ、FinOpsを早期に統合することが極めて重要です。FinOpsは未来のシナリオをモデル化することで、どこで支出が必要になり、どこでそれを回避できるのかを明らかにします。この財務管理フレームワークとそれによって確立される新たな組織文化やガバナンス慣行は、クラウドのビジネス価値と生成AIのビジネス価値や、これらビジネス価値の間に介在するあらゆる価値を最大化するために不可欠です。

しかし、大事なのは、FinOpsが生成AI導入の価値を高めるということだけではありません。それとは逆に生成AIがFinOpsの価値を向上させるという側面もあります。具体的には、生成AIはベンダーの請求書やITアーキテクチャーのガイドラインといった多数のソースからの情報を速やかに分析・要約した上で、改善が必要な領域を特定できるのです。自組織についての深い知識を持つAIアシスタントとのチャットも実現し、社内チームはリスクや機会により迅速に対応できるようになります。

調査によると、クラウド・トランスフォーメーションでFinOpsの活用で得られるビジネス価値の大部分は、イノベーション(38%)、レジリエンスの向上(28%)、コスト効率(19%)の形でもたらされます。AI搭載ソフトウェアを使用してFinOpsモデルを実現した組織の大半が、20%以上のコストを削減できたと報告しています。AIを使用していない同業他社は、10%未満のコスト削減にとどまっています。

しかし、こうした潜在的なメリットが明らかにあるにもかかわらず、現時点でFinOpsの機能を導入済みの企業は31%に過ぎません。生成AIを社全体に大々的に展開するために、テクノロジー・リーダーと協力しているCFOの割合もわずか26%です。

生成AIの開発、展開、保守といったクラウド関連の財務を管理する体系的なアプローチを提供することで、FinOpsは、企業が生成AI導入を効率的かつ効果的に拡大できるよう支援します。例えば、生成AIを対象としたFinOpsにより、企業が特定のユースケースのコストとその潜在的メリットをより正確に評価することで、リーダーたちは潜在的なビジネス・インパクトに基づいて各種ユースケースをランク付けできるようになります。また、用途に合わせた小規模な生成AIモデルで分析することにより、大規模言語モデルよりも優れたコスト・パフォーマンスを実現し、そのモデルを全社的に展開すれば、数百万ドルものコスト削減につながります。FinOpsは、財務チームが生成AIの特定の用途に関連するリスクを評価し、発生し得る問題に対処するためのコンティンジェンシー・プランを策定する際にも役立ちます。

 

 

リーダーが実行すべきこと1ー 「FinOps + 生成AI」

FinOpsを生成AIでファインチューニングし、全社的に適用することで、テクノロジーの価値をさらに高めます

 

生成AIを使ってFinOpsを改善すれば、さらに正確かつ効率的なFinOpsを実現できます。それとは逆に、FinOpsを生成AIに適用すれば、費用便益分析の向上につながり、社内チームは各種ユースケースに優先順位を付けやすくなります。

 

  • 自社にFinOpsの機能がない場合は、この機会に、生成AIのFinOpsを扱うための中核を担う組織を立ち上げます。財務、IT、事業部門のそれぞれのリソースを割り振った責任分担マトリックスを作り、ガバナンスを確立します。
     
  • 自社がすでにFinOpsを取り入れている場合は、FinOpsのプラクティスを生成AI投資に直ちに適用します。コストの見積もりと追跡のフレームワークを導入し、生成AIプロジェクト関連のコストを社内チームが把握しやすくします。
     
  • 生成AIを使ってFinOpsの機能を強化します。財務のデータとシナリオをシミュレーションすることで、財務モデルの精度を高め、リスク管理を改善させるとともに、戦略的な意思決定をサポートします。

 

 

リーダーが知るべきこと2ー 「トランスフォーメーション + 生成AI」

生成AIは財務チームに大きな力を与えます

 

生成AIは、財務部門の力をいっそう強化します。財務チームを雑務から解放し、生産性の大幅な向上とさらなる戦略的貢献をもたらします。AIを導入済みの企業では、財務部門のフルタイム当量(FTE)の平均40%をAIに担当させています。この結果、財務チームは、プランニングに関わる決定を状況に合わせてリアルタイムで迅速に修正するなど、より価値の高い戦略的な仕事に集中できるようになります。

自動化可能なタスクには、どのようなものがあるでしょうか。財務の計算や予測、契約管理、コンプライアンス管理など多種多様なユースケースが考えられますが、IBM IBVの調査によると、生成AIの利用で最も価値の実現が見込まれる財務領域としては、異常の予測(47%)、差異の説明(41%)、シナリオの生成(40%)、レポートの作成(39%)、買掛金の管理(38%)、売掛金の管理(38%)などが挙げられます。

 

 

生成AIは、自組織の財務関連の知識を取り込み、活用できます。例えば、会計上の方針について助言を求めている財務担当者に対し、生成AIは処理や対応の方法について提案できます。生成AIは、財務データの分析により矛盾や異常を特定することでコンプライアンス監査を効率化し、その結果として、人間の従業員がモニタリングや手動テストに強いられる時間を短縮できます。

生成AIは、契約のレビューや条件交渉のプロセスも効率化できます。法的な文言を分析して、潜在的な問題やリスクのある条項、さらには改善の機会を特定することで、より戦略的な交渉を実現できます。その結果、財務チームは、規制の順守や倫理基準を堅持する上で妨げとなっているリスクの特定や評価、軽減に取り組んだり、関係管理に集中するための時間的な余裕が増えます。

ユースケースは多様でも、共通するテーマが1つ残されています。適切なガバナンスを導入することで、人間の従業員は真のイノベーションに取り組むことがこれまで以上に可能になるとともに、財務パフォーマンスを向上させ、成長を推進しやすくなるということです。

従来型のAIをすでに財務向けに最適化している1割の企業は、生成AIも併せて導入することで、こうしたメリットを加速させ、拡大できます。AIの導入はすでに、売上予測の誤差の57%低減や、貸倒金の43%削減、月次決算業務のサイクルタイムの33%短縮に役立っています。パフォーマンス上位の企業は、すでに戦略やビジネスモデルの変化に対応するためにAIの助けを借りていますが、生成AIを導入すれば、メリットはさらに大きくなります。

加えて、AI導入が進むほど、もたらされる価値はますます大きくなります。いまだAIの導入段階にある企業でもすでに、AI投資による現時点のROIを18%と報告しており、AIの運用に乗り出した企業では、ROIは24%です。しかし、最適化の段階まで進んだ企業では、ROIは前の段階と比べて2倍となる51%に達しています。

 

 

リーダーが実行すべきこと2ー 「コトランスフォーメーション + 生成AI」

生成AIによる自動化の機が熟している労働集約的なタスクから取りかかります

 

手作業や日常業務を自動化できる生成AIツールを導入するようCFOを促します。まずリスクの特定や軽減のためのユースケースに集中し、中核的な財務機能に影響を及ぼしそうな投資は後回しにします。ただし、強力な技術的基盤が整ったら、迅速な投資拡大が必要です。

 

  • 生成AIの短期的な限界を認識しつつ、その可能性を最大限に活かす計画を立てます。生成AIはまだ数値分析が得意ではありませんが、遠くない将来にはそれを克服するでしょう。付加価値のあるユースケースを今のうちに開発しておき、こうした将来の生成AIの能力向上に備えるべきです。
     
  • 財務組織全体にわたるガバナンス体制を構築し、各種の生成AIユースケースの舵取りに取り組みます。ガバナンスの空隙を埋め、倫理ガイドラインを策定することで生成AIの倫理的な導入をサポートします。各自が担う人間としての責任と説明責任の文化を拡大し、テクノロジーの領域にまで適用します。
     
  • 日々の業務の中から対象を絞って生成AIを導入するようCFOに求めます。各従業員に特定の日常タスクに生成AIを使用してもらいます。生成AIの導入に際しては現実の職務との調整も行うことで、従業員の抵抗を克服し、生成AIという変革的技術の価値を証明できます。

 


リーダーが知るべきこと3ー 「意思決定 + 生成AI」

生成AIはコストを削減するだけでなく、新たなビジネス価値を創造します

 

生成AIがかつてないレベルの生産性向上をもたらすことは極めて明白です。しかし、それは始まりに過ぎません。財務部門での生成AIの導入は、コストの抑制や効率性の改善を凌駕(りょうが)する意味を持ちます。CFOは意思決定を強化し、企業戦略を遂行するためにも生成AIを活用できます。

CEOが求める戦略的アドバイザーとなるには、CFOはバックオフィスの財務処理だけでなく、ビジネスモデルのイノベーションにも集中することが必要です。多くのCFOはテクノロジーの専門家ではありませんが、デジタル・トランスフォーメーション(DX)によって創出されるビジネス価値を測定し、最も効果的な投資を提案できなければなりません。

生成AIは、財務チームが重要な作業に専念できるよう後押しします。具体的には、財務ダッシュボード、アナリストの情報伝達、売上の分析向けの説明文を策定することで、財務スタッフが意思決定支援に重点的にかける時間を90%増やすことができます。顧客からの請求や控除額を自動的に検証して不必要な支出を減らし、収益損失を60~70%削減することも可能です。こうしたパフォーマンスの向上の結果、企業の最終利益を大きく押し上げる可能性があります。しかし生成AIが効果を発揮するには、それを使いこなせる人材が不可欠です。企業は日常業務の中でこのテクノロジーを責任を持って活用するために、財務チームを訓練する必要があります。

 

 

多くのリーダーはこの必要性を認識しており、それに応じた投資を行っています。例えば、企業の3分の2近くはすでに、財務部門用のコグニティブ・システムのトレーニングに必要な機械学習やアルゴリズムのスキルへの投資を行っています。半数以上の企業は、財務チームのデータサイエンス、モデリング、シミュレーションのスキルに投資しています。しかし、AI用のセンター・オブ・エクセレンスを導入している財務組織は40%未満にとどまっており、従業員向けに生成AIのトレーニングを実施している組織はわずか18%に過ぎません。

もう1つ、解決の鍵を握るのが企業内に蓄えられたデータです。多くの組織では、非構造化データが依然、サイロ化された状態にあります。しかし、生成AIがCEOレベルの戦略的な意思決定のために的確な情報を提供するには、一貫性のあるデータと統合されたデータ・アーキテクチャーが必要です。業界トップグループの財務組織の71%は標準化されたデータ・アーキテクチャーを導入済みです(それ以外の組織ではわずか39%)。このデータ基盤があれば、CFOは単に財務データを提供するだけでなく、基礎となるビジネスKPIを定義して財務パフォーマンスの向上に役立てることができます。

 

 

リーダーが実行すべきこと3ー 「意思決定 + 生成AI」

生成AIアシスタントを導入することで、戦略をさらに効果的に遂行します

 

大量のデータを素早く分析することで、AIアシスタントは傾向を特定し、戦略的な意思決定に役立つインサイトを提供し、組織が競争相手より常に一歩先を行くよう支援できます。生成AIを主要な財務機能に活用すれば、CEOは市場環境の変化にさらに迅速、かつ効果的に対応できるようになります。

 

  • 予測と予算の差異を正確に説明できるように生成AIモデルをトレーニングすることで、ビジネス上の意思決定をサポートします。生成AIの予測モデルに過去データと外部情報を組み込むことにより、シナリオ・プランニングの幅を広げ、生成AI自体も拡張することで、イノベーションを加速させます。 
     
  • デジタル・アシスタントを導入し、財務関連の正確性やスケーラビリティー、スピードを向上させます。手動業務の自動化によって、人為的ミスの可能性を減らすとともに、ビジネス意思決定に活かす財務分析を効率化します。例えば、財務の計画・分析用の生成AIアシスタントを開発し、損益に関する質問に対応できるようにします。調達から支払いまでの領域では、生成AIアシスタントの活用で、買掛金に関するベンダーからの問い合わせや、出張費と経費に関する従業員からの問い合わせを減らすことができます。
     
  • 財務に特化したエンド・ツー・エンドのユースケースを少なくとも1つ取り入れます。例えば記録から報告までの領域では、生成AIを活用して、社内向けの効果的な経営レポートや業務実績レポートを作成します。受注から売上回収までの領域では、生成AIを使って顧客からの請求や控除額を検証し、損失を抑制します。

 

本ページに記載されているインサイトは、IBM Institute for Business Valueの独自データ、IBMコンサルティングのケース・スタディー、および複数の外部ソースの統計情報に基づいています。IBM Institute for Business Valueのデータには、2023年12月から2024年2月にかけて2,500人の経営層に実施した生成AIに関するグローバル調査(特に125人のCFOの回答を重視)、2023年にグローバル財務リーダー601人に実施した財務部門でのAIの導入とその業績指標への影響に関するパフォーマンス管理およびベンチマーク評価についての調査、「2022 Chief Financial Officer Study」(2022年CFOスタディ)、および2023年11月から2024年2月にかけて2,000人のCFOに実施したグローバルCFOスタディ2024の調査が含まれます。外部ソースにはGoogle CloudとTangoeも対象としています。 


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著者について

Anthony Marshall

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, Senior Research Director, Thought Leadership, IBM Institute for Business Value


Spencer Lin

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, Global Research Leader, Chemicals, Petroleum, and Industrial Products, IBM Institute for Business Value


Christian Bieck

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, Europe Leader & Global Research Leader, Insurance, IBM Institute for Business Value


Cindy Anderson

Connect with author:


, Global Executive for Engagement and Eminence, IBM Institute for Business Value

発行日 2024年4月2日

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