多くの人が長期休暇を取得する、いわゆる年末の「ホリデー・シーズン」は、本来楽しくアクティブに過ごすものだ。遠くで暮らす友人や家族に逢いに行ったり、見知らぬ土地を旅したり、また、大切な人に贈り物をしたり、仕事を頑張った自分へのご褒美を買ったり。このように、それぞれがお気に入りの時間を過ごすことで、英気を養い、新しい年に向けて気持ちをリフレッシュすることができる。

しかし、2020年の「ホリデー・シーズン」は、多くの人々にとって、例年通りではなかったはずだ。

なぜなら、世界は新型コロナウイルス感染者数の新記録を更新し続け、人々は疲弊し続けている。そんな中、健康への不安や経済的な制約が重くのしかかり、刻一刻と変化する状況を見ながら、休暇をどのように過ごすべきかずっと頭を悩ませている。さらに、政府の感染対策や行動制限は毎週のように変わるので、翌月の休暇の頃には、どのようなイベントが安全で、参加可能なのかといったことは、誰にも予測できない状況だ。

浮かび上がったのは、ウイルスを拡散させずにすむ休暇の過ごし方に解を見いだせず、自宅の近くで静かに過ごそうとしている消費者の姿だった。

そこで、IBM Institute for Business Value(IBV)では、コロナ禍が休暇中の消費者の行動にどのような影響を及ぼすかについて、8カ国12,000人以上の成人を対象に調査を実施した。調査では、今年のホリデー・シーズンに向けたショッピングや仕事、旅行の計画について、またこれらへの期待が以前と比べて、どう変化したのかにも注目した。

8カ国共通の傾向として明らかになったのは、「ホリデー・シーズン」中の積極的消費の抑制、つまり、贈り物や買い物、旅行を減らし、代わりに仕事をすると回答した人が多かったのである。浮かび上がったのは、ウイルスを拡散せずにすむ休暇の過ごし方に解を見いだせず、自宅の近くで静かに過ごそうとしている消費者の姿だった。回答者の過半数は、休暇中のパーティーや宗教的な行事への参加を避け、その代わりに友人や家族とオンラインで会話をすると答えた。また、約3人に1人が恒例のホリデー・カードも送らないと答えているが、それは恐らく、取り立てて葉書に書けるような話題がないためだろう。

世界的に、休暇の計画は縮小している

これまでとは異なるスタイルで、休暇を楽しもうとする人が急増

Global consumers are downsizing their holiday plans

 

一方、そんな抑制的な意識の高まりだけでなく、より手近な場所で「ホリデー・シーズン」を楽しもうとする消費者が増えていることも明らかになった。つまり、贅沢品や人付き合いへの出費を減らす一方で、自宅で快適に過ごすためにお金を使いたいと考える人が多くなっているのだ。また、2021年には、お気に入りの場所を安全に再訪できるようになると見込み、5人に1人が有給休暇を貯めていると回答したのも特徴的だった。

今シーズンは、多くの産業で個人消費は低迷すると思われる。しかし、「ホリデー・シーズン」には、その恩恵から売上増を期待できる分野も一部にはあるはずだ。またコロナ禍だからこそ、業績を伸ばす企業もあるだろう。そうした企業にとっては、自分たちの存在をアピールできる貴重な機会になるだろう。

71% の消費者が、もしブランドが顧客よりも自社の利益を優先させていると感じたら、かつての魅力や信頼は完全に消失すると回答している。

もし今を、自社の存在意義を示す絶好の機会と捉え、顧客や従業員からの声に真摯に耳を傾け、その要望に応えるための行動を強化する企業があるなら、その企業はきっとお金では買うことのできないブランド・アイデンティティーを構築できるはずだ。逆に、そうしない企業は、伸び悩むことになる。Edelman の調査では、71% の消費者が、もしブランドが顧客よりも自社の利益を優先させていると感じたら、かつての魅力や信頼は完全に消失すると回答している。だからこそ、コロナ禍で成功するための鍵は、今年の休暇に向けて人々は何を望み、何を必要としているかを把握することに他ならない。

個人消費:出費を絞り、生活を楽しむ

今年は様々な消費機会が削減されたが、オンライン・ショッピングは例外である。5月のオンライン支出は、前年比で77%も増加。コロナ禍によってeコマース市場は、4~6年分も成長が加速したと主張する専門家もいるほどだ。このトレンドは今年の「ホリデー・シーズン」にかけても続く見通しで、60%以上の消費者がオンライン・ショッピングの利用を検討しているという。2019年のホリデー・シーズンで、総売上高に占めるeコマースの割合がわずか20%だったことから考えると、これは急激な増加といえる。増加分の多くは、ベビーブーム世代によるもので、この層によるオンライン・ショッピングの購入予定額は、前年比116%の増加が見込まれている。

今年は様々な消費機会が削減されたが、オンライン・ショッピングは例外である。

オンライン・ショッピング人気のおかげで、今年は、早々に年末・年始商戦の幕が上がった。10月末までに、世界の消費者の3人に1人が、「ホリデー・シーズン」用の買い物を行った。昨年までは、米国では感謝祭の翌日のブラック・フライデーを待って、ショッピング・マラソンに参加するのが恒例だったが、今年はスタート時期が早まった。しかし、最もお得な条件で欲しいものを買いたいという消費者心理は変わらない。世界19カ国で2日間にわたって開催された「Amazon Prime Day」では、ブラック・フライデー価格がいつもより早く消費者に提供された。この提案は、人気商品を予定より早く手に入れたいと考える消費者の気持ちをくすぐった。中国のオンライン小売大手のAlibabaも、「独身の日」セールの開始日を11月1日に早め、キャンペーン期間を11日間に延長し大きな手応えを得た。

世界の半数以上の消費者が自己判断で支出を絞り、贈り物の予算を減らしたことを考慮すると、こうしたセールの好調も納得がいく。平均すると、世界の33%の消費者が贈り物の数を減らし、実に、ホリデー関連の予算は25%もカットされた。いつもより厳選される消費機会を、オンライン・サービスがこれまでの習慣を越えて、お客様に「タイミング」と「安さ」を提案することで独占できたのは、当然の勝利だったと言える。もちろん消費者の支出行動には格差がある。例えば、米国の高所得層の支出は7%減にとどまり、ドイツでは所得階層を問わず予定支出額の減少率は12%と比較的小さい。

平均すると、世界の33%の消費者が贈り物の数を減らし、実に、ホリデー関連の予算は25%もカットされた。

ただし、全体に共通しているのは、家で楽しむための支出には積極的である点だ。世界の消費者は、このホリデー・シーズンに外食への支出を20%、近場の外出への支出を11%減らす見通しだが、一方で玩具やゲーム(+9%)、電子機器(+13%)、デジタルおよびストリーミング・サービス(+39%)、さらには家具(+33%)への支出は増やす意向を示している。

消費者は、家で楽しむための支出は惜しまない

昨年と比べて、アウトドアへの支出が減り、家中でのレジャーなどインドアへの支出が増えている。

Consumers are shifting their spending toward products they can enjoy at home

「パーパス・ドリブン」の傾向を強める消費者:持続可能な社会への志向が強まっていく

利便性がすべてだった時代もあった。今年も世界の消費者の40%以上が、商品を選択する際、最も重視するのは価格と利便性だと答えている。しかし、ほぼ同数の消費者が、自分の価値観に合った製品やサービスを選択する「パーパス・ドリブン」であると回答している。

コロナ禍において、多くの世帯が出費を抑える努力をする中、目的意識を持った消費者は、自らの信念を大切にすることを忘れてはいない。我々が9月に実施した消費者調査の結果からも、コロナ禍で消費者がブランドを選ぶ際には、健康とウェルビーイング、環境への責任、信頼性、真正性などが重視されていることが確認できた。

2人に1人が、環境への影響を減らすためなら喜んでこれまでの購買スタイルを変えると答えている。

今年の「ホリデー・シーズン」の買い物では、消費者10人のうち4人は、ブランドを選ぶ際に持続可能性を大いに考慮すると回答した。また2人に1人が、環境への影響を減らすためなら喜んでこれまでの購買スタイルを変えると答えている。また、こうした意識は新興市場においても高く(インドで74%、メキシコで74%、ブラジルで66%)、持続可能性を推進する目的での消費行動が世界的トレンドとして顕在化していることの証左となっている。

旅行の選択肢は限定的

今年の年末に、冒険心を満たす、刺激的な旅行を予定している人はほとんどいないだろう。安全上の懸念と交通上の制約から、旅行の選択肢が限られるからである。これまで、世界の3人に2人の消費者が年末に休暇を取って旅行をしていたが、今年はその過半数が旅行日数を減らすと答えている。ただ、20%の人は本当に旅行をするかをまだ決めておらず、逆に、旅行の日数を増やすと回答した者も13%いた。多分に想定され得ることだが、旅行を予定している人の8割は、年齢が40歳未満だ。

ただし、今年旅行をする予定の人も、そのほとんどは、国内旅行のみを検討している。全世界で見ると、休暇中の国外旅行を検討している人は12%のみで、その中でも目的地をまだ決めかねている人の割合は49%だった。国外旅行をしたいという意向が最も強い国はインドで、その24%が今年のホリデー・シーズンに国外旅行を計画している。

消費者の5人に1人が、今年のホリデー・シーズンに旅行をするかどうかを決めていない。しかし13%は例年よりも、長期で旅行に出かけると回答した。

また多くの旅行者が、旅行手段として、飛行機や列車よりも自動車を選んでいることがわかった。今年の休暇に、飛行機を利用して旅行する人の割合は43%減少すると見込まれているが、レンタカー利用は51%増える見通しだ。自家用車での移動を選ぶ人の数も、前年比で27%増と見込まれている。

ただし、こうした判断は、必ずしも新型コロナウイルスだけが要因というわけではない。実際、旅行者の過半数は、その交通手段を選ぶ理由として、最も便利な交通手段である、あるいは単にいつも通りの交通手段であるからだと回答している。最も安全と感じられる交通手段であるからと答えた旅行者は、5人のうち1人のみであった。

旅行手段を選択する要因は、コロナだけではない

消費者の約3人に1人が、これまでの習慣に従って行動すると回答している。

COVID-19 isn’t the only factor influencing travel choices

 

仕事ばかりになることの悪影響

コロナ禍による孤立とストレスは深刻な問題であり、これにより精神的なダメージを受ける人も少なからずいる。CDC(アメリカ疾病予防管理センター)の報告によると、コロナ禍は米国人のメンタル・ヘルスに顕著な影響を与えており、精神的あるいは行動医学的なダメージを受けた人は成人の40%にも上る。

とは言え従業員は、コロナにより受けたダメージを癒すために、ゆっくり休んでいるわけにもいかず、結局、本来自分のために使うべき時間を削ることになる。回答者は平均して前年比で若干多めの有給休暇を取っているが、その時間の多くは家族のケアや自分自身の病気からの回復など、コロナ関連の問題に対処するために使われている。

世界の企業の従業員は平均で見ると、2020年に残りの有給休暇の半分も消化できそうにない。

2020年の終わりを迎えつつある今、従業員は疲労を感じており、状況が良くなる目処は立っていない。今回の調査でも、被験者が平均で13日の有給休暇を残していることがわかったが、彼らはその半分を使わないまま年を越そうと考えている。雇用主の顔色をうかがっている側面もあるが、世界の従業員の半分は、仕事への心配から有給休暇を取得しようと考えていない。仕事量が多すぎる、あるいは仕事のスケジュール上の制約が多いと答える従業員は約30%で、有給休暇の取得が原因で仕事を失うことを心配している人の割合は18%だった。ちなみに、特にしたいことも、行きたいところもないので有休を取らないと回答した、寂寥感漂う人も5人に1人いた。

有給休暇をすべて使い切ろうと考える社員は少ない

仕事上の制約や、休暇への関心の低さから、有給休暇を取らない社員が多い。

Employees aren’t planning to use all their remaining PTO

​​​​​​​考えようによっては、企業にとっては、今が、このような労働環境を改善できるチャンスと捉えることもできる。しかし、これを活かそうと考える経営者は意外と少ない。実際、コロナ禍は職場での健康と安全の重要性をつまびらかにしたが、企業は従業員の福利厚生にあまり力をいれていないのだ。人事に関する近年の調査では、米国の人事責任者の61%が、自社の企業文化の中で従業員のウェルネスは重視されていると答えた。しかし不思議なことに、今年はその数字が48%まで低下している。

最高人事責任者の3分の2近くは、重要な人材を採用して定着させるためには、企業文化が重要だと答えている。この方向性自体は間違ってはいない。今日の働き手の多くは、仕事に全力で取り組むことが求められていると考える傾向にあり、それ故に仕事の時間と個人の時間の境界線がどんどん曖昧になっていく。一方同時に、その見返りとして、企業による包括的な支援が十分に得られることも期待している。今日のビジネス環境において、変化はその激しさを増しており、優秀な人材ほど危機に際してよりよい支援が得られる企業へと引き寄せられていく。世界の労働市場が完全に回復したとき、コロナ禍でさえ従業員をサポートしてきたという実績を示せる企業こそが、競争力を維持できることは自明であろう。

世界の労働市場が完全に回復したとき、コロナ禍でさえ従業員をサポートしてきたという実績を示せる企業こそが、競争力を維持できることは自明であろう。

現在も続くコロナ禍は、企業にとって企業理念をこれまで以上に従業員に示す、またとない機会とも言える。福利厚生を強化し、旧来の人事慣習を改善できれば、他社との差別化を実現し、従業員から選ばれる経営者という評価を獲得できるはずだ。すでに十分実施できていると考える経営者も多いだろうが、他の経営者にも同様な実感があることを考慮すると、その効果を従業員に実感してもらうことが重要となる。例えば、IBVの最近の調査によると、経営層の80%は従業員の心身の健康をサポートしていると自己評価するが、これに同意する従業員の割合は46%にとどまっている。

2020年は、自社の企業文化がもたらす影響を、各企業がリアルタイムで目の当たりにする年となった。リーダーは難しい選択を迫られ、リップ・サービスではなく実際の行動によって、真の価値を示すことが求められている。「ホリデー・シーズン」の到来が近づき、疲弊し尽くした従業員たちは、今こそ会社の対応に注目している。そこで実施される対応は、彼らの記憶に深く刻み込まれることだろう。


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著者について

Dave Zaharchuk

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, Research Director, IBM Institute for Business Value

発行日 2021年4月1日

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