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デザイン思考がもたらすビジネス変革! 変わりゆくデザイナーの役割

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昨今、「デザイン思考」という言葉がビジネス・パーソンの間でも話題となり、差別化を追求する新しい切り口として注目を集めている。「デザイン思考」の対象も物理的な製品だけではなく、ソフトウェアやサービス、そして、顧客体験の全体へと広がっている。

意外かもしれないが、IBMは1950年代からデザインを重視し、事業に取り込んでいる。1956年にCEOになったトーマス・ワトソン・ジュニアは、デザインを事業に取り入れるために、ニューヨーク近代美術館のキュレーターだったエリオット・ノイズをスカウトした。ノイズは、IBMのデザイン・プログラムを策定し、コーポレート・ロゴをはじめとする様々なプロジェクトを手がけ、ワトソン・ジュニアは「Good Design is Good Business」をコーポレート・メッセージに採用している。現在、IBMにはIBM Designというデザイン部門があり、千人を超えるデザイナーが、エンジニアと共にアプリケーションの開発やクライアント・サービスに従事している。

この度、来日したIBM Designのトップであり、抜きん出た実績を持つ専門家が選ばれる「Distinguished Designer」でもあるDoug Powell(ダグ・パウエル)氏(以下、パウエル氏)に、「デザイン思考」の力が組織にどんな変容をもたらそうとしているのか、話を伺った。

Doug Powell(ダグ・パウエル)
Distinguished Designer, IBM Design Platform Director

 

デザイナーの役割とは?

──先日、IBMの「Distinguished Designer」に就任されました。日本ではあまり聞き馴染みのないポジションですが、社内ではどのような位置づけにあるのでしょうか?

「Distinguished Designer」は、IBMのデザイナーが到達できる中で“最も高い”ポジションといえる、エグゼクティブのデザイナーです。私自身、これまでにデザイナーとして多くの実績を積んできたことはもちろんですが、ビジネスオーナーや教育者、さらには、スタートアップ支援、アメリカのグラフィックデザイン団体で代表を務めていました。そうした実績が評価され、Distinguished Designerの任を授かりました。

Distinguished Designerになったことは、私にとっても非常に貴重な経験です。期待されていることは、デザイナーの立場から組織内のさまざまなセクターを超えて仕事に関与していくことです。

──IBMにそのようなポジションが新設されたことは、社内デザイナーにとってどのような意味があるとお考えですか?

社内にはデザイナーとエンジニアが混在しており、これまではエンジニア側のキャリアにおいてのみ“Distinguished”を冠したポジションがありました。それが今回、デザイナーの側にもそれと同等レベルのポジションができたことがとても重要なポイントです。社内デザイナーにとっても、一貫したキャリアパスができたことは心強いのではないでしょうか。

──IBMには多くのエンジニアが在籍されています。これまでデザイナーよりもエンジニアの数が多かったそうですね。それがデザイナーのキャリア向上だけではなく、デザイナーの“数自体”も増強されているとお聞きしています。なぜ今、IBMが「デザイン」という部分に注力されているのでしょうか?

企業が製品・サービスを生み出すプロセスにおいて、デザイナーが注力する部分が変わってきたことが大きな要因です。かつての製品・サービスは「テクノロジー重視」であり、それに伴って、エンジニア偏重になりがちでした。

しかし、これからは顧客体験をデザインする視点——優れたUX(User Experience)の実現——が必要であり、そこに注力していく限り必ずデザイナーの力が求められるのです。

Doug Powell氏

──そのときに必要なのが、IBM Design Thinkingですよね。IBMではその導入・実践に、「IBM Interactive Experience (IBM iX) 」事業部を立ち上げ、日本でも優れた顧客体験の創出を支援するサービスをスタートしています。

はい。IBM Design Thinkingの方法論は、組織に浸透させていくことが重要なんです。米IBMには「Design Week」というプログラムがあり、さまざまな分野のデザイナー、エンジニアがIBM Design Thinkingについて学んでいます。かつ、何千人というエグゼクティブを対象に、全社的にIBM Design Thinkingの実践にも取り組んでいます。

この実践によって、優れたUXを創出することができるのはもちろんのこと、チームとして協力しながら製品・サービスづくりが実現できるようになってきています。IBMのようなグローバルな企業にとっては、非常に大きなメリットです。

──日本の製品・サービスの開発プロセスにおいても、一般的な「デザイン思考」は、以前に比べて浸透しつつあると思います。しかし、いまだに「デザイン」という言葉は“意匠的”な意味合いが根強く残っているのが実情です。パウエルさんは、デザイナー本来の役割という部分について、どのようにお考えですか?

そうした理解は日本に限らず、アメリカでも同様です。そのような状況下において、我々が何をすべきか。答えは、単に「デザインがどういうものなのか」を語るだけではなく、デザインそのものを「体験してもらう機会」を提供することなんだと思います。

──その機会の提供が「Design Week」ということですね。では、組織という観点で見た場合、「組織におけるデザイナー個々の力」は、今後どのように発揮されていくべきなのでしょうか?

1つ言えることは、「意匠面(=美的なデザイン)」を超えた仕事が、これからますます求められていくということです。その1つが、リーダーシップです。IBMでも新たにデザイナーを採用する際、デザイン的なセンスは当然の基準として、いかにリーダーシップを発揮できるかを重要視しています。

デザイン思考は「新しい方法論」でもあります。それを組織に広めていく役割を担うデザイナーは、チームをまとめることのできるリーダーシップが不可欠です。デザイナーが主体となってチームを変えていけば、仕事の方法もどんどん変わっていきますし、その結果、おのずと企業も変わっていくでしょう。

Doug Powell氏

それでも「デザイナーはデザイナー」であり続けます。リーダーシップを発揮してリードしていくことも求められますが、あくまでデザイナーとしてリードしなくてはいけない。しかし、デザイナーが組織内でどういったカタチでリーダーシップを発揮するか、その方法が定義づけられていません。そこで、我々のような立場の人間が、デザイナーがどんなリーダーシップを持つべきなのか、組織の中でその役割をしっかりと定義していくことが必要ではないでしょうか。

 

急速な変化に対応するために求められるデザイン思考

──チームとしての動きを考えた場合、大企業に比べてスタートアップのような小回りのきく企業のほうが、デザイン思考の実践に有利のように思えます。その点はいかがでしょう?

もちろん、そういう視点もあります。これまで、デザイン思考を導入してきた企業・組織というのは、スタートアップ、コンサルティング会社、大学機関などが大半です。IBMでは1つのチームだけで数百人もの人間が関わるのに対し、そうした企業・組織では、10〜20人の規模のチーム構成となります。人数が少なければ浸透度も高まるため、デザイン思考の導入・実践も当然しやすくなるでしょう。

だからこそIBM Design Thinking の実践が、“Challenge of IBM”なのです。グローバルな企業が、全社的にデザイン思考へ取り組むような事例はこれまで存在しません。デザイン業界にとっても非常に新しく、かつ、ユニークな取り組みなのです。

Doug Powell氏

──お話を伺えば伺うほど、デザイン思考は組織自体にも大きな影響を与えそうです。

繰り返しになりますが、今までデザイナーが力を入れてきた領域というのは、美的な側面のデザインでした。デザイナーは個々に仕事をしていれば、それで良かったわけです。

しかし、今後のデザイナーはステークホルダーのアイデアを踏まえながら仕事をすることになります。もちろん、この新しいアプローチから、優れた製品・サービスが誕生すると期待されます。それだけではなく、デザイナーは人々と協力しながら仕事ができるようになります。その過程で各専門家からの意見も得られるため、複雑な問題を解決する力も身についていくでしょう。

一方で、デザイン思考は共通のミッションに向けて足並みを揃わせる、そんな可能性も持っています。経営者、サイエンティスト、教育関係者など、今までデザインとは無縁の人々が、デザインに参加できるという価値も生まれます。

Doug Powell氏

──現状、日本の組織の中で「デザイナー」という役割はいまだクリエイティブに特化した専門職です。国内経営者に向け、今後のデザイナーの重要性という点でメッセージをいただければと思います。

デザイン思考を組織内に広げていくためには、シニア・レベルのデザイナーを組織に配することだけが重要なのではありません。重要なのは、組織的なインフラとして、その仕組みを設けることです。そのときにキーとなるのが、デザイナーの力です。デザイン思考を身につけているデザイナーは、さまざまな状況変化に対してAgile(アジャイル=素早い)な方法で対応することのできる方法論を持っています。

Doug Powell氏

世界は今、目まぐるしく変化し、経営者の皆さまもこの急速なスピードについていけるかどうか、大きな懸念をお持ちでしょう。この変化に対応できる組織をつくりたい、そんな方にこそ、デザイン思考の導入を検討していただきたいと考えています。もちろん、IBMではそうした企業経営者の支援も行っていますから、我々もお手伝いさせていただけることがあるかもしれませんね(笑)。

 


多くの企業がイノベーションの創出を経営課題として認識している今、デザイン思考という言葉だけが独り歩きして脚光を浴びていますが、重要なのは組織内のインフラや仕組みを整備すること。そして、デザイン思考を担うであろうデザイナーも既存の概念を超えた仕事が求められています。

「新しい方法論」であるデザイン思考を、企業内でどう取り入れ、活用していくのか。企業の「変革」を支援するIBMのデザイン思考については、下記をご覧ください。