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間接業務をDXの起爆剤に。BPOに期待される新たな役割とは

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*新型コロナウイルスの拡大防止に最大限配慮し、写真撮影時のみマスクを外しています。

吉崎 貴哉

吉崎 貴哉
日本アイ・ビー・エム株式会社
IBMコンサルティング事業本部
コグニティブ・プロセス・サービス 事業企画
アソシエイト・パートナー

IBMビジネス・コンサルティング・サービス(現、日本IBM)に入社後、組織・人財変革コンサルタントとして、業界問わずさまざまなお客様の変革を支援。現在は、これまでに培った戦略・業務変革コンサルティング、そして、BPOデリバリーの経験を活かし、構想策定・実行・安定化まで一貫したBPOサービス推進を担当。業務領域にとらわれず、コンサルティングとBPOの両面から、お客様の変革を支援している。

 

業界を問わず求められているデジタル変革(DX)だが、見落とされがちなのがあらゆる企業にある間接業務だ。経理や人事、間接材購買などの間接業務をBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)によって外部委託し、日常の業務を変えることがDXの入り口になる。

企業は間接業務を集約したシェアード・サービス・センター(SSC)を構築しているところも多いが、DXを推進するためにSSCはどのように変革する必要があるのか。その際、BPOはどのように活用できるのか。

間接業務のDXを推進することの重要性と、それを実現する方法について、日本アイ・ビー・エム IBMコンサルティング事業本部 コグニティブ・プロセス・サービス 事業企画 アソシエイト・パートナーの吉崎貴哉が解説する。

間接業務にこそチャンスあり、DXの起爆剤に

*新型コロナウイルスの拡大防止に最大限配慮し、写真撮影時のみマスクを外しています。

――デジタル変革(DX)の推進に当たってBPOが注目されています。この背景について教えてください。

吉崎 どの領域でもDXが当たり前になっています。ではDXをどのように進めているのかというと、顧客向けサービスや製造業におけるサプライチェーンなど事業に直結する業務に、人もリソースも注ぎ込んでいるのが現状です。

私は、DXの起爆剤となるのは間接業務だと見ています。間接業務は紙ベースのプロセスが多く、改善の余地がたくさん残っている領域です。大企業は、経理や人事などで発生する間接業務を集約するSSC(シェアード・サービス・センター)を構築していますが、事業の成長に直結しないため改革に着手できていないところが多く、大きなチャンスが眠っています。

ただ、コスト削減のプレッシャーが大きいわりには、間接業務のほとんどが長年同じやり方を続けてきています。間接業務の担当者は必ずしもテクノロジーの知見があるわけではないのですが、かといってIT部門はフロント業務の改革に忙しく手が回らない状況です。そこで最近は、間接業務とテクノロジーを組み合わせたBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)を採用するケースが増えています。

日本アイ・ビー・エム (以下、IBM)におけるBPOサービスの歴史は長いのですが、これまでは経理や人事などの業務を預かり、効率化を図りながら運用していました。現在は、お客様と一緒に間接業務を抜本的に改善するパートナーという位置付けでBPOを提供することが増えています。

――間接業務の改革は効果が見えにくいため未着手になっているとのことですが、ここでの改革はどのように進めると成功するのでしょうか。

吉崎 昨今言われているDXはRPAやAIなどのテクノロジーを使ってこれまで残ってしまっていた人を介する細かい業務までを完全自動化していく姿を目指しています。部門をまたいたエンドツ―エンドの業務プロセス完全自動化、IBMではこれをインテリジェント・ワークフローと呼んでいます。

これを進めるためには、業務とテクノロジーの両方の知識を持ち合わせている必要があります。以前のようにIT部門が主導してソリューションを実装するやり方ではなく、業務部門のリードが必須と言えます。IBMはBPOでお客様の業務を運用させいただいているので、業務の知識があり、お客様以上に業務に詳しいとも言えます。もちろん、テクノロジーの知識もあります。

また、効果の刈り取りという点でも、DXの効果が出て受託料金が削減されればコスト削減につながります。

SSCが全社的なDXをリードすべき理由

*新型コロナウイルスの拡大防止に最大限配慮し、写真撮影時のみマスクを外しています。

――SSCはどのような役割が求められており、どのように変化すべきでしょうか。

吉崎 SSCは業務効率化を最大の目的としており、これまではグループ会社や部門の業務を集約して標準化を進め、安定運用することが求められてきました。

今後求められる要素は大きく3つあると思います。

1つ目は、業務集約化と標準化に関するもので、これまでの標準化が是であるという考え方を見直す必要が出てきています。企業の中には事業再編やカンパニー制への移行をするところも増えており、事業特性が強くなっています。そうなると標準化しきれません。もともと日本の企業は標準化が苦手なので、あきらめている会社もあるでしょう。これからは、標準化すべき部分と、事業の特性に応じて個別にオペレーションする部分を明確に区分すべきです。事業形態が簡単に変わる時代でもあるので、柔軟性が求められています。

2つ目として、組織内で新規事業を立ち上げる際などに、SSCが経理や人事や間接材購買などの面から専門の知見を提供したり、コンサルティングを行ったりすることが求められるようになってきました。つまり、これまでは委託された間接業務をやりますと言っていたのが、事業部に対して専門知識に基づいてアドバイスをするような役割が求められていると言えます。

3つ目は、DX推進という役割です。これまでは受託した業務の効率化とコスト削減を図ることが重要でしたが、例えば人事業務においては給与計算だけでなく、¬身上異動のために従業員が行う入力などの作業について従業員体験を高めるような取り組みも考えられます。

このように、SSCはエンドツーエンドの改革を進めていくことが求められています。ただ、すでに業務がSSCに集約されている場合、現場や従業員と接点を多く持つのはSSCであり、SSC主導の推進なしには間接部門全体の改革ができなくなっているとも言えます。

――SSCは業務に詳しいからこそ、DXの成功に重要な役割を果たすということですね。

吉崎 例えばRPAはそれほど高度なITスキルは必要ありません。IT部門からある程度のガイドライン、あるいは環境などのサポートがもらえれば、業務側が主導して変革を進めることが十分可能です。

SSCにはたくさん知見が溜まっているのでSSCこそがDXを主導していくべきです。ただ、それができないのは、そのための余裕や体力がないというのが現状です。

新しいSSCに求められる3つの要件

*新型コロナウイルスの拡大防止に最大限配慮し、写真撮影時のみマスクを外しています。

――変革をリードすべきSSCについて、IBMが取り組みを支援した事例はありますか。

吉崎 全国に数百の拠点を持つ流通業のお客様の事例を紹介します。

この会社では毎月かなりの人数のアルバイトを雇うプロセスが各拠点で発生しており、それまでは紙ベースで行っていました。入社時に給与の振込先口座などを紙で提出し、SSCが処理するオペレーションです。人事担当が大量の紙書類をチェックし、不備があればまた紙を戻すなど、効率が良いとは言えない状況でした。

そこでIBMのBPOを活用することになったのですが、IBMの提案により、スマートフォンやタブレットで手続きできるSaaSのアプリも導入しました。デジタルで入力されたデータをIBM大連BPOセンターで処理します。BPOセンターによる効率化だけでなく、入社時の手続きや業務も効率化しました。

メリットはそれだけに留まりません。各拠点はピークに合わせて人の調整をするので、入社の手続きに手間取りピークに間に合わないというのでは本末転倒です。それまでは処理が終わらないために入社日をずらすことも発生していましたが、入社手続きがスムーズに進むようになり、拠点の事業に直接貢献することができました。

このプロジェクトで難しかった点は、必ずしもITリテラシーが高いとは限らない入社者に手続きをしてもらう部分です。そこでガイドに従って入力できるようにしたり、外国人向けに多言語対応をしたりするといったことをSSCとIBMで実現しました。数百ある拠点とのやりとりは、日々の業務で関係を構築していないと難しく、SSCとIBM BPOが組んだからこそできた変革と言えます。

――今後、SSCが変革をリードする存在となるためにはどのような要件が必要になるのでしょうか。

吉崎 新しいSSCで求められることとして、大きく3つがあると考えます。

1つ目は、継続的に変革の機会を見つけ出す仕掛け、2つ目は全社的な変革を推進するための体制作り、3つ目は変革をリードする人材です。

それぞれについて説明しましょう。まずは提供しているサービスの品質やコストを可視化し、運用をモニタリングします。また、テクノロジーを導入するとどのぐらいの初期費用がかかるのかなど、定期的に最新のテクノロジーについて検証する機会を設けます。SSCは淡々と日々の業務をこなしているところばかりで、これらの仕掛けを備えているSSCはないに等しいのが現状です。

仕掛けができたら、次は体制作りです。DXや企画を推進するチームを設置したり、顧客別にサービスの向上や拡大を探るアカウント担当を配置したりするといったことを行います。ここでの課題は、そのようなことができる人材が現時点でいないことです。運用だけをしていると、新しいことにチャレンジする人材が育たないのです。

IBMには1つ目の仕掛けがあり、IBMのBPOを活用することでお客様に仕掛けを移植できます。2つ目の体制についても、業務とITの両方の知見があるので、お客様と一緒に変革を推進することができます。

3つ目の人材についても支援ができます。さきほどご紹介した流通業のお客様の事例は、IBMが提案して採用いただいたものですが、このようなプロジェクトを一緒に進めることはSSCに携わる人材の育成や成長機会につながります。

――SSCの役割が変わると人も変わらなければならないとのことですが、この部分でのIBMの支援について詳しく教えてください。

吉崎 IBMのBPOをご利用いただいているお客様のところで、IBMの組織・人財変革コンサルタントが今後の人材についてのワークショップを実施しました。

このお客様においては、SSCの役割の変化や新しい価値創出が求められている一方で、優秀な人が辞めたり、社員のモチベーションも上がらなかったりする課題がありました。そこで、IBMがコンサルティングも提供することになり、課長、部長クラスなど数十名を集めて、デザイン・シンキングの手法を用いてあるべき姿を考え、どんな人材を育てるべきかをディスカッションしました。SSCの人のキャリア・パスの可能性も一緒に考えながら、最終的には施策まで落とし込みました。

このようにIBMではBPOだけではなく、新しいSSCの実現に向けた仕掛け、体制作り、人の育成などについてもご支援できます。そのことで、新しい価値を提案し、DXの推進に貢献することができます。

進化するBPO、活用の幅を広げる企業も

*新型コロナウイルスの拡大防止に最大限配慮し、写真撮影時のみマスクを外しています。

――間接部門のDXがなかなか進まないという状況で、企業はどのようにBPOを活用すべきでしょうか。

吉崎 これまでBPOはコスト削減が最大の目的でした。つまり、業務を外に出すことで、社内の人を減らしたり他の業務に変換したりするなど、コスト削減の手段としての位置付けでした。

今後は、それだけでなく、DXや変革を一緒に進めるパートナーという目的意識でBPOサービスを利用するような発想の転換が必要だと思います。

IBMのBPOは日々の業務をお客様の代わりに遂行しているので、お客様の組織風土を自分ごととして体感しています。現場を動かすためにはどんなお膳立てが必要か、わかっているのです。どのように変革を進めていくべきかは組織の文化により異なりますが、お客様に合わせた変革の支援ができます。

テクノロジーを使ったソリューションの開発と導入だけではなく、DX推進の重要なメンバーとなりうる人が育っていくという視点でBPOサービスを捉えていただくことで、これまで以上の価値が得られるはずです。

日本企業は対面や現場にこだわりが強く、顔が見えないところでオペレーションされるBPOに漠然とした不安があったと思います。そもそも、紙が電子化されることへの不安も根強く、なかなか業務のアウトソーシングや間接業務の効率化に踏み切れなかったというお客様は多くいらっしゃいます。

アウトソーシングを通じて効率化、さらにはDXにつなげることができたお客様からは、数年前に諦めていたことができたという喜びの声をいただいています。ぜひ、コロナ禍が招くニューノーマルの環境での変化を受け入れ、BPOのようなサービスをご検討いただき、変革の起爆剤にしていただきたいですね。

――始まりつつあるニューノーマルにおいて、BPOはどのように進化していくとお考えですか。

吉崎 IBMではBPOは単なる業務委託ではなく、DXのような抜本的なエンドツーエンドの改革にコミットしたサービスも提供していく必要を強く感じています。

例えば、経理や人事、間接材購買など委託された業務を運用するだけではなく、マーケティングやサプライチェーン、そして、お客様固有のプロセスについてもBPOを採用したいという相談が増えています。そこで我々も、新規領域として、これまでのメニューにないような固有のプロセスについてもBPOをご活用いただけるように支援していきます。

このようなニーズが出始めていることは、BPOのメリットを感じているお客様はもっと活用しようという方向に舵を切っていることの現れであると言えます。そこに対して、IBMもしっかりと答えていきたい。固有業務への対応は、我々にしても最初から勉強が必要で初期工数がかかりますが、そこにどうアプローチをしていくか、安定して高い品質でご提供できるかを含めて挑戦しています。

アウトソーシングと聞くと、経営者の中にはブラックボックス化される、自分たちのノウハウがなくなると考える方もいらっしゃいます。このようなマイナスイメージを払拭するためにも、人事、経理、間接材購買などBPOの対象になる業務の知見が自社にとってどこまで重要なのかを考えていただくためにも、効率化以上のメリットがあるという部分をしっかり出していきたいと思います。お話したように、BPOを活用することで、単にコスト削減だけでなく、最終的には従業員体験を変えるという変革が可能です。一緒にDXを進める共創パートナーに向けて、我々自身も進化していきたいです。