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公開日:2023年8月15日
寄稿者:Michael Goodwin

遅延とは

遅延とは、システムで生じる遅れの測定値です。 データがネットワーク上のあるポイントから別のポイントに移動する際にかかる時間を、ネットワーク遅延といいます。高遅延のネットワークでは応答時間が長くなり、低遅延のネットワークでは応答時間が短くなります。

原理的には、データは光速に近い速度でインターネットを通過するはずですが、実際には、距離やインターネット・インフラその他の要因によって生じる遅延のため、データ・パケットはわずかに遅い速度でインターネット上を移動します1。こうした時間的な遅れの合計が、ネットワークの遅延の原因です。

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ネットワーク遅延が重要である理由

低遅延のネットワークを維持することは重要です。遅延は生産性を始め、コラボレーションやアプリケーションのパフォーマンス、そしてユーザー・エクスペリエンスに直接影響するからです。遅延が大きいほど(応答時間が長いほど)、そうした要素への影響度は大きくなります。 企業がデジタル・トランスフォーメーションを追求しており、モノのインターネット(IoT)ではクラウドベースのアプリケーションやサービスへの依存度が高くなっているため、低遅延は特に重要です。

わかりやすい例から始めましょう。 ネットワーク遅延が高いためにアプリケーションのパフォーマンスが低下したり、読み込み時間が長くなったりすると、お客様が代わりのソリューションを検討する可能性が高くなります。 個人ユーザーも企業ユーザーも、これまで以上に超高速のパフォーマンスを期待しているからです。 組織がさまざまなソースから取得したリアルタイム ・データを利用してリソースを推奨するエンタープライズ・アプリケーションを使用している場合、高遅延が非効率の原因になる可能性があります。こうした非効率があると、アプリケーションのパフォーマンスと価値に悪影響を及ぼしかねません。

あらゆる企業が、低遅延を求めています。しかし、センサー・データやハイパフォーマンス・コンピューティングに依存する業種・業務やユースケース、例えば自動化された製造、ビデオ対応のリモート・オペレーション(手術で使用されるカメラなど)、ライブ・ストリーミング、高頻度取引などでは、低遅延が業務の成功に不可欠です。

高遅延が無駄な支出の原因になることもあります。 コンピュートやストレージ、ネットワーク・リソースの費用を増やすか再割り当てすることで、アプリケーションとネットワークのパフォーマンス向上を目指しているとします。既存の遅延問題を解決できない場合、パフォーマンスや生産性、顧客満足度の改善を実現できないまま、請求額だけが増えかねません。

遅延の測定方法

ネットワーク遅延は、ソース・システムで送信オペレーションが開始される時点から、ターゲット・システムでそれに対応する受信オペレーションが完了する時点までの時間間隔を計算することによって、ミリ秒単位で測定されます2

遅延を測定する簡単な方法のひとつが、「ping」コマンドを実行することです。これは、2つのデバイスまたはサーバーの間で接続をテストする際に使用されるネットワーク診断ツールです。 その速度テストでは、遅延をping速度と呼ぶことも少なくありません。

このテストでは、インターネット制御メッセージ・プロトコル(ICMP)のエコー要求パケットがターゲット・サーバーに送信され、返されます。 pingコマンドは、パケットが送信元から送信先まで動き、再び戻ってくるまでの時間を計算します。 この移動時間合計がラウンドトリップ時間(RTT) と呼ばれるものです。データはサーバーとの間を往復する必要があるので、RTTは遅延のおよそ2倍に当たります。 pingは、遅延を測定する厳密な方法と見なされているわけでも、方向性のあるネットワーク遅延の問題を検知するのに理想的なテストと考えられているわけでもありません。 データがさまざまなネットワーク・パスを経由し、その経路の区間ごとに発生する条件が一定でないため、限界があると考えられているからです。

 

遅延、帯域幅、スループット

遅延と帯域幅とスループットは関連しており、ときには同義語として混同されることもありますが、実際にはまったく異なるネットワーク機能を指す言葉です。 前述したように、遅延とは、データ・パケットがネットワーク接続上で2つのポイント間を移動する際にかかる時間です。

帯域幅

帯域幅とは、任意の時点でネットワークを通過できるデータの量を表す尺度です。 メガビット/秒(mbps)あるいはギガビット/秒(gbps)など、1秒あたりのデータ単位で測定されます。 この測定単位は、ご家庭でインターネット接続のオプションを選択するとき、サービス・プロバイダーからよく聞くものです。 帯域幅は速度ではなく容量の尺度なので、ここに大きな混乱の原因があります。 帯域幅が高ければ高速インターネットが実現しますが、その機能は遅延やスループットなどの要素によっても変わってくるのです。

スループット

スループットとは、遅延の影響を考慮したうえで、特定の時間枠内に実際にネットワークを通過するデータ量の平均を測定した値です。 正常に着信したデータ・パケットの数とデータ・パケット損失の量が反映されます。通常はビット/秒、場合によってはデータ/秒の単位で測定されます。

ジッター

ネットワーク・パフォーマンスを決めるもうひとつの要因がジッターです。 ジッターとは、ネットワークにおけるパケット・フローの遅延の変動を指します。 一定した遅延のあるほうが、ジッターが高いより望ましい状態です。ジッターが高いと、パケット損失、つまり送信中に欠落したまま、送信先にデータ・パケットが到達しない原因となることがあるからです。

遅延・帯域幅・スループットの関係については、単純ながら便利な覚え方があります。帯域幅はネットワーク上を移動できるデータの量、スループットは1秒あたりに実際に転送される量の測定値、遅延はそのためにかかる時間、ということです。

ネットワーク遅延の原因

データがクライアントからサーバーへ、そしてサーバーからクライアントへ移動する過程を視覚化すると、遅延とその原因となる各種の要因を理解しやすいでしょう。ネットワーク遅延の一般的な原因は次のような点です。

データが移動しなければならない距離

簡単にいうと、リクエストを開始するクライアントと、応答するサーバーとの間の距離が長いほど、遅延が大きくなります。 シカゴにあるサーバーとニューヨークにあるサーバーが、それぞれロサンゼルスのユーザー・リクエストに応答する場合の違いは、ほんの数ミリ秒です。 ただしこの場合は、その値が大きな問題であり、わずか数ミリ秒が積もり積もっていきます。

伝送媒体とネットワーク・ホップ

次に、データが移動する媒体について考えます。 光ファイバー・ケーブルのネットワーク(一般的に低遅延) でしょうか、それともワイヤレス・ネットワーク(一般的に高遅延) でしょうか。あるいは、よくあるように複数の媒体が介在する複雑なネットワーク網でしょうか。

データの移動に使われる媒体は遅延に影響します。 あるネットワーク・セグメントから次のネットワーク・セグメントへと移動し、宛先に到達するまでに、データがルーターなどのネットワーク ・デバイスを通過する回数(ネットワーク・ホップ)も同様です。ホップ数が増えるほど、遅延が大きくなります。

データ・パケットのサイズとネットワークの輻輳

データ・パケットのサイズと、ネットワーク上の総合的なデータ量のどちらも遅延に影響します。 パケットが大きいほど送信にかかる時間は長くなり、データ量がネットワーク・インフラの計算処理能力を超えると、ボトルネックが発生して遅延が大きくなる可能性が高くなります。

ハードウェアの性能

サーバーやルーター、ハブ、スイッチその他のネットワーク機器が古くなったり、リソースが不十分だったりすると、応答が遅くなる可能性があります。 たとえば、サーバーが処理できる量を超えるデータを受信している場合、パケットが遅延し、ページの読み込みやダウンロード速度、アプリケーションのパフォーマンスが低下します。

Webページの構造

ファイル・サイズが大きい画像や動画などのページ・アセットやレンダリングを妨げるリソース、ソースコードに含まれる不要な文字などはすべて高遅延の原因となる可能性があります。

ユーザー側の要因

ときには、帯域幅の不足やインターネット接続の不備、設備の古さなどのユーザー側の要因のために遅延が発生することもあります。

遅延を減らす方法

ネットワーク上の遅延を減らすには、まず以下のネットワーク・アセスメントから始めるといいでしょう。

-      データが、最短で最も効率的なルートを移動しているか

-      アプリケーションには、最適なパフォーマンスの実現に必要なリソースがあるか

-      ネットワーク・インフラは最新で業務に適しているか

データをグローバルに分散

まず、距離の問題から始めましょう。 ユーザーの所在地はどこでしょうか。また、ユーザーのリクエストに応答するサーバーの所在地はどこでしょうか。サーバーとデータベースを地理的にユーザーの近くに分散させると、データが移動しなければならない物理的な距離を短縮して、非効率的なルーティングとネットワーク・ホップを減らすことができます。

データをグローバルに配信する方法のひとつが、Content Delivery Network(CDN)を使用することです。 分散サーバーのネットワークを使用すると、コンテンツをエンドユーザーの近くに保存できるため、データ・パケットが移動しなければならない距離が短くなります。しかし、キャッシュされたコンテンツの提供以上の機能を望む場合には、どうすればよいものでしょうか。

このとき便利な手法が、エッジコンピューティングです。クラウド環境をコア・データセンターからユーザーやデータに近い物理的な場所に拡張できるようになります。エッジコンピューティングを通じて、組織はアプリケーションをエンドユーザーの近くで実行し、遅延を減らすことができます。

サブネット化

サブネットとは基本的に、ネットワーク内の小規模なネットワークのことです。 サブネット化すると、頻繁に相互で通信する複数のエンドポイントがグループ化され、非効率的なルーティングが減って遅延が小さくなります。

アプリケーション・パフォーマンス管理ソリューションを使用

従来の監視ツールは、複雑になった今日の環境におけるパフォーマンスの問題を事前に発見し、その状況を把握できるほど高速でも万全でもありませんでした。 一歩先んじて問題に対処したければ、リアルタイムかつエンドツーエンドのセキュリティーと依存関係マッピングが可能なInstana Observabilityプラットフォームのようなソリューションを使用できます。 こうした機能を使うと、チームがネットワーク遅延の原因となるアプリケーション・パフォーマンスの問題を適格に特定し、その状況を把握したうえで対処し、防止できるようになります。

リソース割り当てとワークロード配分を最適化

適切なコンピュートとストレージ、ネットワーク・リソースがないと、遅延が大きくくなり、パフォーマンスが低下します。 この問題をオーバープロビジョニングによって解決しようとするのは非効率的で無駄も多く、今日の複雑なインフラストラクチャーで動的な需要とリソースを手作業で一致させようとしても、それは不可能です。

アプリケーション・リソース管理(ARM)ソリューションがあると、リソースの問題を解決して遅延を減らすのに有利です。プリケーションとインフラストラクチャー・コンポーネントの使用状況とパフォーマンスをリアルタイムで継続的に分析するIBM Turbonomicプラットフォームもそのひとつです。

例えば、プラットフォームがサーバー上のリソース競合によって高遅延になっているアプリケーションを検知すると、遅延を減らすことができます。 このようなプラットフォームは、必要なリソースを自動的にアプリケーションに割り当てたり、輻輳の少ないサーバーに移動したりすることで、遅延を低減します。

ネットワーク・パフォーマンスの監視

pingコマンドなどのテストでも、ネットワーク遅延を簡単に測定することはできますが、問題を的確に特定するには不十分であり、ましてやその問題に対処することはできません。 IBM SevOne NPMなどのネットワーク・パフォーマンス管理ソリューションを使用すると、統合プラットフォームが提供され、チームがネットワーク・パフォーマンスの問題を特定したうえでそれに対処し、防止して、遅延を減らすことができます。

高性能で最新のインフラの保守

最新のハードウェアとソフトウェア、およびネットワーク構成を使用していることと、要求している内容をお使いのインフラスが処理できることを確認しましょう。ネットワークを定期的にチェックし、保守を実行しておくと、パフォーマンスの問題と遅延を低減するのにも役立ちます。

ページ・アセットとコーディングの最適化

開発者は、動画や画像などのページ・アセットの最適化により読み込みを高速化したり、コードを縮小したりするなど、ページの構造によって遅延が大きくならないようにする対策を講じることができます。

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脚注

1Internet at the Speed of Light(光速インターネット)」(ibm.com外部へのリンク)、Yale.edu、2022年5月3日

2Effect of the network on performance(ネットワークがパフォーマンスに与える影響)」 ibm.com、2021年3月3日