サプライチェーンを強化する戦略的調達の4つのユースケース

2024年2月13日

読了時間:5分

業界全体がかつてない事態に遭遇するサプライチェーンの混乱の時代において、バリュー・チェーン全体にわたる強さとレジリエンスは、もはやあればよいというものではなく、生き残るための戦略となっています。調達チームにとって、これはサプライヤーの選択に関する考え方を、コストを何よりも重視する「戦術的」アプローチから、最終的かつ大局的な勝利や成功を目指す「戦略的」アプローチへと転換することを意味します。

戦術的調達は短期的な戦略ですが、戦略的調達は長期的なビジネス目標の達成に貢献します。戦略的調達の考え方に基づいて業務を行う調達および購買の専門家は、サプライヤーの品質や評判、およびサービスを評価します。また、強力なパートナーシップによってサプライチェーンのリスクを軽減し、サステナビリティーを促進できるかどうかも考慮に入れています。このような分析と意思決定は、人工知能ツールやデータ分析プラットフォームなどのさまざまなテクノロジーの助けを借りて最適化されることがよくあります。戦略的調達のメリットは、サプライチェーン・プロセス全体の最適化から、よりコスト効率の高いパートナーとの長期的な関係の構築まで多岐にわたります。

戦略的調達のユースケースは次のとおりです。

透明性とトレーサビリティー

ファスト・ファッションから蛍石まで、消費者と利害関係者は製品の原産地に注目しており、ブランドが倫理的かつ責任ある調達慣行を実践することを期待しています。実際、2022 年に実施された調査では、消費者の73%がトレーサビリティーが重要であると回答しています。そして、そのうちの71%が、そのための追加料金を支払う意向を示しています。トレーサビリティーに対する消費者からの要求だけではありません。新しい規制により、一部の企業にとってトレーサビリティーが必須となる場合があります。米食品医薬品局(FDA)のFood Safety Modernization Act(FSMA)規則204では、食品トレーサビリティー・リスト(FTL)に掲載されている食品を製造、加工、梱包、保管する食品会社にも、トレーサビリティー・システムを適用し、新しい記録保持要件に従うことを義務付けています。

FSMAへの準備の詳細については、こちらをご覧ください。または、IBMが無料で提供しているFSMA 204(d) コンプライアンス・モジュールもご利用いただけます。

責任ある調達に対する要求を満たすには、透明性とトレーサビリティーを実現する戦略的な調達方法とテクノロジーが欠かせません。ブロックチェーン・ベースのソリューションを活用することで、サプライヤーとパートナーの信頼できるエコシステムを構築できます。なぜなら、ブロックチェーンの変更不可能な台帳は、製品の出所とバリューチェーンを通じた経路を認証するためです。

例えば、野菜卸売業者であるAntonello Produce社は、顧客が信頼できる食品を提供したいと考えていました。そこで、IBM® Food Trustソリューションを使用して、農業パートナーが栽培した農産物とブロックチェーン・ベースのトレーサビリティー記録を統合することにしました。現在では、バッチ番号または請求書番号だけで完全な製品履歴を入手できます。同社は、消費者がパッケージのQRコードをスキャンして食品の全経路を今後確認するようにできないか、店内キオスクの可能性について検討しています。

ブロックチェーン・ベースの調達機能は、倫理的かつ責任ある調達の保証に加えて、高品質の製品を保証するのにも役立ちます。イタリアのオリーブオイル・メーカーであるPietro Coricelli社がIBM Food Trust を活用して「Made in Italy」オリーブオイルの品質を保証した事例をご覧ください。

持続可能性(サステナビリティー)

トレーサビリティーと透明性は、サステナビリティーの側面でも重要視されています。実際、CEOの60%が、組織のサステナビリティー・パフォーマンスについてより透明性を高めるプレッシャーを既に感じていると述べています。¹企業の製品やサービスの提供に伴う 温室効果ガス(GHG)排出量の90%以上がサプライチェーンによるものである場合が多いため、サステナビリティーの観点から戦略的調達を行うことは、全体的な排出量を削減し、環境、社会、ガバナンス(ESG)目標を推進するもう1つの方法です。2

例えば、持続可能な戦略的調達を行う企業は、「製造工場は廃棄物を最小限に抑え、資源を効果的に使用しているだろうか」と自問します。これを保証する1つの方法は、Patagonia社がアウトドアレクリエーション用衣料の生産で行っているように、主にリサイクル素材を調達することです。リサイクル・ポリエステルを使用することで、ブランドの石油依存度が減り、これは、廃棄物の有効活用と温室効果ガス排出量の削減をもたらします。また、ニア・ソーシングと呼ばれる一種の調達方法を選択する企業もあります。これには、調達活動を製品やサービスの販売場所の近くに移動することで、製品を最終目的地に輸送する際に発生する排出コストを削減することが含まれます。

組織は、製品を生産するのに必要な原材料のサプライヤーから配送用の箱を提供するサプライヤーまで、各サプライヤーを精査して、自社のサステナビリティーの取り組みが一致していることを確認することもできます。例えば、Patagonia社は取引先である全サプライヤーに、リサイクル・クレーム・スタンダード(RCS)認証やグローバル・リサイクル・スタンダード(GRS)認証などの第三者基準の認証を受けるよう求めています。3

実行可能かつ持続可能なパートナーのエコシステムを構築するのは簡単ではありません。IBM Supply Chain Intelligence Suiteは、人工知能(AI)とブロックチェーンを搭載しており、サプライヤー・データの収集を支援してスコープ3の精度を高め、廃棄物を削減して循環性を向上させ、炭素やその他のESGの影響について最終消費者に通知します。

コストの削減:

長期的なビジネス・ニーズを満たす適切なサプライヤーを選択すると、多くの場合、より有利な価格と支払い条件(一括払いによる割引や手数料の削減など)で契約が結ばれます。これは企業にとってコスト削減戦略ですが、製品やサービスの価格を下げることで顧客にとってより良い価格を実現し、競争上の優位性を生み出すことができます。

特定のタイプの調達では、さまざまな方法でコストを最小限に抑えることができます。例えば、インソーシングはアウトソーシングの反対で、外部のリソースよりも安価になる可能性のある内部リソースを活用します。ニア・ソーシングは、排出量の削減に加え、輸送コストと配送時間も削減します。また、グローバル・ソーシングにより、企業は低コストの地域でより安価なリソースにアクセスできるようになります。

戦略的調達方法を使用してコストを削減するもう1つの方法は、手動プロセスの自動化をはじめとするデジタル・トランスフォーメーション です。手動プロセスに関連する人為的エラーのコストは高額になる可能性があり、顧客とベンダーの関係における信頼に悪影響を与える可能性もあります。トランザクションと契約管理を合理化および自動化するテクノロジーにより、これらのエラーを大幅に削減し、調達プロセスを迅速化できます。

調達チームと購買チームは、データとインテリジェンスを戦略的に活用して、どのサプライヤーが最も高い価値を提供し、総サービスコストを最小限に抑えるかを判断することもできます。IBM Sterling Fulfillment Optimizerなどのソリューションは、変動し続ける顧客の需要を満たすためにチームがリアルタイムで新しい調達決定を下すのに役立ちます。また、輸送コストとサービス・レベル契約を最適化し、在庫管理と可視性を向上させるのにも貢献します。

リスク管理

サプライチェーンは、供給、需要、物流、業界環境の変化による課題に直面し、多大なストレスにさらされています。戦略的調達は、サプライヤーとの関係に関連する潜在的なリスクを軽減することで、こうしたストレスの一部の軽減も促進します。

まず、質の高いサプライヤーで構成される幅広いエコシステムを戦略的に構築することで、1つの調達先への依存から生じる潜在的なリスクを制限できます。多様化されたサプライヤー・ポートフォリオにより、組織は混乱による遅延、キャンセル、価格変動を回避できます。

サプライチェーン・リスク管理(SCRM)ソフトウェアを活用することで、組織は最適化された情報と完全な透明性を備えた信頼できるサプライヤー・ネットワークを構築できるようになります。このテクノロジーは、規制違反のリスクの軽減にも役立ちます。例えば、IBM® Trust Your Supplierは、AIを使用してサプライヤーの規制遵守を継続的に監視します。

サプライチェーン・コントロール・タワーなどのより広範なテクノロジーも、エンドツーエンドのネットワーク全体の可視性を提供することで、サプライヤーのリスクの軽減に貢献します。具体的には、AIとリアルタイムのデータを活用して外部イベントの影響を特定し、潜在的な混乱を予測し、影響を軽減するためのアクションを推奨します。

一部の組織にとって、戦略的調達によるリスクの軽減は、ニア・ソーシングや垂直統合などの調達戦略を使用して脱グローバル化に向かうことを意味します。例えば、Apple社、Nike社、Tesla社は、海外サプライヤーへの依存度を減らし、コントロールを強化するために、サプライチェーンの脱グローバル化を進めています。これにより、地政学的不安定性や自然災害による混乱のリスクをある程度制限できる一方で、ローカル・サプライヤーとグローバル・サプライヤーのバランスを取ることでリスクを減らす必要があるかもしれません。

戦略的調達:始め方

戦略的調達プロセスは、ビジネス、業界、地域などにより異なります。ここでは、独自のプロセスを構築するための一般的な手順についてご説明します。

  1. 目標設定:コストの削減、品質管理の改善、サプライヤー・リスクのより適切な管理など、具体的な目標と指標を特定します。
  2. 現在の調達活動の分析:過去の調達およびビジネス・プロセスに関するデータを調べて、非効率的な支出を改善または削減できる領域を見つけます。
  3. 市場の評価:戦略的な調達決定を行う前に、市場調査と競合他社のデータを調べて、市場での自社の位置付けを評価します。
  4. 審査とサプライヤーの選択:サプライヤーとの面談、提案依頼(RFP)、見積依頼(RFQ)、スコアカードなどを組み合わせて、潜在的なサプライヤーを評価および選択するプロセスを確立します。
  5. サプライヤー・パフォーマンスの継続的評価:定期的な監査、KPI監視、サプライヤー関係管理、サプライヤーからのフィードバック収集を実行します。

AIとオートメーションの力を活用してサプライチェーン管理の目標を推進する方法について詳しくは、IBM Sterling Supply Chain Intelligence SuiteIBM Sterling Order Managementの機能をご確認ください。

 

著者

Alexandra Jonker

Editorial Content Lead

脚注

1トランスフォーメーションの触媒としてのサステナビリティー、IBM Institute for Business Value、2022年1月10日。

2サプライチェーン・ガイダンス(ibm.com外部へのリンク)、EPA米国環境保護庁、2023年1月17日。

3リサイクル・ポリエステル(ibm.com外部へのリンク)、Patagonia社。