ビジネス戦略の例
2023年12月13日
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成果を上げるビジネス戦略は、リソースの配分を規定し、企業が戦略的目標を達成する方法の概略を定めています。組織が新製品の開発に力を入れているにせよ、リーチできていない利用者層に向けた既存サービスのマーケティングに力を入れているにせよ、強固な戦略を定めることが、組織の長期目標の達成に寄与します。戦略は通常、核となるビジネス目標に応じて決まり、重要業績評価指標(KPI)を念頭に置いています。加えて、組織の市場ポジションに対する理解も不可欠です。そのことは、以下に示すビジネス戦略の例からも分かります。

ビジネス・ストラテジーの種類

研究者やビジネス・リーダーはこの数十年、さまざまなビジネス環境に幅広く適用できる、いわゆる「汎用戦略」をいくつか突き止めてきました。このような核となるビジネス戦略には以下があります。

  • 広範なコスト・リーダーシップ戦略
  • 広範な差別化戦略
  • 集中的な差別化戦略
  • 集中的なコスト・リーダーシップ戦略

ただし、核となるこれらの考え方には何十ものバリエーションがあります。また、組織が遂行する戦略の種類は、時と場合に応じて選択できます。優れたビジネス戦略は慎重な検討によって得られますが、だからといって不変なわけではありません。優秀なリーダーは、戦略の重要な構成要素を定期的にレビューし、計画をアップデートします。

例えば、利益を増やしたい起業家はコスト削減戦略を追求する可能性がありますし、事業を拡大したい企業は成長戦略を検討するものと考えられます。顧客離れや顧客の不満が特に問題となっている場合には、顧客維持戦略の方が適していそうです。

健全経営の企業が新市場への参入を目指している場合には、新たな顧客や製品ラインの取り込みを含む多角化戦略、あるいは新たな企業の買収を含むパートナーシップ戦略が最適かもしれません。

それでも、核となる汎用戦略を探っていくことは洞察の獲得につながり、世界屈指の成功企業が市場調査をどのように活用して、圧倒的な収益を生むロードマップを作り上げたかが分かります。基盤となるこれらの理論を具現化したビジネス戦略の例を以下に示します。

広範なコスト・リーダーシップ戦略の例:Walmart社

Walmart社の創業者であるSam Walton氏は、小売業のキャリアに進んだ1940年代に、あるシンプルなアイデアを抱きました。競合他社に商品を納入しているサプライヤーよりも低価格のサプライヤーを見つけ、その分のコスト削減を雑貨店の顧客に還元するというアイデアです。このようにして増やした利幅から直接利益を得ようとするビジネス・リーダーも多いのですが、Walton氏は規模の経済を追求することを決めました(ibm.com外部へのリンク)。より多くの代金を顧客に払ってもらうのではなく、より多くの顧客を引き付けることによって、利益を上げるということです。それから70年以上の間に、Walmart社はコスト・リーダーシップ戦略の最も有名な例の1つになりました。コスト・リーダーシップ戦略では、商品やサービスを可能な限り低価格で提供することによって、競争を無力化します。

同社は拡大を進める中で、店舗網の広さを次第に生かせるようになったため、サプライヤーに値下げを要請して、さらなる低価格での商品販売を追求しました。こうして実現したコスト削減の多くを店舗の利用客に還元したことで、商品の価格は徐々に下がりました。同社の広告はこの点を明確に示し、顧客にこのように促しています。「節約で、よりよく生きる」

2000年代初めまでに、Walmart社のコスト・リーダーシップ戦略は大きな成功を収め、アメリカ人の3分の1がWalmartを頻繁に利用する顧客となりました(ibm.com外部へのリンク)。価格競争での勝利が収益面での莫大な成果につながることを示す例です。Amazonなどの巨大eコマース事業者との競争が激化している大手小売業者のWalmart社にとって、この戦略はきわめて重要です。

広範な差別化のビジネス戦略の例:Starbucks社

Starbucks社が1971年に中小企業として創業した頃、米国で高級コーヒーはニッチ市場でした。しかし、創業者のHoward Schults氏は、イタリアのコーヒー文化を輸入し、Dunkin Donuts社のような競合他社との差別化を図る機会があると考えていました。

ファスト・フード型のスタイルで安価なコーヒーを提供する店に対する競争優位性を獲得するために、Schultz氏は長時間の滞在を促す居心地のよいカフェを次々とオープンさせました。Starbucks社の商品は競合他社よりも高価でしたが、マーケティング・キャンペーンでは、ほかにはない優れた品質の商品である点を強調していました。またStarbucks社はサプライチェーンにも細心の注意を払い、倫理的に調達した商品を確保したほか、地域によっては入手が難しいスペシャルティ・ドリンクを提供しました。同社がサービス従業員の人材管理に早くから注力していたことも、大きな差別化要因となりました。

Starbucks社は次第にパーソナライゼーションも非常に重視するようになり、お気に入りの飲み物を作るよう顧客に促しました。同社はその後、顧客維持を促進するために、ロイヤルティー・カードやその他の特典をリピート顧客向けに導入しました。

現在、Starbucks社の店舗は世界中の至るところにあります。同社の成功は、既存の商品よりも格段に魅力的なプレミアム商品を提供することで競争を無力化する差別化戦略の代表例の1つとなっています。

集中的な差別化戦略の例:REI

集中的な差別化戦略は、プレミアム商品の提供によって大規模な市場シェアの獲得を目指す広範な差別化戦略とは異なり、特定の消費者グループに合わせて事業計画をカスタマイズします。アウトドア用品の小売業者であるREIは、一連のビジネス上の意思決定とマーケティング戦略においてターゲット層の価値観を重視する集中的な差別化によって、大きな成功を収めてきました。REIの場合、商品の差別化は、同社がどのようにコア・バリューを伝え、独自の顧客体験を提供するかという点にかかっています。

REIはエシカルでサステナブルなアウトドア・ブランドとして自らを位置づけることが多く、「利益よりも目的」(ibm.com外部へのリンク)を優先すると同社自身が述べています。より幅広いオーディエンスをターゲットにする競合他社との差別化の手段として、同社は創業以来、協同組合の会員モデルや、サステナビリティーへの取り組みなどの施策を強調してきました。同社は近年、ロイヤル顧客の特定のグループを取り込むという目標を反映した、比較的リスクの高いマーケティング戦略に取り組みました。

REIは2015年以降、ショッピングが1年で最も盛んなブラック・フライデーに店舗を閉め(ibm.com外部へのリンク)、その日はアウトドアで過ごすよう従業員に奨励しています。同社はこの取り組みに合わせて、ブランドのリーチを強化するためのソーシャル・メディア・キャンペーンも実施しました。REIは、商品の価格が競合他社よりも高い場合があり、また店舗数も200店未満ですが、そのビジネス・モデルの基盤にあるのは、ロイヤルティーの高い顧客グループが、同社のメッセージや商品は自分に合っていると認識して、他でも簡単に見つかる商品にプレミアムを支払うという考え方です。

集中的なコスト・リーダーシップ戦略の例:Dollar General社

Walmart社のコスト・リーダーシップ戦略は、至るところに出店して大規模に事業を展開することが土台となっていましたが、ディスカウント・チェーンのDollar General社は、より明確な市場で価格に敏感な消費者を獲得しています。同社は、まったく新しい市場への参入を目指すのではなく、地方の消費者に低価格の商品を提供することに狙いを定めました。同社の戦略は、巨大店舗が進出しないような地域に小型店舗をオープンし(ibm.com外部へのリンク)、補完的な価格戦略を提供して、予算を気にする消費者を引き付けるというものです。

Dollar General社はこの戦略によって強固なターゲット市場を獲得し、間接費を相対的に抑えて、スマートで効率的な事業へと成長できました。通常、同社は店舗を賃借し(ibm.com外部へのリンク)、小規模でシンプルな店にとどめることで、不動産費や多額の人件費を抑制しています。また、一般に店舗の在庫は、特定の顧客ベースをターゲットにして商品の数を絞っていることから、コストが削減され、サプライチェーンのプロセスを正確に管理できるようになっています。店舗の開設費用を減らし、広告にあてるリソースを抑え、価格に敏感な地方の顧客をターゲットにすることで、同社はニッチ市場への進出に成功しました。

ビジネス戦略におけるアジリティーの重要性

ここまで見てきた効果的なビジネス戦略が示すように、ビジネス目標の達成を目指している組織にとって、戦略的プランニングはきわめて重要です。企業が向かうべき方向を明確に認識することで、意思決定が容易になり、組織のコーポレート・レベルの戦略から製品開発の計画まで、すべての事業単位をカバーするオペレーションの指針が得られます。最も効果的なビジネス戦略は部門レベルで活用できます。その場合、財務から人事までのあらゆる部門が、会社の包括的な目標に沿って進んでいくことになります。

しかし、成果を上げるビジネス戦略のすべてが、上記の4つの汎用モデルに正確に当てはまるわけではありません。多くの場合、企業は1つまたは複数の戦略の要素を組み合わせ、あるいは市場とテクノロジーの変化に応じて方向転換を図ります。これはスタートアップ企業で特に顕著です。スタートアップ企業は多様な利害関係者が関与していることが多く、新しいテクノロジーが価値提案の基盤となっている場合があるからです。それでも、上で示した例から分かるように、ビジネス・オペレーションの最適化は、どのように異種の要素を連携して共通の目標を達成できるかというクリティカル・シンキングにかかっています。

ビジネス・ストラテジーとIBM

先進テクノロジーや社会的な影響が新たな顧客体験を生み出し、その結果、期待や要求が変化し、ビジネス・モデルが崩壊しています。IBMコンサルティングのビジネス向けプロフェッショナル・サービスは、トランスフォーメーションをビジネス戦略と整合させ、競争上の優位性を生み出し、ビジネスへの影響に明確に焦点を合わせることで、組織がダイナミックで複雑な競争がますます激化する世界を切り抜けられるよう支援します。

著者
Molly Hayes Content Writer, IBM Consulting, IBM Blog