ホーム お客様事例 Wintershall Dea社 データを掘り下げて石油・ガス業界を変革
Wintershall Ddea社は、IBM AI @Scaleを使用して組織全体のデータサイエンスを強化しています
後ろから見たWintershall社の従業員
急速なデジタル・トランスフォーメーションから、より効率的な日常プロセスの構築に至るまで、AIは、これを積極的に導入しようとする企業に広範な可能性の世界を提供しています。ドイツに本拠地を構え、ヨーロッパを代表する独立系ガス・石油会社であるWintershall Dea社は、この課題に取り組みました。 その結果、現在では、組織全体のビジネスおよび事業にAIを幅広く導入しています。

技術革新の導入、従業員のエンパワーメントの徹底、環境に配慮したエネルギー生産への取り組みが示すように、Wintershall Dea社は常に未来を見据えてきました。最近の出来事により、こうした先見性がこれまで以上に重要になりました。

同社は、それぞれ120年を超える歴史がある2社の伝統ある企業Wintershall社とDEA Deutsche Erdoel社が合併し、2019年に設立されました。

両社が合併したことにより、大規模な組織全体で保有するデータをAIと連携させ、活用する必要性は明らかになりました。 AIは効率性を向上させ、コストを削減するだけでなく、業界の技術革新リーダーとしてのWintershall Dea社の地位を強化する可能性があります。技術革新は、組織内外の協力者を引き付ける重要な要素です。

2020年になる頃には、この新設会社はAI@Scale(大規模なAIの導入)イニシアチブを加速させる段階に入っていました。 当時、いくつかの社内ビジネスおよび企業部門で既にAIの導入を進めていましたが、これらの個々のプロジェクトはそれぞれの個別目的のためのものでした。 AI@Scaleアプローチでは、AIプロジェクトは最初から拡張性を考慮して構築されます。 成功すれば、他のグループに迅速かつ簡単にAIの導入規模を拡大・拡張しすることができます。

AI@Scaleソリューションには、一元管理されるプラットフォームと手法が欠かせません。 「当社が目指しているのは、選ばれるパートナーとみなされることです」と、Wintershall Dea社のデジタル化およびテクノロジー担当上級副社長、Kathrin Dufour氏は言います。 「自分のデータに自分も他のユーザーもアクセスすることができる標準化された環境があれば、パートナー・エコシステム内でのコラボレーションがはるかに簡単になります。 私たちは以前よりも社内外でデータを交換することが多くなっているため、これは今日ますます重要になっています」。

その目標を達成するために、同社はデータサイエンス、データ・ガバナンス、データ・ハブ担当副社長を務めるUlrich Lorang氏の指揮の下、AIとデータサイエンスのためのコンピテンス・センター(CoC)を設立しました。Wintershall Dea社は、AI CoCとプラットフォームを計画、開発、実現するために、より大規模かつ広範なAIの専門知識と経験にアクセスできるパートナーと協力する必要がありました。

2,000件のPDF文書

 

2,000のPDF文書からデータを自動抽出

80件以上のAIユースケース

 

会社全体で80件以上のAIユースケースのコンセプトを特定

当社はIBMコンサルティングと生産的な協力関係を築いています。 この連携により大きな勢いが生まれ、比較的短期間で重要なマイルストーンに到達し、価値を提供できるようになりました。 Hugo Dijkgraaf氏 CTO Wintershall Dea AG
AIとデータサイエンスのロードマップ

パートナーを探す中で、IBM®コンサルティングは競合他社とは一線を画していました。同社は、過去のプロジェクトでWintershall Dea社と協力して取り組んだ実績があり、他の企業での大規模なAI機能開発プロジェクトを支えてきた豊富な実績もありました。

さらに、IBMはMicrosoft社と戦略的パートナーシップを締結しており、Wintershall Dea社では、既にデータ プラットフォームにMicrosoft Azureを採用していました。 IBMは、IBM® AI@Scaleアプローチにより既存のプラットフォームを活用しながら、必要に応じてMicrosoft社の専門知識を取り入れることができました。

IBMとWintershall Dea社の連携は1日目から極めてスムーズでした。「そのプロセスは実にシンプルなものでした」とLorang氏は言います。 「私たちは1つのチームを作りました。 両社の間に大きな違いはありませんでした。 互いに共通の目標を持ち、それを達成するために協力し合いました」。

IBM AI@Scaleの適用にあたり、チームはプラットフォームの技術的アーキテクチャー、CoCの運用モデル、企業文化という3つの戦略領域に焦点を当てました。

IBM AI@Scaleサービスには、企業内のAI導入状況、将来のAIに対するビジョン、主要な利害関係者、必要なリソースなどの領域にまたがる標準化評価が含まれています。 IBMはこれら3つの戦略分野のそれぞれをカバーできるよう、Wintershall Dea社の評価をカスタマイズしました。 その後、Wintershall Dea社と協力して評価結果に基づき、社内のデータサイエンスに関する技術的および組織的なロードマップを策定しました。

チームはMicrosoft Azureプラットフォームとサービスを基盤に、コンポーネント・ベースのアーキテクチャーを開発しました。 この基盤の設計において、チームは機械学習オペレーション(MLOps)アプローチを採用しました。これは、データサイエンティストとエンジニアの知識を活用しながら、AIシステムの計画、開発、構築、テスト、保守を行うエンド・ツー・エンドのアプローチです。

チームは運用面で、CoCがどのように機能すべきか、また組織全体にデータサイエンスを拡張するための役割とスキルの種類を特定しました。 CoCのデータサイエンティストに加えて、そのコミュニティーには、ビジネス部門およびコーポレート部門にいる市民データサイエンティスト(地球科学者、エンジニア、経済学者、および優秀な数理プログラマー)が含まれており、各チーム内でデータサイエンス・プロジェクトの推進を支援することができました。

最終的に、Wintershall Dea社はこのコミュニティーを成長させ、従業員が独自のAIプロジェクトを開発できるよう、会社全体で従業員のスキルアップを図りたいと考えています。 データサイエンスへの関心は高く、経営陣は会社の価値の大半は事業や企業単位のレベルから始まると考えてました。 そのため、ロードマップには、CoCと市民データサイエンティスト向けに、新しいプラットフォームとテンプレートの使用方法に関する技術的な説明会が含まれました。

企業文化とコミュニケーションの観点から、チームは社内のビジネス部門およびコーポレート部門向けにさまざまな研修やワークショップを計画しました。 これらは、AIが従業員に日常業務で提供できるビジネス価値と、その価値を活用するためにCoCと連携する方法に焦点を当てていました。

計画を実行に移す

2021年には、IBMとWintershall Dea社は、共同で作成したロードマップに基づいてAI@Scaleアプローチを導入する基礎を築き始める準備が整っていました。 プロセスの一環として、技術環境の整備、事業部門との話し合い、考えうるユースケースの特定、CoC概念の推進、従業員の関与と実現が行われました。

技術面では、チームはAzureプラットフォームから必要なサービスをプロビジョニングし、Wintershall Dea社のニーズと環境に合わせてIBM AI@Scaleテンプレートをカスタマイズしました。 運用の観点から、チームは技術支援セッションを実施し、事業部内のCoCと市民データ サイエンティストが将来独自のAIプロジェクトを開発できるように支援しました。

データサイエンスとCoCの価値について、技術面とビジネス面の両方から従業員の認識を高めるため、チームは事業部門と個別に面談し、研修を実施し、AIの潜在的メリットを伝え、CoCがどのように役立つかを説明する社内キャンペーンを展開しました。

2022年に入り、チームはAIの取り組みの次の段階、つまりユースケースを本格的なソリューションに取り組む段階をスタートさせました。 ユースケースの選択と開発のプロセスは、IBM Garage™メソッドに沿って行われました。 IBMとWintershall Dea社は協力して作業しました。具体的には、IBMはプロセス全体を通じてガイダンスを提供しながら、Wintershall Dea社の従業員に教育と支援を提供し、将来のプロジェクトでこの手法を再現できるようにしました。

資格認定プロセスでは、事業部門と緊密に協力し、各部門における課題を理解しました。 「IBMコンサルティングの研究指向型人工知能コンサルタント、Max Schemmerは「私たちは、自動化できるからという理由だけで何かを自動化するのではなく、ビジネス上の課題に焦点を確実に合わせるために、各領域の専門家と緊密に連携しました」と言います。

Lorang氏もこれに同調します。「ビジネス上の問題は必ずあるはずです。 そして、自分の地域の課題を理解し、高品質で関連性の高いデータに確実にアクセスできるようにした上で、実際にそのデータを使って何かできるようにデータを準備する必要があります」。

IBMが私たちに大変貢献してくれたことの1つが、概念実証を実稼働環境にどのように取り入れるかです。IBMが提供するテンプレートを使用すると、迅速な拡張が可能になり、テスト、概念実証、開発を並行して行うことができます。 Prihandono Aditama氏 プロダクト・マネージャー Wintershall Dea AG
スタートアップ企業のように技術を革新し、大企業のように規模を拡張する

Wintershall Dea社は主に2種類のAIプロジェクトを実施しています。1つは従来型の大規模プロジェクト、もう1つは小規模で実行が簡単な「ホタル」と呼ばれるプロジェクトです。 ホタル・プロジェクトは、単純な問題を解決するために迅速でスケーラブルなAIプロジェクトを実行する、Wintershall Dea社独自のコンセプトです。 社内にデータサイエンスの訓練を受けた従業員がいるため、事業部は独自にホタル・プロジェクトを開発し、それに必要なコーディングを行い、必要に応じてCoCにサポートを求めることができます。

ホタル・プロジェクトは小さな規模で始めますが、それが大きな影響力を持つようになることがあります。その場合は、迅速に拡張できるように構築されています。 例えば、エンジニアリング部門の従業員には、2,000件を超えるPDF文書からキーの値を手動で抽出し、そのデータをスプレッドシートに入力するというタスクがありました。 このプロセスは退屈で、従業員がより創造的で有意義な仕事に費やす時間が奪われていました。

AIを適用することで、エンジニアリング部門はこのプロセスを自動化し、より困難なプロジェクトに取り組むことができるようになり、全体的により大きな価値を会社に提供できるようになりました。 社内および社外のソースからリアルタイムでデータを抽出するこのモデルは、社内の他の部門にとっても価値があることはすぐに明らかになりました。 現在、このスケーラブルなソリューションは、さまざまな目的でいくつかのビジネス部門およびコーポレート部門に適用されています。

大規模なプロジェクトは、最初から高い目標を掲げます。 2021年、Wintershall Dea社はノルウェーのガス井と油井の完全性を維持するためにAIを活用できるかどうかを調査しました。 こうした保守は、稼働中の井戸、特に海底井戸にとって特に重要です。 複数の鋼鉄とコンクリートの層で包まれ、直径何キロメートルにも及ぶ巨大なパイプが海底深くに掘られているため、最先端の坑井監視システムが存在する場合でも、漏水が僅かであれば、十分に深刻な状態になるまで長時間検出できない可能性があります。最悪の場合、重大な問題を引き起こす可能性があります。 したがって、早期発見が不可欠です。

以前は、Wintershall Dea社のエンジニアは井戸センサーからのデータを継続的に監視していました。 しかし、日次的に分析を行っても、人間には検出できない問題もいくつかありました。

AIを使用して、チームは既存のセンサーからのデータを、以前よりもはるかに集中的かつ正確に分析するためのユースケースを開発しました。 「私たちはまず、AIを使用して過去の漏洩事件を検出できるという仮説を検証することにしました」と、Wintershall Dea社のプロダクト マネージャー、Prihandono Aditama氏は言います。 「モデルが適切であることが確認できたので、それを井戸センサーからのライブデータと連携させました」。

「現在、AIが異常を検出すると、エンジニアにメールが送信されます」と彼は続けます。 「現在は、エンジニア向けのユーザー・インターフェースを構築中です。製品の初回リリースで既に利用できるようになる予定です」。

このプロセス全体をサポートしたのは、IBM AI@Scaleのツールと手法でした。「IBMが私たちに大変貢献してくれたことの1つが、概念実証を実稼働環境にどのように取り入れるかです。IBMが提供するテンプレートを使用すると、迅速な拡張が可能になり、テスト、概念実証、開発を並行して行うことができます」と、Aditama氏は言います。

報いを得る

Wintershall Dea社はIBMと協力して80件以上のAIおよびデータサイエンスのユースケースの可能性を特定し、現在は、そのうちの20件に積極的に取り組んでいます。 ユースケースは、運用、エンジニアリング、地球科学などの技術分野から、商業や販売などの非技術分野まで多岐にわたります。 IBMはこれらのいくつかに深く関与していますが、その以外では、社内のビジネス部門、コーポレート部門、CoC内で独立して運営されています。

既存のプロジェクトは進行中です。 Wintershall Dea社のチームは、社内外のデータベースからデータを引き出して適用することで、PDF抽出モデルを社内の他の部門にも拡張できるよう取り組んでいます。 ウェル・インテグリティー・プロジェクトは、2022年後半に本番稼働段階に入りました。 本番稼働後、チームは垂直方向(新しい機能や機能の追加)と、水平方向(ノルウェーやその他の国の他の井戸への適用)の両方向で拡大できるよう、暫定計画を立てています。

ビジネス上の問題解決の可能性、そしてイノベーションおよびスキル向上の機会という両方の観点から、データサイエンス・イニシアチブに対する熱意が全社で高まっています。 100人を超えるWintershall Dea社の従業員がAIおよびデータサイエンスに関するトレーニングを受けており、その中には最近6日間のデータサイエンス・ワークショップに参加した従業員60人も含まれています。

「私たちは間違いなく組織によい影響を及ぼしました」とLorang氏は言います。 「私たちが構築した市民データサイエンス・コミュニティーは、私たちのサポートを得てAIを使用して問題を解決することに精力的に取り組んでいます」。

IBMとはこれからも綿密な関係を続けていくでしょう。「私たちはIBMコンサルティングと生産的な協力関係を築いています。 私たちの共同の取り組みにより大きな勢いが生まれ、比較的短い期間で重要なマイルストーンに到達し、価値を提供できるようになりました」と Wintershall Dea社のCTO、Hugo Dijkgraaf氏は語ります。「IBMはAIにおけるスキルと経験を当社と共有してくれただけではありません。チームの性格も当社のものと矛盾がありませんでした」。

Wintershall Dea社のロゴ
Wintershall Dea社について

Wintershall Dea社(ibm.com外部へのリンク)は、ドイツに本社を構えるヨーロッパ有数の独立系ガス・石油会社です。 2019年にWintershall Holding社とDEA Deutsche Erdoel社が合併して設立された同社は、11カ国で事業を展開し、現在、約2,000人の従業員を擁しています。

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 2023年3月

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