ホーム お客様事例 FlightSafety社 パイロットは離陸に向けて万全の準備を整える
FlightSafetyはデータとAIでパイロットの訓練に革命をもたらします
機内のパイロット

2009年、チェスリー・“サリー”・サレンバーガーは、ガチョウの群れが両方のエンジンに突入して、エンジンが停止した後で、民間航空機を極寒のハドソン川に着陸させることに成功しました。搭乗していた155人全員が生き残りました。サリー機長は、「ハドソン川の奇跡」を起こした英雄パイロットとして知られています。

航空業界がサレンバーガー氏を航空と安全の専門家として称賛しているのは、動詞が危機の瞬間にパイロットの訓練を活かして人命を救い、悲劇を回避したからです。この最悪のシナリオ、つまりデュアル・エンジンの故障は、パイロットがその危機に備えているものの、心底では遭遇しないことを望んでいます。

職業パイロット向けの訓練を行っているFlightSafety International社は、すべてのパイロットが同じではないことを認識しています。たとえば、2人のパイロットがいるとします。1人は操縦がアグレッシブで、もう1人はスムーズです。どちらも連邦航空局の認定を受けていますが、よりアグレッシブなパイロットは、乗客にあまり望ましくない体験をさせることになります。同社は、航空学校を卒業するパイロットの目標として、非公式の「サリー機長の基準」を定めました。しかし、サリー機長の基準を満たす天性の能力を備えたパイロット、または学生をより高い基準に訓練するのに最適なパイロットをどのようにして特定しているのでしょうか。

FlightSafety社は、より高い基準に合わせてパイロットを訓練することに加えて、提案された要求に応えるために、訓練のスループットを高速化することを目指しました。航空業界は2017年、大手航空会社の航空機販売台数に基づいて、2021年までにさらに63万7,000人の新規パイロットが必要になると発表しました。FlightSafety社のストラテジストは、この需要に対応するためのヒントが、フライト・シミュレーター・データのどこかにあることを認識していました。

大規模なリアルタイムでの監視

 

FlightSmartは4,000以上の変数をリアルタイムかつ、客観的にモニタリング

訓練の迅速な実施

 

2021年までに、予測される637,000人の新しいパイロットのニーズに対応すべく、訓練のスループットを高速化

フライト・シミュレーターからデータ・インテリジェンスを抽出

フル・フライト・シミュレーターは巨大なシステムであり、商用トラックとほとんど同じサイズになります。シミュレーター内部は、センサー、計器、バックライト付きスクリーンを備えた、実物大のコックピットを再現しています。これらのデバイスの設計と製造には数百万ドルの費用がかかります。実際の飛行体験を模倣するために、FlightSafety FS1000などのシミュレーターには、高度なオーディオ、ビジュアル、フル・モーション機能が装備されています。

パイロットが訓練を受けると、シミュレーターはすべての操縦、ボタンの押下、画面のタッチに関する膨大なリアルタイム・データを生成します。FlightSafety社は、これらのデータを活用して、価値のあるインサイトを抽出したいと考えていました。ここで同様に重要なのは、同社がデータ排気(Data Exhaust)の重要性を認識したことです。同社がIBMとの提携を決めたのは、米国国防総省がIBMをトップ3のAIベンダーにランク付けしており、IBMにはデータ・セキュリティーの実績があるからです。

IBMとFlightSafety社は現在、このデジタル空間に排出されるデータを捉えて、活用しています。パイロットは訓練セッションを終了すると、パフォーマンスをグラフ、レポート、分析に分類したダッシュボードを確認できます。このダッシュボードには、パイロットが何をしたか、どのように実行したか、どこを修正できるかがハイライトされます。パイロットは、実行したタスクの数、緊急処置後の反応時間が改善されているかどうか、次にどのパラメーターに焦点を当てて修正すべきかを把握できます。このシステムは、各パイロットの訓練レベルに応じたインサイトを提供し、パイロットが期待通りに進歩しているか、また改善が必要な項目があるかどうかを提示します。

教官はこれらのデータを総合的に確認することで、どのパイロットが優秀か、どのパイロットにさらなる注意が必要か、また、個々のパイロット間だけでなく、パイロット集団全体に否定的な傾向が生じていないかを把握できます。

パイロットの訓練にアジリティーを適用

FlightSafety社のリーダーシップチームは、IBMの専門家と連携して、IBM Garage™モデルを導入しました。このモデルは、イノベーションとトランスフォーメーションへの大胆かつ包括的なアプローチであり、新しいアイデアを素早く生み出し、スケールアップさせるものです。パイロットが特定のスキルを習得しているかどうかにかかわらず、カリキュラムの指示通りにそのスキルを大なり小なり訓練するような、従来のシラバス主導のアプローチを、データによってどのように改善できるかを共に模索し始めました。

航空業界の人々は構造と規律を重視して成功する傾向があるため、IBM Garageの予測可能なケーデンスと迅速なイテレーションは、同社にとって最適でした。IBM Garage Enterprise Design Thinkingのワークショップ中に、IBMのデータサイエンティストとFlightSafety社の航空専門家が、AIと機械学習をFlightSafety社のビジネスに取り入れる方法について、ブレインストーミングを行いました。このワークショップを通して、高度な分析のためのオープンソース・テクノロジーを活用して、クラウド向けに構築された最小実行可能製品(MVP)のビジョンとロードマップを作成しました。

「IBM Garageモデルのセットアップ方法には、たくさんの相互作用があります。このようなコラボレーションが促進される環境があれば、もっと楽しいと思います」と、FlightSafety社で政府戦略管理責任者を務めるBert Sawyer氏は言います。「チームが2週間のスプリントに取り組み、質問や提案をし始めると、新しいインサイトが得られるので、とても刺激的でした」

ユーザー中心でアジャイルなIBM Garage方法論に従って、チームはフライト・シミュレーターと統合された適応学習テクノロジー「FlightSmart」の最初のイテレーションを共同で構築しました。FlightSmartの新しいバージョンでは、航空機のコックピットの暗い画面に合わせて、ダッシュボードの背景色を変更するなど、デザインの詳細についてもユーザーと教官のフィードバックが取り入れられました。

新型コロナウイルス感染症の拡大まっただ中であったにもかかわらず、FlightSafety社のイノベーションへの取り組みはペースを維持しました。アジャイルでコラボレーションを促進するIBM Garageアプローチは、対面でのやり取りから、バーチャル環境でのチームワークに簡単に移行できます。「IBM Garageモデルを導入していなければ、新型コロナウイルス感染症の影響で開発ペースが大幅に落ちていました。おそらく今日の状況から、数か月は遅れていたでしょう」とSawyer氏は言います。「しかし、バーチャル環境で作業することで、IBMとFlightSafetyのすべてのチームメンバーの専門知識を維持することができました」

IBM Garageモデルを導入していなければ、新型コロナウイルス感染症の影響で開発ペースが大幅に落ちていました。おそらく今日の状況から、数か月は遅れていたでしょう。 Bert Sawyer Director of Government Strategic Management FlightSafety International

訓練生がシミュレーターで訓練している間、FlightSmartは約4,000の変数をリアルタイムで客観的に監視しています。このデータは、特定の操縦における訓練生のパフォーマンスを示し、さまざまな飛行スタイルも区別します。これらの傾向に基づいて、同社のチームは、「臆病」や「反応性が高い」、「リスクがある」、「アグレッシブ」といったユーザー・ペルソナを作成しました。

業界の基準により、教官がシミュレーターのどこに座るかが決められています。教官がパイロットの行動をすべて見ていることが前提となっています。ですが、ふたを開けてみれば、データは別の物語を語っています。FlightSafety社とIBMがフライト・シミュレーターのデータ分析を開始したとき、感度のパターンから、パイロットに近い位置で指導を受け、意図的に観察しているにもかかわらず、人間には捉えることが不可能なニュアンスをテクノロジーは捉えていました。ラダー・コントロールを例にとってみましょう。パイロットの足はコンソールの下に隠れているため、教官はパイロットがラダー・コントロールにどれほどの力を加えているかを判断することはできません。しかし、ラダー・コントロールを過度に使用すると、特定の状況ではマイナスの結果につながる可能性があります。FlightSmartを使用することで、教官はデータからこれまでの潜在的な行動を確認し、必要に応じて、コーチング内容をパーソナライズすることができます。

AIを活用したパイロット訓練が航空業界を変革

FlightSmartには、航空業界の新しい基準を確立するポテンシャルがあります。パイロット訓練の変革に加えて、データからのインサイトは保険、航空機製造、パイロットの退職年齢に関する航空業界のアプローチに影響を与える可能性があります。さらに、FlightSmartに組み込まれたアルゴリズム、高度な分析、データ・モデリングは、他の業界に容易に応用することが可能です。AIと機械学習が鉄道技師、船長、トラック運転手、外科医に与えるメリットを想像してみてください。

最初のユースケースでは、FlightSafety社はミシシッピ州コロンバスの米空軍基地に、FlightSmartを導入することに成功しました。FlightSmartは訓練と安全性を向上させることで、パイロットのミスを減らし、技能を習得するまでの時間を短縮できます。データは、パイロットが技術的に正しく操縦しているかどうかだけでなく、どれだけスムーズに操縦しているかどうかも示します。教官はペルソナとインサイトを明らかにすることで、似た特性を持つ個人またはグループに合わせて、訓練の内容をカスタマイズして、適応させることができます。パイロットは、最近習得したスキルに費やす時間を減らし、最も伸ばすべき能力の学習により多くの時間を費やすことができます。これらのインサイトにより、訓練生の離脱や教官の負担を軽減できます。ある教官は、各操作のパフォーマンスを客観的かつ自動的に分析できることは、現在使用しているツールの「大幅な改善」であると述べています。

データは、軍用または民間飛行士のキャリアパスを予測するのにも役立ちます。教官は早い段階で、データとAIを活用して、戦闘機に向いているであろうアグレッシブなパイロットを特定したり、資格を取得する可能性が低い、最も成績の悪い生徒を特定することができます。シミュレータの操作には、1時間あたり約1,000米ドルがかかるため、訓練生が成功する可能性を予測できれば、FlightSafety社とその顧客にとって、大幅な時間と費用の節約に役立ちます。飛行訓練を受けながら資格を取得できない学生は、文字通り「100万ドルの無駄遣い」です。これは、空軍や航空会社などの顧客が個々のパイロットに投資するおおよそのコストです。

無料のプレッツェルと機内エンターテインメントを楽しむ際には、FlightSmartがより多くのパイロットをより効率的に訓練し、サリー機長の基準である潜在能力をフルに発揮できるように導いていることを知って、安心してください。

データとAIが貴社のビジネスの成功にどのように役立つかについて、IBM Garageのエキスパートまでご相談ください。

FlightSafety Internationalのロゴ
FlightSafety Internationalについて

1951年に設立されたFlightSafety社 (ibm.com外部へのリンク)は、職業パイロット向けに訓練を行っており、民間、政府、軍事機関にフライト・シミュレーター、ビジュアル・システム、ディスプレイを提供しています。米国ニューヨーク州メルビルに本社を置くFlightSafety社は、約5,000人の従業員を擁し、毎年約170カ国の顧客に140万時間以上の訓練を実施しています。

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2022年3月、米国で作成。

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