ホーム お客様事例 Boeing ボーイングは丈夫で軽量な素材の新たな開発方法を模索している
IBMとボーイングは、航空宇宙工学における最大の課題の1つに対する合理的な量子アプローチを計画しています
動画を見る
画像は飛行中の787ドリームライナーを示しています。
ボーイングの従業員は、丈夫かつ軽量で、耐久性のある素材の専門家です。

そうでなければなりません。彼らの工場は、衛星、防衛システム、宇宙船、商用ジェット機など、世界の重要な航空宇宙インフラの多くを生産しています。最も複雑なエンジニアリング・プロジェクトの多くは、積層型複合材に依存しています。これらは羽根のような耐摩耗性の層状構造になっており、ボーイングはそれらを必要に応じて翼、胴体、その他の航空宇宙部品に組み立てます。

積層型複合材の設計は、それ自体が複雑な問題であり、従来のスーパーコンピューターでは解決できないことが判明しました。現在、ボーイングのエンジニアは、この問題を小さな断片に分割することで解決しています。

ボーイングはIBM Quantumとの提携により、その複雑さを解消すると期待される新しい量子アプローチを明らかにしました。今日の量子コンピューターは、次の航空機の翼の設計に役立つほど大きくはありませんが、両社はその未来に向けて重要な一歩を踏み出しました。

「これは、量子コンピューターが私たちのビジネス上の問題に関係するかどうかではなく、それがいつなのかを示しています」と、ボーイングのDisruptive Computing and Networksチームのチーフ・サイエンティストであるJay Lowell氏は述べています。

100,000 変数

ボーイングの積層設計問題は、最大で10万もの変数を含む可能性があり、従来のスーパーコンピューターの処理能力をはるかに超えています。

40 変数

ボーイングとIBM Quantumは、量子コンピューター上で40変数のモデルの問題を実行しました。これは、この種の実行としては過去最大規模でした。

私たちは、製品の設計の中核となる非常に大規模な最適化問題を解析しました。そして、量子コンピューターが対応できるのはその最適化問題のごく一部ではあるものの、うまく処理できることを明らかにしました。 Jay Lowell ボーイング、Disruptive Computing and Networksチーム、チーフ・サイエンティスト
古典的なコンピューターには大きすぎる問題

積層型複合材が複雑なのは、その組み立て方にあります。

各複合材は、超強力素材の長いストランドである何千もの個別の層から作られています。織物の代わりにロケット船や飛行機を織る大きな織機のように、精密機械が繊維を何層にも重ねていきます。機械は、エンジニアリング・プロセス中に決定されたさまざまな角度で各層を押し出します。

各層は、敷かれた方向にのみ強度を発揮するため、こうしたさまざまな角度が重要になります。

「可能な限り必要とするすべての方向で強度が得られるように、複数の方向に敷かれた素材を積み重ねる必要があります」とLowell氏は述べています。

作業の複雑さに加えて、航空宇宙設計では複合素材の厚さと重量に厳しい制限が設けられています。ボーイングの積層型複合材の設計の問題には、日常的に10,000~100,000の変数が含まれています。これは別の言い方をすれば、計算が複雑だということです。

「それは、現在の古典的なコンピューターの能力をはるかに超えており、今後数年間にわたり古典的なコンピューターの能力を超えるだろうと予想されています」とLowell氏は述べています。

現在、ボーイングは積層型複合材の問題を、古典的なコンピューターが処理できるような小さな断片に分割しています。次に、厳密な設計ルールに従って、これらすべての結果を統合し、問題全体に対する解決策を導き出します。

このアプローチは効果的です。これにより、ボーイングが航空機に使用できる安全で丈夫な複合素材が生まれました。しかし、コストがかかります。

ボーイングのAssociate Technical FellowのJoel Thompson氏は、「長くまっすぐな複合材が必要なら、プライを少し敷いてカットして、次のプライを敷いてカットして、と繰り返すよりも、一本のまっすぐな長いプライを敷くほうが理にかなっています」と語りました。

これは、コンポーネントを一口サイズの断片で設計するというアプローチの結果です。そのプロセスには、より多くの時間、労力、費用がかかります。

これらの新しい手法のおかげで、このプロジェクトを始めたときに予想していたよりもはるかに前進することができました。解決策は、数年前の予想よりも近いようです。 Jay Lowell ボーイング、Disruptive Computing and Networksチーム、チーフ・サイエンティスト

ボーイングのTechnical FellowであるMarna Kagele氏は、「このような問題を解決するための他のアプローチを検討したいと考えています」と述べています。

ボーイングは、量子コンピューターが最終的にこの種の複雑な問題解決の合理化に役立つことを期待しています。いつか、量子コンピューターが、何千もの変数を持つ問題を一口サイズに分割することなく、一度に解決する日が来るかもしれません。

最初のステップとして、IBM Quantumとボーイングの研究者は、積層複合材の問題のモデル・バージョンを構築し、このアイデアをテストしました。彼らは問題を本質的なもの、つまり素材の層を積み重ねる最適な方法を見つけるところまで削ぎ落としました。これを積層複合材削減問題と呼びます。

量子コンピューターはまだ開発途上であるため、実際の量子ハードウェアを使用してこの削減問題を解決することは課題でした。既存の量子最適化手法は、量子リソースを十分効率的に使用しているとは言えませんでした。

ボーイングとIBM Quantumが共同で作業を開始したとき、彼らの標準量子最適化アルゴリズムのツールキットは、量子ビットごとに1または0を表す2値変数を1つだけエンコードできました。

(量子ビットとは量子計算の基本単位で、古典コンピューターの1と0を形成する2進ビットにほぼ等しいものです。)

完全な航空機の翼を設計するには、何千もの変数を考慮する必要があります。それは、何層ものプライや、丈夫な機体を製造するためにボーイングが遵守している厳格なエンジニアリング・ルールを表しています。積層複合材削減問題には、40個の変数が含まれます。

これは、量子コンピューターが私たちのビジネス上の問題に関係するかどうかではなく、それがいつなのかを示しています。 Jay Lowell ボーイング、Disruptive Computing and Networksチーム、チーフ・サイエンティスト

量子ビットは、今日の量子コンピューターでは貴重な資源であり、40個の変数それぞれに1つの量子ビットを対応させるには、まだ十分な大きさではありません。その制限のために技術革新を余儀なくされたとKagele氏は語りました。

IBM Quantumは、量子アルゴリズムに関する社内の研究の一部をボーイングに持ち込み、両チームはそれを一緒に使用して量子最適化の新しいアプローチを開発しました。研究チームは、各量子ビットに1つの変数をエンコードするのではなく、各量子ビットに3つの2進変数をエンコードできることを示しました。つまり、1つの量子ビットは、古典的なビットの3倍の情報負荷を処理し、3倍の変数を表現することができるのです。

これは、以前の量子最適化アルゴリズムと比較しても、大幅な効率向上となりました。これにより、実際のIBM量子コンピューター上で積層複合材削減問題を実行することに成功しました。チームは、40個の2進変数を使用して、量子コンピューターがこれまでに処理した中で最大のバイナリー最適化問題を実行しました。それは、以前の記録のほぼ2倍に相当します。

「私たちは、製品の設計の中核となる非常に大規模な最適化問題を解析しました。そして、量子コンピューターが対応できるのはその最適化問題のごく一部ではあるものの、うまく処理できることを明らかにしました」とLowell氏は述べました。

加えて、ボーイングが設計プロセスに量子コンピューターを使用するまでには、まだ数年の歳月が必要だと述べています。

「量子コンピューターは、現在よりもさらに大型になり、より大きな最適化問題を処理する必要があります」と彼は言います。「しかし、これらの新しい手法のおかげで、このプロジェクトを始めたときに予想していたよりもはるかに前進することができました。解決策は、数年前の予想よりも近いようです。」

共同で構築する

Kagele氏は、量子最適化や積層複合材問題について具体的に示唆するだけではなく、IBM Quantumとの共同開発プロセスによって、ボーイングは量子の課題に真正面から取り組む準備が整ったと語りました。

「ボーイングのようなクライアントとのパートナーシップは、量子研究の新境地を開拓するのに役立っています」と、ボーイングのチームとともにこの研究に取り組んだIBM QuantumのQuantumプロトタイプ担当技術リードであるJennifer Glickは述べています。「この仕事を通じて、量子コンピューターが現実的で実用的な問題を解決する未来がどのようなものかが見え始めています。」

両チームの関係は、IBM Quantumがボーイングの研究者を指導したことから始まりました。しかし、そのサポートにより、ボーイングは社内のスキルを短期間で向上させることができました。

「学習の過程で障害にぶつかったり、わからないことがあったりするたびに、経験豊富な誰かに尋ねることができれば、学習がどれほど速く進むか想像できるでしょう」とKagele氏は語りました。

その指導がコラボレーションへと発展し、やがて画期的な仕事につながりました。

「このプロジェクトを立ち上げた主な目的は、古典的なやり方から量子的手法とのハイブリッドでのやり方に移行する方法を理解してもらうことです」とLowell氏は語りました。「それができるチームを立ち上げ、次の問題への取り組みを容易にする社内ツールを開発しました。」

IBM Quantumとボーイングはこのチームを結成し、既にボーイングは量子コンピューティングから価値を引き出すための新たな方法を模索しています。関心のある分野の1つは、飛行機をコーティングするための高度な耐腐食性化学物質の開発です。ボーイングが量子人材を育成し、量子コンピューターが改良され、規模が拡大するにつれて、同社が量子の問題解決をさらに多くの航空宇宙の課題に応用することが期待されます。

次へ
IBM Quantumのお客様事例をすべて表示 ExxonMobil

ExxonMobilは、世界で最もクリーンに燃焼する燃料を世界中に輸送することを目指しています。これは量子的な解決策を必要とする課題です。

お客様事例はこちら
JSR

IBMとJSR、化学工学の難問への量子コンピューティング・ソリューションで、世界の半導体産業の新たな未来を描きます。

お客様事例はこちら
CERN

CERNはヒッグス事象と宇宙の起源を調査しています。IBM Quantumとともに、CERNは量子コンピューターがどのように役立つかを示しました。

お客様事例はこちら
法的条項

© Copyright IBM Corporation 2023.IBM Corporation, 1101 Kitchawan Rd, Yorktown Heights, NY 10598.

米国で製作、2023年1月

IBM、IBMロゴ、およびibm.comは、世界の多くの国で法的に登録された、International Business Machines Corporationの商標です。その他の製品名およびサービス名は、IBMまたは他社の商標である可能性があります。IBM商標の最新リストは、ウェブ上の「著作権および商標情報」 https://www.ibm.com/jp-ja/legal/copytradeで入手できます。

本書は最初の発行日時点における最新情報を記載しており、IBMにより予告なしに変更される場合があります。IBMが事業を展開している国であっても、特定の製品を利用できない場合があります。

記載されている性能データとお客様事例は、例として示す目的でのみ提供されています。実際の結果は特定の構成や稼働条件によって異なります。本書の情報は「現状のまま」で提供されるものとし、明示または暗示を問わず、商品性、特定目的への適合性、および非侵害の保証または条件を含むいかなる保証もしないものとします。IBM製品は、IBM所定の契約書の条項に基づき保証されます。IBMの将来の方向性と意図に関する記述は目標や目的を表すものに過ぎず、予告なしに変更または撤回されることがあります。