テクノロジー・リーダーシップ

デジタルトランスフォーメーション(DX)時代に求められるネットワーク

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法橋 和昌

著者:法橋 和昌
グローバル・テクノロジー・サービス(GTS)事業部、ネットワーク・サービス、Executive IT Specialist

現代のITインフラにおいて非常に重要なコンポーネントである「ネットワーク」の構築とその後の運用について、デジタルトランスフォーメーションを見据えたときに、明らかになる効率化について解説します。

 

デジタルトランスフォーメーション(DX)時代に求められるネットワークへの転換

昨今、デジタルトランスフォーメーション(DX)という言葉を目にすることが多くなってきています。デジタルトランスフォーメーションとは、グローバル化の進展や競争の激化による急速な環境変化を背景として、企業が自身の継続的な成長・発展のために、これまで以上にITと人の融合を図り、業務プロセスや事業構造などの抜本的な見直しを行い、企業そのものの変革を目指すものです。
このデジタルトランスフォーメーションの進展に伴い、ITインフラにはスピードと柔軟性が求められるようになってきており、ネットワークについても、以下のような機能が求められています。

  • クラウドや外部サービス活用、社外接続を柔軟に行えるネットワーク
  • 増大する情報量を取り扱えるネットワーク
  • 移動を前提としたどこからでも利用可能なネットワーク
  • ビジネスを止めないセキュアなネットワーク
図1:新しいネットワークに求められるもの

図1:新しいネットワークに求められるもの

これまでのネットワークの課題

ネットワークは、デジタルトランスフォーメーションを支えるITインフラの重要なコンポーネントです。けれども、現在のネットワークには、ネットワーク構成、ネットワーク構築、およびネットワーク運用のそれぞれについて、課題を抱えています。ここで、ネットワークの課題を整理してみましょう。

これまでのネットワークは、コア/ディストリビューション/アクセスの3つの階層からなる階層化アーキテクチャーに基づいたものでした。このネットワークは、旧来の拠点のクライアントからデータセンター内のサーバーへのアクセス(North-Southトラフィック)を前提としたもので、固定的な構成になっていました。このため、DX基盤として、サーバー間連携によるトラフィックの増加とトラフィックの流れ(East-Westトラフィック)の変化への対応が難しくなっています。さらに、固定的なアーキテクチャーのため、ネットワーク構成を柔軟に変更することが難しくなっています。

ネットワークを含めたシステムを構築する場合にも、アプリケーション開発の場合と同様、要件を確認する要件定義フェーズがあります。通常、要件定義は、アプリケーション開発のトリガーとなるビジネス要件からシステム化に向けたシステム要件が導きだされます。このシステム要件もアプリケーションが稼働する、基盤となるサーバー/ストレージの要件が最終的なネットワーク要件へのインプットになっているため、ネットワーク要件が確定するのが、最後になります。

一方、システム構築の順序から見ると、サーバー/ストレージの構築のためには、ネットワーク環境が必須であるため。最初に必要最低限のネットワーク構築をしておかないと、他チームの構築スケジュールに影響が出ます。つまり、要件の確定から構築までに与えられた時間が一番短いのがネットワーク・チームということになります。このため、ネットワーク自体の構築期間を短縮することができれば、プロジェクトの構築スケジュールにも余裕が生まれることになります。

さらに、システムのライフサイクルの観点からみると、当然のことながら構築期間よりも運用期間の方が長くなります。この運用期間における課題としては、トラフィックの可視化ができていないことがあげられます。これは、どのような種類のトラフィックがいつ、どこからどこへ、どのぐらいの容量のものがネットワーク上を流れるのが把握できていないということです。このため、パフォーマンス低下などの障害につながる予兆検知を行うことも不可能になっています。また、運用における設定変更作業についても時間をコストがかかってしまう問題もあります。

高品質な運用管理を可能にする、効率的なネットワーク構築・運用

前述の課題を解決し、さらに効率的なネットワークの構築・運用を実現するためには、ネットワークの仮想化、抽象化を推進し、物理的なハードウェアの制約から解放することが必要です。この物理的なハードウェアの制約からの解放により、ネットワークもサーバー/ストレージと同様、システム・リソースをプール化(抽象化)することが可能となります。これを実現した環境がSDN(Software Defined Network)環境であり、このような環境では物理ネットワーク(ハードウェアの世界)と論理ネットワークが分離されたものになります。

図2:新しいネットワーク構成

図2:新しいネットワーク構成


 

ネットワーク構築・運用の効率化に向けて、標準化と自動化の対応が必要です。標準化については、ネットワーク機器に設定するパラメーター・ルールや作業手順などを標準化しておくことが必要です。また、SDNベースのネットワーク環境では、コントローラーによる集中管理が可能であり、このコントローラーに対するAPIも用意されているため、プログラミングによる構築・運用の自動化も可能です。特に、運用フェーズでは、ネットワーク機器の構成情報の管理やトラフィックのモニタリングなど多くの定型作業が存在しています。これらの定型作業を自動化することにより、高品質な運用管理が可能となります。

AIを組み合わせたネットワークの将来展望

現在のシステム運用において、障害時にネットワークの一部でパケット・キャプチャーすることはあるものの、ネットワーク全体でトラフィックをモニタリングしている事例は極めて少ないのが実情です。ネットワーク上をどのような種類(what)のデータがいつ(when)、どこからどこへ(where)どのぐらいの容量(how many)流れているかを捉えることにより、ネットワークの可視化が可能となります。

そして、ネットワーク上トラフィックを継続してモニタリングすることにより、システム稼働における稼働状況データを蓄積されていきます。この蓄積データとシステム稼働時のふるまいを比較することにより、通常と異なるふるまいの発生を検知することが可能となり、機器の障害やパフォーマンス低下などの障害事象を事前に検知・予測することが可能となります。

さらに、トラフィックのモニタリングに人工知能(AI)を組み合わせることにより、平常パターンの学習、稼働状況データの蓄積、キャンペーンのような季節要因、および異常なふるまいの分析の情報から予兆検知を行うことが可能になると考えられます。そして、これらのデータが増えていくのに比例して予兆検知の精度も向上していくことになります。

図3:予兆検知システム・イメージ

図3:予兆検知システム・イメージ

システム運用が目指すべき、究極のゴールとは

システムの事象に対して自動的に原因解析を実施し、自動的に修正・復旧する能力を備えたシステムです。このようなシステムは、セルフ・ドライビングを実現したもので、物理作業と最低限の監視に対応する少数の要員と管理者でシステム運用が可能になると考えます。

近年のIT関連技術者の不足に対応するため、今後もAIや自動化のテクノロジーの発展と実環境への実装を進めていくことが必要です。

図4:セルフ・ドライビング

図4:セルフ・ドライビング

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