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AIがディベート術を学ぶ

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アーヴィン・クリシュナ

著者:アーヴィン・クリシュナ(Arvind Krishna)
以下は、IBM Researchのディレクターを務めるアーヴィン・クリシュナ(Arvind Krishna)が米国時間2018年6月18日に掲載したブログ(US)の抄訳です。

米国時間6月18日、AIシステムが人間とのライブ公開討論に参加しました。サンフランシスコにあるIBM Watson Westの会場で行われたイベントにおいて、ディベートのチャンピオンとIBMのAIシステムProject Debaterは、まず「宇宙探査を助成すべきである」という論題について、討論の準備を始めました。次に、両者が4分間の冒頭発言、4分間の反駁、2分間のまとめを展開しました。

Project Debaterは、冒頭発言で、科学的発見の促進、若者が他者を思いやる気持ちを抱くことに寄与するといった宇宙探査がもたらす人類への恩恵などについて、事実を交えながら、論題を支持しました。2016年にイスラエルで開催された全国討論大会の優勝者、Noa Ovadia (ノア・オヴァディア)氏は、地球上での科学研究への助成など、政府の助成にはよりふさわしい用途があるとして、論題に反論しました。Ovadia氏の主張を聞いた後、Project Debaterは反駁を展開し、宇宙探査がもたらすであろう技術的、経済的恩恵は、その他の政府支出にも勝る可能性があるという見方で応じました。両者の締めくくりのまとめに続き、その場でスナップ投票が行われ、聴衆の大多数が自身の知識をより豊かにしたのは人間の討論相手よりもProject Debaterの方だったと判断したということが明らかになりました。

このことについて、少し考えてみたいと思います。AIシステムは、熟練した人間の討論者と論戦を交わしました。彼女の主張を聴いた上で、議論の的になっているトピックについて、台本なしの独自の論拠で聴衆が自分の主張に納得してもらえるような説得力ある応答を展開しました。その後、このシステムともう一人のイスラエル人のディベート熟練者であるDan Zafrir (ダン・ザフリル) 氏との間で、2回目のディベートを行い、「遠隔医療の利用を活発にすべきである」という論題に関し、相反する主張が紹介されました。

ダン・ザフリル(Dan Zafrir)との討論

この新しいテクノロジーの最初のデモにあたり、私たちは、意義あるディベートになるよう、トピックをまとめたリストから論題を選びました。しかし、Project Debaterは、これらのトピックに関してトレーニングを受けたことはまったくありません。時間をかけて、適切なビジネス用途において、今回選別されなかった諸問題にもこのシステムがおのずと利用されるようになるでしょう。

Project Debaterにより、言語を習得するというAIにおける大いなる限界の1つに大きく一歩近づきました。これは、1997年にチェスの世界チャンピオンGarry Kasparov (ガルリ・カスパロフ)氏に挑戦した「Deep Blue」や、2011年に米国のクイズ番組Jeopardy! (ジョパディ!) のトップ・チャンピオンに勝利したIBM Watsonなどを含むIBMにおける数多くの主要なAIイノベーションの歴史において、最も新しい出来事です。

Project Debaterは、人の能力を拡張するために学際的に学習するbroad AI (汎用的なAI) の開発に現在取り組んでいるIBM Researchの目標を反映するものです。

AIアシスタントは、高度なキーワード検索を実行し、簡単な質問や要求(「1リットルは何オンスか」や「お母さんを呼んで」など)に応答する能力を通じ、私たちにとってきわめて有用なテクノロジーになっています。Project Debaterは、新しい領域を探求しています。大量かつ多様な情報と視点を取り込み、人々が説得力のある主張を構築し、十分な情報に基づいた意思決定を行うことを支援します。

このテクノロジーは、今日新しいビジネスの洞察を得るために大量の社内データセットから有益な情報を取り出すため多くの企業で活用されているIBM Watsonのケイパビリティーから発展させる予定です。Project Debaterは、すでにWatson Speech to Text APIを利用しており、Watsonの高度な言語、対話機能の強化に寄与するでしょう。また、Project Debaterの基盤技術も将来、IBM CloudおよびIBM Watsonにおいて商用化される予定です。

当システム構築への挑戦は、非常に困難で複雑なものでした。過去6年間にわたり、イスラエルのIBMハイファ研究所率いるIBM Researchのグローバル・チームは、AIの新しい分野を切り開く3つの機能をProject Debaterに授けました。第1に、データ・ドリブン・スピーチ・ライティングおよびデリバリー、第2に、長く継続的な話し言葉に隠れた鍵となる主張を特定できるヒアリング力、第3に、理にかなう討論を実現するため独自のナレッジ・グラフに人間のジレンマをモデリングすること。(技術的な詳細についてはこちらの30本を超える公開論文をご覧ください。トレーニング・データ・セットへのアクセスは、こちらです。

ディベートの形式は、これらのケイパビリティーを試すのにふさわしい場となります。ディベートのルールは、人間の議論の文化に由来しており、恣意的ではなく、主張の重要性は多くの場合本質的に主観的なものです。Project Debaterは、人間の論理的根拠に適応し、人々が理解できる主張を述べる必要があります。ディベートにおいて、AIは、厄介で構造化されていない人間の世界を、ボード・ゲームのように事前に定義された一連のルールを使用するのではなく、そのままナビゲートするよう学習しなければなりません。

このような理由から、Project Debaterは、ときどき人間と同じように間違いを犯します。このテクノロジーに関する研究は完成にはほど遠い状態ですが、人間が行ういろいろな複雑な意思決定を支援できる可能性があります。例えば、ファイナンシャル・プランに関する提案が財政上の金融・財政上の根拠に基づいているか否かを確認する支援や、公共政策に関する主張の賛否を提示するなどです。Project Debaterは、人間に由来することの多いバイアスなしで、事実に基づいた究極の共鳴板になり得ます。

これは、AIにとって非常に明るい進展です。私たちがこの変革をもたらすテクノロジーの透明性をより高め、より説明をつけられるようにすれば、信頼性はさらに増すでしょう。そうすれば、複雑さの増す世界において、十分な情報に基づいた最適な意思決定を行えるよう、私たちを支援してくれるようになるでしょう。

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