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RPA ツールを検討する際に注目すべき3つのインテリジェントな自動化機能について

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この投稿は、2020年11月4日に、米国 IBM Cloud Blog に掲載されたブログ(英語)の抄訳です。

RPA ソリューションのチェックリストに付け加えるべき3 つのインテリジェントな自動化機能

大半のロボティック・プロセス・オートメーション (RPA)  ツールには、無人ボット、有人ボット、使いやすいローコード・エディター、スクリーン・レコーダー、およびスケジューリングなどの必要不可欠な機能が備わっています。これらの重要な機能は、大量の単純で反復的なタスクの自動化を可能にするもので、市場で評価されている RPA ソフトウェア (UiPath、Blue Prism、Automation Anywhere など) に含まれています。

一方、RPA でバックオフィス・プロセスを超えた自動化を実現しようとする場合には、基本的な機能だけでは足りません。よりインタラクティブで高度、かつワークロードも多いフロントオフィス・ビジネス・プロセスを自動化できるソフトウェア・ロボット(または RPA ボット) を人間のワークフォース(労働力) に組み込むには、インテリジェントな自動化機能が必要です。

ロボティック・プロセス・オートメーションを使用したデジタル・トランスフォーメーションを実現するためには、RPA ソリューション・チェックリストに以下の3 つのインテリジェントな自動化機能を付け加えてください:

  1. 人間と効果的にコミュニケーションできるソフトウェア・ロボット
  2. 一般的に人間のインテリジェンスが必要なタスクを実行できるソフトウェア・ロボット
  3. インテリジェントに管理されるソフトウェア・ロボット

 

1. 人間と効果的にコミュニケーションできるソフトウェア・ロボット

映画では、ロボットは人間の特徴を備えた物理的なマシンとして描かれ、人間と協力して時間のかかるタスクを実行します。ロボティクスの進化により、このような空想がもうすぐ現実になるかもしれません。

現在、ソフトウェア・ロボットは、反復的なタスクを単独で、あるいは人間とのコラボレーションを通じて実行します。タスクにコラボレーションが必要な場合、RPA ボットには、人間のようにコミュニケーションできることが求められます。E メール、SMS (ショート・メッセージ・サービス)、インスタント・メッセージ、チャット、さらには電話に至るまで、さまざまな人間のコミュニケーション・チャネルにわたり、言われていることを理解し、適切に応答できることが必要です。やりとりには、単純なものから、より対話性の高いものまであります。

「単純な」やりとりの例

顧客サポート部門のEメール・インボックスをモニターするソフトウェア・ロボットは、顧客の質問を抽出し、質問に答えるための情報を探し、E メールで回答を送信できる必要があります。このような比較的単純なやりとりでさえ、ボットは顧客の質問を理解し、とるべきアクションと回答内容を判別するために人工知能 (AI) と機械学習 (ML)を使用します。

「より対話性の高い」やりとりの例

インスタント・メッセージやチャットなどリアルタイムのコミュニケーションでは、テキストを通じてユーザーとボットの間で情報が行き交うやりとりが行われるため、RPA ボットはインテリジェント仮想エージェント (IVA) のように機能します。IVA は、特定のRPA コマンドを使用するボットで、ユーザーと接続して会話し、応答を待機し、会話が終わったら接続を閉じます。RPA ボットは、会話が展開されるのと同時に構造化データと非構造化データを収集します。ユーザーが応答するたびに、ユーザーから入手した情報や、他のシステムから取得した情報に基づいて、とるべきアクションを判別します。電話でのコミュニケーションの場合、ボットはユーザーが言っていることを聞き取り、それに対する応答を話すことができる必要があります。これを実現する機能は、通常、対話式音声応答 (IVR) と呼ばれます。

IVA は、ユーザーが言っていることを理解するために、ナレッジ・ベースを使用して、想定されるユーザーの質問と、該当する可能性がある回答一式を定義します。同じ質問でも、コンテキストに応じて異なる回答が提供されます。これは単純なシナリオです。しかし、ユーザーがナレッジ・ベースで定義されているフレーズとまったく同じ言い回しを使う可能性は低いため、言語のバリエーションを理解するようRPA ボットをトレーニングしなければなりません。トレーニングが終わったら単純なボット・スクリプトを定義して、ユーザーが会話の終了を知らせるまでさまざまな質問と回答を反復するようにします。

ここで、顧客が注文の配達状況を問い合わせ、IVA と対話する実世界のシナリオを考えてみましょう。まず、IVA が注文番号をたずね、注文管理システムで詳細を検索し、予定配達日を顧客に伝えます。しかし、その予定配達日は希望に沿わないため、顧客は注文をキャンセルすることにします。IVA は、顧客が得意客であることを特定し、顧客の満足度を高めるために、無料の速達配送を提案します。顧客はそのオファーを受け入れ、IVA は速達配送オプションを選択して注文をアップデートします。IVA は、他に質問はないかたずねます。顧客が「いいえ」と答え、問い合わせが終わります。

ヒント: コールセンターの従業員と同様に、ソフトウェア・ロボットも他言語でメッセージを書いたり、話したりする必要が生じる場合があります。IVA では、AI を活用した自然言語処理 (NLP) 機能を装備したボットで、このニーズに対応できます。IVR を取り入れたい場合、Amazon、Google、IBM Watson など、広く使用されている音声エンジンが多数あります。特定のベンダーの AI 機能を導入済みの場合、自社ですでに使用されている音声エンジンを使用する必要があります。

 

2. 一般的に人間のインテリジェンスが必要なタスクを実行できるソフトウェア・ロボット

これまでの説明のとおり、ロボティック・プロセス・オートメーションとは、人間の行動を模倣して手作業の反復的タスクを実行するソフトウェア・ロボットを構築することです。これを実現するために、ボットはソフトウェア・アプリケーションのグラフィカル・ユーザー・インターフェース(GUI) との直接対話によってプログラムされています。RPA が成熟するにつれてボットはさらにインテリジェントな自動化機能を備えるようになっています(先ほど触れた、さまざまなチャネル間でユーザーとコミュニケーションできる機能など)。このような機能を支えているのは人工知能 (AI)です。集合的に機能する各種のソフトウェア手法を導入することで、ボットが人間のように学習・思考・推論して望ましい成果を達成できるようになっています。

先ほどの「注文の配達状況」のシナリオでは、音声のテキスト変換のための自然言語処理 (NLP)、ナレッジ・ベースで顧客の質問を見つけるためのパターン・マッチング、およびボットに人間の言語のバリエーションを理解させるための機械学習などのAI 機能の組み合わせが必要です。これはAI 機能を組み合わせたユースケースの一例ですが、それぞれの AI 機能を単独で適用することもできます。また、顧客の質問の分類や、ある程度の不確実性が存在する場合の意思決定など、他のユースケースを実装するために組み合わせることもできます。

RPA ツールを検討する際には、以下を実行できる人工知能を備えたソフトウェア・ロボットを推奨します:

 

コンテキストの解釈による情報の分類

例えば、E メールで寄せられた顧客の苦情を処理する場合、使用する AI 機能は分類です。受信するE メールの件名と内容を解釈することで、E メールをカテゴライズします。分類器は、例となるE メール・セットを複数使用して開発時にトレーニングされます。それぞれのE メール・セットは特定のカテゴリーに対応します。

同様に、分類器は、請求と注文の区別など他のユースケースに使用することもできます。この場合、分類器での文書の性質の判別に向けて文書からデータを抽出するために、光学式文字認識 (OCR) と呼ばれる別の AI 手法を使用します。文書のタイプを特定したら、OCR は文書から追加の情報を取得します。さらに、自然言語処理 (NLP) を使用して、日付(例: 「クリスマスに予約をお願いします」)、通貨、E メール・アドレスなどのデータ・タイプを抽出します。

一部の RPA ベンダーでは、一種のコンピューター・ビジョンの実装にも OCR を使用しています。Citrix などのリモート・デスクトップを通じてのみアクセスできるアプリケーションを使用して、ボットが情報の読み取りと書き込みを実行できるようになります。リモート・デスクトップ・セッションは、ボットにアプリケーションの GUI への直接アクセスを提供しないため、データを同じように読み取ったり書き込んだりすることはできません。代わりに、コンピューター・ビジョンを使用してリモート・デスクトップの画像を分析し、アプリケーション内のフィールドを見つけます。フィールドが見つかったら、OCR を使用してフィールドの値を読み取り、マウスとキーボードからの操作でデータをフィールドに書き込みます。

 

ある程度の不確実性が存在する場合の意思決定

事業運営を最適化するために、ソフトウェア・ロボットは、人間と同じように論理的に意思決定を実行できる必要があります。結果が予測可能な場合は、従来の IF/THEN/ELSE 形式のプログラミング構文を使用するボット・スクリプトで単純な意思決定を表現できます。予測可能でも、より複雑な意思決定(結果の判別に複数の条件を組み合わせる必要があるもの) も、ビジネス・ルールを使用してボット・スクリプトで表現できます。以下はその例です:

  • ルールA: 顧客が 50 歳以上の場合、10% の割引を適用する。
  • ルールB: 顧客が過去 10 年を超えてアカウントを保持している場合、アイテムを$20 値引きする。
  • ルールC: 最低金額として $50 を課金する。

ただし、ルールに基づく意思決定は、結果が予測可能な場合にのみ機能します。では、結果の確実性が低く、条件がよりバリエーションに富んでいる場合(つまり、実世界で私たちが意思決定を行わなければならないような条件の場合) にはどうすればよいのでしょうか。例えば、このサプライヤーは信頼できるか?などの問いには、ボットはどのように答えるでしょうか。「きわめて信頼性が高い」、「信頼性が高い」、「場合によって信頼性がある」、または「信頼性がない」といった答えを選択するのには、人間の推論の要素が必要です。ボットは、ファジー・ロジックと呼ばれる AI 手法を適用することで、これを実現できます。

ファジー・ロジックは、バリエーションや不確実性を表すために RPA 開発者によって定義される数学モデルを使用します。例えば、10 段階評価を使用した場合、きわめて信頼性が高いサプライヤーは7 から10 と、信頼性が高いサプライヤーは6 から8 と評価されるかもしれません。ボットは数学モデルを使用して、正確な入力データをファジーな入力値に変換します。その後、ボットは RPA 開発者によって定義されたビジネス・ルールをファジーな入力値に適用します。さらに、ファジーな出力値に数学モデルを適用して、結果が生成されます。

 

3. インテリジェントに管理されるソフトウェア・ロボット

ロボティック・プロセス・オートメーション・ツールを選択する際の一般的な要件は基本的なワークロード管理です。ワークロード管理は、ソフトウェア・ロボットが、人間の介入を必要としないボット・スクリプトを実行する無人RPA のユースケースで、作業を分散するために使用される機能です。

デジタルで実行する作業が増えるにつれて、RPA ソリューションには、優れたパフォーマンス・キャパシティーを実現するためのスケーラビリティーが必要になります。大半の RPA ベンダーは、お客様がボットを追加してキャパシティーを水平スケーリングできるようにすることで、この問題を解決しています。しかし、作業の割り当てによっては、ピーク需要時に特定のジョブをブロックする RPA ボットや、アイドル状態のままの RPAボットが発生することがあります。このような場合にインテリジェントなワークロード管理機能が役立ちます。ボットが使用可能になったらすぐに作業を実行できるようにすることで、作業をより効果的に分散し、アイドル時間を最小限に抑えることができます。

この機能はどのような仕組みなのでしょうか。特定のボットを実行すべきタイミングを決定するために、スケジューラーを使用できます。時間が来ると、スケジューラーは単純にキューにメッセージを配置します。キューではボット・エージェントが順番に待機し、次のジョブを listen します。キューは、先着順です。最も長く待機しているボット・エージェントが、キューに入った最初のジョブを自動的に受け取ります。これにより、ソフトウェア・ロボットが常に最も早い機会に作業を受け取るようになり、稼働可能なすべてのボットがピーク需要に対応するようになります。

キュー・ベースのワークロード管理と水平スケーリングについての補足: 水平スケーリングでも機能はするものの、ボットの数が増えるにつれてボットをサポートするインフラストラクチャーのコストが大幅に増加するため、コストが高くなる可能性があります。大半の RPA ベンダーのソフトウェア・ロボットでは、通常、各ボット・エージェントに専用の仮想マシンが1 台必要です。また、各ボット・エージェントでは任意の時点で1 つのボット・スクリプトしか実行できないため、コスト効果に欠けます。ベンダーが垂直スケーリング機能を提供する場合、同じ仮想マシン上で複数のボット・スクリプトを同時に実行できるため、大幅なコスト削減が可能です。

ヒント:  RPA ツールを選択する際には、お客様がワークロード管理キューの実装にエンタープライズ・メッセージング・サービスを使用できるツールを推奨します。一部のRPA ツールはデータベースを使用してキューをシミュレートしますが、これではスケーリングができなかったり、IBM MQ シリーズ、Active MQ、JMS などのエンタープライズ・メッセージング・サービスと比較して信頼性やセキュリティーが低かったりする場合があります。RPA ベンダーは、デフォルトのエンタープライズ・メッセージ・サービスを無料で提供すべきです。そしてさらに、お客様が自社の任意のエンタープライズ・メッセージング・サービスを使用できるようにすることで、保証された一回限りの配信、メッセージの優先順位、データ保全性、およびメッセージのリカバリーなどの、エンタープライズ・スケールの機能を活用できるようにすることも必要です。

Gartner によれば、「リファレンス・カスタマーの 83% が無人形式の RPA を導入している」[1] ため、これらのお客様が多大な投資をせずにデジタル・ワークフォースから最大限の価値を引き出せるようにすることが重要です。これに役立つのが、インテリジェントな、エンタープライズ・スケールのワークロード管理機能です。

 

まとめ

ビジネス・プロセス自動化の分野では、作業を自動化し、コストを抑えて素早くスケーリングするための方法として、RPA に引き続き大きな関心が寄せられています。RPA プラットフォームを選択する際には、使いやすさとインテリジェントな自動化機能に注目してください。それらが揃っていれば、人間の特徴を備えたボットが人間とシームレスにコラボレーションして顧客や従業員のエクスペリエンスを向上する、効果的に管理されたデジタル・ワークフォースをお客様の組織で構築できます。

より詳しくは、IBM Robotic Process Automation with WDG Automation の機能 もぜひご参照ください。

 

[1] Magic Quadrant for Robotic Process Automation, 27 July 2020


翻訳:IBM Cloud Blog Japan 編集部

*このブログは、2020/11/4に発行された“Three Intelligent Automation Capabilities to Look for When Evaluating RPA Tools”(英語)の抄訳です。

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