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バーチャル・エンタープライズ:組織を超えてつながり、ビジネスのネットワークを広げる

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マーク・フォスター(Mark Foster)
チェアマン IBMコンサルティング
 

この2年間、デジタル・トランスフォーメーション(DX)を加速する上で、人工知能(AI)や自動化、ハイブリッドクラウドといったエクスポネンシャル・テクノロジー(指数関数的に成長する技術)がいかに有効であるかが明らかになりました。この間、企業は顧客サービスの向上に取り組み、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)を背景とした新たな価値創出に努めてきました。現在、サステナビリティー(持続可能性)の推進やセキュリティー対策といった新たな課題への対応が、ビジネス・リーダーにとって急務となっています。加えて地政学や市場関連の問題も浮上し、サプライチェーン(供給網)や人材確保、コスト管理への影響が懸念されることから、各リーダーは対応を迫られています。

世界中のお客様とポスト・コロナ戦略についてお話しさせていただくうちに、今後10年にわたって成功が期待できる企業の在り方が垣間見えてきました。成功している企業リーダーは、当社が「バーチャル・エンタープライズ」と呼ぶ企業像の実現に取り組んでいます。現代の企業が目指すべき姿であり、高度なデジタル化やプラットフォーム、パートナーシップを柱として競争優位性を確立します。バーチャル・エンタープライズには、次の特徴があります。

 

エコシステム・パートナーの確保 

オープン性はバーチャル・エンタープライズの中核であり、デジタルで相互接続された現代社会では、エコシステムはビジネスが進化し成長するための原動力となります。一例を挙げると、インド・ステイト銀行(State Bank of India)は従来型の銀行プラットフォームを見直し、100社を超える電子商取引(EC)事業者と提携してオンライン・マーケットプレイス「SBI YONO(“You Only Need One”)」を立ち上げました。サードパーティーの商品・サービスや、金融商品を扱うスーパーストアとして、デジタルを使い慣れた若い顧客層を取り込むのが狙いです。「SBI YONO」はモバイル・プラットフォームとして急速な成長を遂げ、1日当たりのログイン数が1,000万回を超え、ダウンロード数も6,400万回を突破しました。

 

科学・データ主導のイノベーションを促進 

今日バーチャル化が進む中で、科学的発見のアプローチを加速させているのがオープン性です。企業はAIや自動化のほか、最近では量子コンピューティングなどのテクノロジーを活用し、急増する膨大なデータをえり分け、それに基づいてエコシステム全体でイノベーションにつなげる取り組みを進めています。米オハイオ州の医療機関クリーブランド・クリニック(Cleveland Clinic)が一例です。同クリニックではハイブリッドクラウドやAI、量子コンピューティングを用いて、ゲノミクス、シングルセル・トランスクリプトミクス、臨床応用、創薬、公衆衛生研究を行う施設「Discovery Accelerator(ディスカバリー・アクセラレーター)」の設立を進めています。

 

インテリジェント・ワークフローの拡張 

企業では、AIと自動化を活用して採用やサプライチェーン、顧客サービスなど社内のさまざまなビジネス・プロセスを再構築する動きが活発化しています。こうしたインテリジェント・ワークフローをエコシステムにまたがって拡張させることで、トランスフォーメーションの推進力となるインサイト(洞察)がさらに蓄積されます。宝飾品の製造と販売をグローバルに手がけるパンドラ(Pandora)社は、パンデミックの影響で、それまで運営していた実店舗の大部分が閉鎖を余儀なくされ、オンライン販売へ転換しました。同社は包括的な受注管理プラットフォームを急きょ取り入れ、これを基盤にクラウドのソリューションを活用したオムニチャネル(実店舗とネットを統合した販売手法)を実現しました。このインテリジェント・ワークフローによって、実店舗とオンラインの顧客担当者はエンド・ツー・エンドの可視性を手に入れ、顧客ニーズへきめ細かく対応することが可能になりました。

 

人間とテクノロジーの包摂的なパートナーシップの創造 

パンデミックを経験したことで、企業は従業員との間で共感に根差した関係を築く大切さに気付きました。バーチャル化の進展で対面とオンライン両用のハイブリッドな働き方が組織全体に浸透し、リーダーは人材とテクノロジーの関係に留意することが今まで以上に求められています。フランスの通信大手Orange France社はデジタル・チャネル向けの顧客サービスを新たに創出する一環として、包括的プログラム「Orange Campus」を開発しました。人間とテクノロジーがいかにシームレスに連携できるかというビジョンに基づいて、従業員のデジタル・コンピテンシーを強化するのが目的です。このプログラムを通じて従業員の半数が重要性の高いデジタル・スキルを新たに習得し、社内の人材流動化も進みました。

 

サステナビリティーの推進 

サステナビリティーの推進は経営層にとって最優先課題の1つであることが調査にも表れています。こうした大きな環境課題を解決する上でも、テクノロジーを活用した新たなビジネスモデルは効果的です。ノルウェーを拠点とするヤラ(Yara)社は飢餓のないサステナブル(持続可能)な世界の実現に向け、サステナブルな農業を可能とするデジタル・プラットフォームを構築しました。世界中の自営農家の連帯と支援が目標です。Yara社のプラットフォームは総合的なデジタル・サービスを提供するほか、農業に関する助言をその場で受けることが可能で、300万人を上回る生産者が利用しています。同社はこの取り組みを通じて、森林破壊の防止と既存耕作地の収量増加に寄与することを目指しています。

 

セキュアでオープンなハイブリッドクラウド・アーキテクチャーの構築 

DXの推進にはデータの有効活用と、柔軟性、アジリティー(俊敏性)、さらにセキュリティーが必要であり、そのために欠かせないのがオープンでセキュアなハイブリッドクラウド・アーキテクチャーです。このアーキテクチャーでオープン性が実現されることによって、エコシステムのパートナーと相互につながったり、デジタル化がもたらす可能性を最大限活用したりすることができます。その例がインド最大級の総合通信企業バーティ・エアテル(Bharti Airtel)社です。同社は最新のハイブリッドクラウド・アーキテクチャーを導入し、自動化とAIを活用した応答性の高いネットワークを提供しています。これによって最適な場所とネットワーク・ティア(階層)で新規サービスを展開することを目指しています。

  

現代の世界は「変化が唯一の不変(変化しないものは一つもない)」といえます。ビジネス・リーダーは、バーチャル・エンタープライズという斬新な考え方を取り入れ、新たに訪れる機会を捉えて市場での競争優位性を確立することが求められています。今回ご紹介したお客様の事例が示すように、IBMは企業変革のいかなる場面に対しても独自の対応力を発揮し、お客様を万全の体制でご支援します。

バーチャル・エンタープライズについての詳細は下記リンクよりご確認ください。


*本記事は2022年7月20日に公開した記事の日本版となります。

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