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クラウド・コスト最適化を極める。その原理

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本記事は、新しいブログ連載記事「クラウド・コスト最適化を極める」の第1回です。

本ブログ連載記事は、アプリケーション・パフォーマンスに悪影響を与えずにクラウド・コストを削減するための戦術的な助言や情報を提供することを目的としています。

 

クラウド・コストの抑制が難しい理由とは?

ほとんどの企業がクラウドを導入したいと考える最大の要因は、柔軟性と俊敏性の向上です。

つまり、クラウドを利用すれば、ビジネス・ニーズに基づいたリソースのプロビジョニングとプロビジョニング解除とを即座に行えるようになります。たとえるなら、日曜礼拝だけのためにわざわざ教会を建てる必要がなくなるということです。その一方で、クラウドに移行した企業の約80%が、想定の2~3倍の料金を請求されています。本来なら、使用した分だけ料金を支払うというのがクラウドの売り文句ですが、実際にはプロビジョンされた分に対して料金が発生します。この消費と配分のギャップこそが、予想外の高額請求の原因です。

問題はコストだけに限りません。ほとんどの企業がパブリッククラウド環境における最大の問題としてコストを挙げていますが、パフォーマンスとコストは密接に連動しており、この2つを切り離すことはできません。コスト削減のみを目指した最適化をするならば、すべてのアプリケーションを最小のインスタンス・タイプに移行すれば済む話ですが、それに伴うパフォーマンスの低下を歓迎する人はいないでしょう。

クラウドのコストとパフォーマンスの関連性は、かつてないほど強まっています。

デジタル・トランスフォーメーション(DX)や性急なクラウド移行のために、企業のITチームはとてつもないプレッシャーにさらされています。クラウドは、インフラストラクチャー側の供給が静的であるのに対してアプリケーション側の需要は動的であるという従来の問題点に対処することができるものの、複数のメトリックやディメンションにわたって需給をリアルタイムに調整するには、人間の限界を超えたスピードでの意思決定が必要です。

ハイブリッドクラウド環境は、信じられないほど複雑です。EC2インスタンスだけでも無数の構成オプションがあり、AWSは212の追加製品とサービスを、マイクロソフトは600以上のAzureサービスを提供しています(2020年5月時点)。これは、一般的なITチームが管理するにはあまりにも複雑です。そのため、大きな希望を抱いてDXイニシアチブに着手した多くの企業のITチームは、管理業務だけで手一杯となり、結局はイノベーションが暗礁に乗り上げることになります。

 

コスト削減の作戦司令室で繰り返される光景

今月に入って1週間が過ぎた頃、CFOは例によって高額のクラウド請求書を受け取りました。これまで何度もそうだったように、今月分の請求額も予想や予算をはるかに上回るペースで増えていました。

こうした話に聞き覚えがあるのではないでしょうか。

IBMは、紹介されたほぼすべての企業から同じような話を聞いています。場合によっては、CIOが取締役会で予算の増額を要求しなければなりませんが、通常はその前に、請求額削減の任務を負った委員会が設置されます。チームは、主席クラウド・アーキテクトと数人の財務担当者に加えて、ほとんどの場合、新設の「クラウド・ガバナンス」チームのメンバーで構成されます。これらのトップ人材は、それぞれの本職から離れて、手に負えないほど高額化していくクラウド請求書の問題を解決するべく取り組みます。

チームは会議室を占領し、やがて最寄りのピザ店の配達員と顔見知りになります。何百ページものクラウド請求書を机(またはスプレッドシート)の上に広げて、請求額を削減する方法を見つけようとします。さらに、これらの情報と、多数のモニタリング・ツールやアプリケーション所有者との会話から収集した情報との間に相関関係を見いだそうとします。

それから数日後、削除可能なコンポーネント、適正化すべき要素、より低コストのストレージの利用、購入すべきリザーブド・インスタンス(RI)など、請求額を一定以下に抑えるための方法に関し、一連の提案が行われます。

その後、提案のほとんどが受け入れられ、クラウド請求額は徐々に下がり始めるでしょう。誰もがこの仕事から解放され、通常業務に戻ります。チームは解散し、メンバーは本職に戻ります。

しかし、請求額はまたしても徐々に増えていき、再び請求日を迎えます。CFOの一声でチームが再度招集され、新たな目標が設定され、会議室が占領され、ピザが配達され始めます。これが、コスト最適化の「故障と修理」の無限ループです。

 

ループを断ち切る

では、このループから抜け出すにはどうすればいいでしょうか。それには、症状ではなく、問題を解決することが大切です。

クラウド請求書が高額化し続けるのは、クラウド環境の最適化を継続的に行っていないせいです。そのため、毎回同じパターンに陥って問題がぶり返してしまいます。

クラウド・プラットフォームは、柔軟性を実現し、企業の俊敏性を高めますが、高額なクラウド請求書に振り回されずにこれらの特長を生かすにはどうすればいいでしょうか。

それには、各人材が最も得意とする分野(開発、創造、イノベーション)に集中できるようにしながら、リソースとコストの複雑なバランスをソフトウェアに管理させて、クラウド環境を常に最適化された状態に保つことが重要です。そうすれば、イノベーションのペースを上げながら、クラウド・コストを常に抑制することが可能になります。

 

コスト最適化の原則

環境を常に最適化された状態に保つには、常にSLAの達成に必要な分だけのリソースを可能な限り低コストでアプリケーションに割り当てるようにすることで、「使った分だけ支払う」というクラウドの売り文句をフルに実現する必要があります。

そのための主な原則とその達成に必要な能力を以下に記載します。

  1. アプリケーションを認識して多面的な適正化を行う:実行場所(IaaS、コンテナ、またはその他のサービス)を問わず、コンピューティング、ストレージ、ネットワークにわたって、どのアプリケーションがどの基本リソースを消費するのかを把握します。
  2. 垂直/水平スケーリングをリアルタイムに決定する:アプリケーションのSLAを理解し、ビジネスによって定義された制約やポリシーの範囲内で、リソースが常に可能な限り低コストで機能するようにします。
  3. 未使用リソースを特定し、削除/停止する:常に環境内の不要なリソースを整理します。
  4. ワークロードに適した料金モデルを利用する:RI、プロモーションSKU、スポット・インスタンスなどを利用します。
  5. 営業サイクルに合わせる:ワークロードが使用されていないときに支払いが発生しないように、ワークロードの停止をあらかじめ計画します。
  6. 自動化とワークフロー:リアルタイムまたは計画的に変更時間帯を調整しながらアクションを自動化して、最適化をデプロイメントや日常の環境管理プロセスの中に組み込みます(散発的な活動にしない)。厳格な変更管理の対象となるワークロードについては、承認ワークフローを設けるのが最適です。

 

詳細情報

上記の原則に加えて、最適な結果を得るために整備しなければならない重要なフレームワークがいくつかあります。次回「クラウド・コスト最適化を極める。成功のためのフレームワーク」では、コスト最適化を極めるために役立つそれらのフレームワークについて詳しく見ていきます。

IBM Turbonomicアプリケーション・リソース管理が企業の最終損益をどれほど大きく改善するかについては、ForresterのTEI調査レポート『Total Economic Impact Report for IBM Turbonomic』をご覧ください。

可能な限り低コストでのアプリケーション・パフォーマンスの確保に向けて、一歩を踏み出しましょう。IBM Turbonomicのデモは、こちらからご依頼いただけます。→


Turbonomicプロダクト・マーケティング担当バイスプレジデント

アセナ・ハーツ(Asena Hertz)

Turbonomicプロダクト・マーケティング担当バイスプレジデント


この投稿は2022年9月20日に米国Cloud Blogに掲載された記事 (英語) の抄訳です。

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