IBM Sustainability Software
あらゆるテクノロジーや組織、研究者などを総動員して価値提供を | 野ヶ山 尊秀 Cognitive Applications VAGメンバー
2021年08月17日
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チームメンバー・インタビュー #40
野ヶ山 尊秀 VAGメンバー, Cognitive Applications
Cognitive Applicationsチームのメンバーが、テクノロジーと自分自身とIBM、そして過去と現在と未来について語るインタビューシリーズ、40回目の今回は4月にチームにジョインした野ヶ山さんにお話を伺いました。
(インタビュアー 八木橋パチ)
— 自己紹介をお願いします。
野ヶ山 尊秀(のがやま たかひで)です。機械学習の研究者として、2004年にIBMに入社し東京基礎研究所の配属となりました。
当時は今とはまったく異なり、機械学習や人口知能が「冬の時代」と呼ばれている頃で、それに価値を見出してくれる人たちがとても少ない時代でした。そんな背景から、入社2年目に当時スーパー技術者たちが集る場となっていたWebSphereというソフトウェアの開発チームの門を叩き、「バリバリプログラミングする研究者」へと転身しました。
もし時代が違っていたら、あるいは僕が逆境を積極的に楽しむようなタイプだったら、あのまま機械学習の研究を続けて、今ごろはAIの研究者になっていたかも(笑)。
その後、紆余曲折を経ながらも研究所を中心に働き続け、今年コグニティブ・アプリケーション事業部に異動し、VAG(ヴイエージー: Value-Add Gateway)というチームに所属しています。
— 研究所での仕事とコグニティブ・アプリケーション事業部との仕事には大きな違いがありそうですが。たとえば、お客様との関わり方などにおいて。
そうですね。まさにその「お客様との関わり」というところが今回の異動の一番大きな理由になっています。
2015年にあるきっかけでセキュリティ・オペレーション・センター(IBM Tokyo SOC)で1年間、セキュリティ・アナリストとして勤務しました。お客様のセキュリティにまつわる困りごとに対し、アナリストとして対応していく仕事です。その現場で、「ありがとう」「助かりました」とお客様に直接感謝していただける喜びが、とても身に染みました。
そういう仕事を追い求めたいという気持ちがその後も弱まることはなく、この春、縁あって異動が叶いました。
→ IBM Research | Takahide Nogayama, Ph.D. (野ヶ山 尊秀, 博士(工学))
■ VAG | あらゆるテクノロジーや組織、研究者などを総動員して価値提供を
— 所属されているVAGというチームについて説明いただけますか。
VAGは、コグニティブ・アプリケーション事業部内の専門家集団で、IBMのソリューション単体では解決が難しいお客様の課題や困りごとに対し、社内のあらゆるテクノロジーや組織、研究者などを動員して組み合わせ、課題解決や価値提供をしていこうというチームです。
現在は、お客様の困りごとだけではなく、社会が抱えている課題にも積極的に向き合い、テクノロジーの社会実装に取り組んでいます。
— 具体的な取り組みを教えてください。
はい。それでは、社会課題への取り組みの中からいくつかを。まずは、健康状態を睡眠時のセンサーデータから解析するプロジェクトの開発支援、「AIスーツケース」と呼ばれる視覚障がい者の行動支援ツールの開発サポートや、地域課題解決型データ流通プラットフォーム「Anastasia(アナスタシア)」の開発・拡張支援などがあります。
→ 「一般社団法人次世代移動支援技術開発コンソーシアム」 共生社会の実現に向け、AIスーツケースの実証実験を開始
→ 希望自治体へ無償提供 | Anastasia(アナスタシア)が地域にもたらすもの
— お客様の困りごとへの取り組みで紹介できるものはありますか?
AI画像認識・検査ツールを活用したいというお客様に、より使いやすい形でその技術を活用できるよう、Maximo Visual Inspection (MVI)の周辺ツールを開発し、オープンソース・ソフトウェア(OSS)として公開しています。
OSSなのでお客様もパートナー様も自由に活用・改変ができます。テクノロジーを「より便利により使いやすく社会に提供していく」活動として、こうした貢献も重要だと思っています。
— 野ヶ山さんは以前からOSS界隈でも活躍されていると耳にしました。
そうですね、プログラミングは趣味でもあるので(笑)。
入社してまもなく、製品開発にたずさわってスーパープログラマーと呼ばれる人たちと仕事をしたので、その影響で「コードは美しくあるべき」という考え方が、良くも悪くも自分に深く根付いています。この考え方が、OSSのシンプルでクリーンな「未来を見据えた」コードが良いとされる考え方ととても近いんです。
— 美しいコードとは、どのようなものなのでしょうか? そして新人時代の経験とは?
美しいコードとは、先ほど言った「未来を見据えたコード」です。シンプルでクリーンなので、テストしやすいですし拡張性も高いものです。
この考え方は、先ほどちょっとお話ししたスーパープログラマーたちに揉まれる経験を通じて根付いたものです。自分の中では「100パーセント完璧!」という自信を持って書き上げたコードが、コードレビューでどんどん赤を入れられ別物になっていく…そんな経験を何度となくしました。
そして生まれ変わったコードは、どれも美しく、将来の変更を見据えて拡張性を備えたものでした。その美しさと素晴らしさに深い感銘を受ける日々でしたね。
— 先ほど「良くも悪くも」とも言われていましたが、「悪くも」とはどういうことでしょうか?
状況により必要なものというのは変わるものじゃないですか。でも、僕は「クイック&ダーティー」が求められている場面でも、油断しているとついその逆の「スロウ&ビューティー」を追い求めてしまうことがあるんです。
■ Garage | チームとして対等の立場で取り組むために欠かせない「研鑽」
— 「クイック&ダーティー」とはどんなものか、ちょっと説明していただけますか?
はい。スタートアップや開発者界隈でよく使われる言葉で、「仕事の進め方」を表す言葉です。
一言で言えば「精緻なものを作り上げるのではなく、まずは動くものを急いで作れ」ということ。「目に見えない部分(コード)は汚くてもいいから直感的に理解しやすく相手に伝わるものを素早く作ることが重要」という考え方を象徴していて、関係者が製品やサービスのコンセプトや実現可能性を確認する際に使用される方法論の1つです。
この「クイック&ダーティー」に代表されるやり方やツール、プロセスなどが組み合わされて作られているのが「Garage(ガレージ)」と呼ばれるメソドロジーですね。
— 野ヶ山さんの中に根付いている「スロウ&ビューティー」とは異なる部分が多そうですね。
そうですね。ただ「クイック&ダーティー」にも「スロウ&ビューティー」にも、それぞれに長所があります。
そして求められる場面や活かせる場面が異なることが多いので、両方を組み合わせることができることは大きな強みとなります。
— ここ数年でGarageという言葉はIBM社内ではすっかり市民権を得ています。そして今ではいくつかの組織の名前にもなっていますね。
そうですね。Garageは「車庫」という意味の英単語ですが、それが意味するのは小さな場所に数人の仲間が集まり、そこで全員が一つのチームとなって会社やサービスを伸ばしていったというスタートアップの精神です。IBMはそのカルチャーを自社の幅広い専門知識、デザイン思考やアジャイル手法などと組み合わせ「IBM Garage」を作り上げています。
「IBM Garage」の一番のポイントは「お客様と一緒に、対等の立場でチームとして取り組む」ということだと思っています。
— VAGというチーム名称にはGarageという言葉は入っていません。でも、そのカルチャーを取り入れているということでしょうか。
その通りです。お客様に対しても、社会に対しても、まず「早く見せる」ということが重要な場面では「クイック&ダーティー」で。そしてそれを正式版として長く使用するフェーズになったときには「完璧な美しさ」を「スロウ&ビューティー」で。そんな風に両方を使いこなしているのが私たちVAGです、両者のいいとこ取りですね。
— 先ほどGarageは「チームとして一緒に対等の立場で取り組む」という言葉がありました。ただ、お客様と対等というのは、言うほど簡単なものではないですよね。
そうですよね。「受注元と発注先」という関係性が、対等というのを立場になるのを邪魔してしまうこともあるのは事実です。ただそれ以上に鍵を握っているのは、互いが互いをプロフェッショナルとして認知できるかどうかじゃないかなと思っています。
お客様は、その世界でずっとやってこられた方で、私たちにはない視点や情報をお持ちです。一方私たちVAGメンバーは、テクノロジー全体を俯瞰しお客様だけでは使いこなせない実装や活用する能力を持っていなければなりません。私たちにはその力を常に磨き上げていく努力や姿勢が求められます。
■ IBM愛が育った理由 | Garageがなくなる5年後、そしてさらに5年後
— VAGで用いるテクノロジーはIBMのものに限られているんですか? それとも他社の技術やソフトウェアも使われるのでしょうか?
他社のものも組み合わせますよ。ただ、私たちはコグニティブ・アプリケーション事業部に所属するチームですし、IBMのテクノロジーをできるだけふんだんに取り入れたいとは思っています。
— 「IBMテクノロジーで」というのに制約やストレスを感じることはないですか?
制約と言えば制約かもしれませんが、一方では「自分たちですべてをしっかりと理解でき、コントロールできるテクノロジーである」という利点でもあります。そしてその利点が制約を上回るメリットとなることは決して少なくありません。
そしてもうひとつの理由は、IBMが好きだからIBMをもり立てたいという動機があります。
— そうなんですね。それは最初にお話しされたスーパー技術者たちとのやり取りで生まれたものでしょうか?
それが違うんです。実は2年前までは、僕にとってIBMは「大事な会社の1つ」でしかありませんでした。
でも、昨年1年間、日本IBMの最高技術責任者であり研究開発トップの森本さんのテクニカル・アシスタントをさせていただき、そこで毎日のように森本さんの横で世界中のIBMの役員やトップ技術者たちの話を間近に聞く機会を得ました。
森本さんは今を語るとき、今だけを語らずに過去の歴史や経緯から話されるんです。ですから、IBMがこれまで生み出した革新的な技術やサービス、それらによって良い社会に変えてきた歴史を、お話を聞くうちに覚えてしまいました。
世界中でイノベーションを起こし、社会を変え続けてきたのは伊達じゃないです。日本のICT産業やシステム・エンジニアリングに対する貢献も計り知れないものがあります。
— 最後の質問です。2030年の野ヶ山さんはどこで何をしていると思いますか? IBMでVAGやGarageの活動を続けていますか?
そうですねえ、Garageの文化が全IBM社員に浸透して日々実践されるのが当然となれば、それを推進する組織は不要になっていると思うのでGarageというのは組織としてはきっと4〜5年で無くなると思うんですよ。
2030年はそこからさらに5年後くらいだと思うんですが、そうですね、僕は今と同じことをしていたいです。
それは職種とか所属部門とかそういう話ではなくて、「お客様と一緒に問題解決に取り組んでいたい」ということです。そのためにも、これからもお客様に対等と感じてもらえるように研鑽を続けていきます。
インタビュアーから一言
在宅勤務が業務形態の基本となっているIBM。実はまだ、私は野ヶ山さんには一回も直接お会いしたことがありません。今度会ったら、森本さんのアシスタント時代の裏話を聞いてみよっと。
(取材日 2021年7月14日)
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