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ISE技術者講演レポート: IoT x AIビジネスを成功に導くアプローチ(清水 宣行)

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2019年4月に行われた日本アイ・ビー・エム システムズ・エンジニアリング株式会社(ISE)の技術カンファレンス「ISE Technical Conference」で、高い関心を集めていた技術講演「IoT x AIビジネスを成功に導くアプローチ」の模様をダイジェストでお伝えします。

 


■ IoTやAIへの取り組みが躊躇される/満足されない理由

昨年、ロイター通信社が発表したデータです。まずこの数字を見てください。


講演者: 清水 宣行(アプリケーション・アーキテクト、Internet of Things)

 

IoTもAIも、ここ数年非常に注目されているにも関わらず、6割以上の企業が導入を躊躇しています。また、導入した企業であっても、結果に完全に満足している企業は10%程度に留まっています。

それではなぜこのような数値になっているのでしょうか。その理由はなんだと思いますか?

 

「IoTやAIで何ができるかわからない…」「流行っているからやってみたものの、業務への適用方法が分からなかった」「技術的な壁にぶつかり先に進めなくなってしまった」「投資対効果が悪く、プロジェクトを断念せざる得なくなった」…。

問題がこれらの声に代表されるもので原因が技術的なものであれば、そのほとんどは解消できるであろうというのが私の考えです。

この考えは、私のここ数年での、ドローン、画像解析、統計分析、最適化、ブロックチェーンなどの技術を活用して、お客様のビジネスの成功に幾ばくかでも寄与してきたんじゃないかという、自身の活動への自負から来ています。

今日はその経験をお伝えさせていただきます。

ただし、「現場の抵抗が大きい」であったり「既存システムがカスタマイズされすぎていて手がつけられない状態になっている」であったりという、文化的な商習慣や固有の問題が原因となっているものは、本日の話の対象外とさせていただきます。

 

それでは、私が直接担当してきたIoTやAIなどの先進技術が、現場業務をより良くした事例を最初にお伝えさせていただきます。

その後、それらの事例でどのように先進技術特有の壁を乗り越えたかをご紹介させていただき、最後にIoTやAIへの投資効果を上げ、ビジネスをより広げるための考え方についてお話しします。

 

■ 業務をより良くした事例 – 設備点検 / 設備運用 / 設備故障診断 / 設備故障予測

ドローンと画像解析 – 点検業務の安全化・効率化。故障診断業務の高度化・効率化

 画像解析技術によりドローンが周囲を識別し位置補正をしながら、電柱上の目標物に接近して空撮します。必要な回数それを繰り返した後、画像解析で位置補正をして着陸ポートに自動着陸します。

 

ドローンの目的地までの飛行には、GPSを使用して事前にルートを指定したり、画像解析しながら近づいたりと複数のケースがあります。いずれのケースでもポイントとなるのは、これまでは人が行なっていた危険を伴う作業を、ドローンという道具と画像解析により、安全かつ効率的に行なっているということです。

余談ですが、日本に電柱が何本あるかご存知ですか? …3,500万本だそうです。

 

会場の皆さんには、動画なども含めていくつかのドローンを活用した画像解析事例を見ていただきましたが、その中で一番複雑だったものをこれから紹介します。

「碍子(ガイシ – 電線を絶縁固定する際に使用される陶磁器製の器具)」の映像から、ヒビ割れの有無を判定するサービスというものです。

 

碍子は鉄塔や電柱に用いられているものなので、屋外という環境から汚れや劣化など、外見からの画像診断を難しくする条件がたっぷり揃っているであろうことはご想像いただけると思います。

そんな条件下でのひび割れ判定には、複数の画像診断技術を複合的に用いる必要がありました。

  • 2値化 – しきい値を境に白黒に色分けしてコントラストをはっきりさせる技術
  • 平滑化 – 画素位置に重み付けをし、注目画像周辺の輝度値を用いて画像輝度値を滑らかにする手法
  • エッジ抽出 – ノイズを平滑化処理で除去した後、平均化処理を行い画像の輪郭を抽出する技術
  • 直線検出 – 画像の中から直線や円を検出する技術
  • 物体セグメンテーション – 事前学習から画像中のピクセル毎にクラスを検出し、画像領域の意味を識別する手法

 

ところで、現場での動画に何回かカラスが写り込んでいるシーンがありましたよね。実はドローンの大敵はカラスでして、できるだけカラスがいないタイミングで作業をするのも大切だったりします。

 

 画像解析と最適化 – 設備運用業務の高度化・効率化

食品を加熱するオーブンの入口で食品の種別と個数を画像解析により判別し、それに応じてオーブンのパラメータが適切な焼き上がりとなるように自動で設定されます。

加熱後の食品はオーブンの出口で画像解析されて、出荷条件を満たしているかが焼き色や表面温度で自動判定されます。

 

この事例にもいくつかポイントがありますが、最も重要なのは「オーブンのパラメータが状況に応じて自動に最適化設定される」ことです。

「繁忙期なので短時間で処理する必要がある」だとか「子どもたちの学校給食として納品するので、通常より強めに火を通す必要がある」だとか、そうした異なる状況や複数の制約条件下でも、自動で最適解を導き出して自動で設定します。

 

統計分析とスマートコントラクト – 設備稼働率の向上

統計分析やディープラーニングにより設備の稼働データから故障を予測し、故障前に部品交換や修理交換依頼などの発注と決済を行うことで、設備を常に稼働状態とします。

 

ここで用いられている「スマートコントラクト」とは、ブロックチェーンに用いられる技術の1つで、特定の条件を満たす際に検証・執行・実行・交渉という一連の契約執行をプログラムしてスムーズに行うプロトコルです。

身近な例でお伝えすると、ジュースなどの自動販売機をイメージしていただければ良いかと思います。

  1. 契約の事前定義: 商品の金額が販売機に設定される
  2. イベント発生: 設定以上の金額が投入される
  3. 契約執行: 商品が購入者に送り出される
  4. 決済: お釣りがあればそれが返却される

この一連の流れを「スマートコントラクト」を用い、食品加熱オーブンの予備保全に役立てます。

 

■ 技術の壁の乗り越え方と、投資効果を上げるやり方

ここでは大きく3つの「壁」と、それを乗り越える方法をお伝えします。まずは画像解析技術をビジネスに用いようとした際、頻繁に持ち上がるものから。

 

画像データが少ない…

画像解析の精度向上には、画像データの質と量の両方が欠かせません。ただ、実際の現場では、質の良いデータが大量にあることはまれです。特に機器の故障や破損などはそもそも頻繁に起こるわけではなく、画像データとしての記録も少ないことが多いです。

そうした問題を解消する方法として、ダウンロードや元画像データの拡張による水増し、GANと呼ばれる画像生成やそれを進化させたAnomaly GANなどの手法が取れます。

 

AIをやって見たら精度が悪かった…

AIに最初から完璧、あるいは高品質を求めると、がっかりすることになるかもしれません。そんな時はアプローチを転換します。例えば「良品を確実に判定する」のではなく「不良品の可能性があるものを判定する」とすることで、大幅に業務効率を向上することができます。

言い換えると、完全な「無人オペレーション」を期待してスタートするのではなく、「作業時間を半分にする」ことを当初の目標として始めるようなイメージです。

そして日々蓄積されるデータの学習を続ければ、当初の目標を超える精度を期待できるようになってくるでしょう。

 

AIを適用したけど、業務の生産性があまり向上していない

工場という生産現場そのものを見たとき、日本のそれは世界有数の最高品質を生みだしています。しかし、その前後のプロセスを含めエンドツーエンドのプロセスとして考えると、全体最適ができていません。

本日お話しさせていただいたような適切なテクノロジーの用い方により、リモートからの異常検知やタイムリーな保守員の派遣、予備保全による先回り対応など、これらの活動を通じて生産の前行程や後行程を強化し、そこに付加価値を加えてトータルな価値を上げていくことができます。

 

投資効果を上げ、ビジネスをより広げるための考え方

最後に、投資効果を上げ、ビジネスをより拡げていくための考え方とアプローチをまとめさせていただきます。

  • IoT・AIは目的ではなく手段であることを念頭に置く。
  • 品質を向上させるのに合わせて機能のアセット化も進め、その組み合わせによりサービスを柔軟に創出できるようにする。
  • 部門・自社・業界の枠を超えてソリューションを横展開することを視野に入れ、エコシステムを構築する。

 

今の時代、シェアリングエコノミーの台頭に端的に現れているように、社会全体にまでメリットを提供できなければ、いずれは先細りになっていくことは意識しておく必要があるでしょう。

また、労働人口減や働き方改革などを踏まえれば、デジタルトランスフォーメーション(DX)の実現は不可欠です。

 

最後に、私が尊敬してやまない、サッカー界を変えた男ヨハン・クライフ氏の名言「選手ではなくボールを走らせろ。ボールは疲れない」をモチーフにした言葉で締めさせていただきます。

「ヒトではなくデジタルを走らせろ、デジタルは疲れない。」

 

経済産業省は、昨年の夏に「2025年の崖」と称して、DXが実現されないと2025年以降毎年12兆円の経済損失が生じる可能性があると発表しました。

ぜひ、私たちみんなで2025年の崖を覆し、日本発の近代システムを生み出し、IT業界を席捲しましょう。

このセッションがそのための処方箋となれば幸いです。

 

問い合わせ情報

お問い合わせやご相談は、Congitive Applications事業 にご連絡ください。

 

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