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アイデアミキサー・インタビュー | 村上春二(株式会社UMITO Partners代表)前編

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「理想でメシを食う? そんなの無理だよ」と言われるたびに強く反発してきた

軸となる強い自己やアイデアを持ちながら越境や開拓を続ける方がたに、これまでの足取りや想い、そして未来へのビジョンについて語っていただく「アイデアミキサー」シリーズ。

第9回は、ビジネス・サイエンス・クリエイティブを強みに、環境・経済・社会面で持続可能な漁業や地域を推進する注目のソーシャルベンチャー「UMITO Partners(ウミトパートナーズ)」代表の村上さんにお話を伺いました。

(インタビュアー 八木橋パチ)

村上春二 (むらかみ しゅんじ)

福岡県出身。サンフランシスコ州立大学にて自然地理学とビジネスを専攻。アメリカでのビジネス実践後、NGOの日本支部立ち上げなどに従事。
2021年6月UMITO Partnersを設立。漁業者・企業・シェフ・自治体などと連携し、サステナブルな漁業や地域のために伴走中。 https://umitopartners.com/

もくじ

 

―― UMITO Partners創立1周年おめでとうございます。先日の「サステナブルな漁業」をテーマとした記念シンポジウム&パーティー「Jam with the ocean」もとても学びになりました。そして、とっても美味しかったです。ごちそうさまでした!

村上: こちらこそご来場いただきありがとうございました。

あの日は漁業関係者や料理人、食のプロデューサー、そして水産庁職員や研究者、メディアやIT企業の方たちなど、スタッフ以外に75名ほどの方にご来場いただき、盛況な会となってよかったです。

時間は短かったものの、「日本の水産業をブロックチェーン技術で持続可能にしたい」と、もうかれこれ6年ほどご支援いただいているIBMの片山さんにもお話いただけて良かったです。

→ 参考: Ocean to Table × Anastasiaセミナーレポート | ブロックチェーンで社会課題解決

2022年6月1日に開催された「Jam with the ocean」のパネルセッションの様子

 

−− 今日は持続可能なシーフードやUMITO Partnersについてだけではなく、村上さんという「越境者」についてもお聞かせいただきたいと思っています。 いきなりですが、そもそもなぜ海なのでしょうか? 「環境や社会の持続可能性」を考えたとき、「海」以外の選択肢もいろいろありますよね?

村上: なるほど。もっともな質問ですね。単純に海が好きだからというのもありますが、僕が海に運命的なつながりを感じてもいるんです。

村上家は、日本神話にも登場する日本最古の神社であり、海や川と関わりの深い女神をまつる福岡県の宗像大社と強い関係があり、僕も結婚式は宗像大社で挙げました。また、父は以前日本の磯釣りのチャンピオンで、とある釣り関連の協会長をやっていました。

そんなこともあり、これまでの人生を振り返ると、自分のルーツが海にあるんだということを強く感じますね。

 

 −− お父さん日本一の釣り師だったんですね。村上さんご自身も大の釣り好きでありサーモン好きですよね? 子どもの頃からそうだったんですか?

村上: いいえ、本格的に釣りを始めたのもサーモンを大好きになったのも、18歳でアメリカに渡ってからとなります。

この話、少し長くなってしまうかと思うんですが…いいですかね?

 

 −− もちろんです。ぜひ聞かせてください。

村上: 僕はグラフィッデザインに惹かれてアメリカに勉強しに行ったのですが、渡米後しばらくして、デザインに、そして趣味のBMXにも少し違和感を感じるようになっていました。簡単に言えば「飽きてきた」ということになるのかもしれませんが…「何かちょっと違うな」というような感覚が大きくなっていきました。

それで、何か熱くなれるものが欲しくて、本屋に通って片っ端からいろんな情報を漁っていて出会ったのがフライフィッシングだったんです。書店で見る写真や釣り師たちの言葉に妄想を広げていました。そしてある日、当時住んでいた地区にあったアメリカ有数の釣り具屋さんに飛び込んで、「フライフィッシングに対する情熱はある。だけど僕にはお金も知識もない。ぜひ教えてほしい」と訴えたんです。

 

 −− すごい話ですね。当時の村上青年の姿が頭に浮かびます。

村上: そうしたら、お店の方が「少し壊れているけど、修理すれば使えるよ」って古い道具を無料でくれたんです。そして、必要な知識もたくさん授けてくれました。

そこからすっかりハマりました。当時の僕は年間200日以上フライフィッシングをやっていましたね。そしてかっこいいサーモンにすっかり惚れ込んでしまったんです。

 

 −− かっこいいサーモン…ちょっと意味が…分からないな。

村上: 最初は、ミサイルのように渓流を遡上する迫力ある姿にシンプルに「かっこいい!」と惚れたんです。でもその後、サーモンについて調べれば調べるほど…何もかもがかっこよかったんです。

稚魚の間は川でプランクトンや昆虫を食べて成長し、外海に旅立ち、そして時が来たら嗅覚をはじめ利用できるあらゆるものを利用し自らの外観や体内をも変化させて、命のバトンをつなぐために生まれ育った故郷の川を目指す。

実際にはバトンをつなげないことも多い。それでも、自分の肉体のすべてを無駄なく他の命へと捧げる。…ね、めちゃくちゃかっこいいでしょ? これは惚れますよね。

(なお、サケは母川回帰能力が高い魚種といわれているが、必ずしも生まれた川にすぐに遡上するわけではありません。)

ヒッチハイクでサーモンを追う日々を過ごしていた村上青年

 

 

 −− 現在に至るまで、村上さんはかなり独特でおもしろい「越境」をされてきていますよね。ビジネスの世界での足どりを教えてください。

村上: 先ほど、「飛び込んだ釣り具屋さん」の話をしましたよね。僕は学生をしながらその店で働くようになり、最終的には店長になりました。その後、環境に配慮するアウトドア商品で知られているパタゴニアに勤務し衣料に携わったあと、米国オレゴン州ポートランドを本拠地とする「Wild Salmon Center」という、サケの生態系保護に取り組む国際的な保護団体に初の日本人スタッフとして加わりました。

それから国際環境NGOオーシャン・アウトカムズの日本支部を立ち上げ代表となった数年後、オーシャン・アウトカムズがソーシャル・ベンチャー「シーフードレガシー」と合併してそこで取締役副社長を務めました。そしてちょうど一年前、株式会社UMITO Partners(ウミトパートナーズ)を立ち上げました。

 

 −− 環境保護を強く意識している営利企業とNGOとを行き来している、日本では珍しいとてもユニークな経歴ですよね。ご自身としてはキャリアに対して「環境保護」以外にも軸をお持ちなのでしょうか?

村上: 「やりたくないことは絶対にやらない」とはずっと思ってきたし、それは今も変わりません。「理想でメシを食う? そんなの無理だよ」と言われるたびに強く反発してきたし、「可能なことを証明してやる」という気持ちは強いですね。

だって、誰かがそれをやらないと、後から人が続いてこれないじゃないですか。

 

 −− やはりそうなんですね。そうした意識はいつ頃からお持ちだったんですか?

20代前半からですかね。「お金を稼ぐことを人生の目的にはしたくない。ビジネスを手段に環境を守りたい。」と思うようになりました。

おそらく、デザインからビジネスへ、そして環境サイエンスへと学びの向かう先を変えていく中で、自分の生き方というものを強く意識するようになっていったんだと思います。

そして僕は26才までアメリカで暮らしましたが、彼らの「合理主義でありながらも人の熱には熱で応える」という人間性にも影響を受けているのかもしれませんね。

co-lab 渋谷キャストにて

 

 

 −− UMITO Partnersの業務内容について教えてください。IBMはブロックチェーンを用いた正しい水産資源管理を目指す「Ocean to Table Council」の取り組みをご一緒させていただいていますが、他にも数多くの取り組みを行なっていますよね。

村上: はい。「サイエンス」に基づいた「ビジネス」を「クリエイティブ」に伝えることを通じ、ウミとヒトが豊かな社会を実現すべく多様なパートナーの方々と活動をしていくことを基本コンセプトとし、多くの現場の皆さんと協業させていただいています。

具体的には、各地の漁師さんや漁協の方たちとの共同プロジェクトや、その基盤となる科学的な研究を含むコンサルテーションなどですね。

水産資源に関わる世界や日本の認証制度にはASCやMSC、MELなどさまざまなものがあるのですが、そうした認証の取得支援であったり、環境負荷を抑えたサステナブルな養殖方法の開発など、科学的な裏付けをもとに、環境や生態系を守りながらも「より獲れる・より儲かる方法」を、現場の方がたと一緒に開発し、推進しています。

 

 −− シンポジウム「Jam with the ocean」にも、多くの水産現場の方がたがいらしていましたよね。日本の漁師さんたちは劇的に変化しているのでしょうか? 個人的には「科学より勘と経験だ!」というタイプの方が漁師さんには多いのかなと思っていたのですが。

村上: パチさんの言うとおりで、まだ「勘と経験」の方が圧倒的に多いと思いますよ。ただ、そここそが僕らのミッションであり、もっと推進・育成していかないといけないところだと思っています。その市場が育っていかないと、なかなか漁師さんも水産資源をしっかり管理していこうとはならないでしょうから。

そうは言うものの、ここ数年で漁師の方たちが大きく変化してきているのも事実です。それは漁獲量など、変わらざるを得ない現実に直面しているからだと思いますね。

僕らが漁港で研究作業などを行なっていると、「こういうデータを取ってみたらどうだろう?」だとか、「こう言うやり方ならもっと保護活動が進むのではないか」と、漁師さんから提案をしていただくことも増えてきました。

 

 −− そうですか。それは村上さんたちの活動が広く漁協関係者に知られてきたからですね、きっと。

村上: いや、僕らのことを知っている人なんてまだまったく極一部ですよ。昨年、会社をスタートする際に「ウミトパートナーズ」という社名にしたのも、過去に「横文字ばっかり並べやがって!」と文句を言われることも少なくなかったからなんです。

まあ理不尽な怒りなんですけど(笑)、いいことを一緒にやろうとしているのに、そこで話を聞いてもらえないのはお互い損だし不幸ですよね。

そうした点からも、僕らがちゃんと漁師さんたちの言語で話すことが大切だと思っています。個々人をしっかりと見て、やり取りを重ねながら人としての関係性を積み上げ、信頼関係を作っていくことが欠かせないと思っています。

 


前編ではサーモンと環境保護、そしてビジネスにかける村上さんの熱い想いをお聞かせいただきました。

後編では科学に対するこだわりと水産資源の現状と未来について、そして村上さんとUMITO Partnersの未来について伺います。

(取材日 2022年6月20日)

 

 

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