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アイデアミキサー・インタビュー | ニールセン北村朋子(ジャーナリスト、コーディネーター、他)前編
2022年01月12日
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再エネ先進国から見た日本のサステナビリティー
軸となる強い自己やアイデアを持ちながら越境や開拓を実践している方がたに、これまでの足取りや想いについて語っていただく「アイデアミキサー」シリーズ。
第7回は、先日、史上初の「日本国籍を持ったまま」デンマークの市議会議員に立候補した、デンマーク・ロラン島在住のコーディネーター、ニールセン北村朋子さんにご登場いただきました。
(インタビュアー 八木橋パチ)
ニールセン北村朋子 | KITAMURA Tomoko Nielsen
2001年、デンマーク・ロラン島への移住を機に、食・環境・エネルギーなどの持続可能社会に関するテーマを中心に取材活動を開始。2021年、デンマークの市・県議会選挙に日本国籍のまま立候補。行政やメディア、企業へのコンサルティングや視察のコーディネート、講演活動など、「文化翻訳家」として幅広く活動中。
デンマークから見た日本のサステナビリティーに対する動き
―― ようこそ、お帰りなさい。日本は2年ぶりですよね。オミクロン株で入管が混乱する中での帰国は大変だったんじゃないですか?
本当に、想像を超えた大変さでした。でも、なにはともあれ無事に帰ってこられたこと、そしてこうしてパチさんにインタビューしてもらっていることに感謝したいと思っています。
でも、本当に、ほんっとうに大変でした。特に最初の3日間はどうなることかと…。もちろん水際対策は重要なものだけど、差し入れやアルコールが一切認められない状態で3日間狭い部屋に閉じ込められて、もう少し「人間味」のあるやり方もあるんじゃないかしらって思わずにはいられなかったわ…。
―― 読者に向けて、最初に簡単に自己紹介をお願いします。
ニールセン北村朋子です。デンマークのロランという島に移住して20年になります。ジャーナリズムを中心に、特に環境や教育、食などのテーマを扱いながら活動をしています。
ここ数年、もっとも力を入れているのは「リカレント教育(大人の学び直し)」の機会充実ですね。
―― 私も2019年に、ロラン島で「食」に関するフォルケ・ホイスコーレ*(以下「フォルケ」)のショートコースに参加させていただきました。おもしろかった〜。
*フォルケ・ホイスコーレとは | https://ideasforgood.jp/glossary/folke-hojskole/
懐かしいねー。そうあのときはまだ正式認可を取れていなくって専用の校舎もなく、フォルケもショートコースしかできなかったのよね。
実は、2023年1月からの本格始動が先日決定して、今、校長先生選びが佳境に入っているところなの。生徒の募集ももうスタートしているのよ。
→ Lollands Højskole(ロランズ・ホイスコーレ)
―― もうそこまで進んでいるんですね! フォルケの話はまた後ほど聞かせていただくとして、今日はまず、朋子さんの専門の一つである環境について伺いたいと思います。日本のサステナビリティーに対する動きをどう捉えていますか?
率直に言って、取り組みはすごく遅れていると思う。「危機感の欠如」がその一番の理由じゃないかしら。
それで、その最大の原因は「現実」がうまく伝えられていないからじゃないかなぁって。「気候変動」と「自分たちの暮らし」がどれだけ密接につながっているか、そして今や待ったなしの状況だってことが、まだ充分に伝わっていないんじゃないかしら。
―― ここ日本でも自然災害の頻発化や激甚化でかなり危機感が高まっているように思っていましたが…これじゃまだまだ、ということですね。では、それはなぜでしょう?
災害の主原因が自然環境の変化だと理解できている人は増えてはいるのでしょうけど、日本ではまだまだそれが「自分ごと」感が薄い気がするのね私には。あるいは「でもまだ大丈夫でしょう」と思っている人も少なくない。
その理由は、やっぱりジャーナリズムという分野の遅れだったり、地理的な背景だったりも関係しているのかなって推測していて。ほら、デンマークにはグリーンランドという、ほとんどが氷で覆われた北極の自治領があるでしょ。
―― あーなるほど! 数年前でしたか、朋子さんが取材で訪れていたときの、すごい勢いで北極の氷が溶けて流れていく動画の音と映像が強烈に印象に残っています。
自分たちの身近なところで風景があれほど急速に変えられてしまっているのを知れば、やっぱり国民みんな強い関心を持つわよね。
テレビも、デンマークはドキュメント番組や報道が多くて、環境問題に対する意識の底上げと知識の向上にとても影響を与えているんじゃないかしら。
ビジネスも教育もジャーナリズムもアップデートが必要
―― デンマークと日本には「現存する王室の中でも最も長い歴史を持つ国の一つ」という背景を共にするせいか、文化的に似た要素がたくさんあると言われています。ただその一方で、物事へのアプローチの仕方など、違いも大きいですよね。
そうね。日本は「失敗に不慣れ」というか、極端に失敗を避けようとする傾向が強いなあと感じていて、それがここ数十年の停滞につながっていると思っているの。
もちろん、そうなりがちな社会構造的になってしまっているだとか、いろいろ背景があるのは理解しているつもりだけど、でもそのせいにばかりしていてはダメよね。ビジネスも教育もジャーナリズムも、アップデートが必要よね。
―― 先日の「YOKOHAMAデモクラシー道場」で朋子さんが言われた「靴の中の小石、取り除かずに歩き続けるはやめた方がいい」という言葉を思い出しました。
「歩いているうちに小石が外に出ていくかも」、「まあそのうちどうにかなるのかも」なんて、希望的観測だけで歩いているうちに随分と時間が経ってしまったんじゃないかしら。もう本当に限界に近づいているのに。
―― 原発から再生可能エネルギーへの転換だとか、デンマークは変化・転換が早いイメージがあります。その秘訣は何でしょう?
デンマーク人には失敗を軽々と乗り越えるというか、自らを気軽に変化させていくことができるという特性があると思っていて、たった一つの正解や完全なる完成形にこだわりすぎないという、ある種禅的な考え方を持っているの。それはやっぱり、長いことそれを実践してきているからだと思うのね。
早めに始めたときのメリットを、個人も組織も国も理解している。「早く始めたんだから、それは失敗することだってあるよね」って言い訳できるし、成功したときには大きなアドバンテージになるでしょ。
―― なるほど。先行者利益ですね。
再エネの先進国になったのも、そこから来ていると思うの。デンマークは今や洋上風力発電の大国で、ハード、ソフト、システムそれぞれを世界に輸出しているけど、これも倫理的な判断に経済的な判断も盛り込んで、世界で最初の洋上風力発電所をロラン島北西沖に建設したことから始まっているのよね。
それから、パチさんにも視察してもらった島のコジェネレーション(熱電供給)システムとかバイオマス、家畜の排泄物を利用したバイオガス発電とか、再エネに関する多くの先進的な取り組みが次々と進められてきているわ。
足りていないのは再定義する力、事実を伝える力
―― 再エネ以外の分野でも、日本が参考にできるアプローチ方法の事例はあるでしょうか?
そうねえ、「料理といえばフランス料理」というデンマークの料理界に対して、地域に根ざした食材とクリエイティビティを呼び起こすことで自らが生みだした呪縛を解き、世界の料理界を席巻したnoma(ノーマ)の「ニュー・ノルディック・キュイジーヌ(新北欧料理)」も、発想やアプローチには近いものがあると思うわ。
それからハリウッド映画からの脱却を呼びかけ、映画を再定義して新たなジャンルを確立した「ドグマ95」とか。
こうして見ると、家具や照明のデザインで一世を風靡した時代から、デンマークはずっと「再定義」をし続けることで、新たな意味や価値を生みだしてきた国と言えるんじゃないかしら。
―― なるほど。言い換えると、日本に足りないのは「再定義」…つまり既存のものを見つめ直し、現状を変化させていく力とも言えそうですね。
「見つめ直す」努力をしなくても、「正しく現状を捉える」だけで自ずと変化が必要なことが明確になることも少なくないわよね。
例えば、私が暮らすロラン島には「ヴィジュアル気候センター」があって、そこではNASAから提供された海洋データをかなり精密に3D投影された地球上で再現できるの。
そこでは地球で熱帯や亜熱帯と呼ばれる気候特性を持つ地域が広がっているか、台風発生条件を満たす機会がどれだけ増えていて、台風の進路や勢力が近年どれほど急速に変化しているかが可視化されているの。それを見ればどれだけ変化が今求められているか、誰でもすぐに分かるんじゃないかしら。
再定義する力も重要だけど、それ以前に事実をしっかりと伝えていくことも足りていないわよね。
後編では「食を中心としたリカレント教育」、「産業と市民のAIDAのデザイン」、「テクノロジーとビジョンの役割」などについて伺います。乞うご期待!
(取材日 2021年12月21日)
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