アプリの開発とモダナイゼーション

DX Approach 〜 Modernizationの推進

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永井 康晴

永井 康晴
グローバル・ビジネス・サービス事業本部
保険テクノロジー・コンサルティング マネージャ, エグゼグティブ・アーキテクト


保険のお客様におけるアーキテクチャ策定を20年以上担当しており、最近では、保険事務高度化に向けたBPM、BRMS、AIの適用、 保険でのユースケース策定に向けたBlockchain技術の研究、基幹システムのモダナイゼーションなどをリード。メインフレームからクラウドまで幅広くご支援中。
The Open Group Certified Architect (Level3)

 

1. Modernizationの重要性

国内の人口減少、少子高齢化、顧客ニーズの多様化、超低金利や低成長による市場鈍化、国際化に伴う規制強化、そして、AI、IoT、5Gなどの新技術の急速な進化など、保険業界は外部環境の絶え間ない変化にさらされています。これらの変化を背景に、ウエアラブル端末による疾病予防、介護予防といった次世代ヘルスケアサービスやコネクテッドカーを対象とする次世代テレマティクス保険などが続々と登場し、従来の保険の在り方も大きく変化しています。この変化の中で市場競争を勝ち残るためには、デジタル変革(以後、DXと記載)を推進することにより、新保険商品や新保険サービスをタイムリー、かつ、継続的に開発することが求められます。

しかし、従来のITシステム構造のままで周辺に新技術を装備するだけでは、近いうちにDX推進の限界に達してしまいます。例えば、基幹の契約管理システムが従来のままでは、様々な新保険商品や新保険サービスの開発のボトルネックになり、デジタル化の価値が十分に得られない状況となりえます。このため、継続的にDXによる発展を続けるためには、情報システムを全体最適の観点から見直し、DXに適した最新アーキテクチャにModernizationすることが重要になります。

 

2. 契約管理のModernization

保険業界の多くのお客様は、長期にわたり、基幹の契約管理システムの実行環境としてMainframeを利用されており、IBM Zも多く採用いただいています。これは長期に契約の管理が必要となる保険商品の特性と、長期に渡って開発したプログラムを稼働させることができるMainframeの特性との親和性が高いことが理由の一つと考えられます。また、従来の保険業務は、夜間のバッチによる一括処理で遂行することができ、バッチ処理を得意とするMainframe技術が適していたことも理由として挙げられます。しかし、保険の在り方の変化はリアルタイム処理を必要とし、長期にわたる保守開発はプログラムの肥大化、複雑化による生産性低下を招くようになり、新保険商品や新保険サービスの開発に関する様々な要求を満たすことができなくなりつつあります。

初期の契約管理システムは、1970年代に階層型DB (IBM IMS等)上に開発され、現在まで継続的に利用されています。初期から約20年が経過した1990年代 後半に「次世代化」の波があり、関係型DB(IBM DB2)やIBM CICSへ移行されたお客様もおられます。これは規制緩和への迅速な対応、インターネットの普及によるサービス提供時間の延長などが見込まれたこと、また、無停止サービスを提供するIBM ZのSYSPLEX技術の登場とタイミングが重なったことが背景にありました。そしてさらに約20年が経過した現在、DXによるModernizationの波が来ています。

 

3. IBMのModernizationアプローチ

IBMは、契約管理システムを中心としたModernizationを、2つのアプローチでご支援しています。

短期の保険契約を中心に扱われているお客様には、クラウドネイティブ技術やオープンな開発言語(Java等)を適材適所で活用することによりDXに最適なシステムに全面的に刷新する「新世代化アプローチ」、そして長期の保険契約を中心に扱われているお客様には、アプリデザインの変更や機能拡張によりDXが必要とするケーパビリティを搭載する「部分刷新アプローチ」の2つです。

図1. 契約管理システムの動向
図1. 契約管理システムの動向

 

・新世代化アプローチ
契約管理システムの規模から全面的に再設計すると時間とコストが膨大になるため、競争領域と非競争領域に分割したLift & Shiftによる移行方式を推奨しています。競争領域のShiftでは、データモデルやアプリケーション構造の再設計、非競争領域のLiftでは、現行プログラム構造のままコンバージョンツールで移行し、移行後に徐々にShiftします。

オープンな開発言語に切り替えることによりプログラムの処理コストは10倍以上に増加するため、現行の処理形態のままで移行する場合、夜間バッチ処理が決められた時間に処理を完了させることが難しくなることが一番の課題です。このため、競争領域を対象としてバッチ中心からオンライン中心に転換をはかり、リアルタイム処理を前提としたアーキテクチャへ変更するなどで対応します。

通常、長期に渡る移行プロジェクトになりますので、プロジェクトを成功に導くためには、計画局面において、現行システムのプログラムの処理形態や結合度の可視化、分析をした上で、Mainframeからの移行であることを踏まえた適切な新システムアーキテクチャの設計と移行計画の策定が重要です。

尚、IBMは、TISと特にレガシー言語(COBOL・PL/I)からJAVAソリューションへの移行に関する分野について協業を開始しており、MainframeからのLift & Shift の確実な推進に力を入れています。

出典: TISと日本IBM、メインフレームのモダナイゼーションで協業, https://jp.newsroom.ibm.com/2021-06-03-TIS-and-IBM-Japan-collaborate-on-mainframe-modernization

図2. 新世代化アプローチ
図2. 新世代化アプローチ

 

・部分刷新アプローチ
長期の保険契約を保有する契約管理を全面的に刷新することは、投資対効果の観点から困難です。しかし、DXを推進する上で、商品改定等の新商品開発スピードの向上は強く求められます。この場合、ルール管理(ビジネスルール、商品ルール、保険料計算ルール等)を外部化して一元管理することにより、新商品対応を迅速にできるようにします。

この方式は、弊社経験から3つのパターンに分類できると考えています。パターン1は、既存商品と新商品を対象として、現行システムから類似機能やルールを切り出して一元管理します。パターン2は、新商品のみを対象として、各種ルールをBRMS(Business Rule Management System)製品で管理します。パターン1でBRMSを適用、もしくは、パターン2で既存商品へBRMSを適用することは、複雑な現行プログラムからBRMSへのインターフェースを組み込むことが必要となり、難易度が高くなるため推奨されません。そして、パターン3が、新商品を対象として、ルール管理のみではなく、契約管理アプリケーション構造全体を最適化して新規構築します。この場合、契約管理パッケージの導入とスクラッチでの開発の選択肢があります。

実際には、お客様の「要件と制約」や「現行システム環境」を踏まえて最適なパターンを選択します。尚、パターン2は、査定領域のビジネスルール管理での実績が多くありますが、最近では、商品ルール管理への適用検討のご支援も開始しています。

図3. 部分刷新アプローチ
図3. 部分刷新アプローチ

 

他にも肥大化、複雑化したプログラムを可視化することにより影響分析を迅速にするためのツールであるIBM ADDIやDevSecOpsを実現するためのIBM WAZIの導入などによる「開発の高度化」、フロントシステムからホスト上のビジネスロジックやデータを迅速かつ容易に利用できるようにするため、IBM z/OS Connectを利用した「API化」などの機能拡張もあわせて取り組むことにより、DX対応のケーパビリティを高めています。

4.IBMのご提供できる価値

保険会社の契約管理システムをModernizationするには、クラウドネイティブ、BRMS等の最新技術のスキルに加え、Mainframeの現行システムを深く理解し、最適な移行方法を導き出すスキルも必要となります。もちろん保険の契約管理アプリケーションにも精通している必要があります。IBMは、これらのスキルを有しており、既に複数のお客様におけるModernization の取り組みをご支援しています。この為、現行システムの可視化、分析、新システムアーキテクチャの策定、移行計画の策定、移行プロジェクト推進の経験を蓄積してきています。また、グローバルチームから海外の保険業界におけるModernization動向も入手しています。これらのスキル、経験、そして、国内外の最新動向を踏まえて最適な検討をご支援できることがIBMのご提供できる価値です。ご支援を通して、保険業界の継続的な発展に貢献できればと考えています。Modernizationに関するご相談などありましたら、是非、ご連絡ください。

 


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